安全衛生情報センター
過労死等の防止のための対策に関する大綱(以下「大綱」という。)の作成については、「過労死等の防 止のための対策に関する大綱の作成について」(平成27年7月24日付け基発0724第1号。別添)により通知し たところであるが、大綱に基づく対策の推進に当たっては、下記に留意の上、遺漏なきを期されたい。
1 過労死等防止のための対策の基本的考え方 (1) 当面の対策の進め方 過労死等の発生要因等は明らかでない部分が少なくないことから、実態解明のための調査研究を早 急に行い、その成果を踏まえ、啓発、相談体制の整備等、民間団体の活動に対する支援等を行うこと が効果的である。しかしながら、過労死等防止は喫緊の課題であることから、調査研究の成果を待つ ことなく、3に示すところにより対策に取り組むこと。 目標のうち、週労働時間60時間以上の雇用者の割合、年次有給休暇取得率、メンタルヘルス対策に 関するものについては、「まち・ひと・しごと創生総合戦略」(平成26年12月27日閣議決定)、「第12 次労働災害防止計画」(平成25年2月25日)等に既に掲げられているものであるが、現在までのところ、 これらの目標が達成されていないことから、できるだけ早期に目標を達成することができるよう、過 労死等防止対策に積極的に取り組むこと。 (2) 各対策の基本的考え方 大綱においては、第3の2に各対策の基本的考え方が示されているところである。対策の推進に当た り、第2の6に示されている課題と併せ、これらの基本的考え方を十分理解すること。 2 調査研究等 過労死等の実態解明のための調査研究等については、以下のとおり独立行政法人労働安全衛生総合研 究所過労死等調査研究センター(以下「過労死等調査研究センター」という。)において、また、シンク タンクへの委託等により実施することとしているので、了知すること。 また、過労死等調査研究センターに対しては、(1)の過労死等事案の分析に必要となる関係資料の提 供等について、局内関係部署間の協力のもと行うこと。 (1) 過労死等事案の分析 過労死等に係る労災認定事案又は労災請求されたが業務上認定されなかった事案、過重労働と関連 すると思われる労働災害等の事案について、都道府県労働局(以下「局」という。)が保有する調査復 命書等の関係資料を過労死等調査研究センターに集約し、分析を行うこととしている。 なお、公務災害認定事案等については、公務員制度を所管する官庁において所要の対応がなされる 予定である。 (2) 疫学研究等 ア 疫学研究 過労死等調査研究センターにおいて、企業等の協力を得て、勤労者集団を設定し、当該集団にお ける個々の労働者の健康状態、勤務状況等を長期間にわたり追跡調査することとしている。 イ 職場環境改善対策 過労死等調査研究センターにおいて、アの疫学研究の対象となる企業等から、職場環境改善対策 を講じている事業場と講じていない事業場を選定し、それぞれの労働者の健康状況等を比較するこ とにより、当該対策の効果を検討することとしている。 ウ 循環器疾患による死亡と関連した事項に関する研究 過労死等調査研究センターにおいて、循環器疾患による死亡との関連性が指摘されている事項に ついて、安全、かつ簡便に測定する手法の研究開発を進め、当該手法を用いて、被験者からデータ を収集し、脳・心臓疾患との関連を分析することとしている。 エ その他 労災疾病臨床研究補助金の平成27年度公募課題においても、過労死等に係る調査研究を実施して いる。 (3) 過労死等の労働・社会分野の調査・分析 平成27年度は、本省において、シンクタンクへの委託により、過労死等と関連性を有する統計につ いての情報収集、分析を行うとともに、企業、労働者に対するアンケート調査(実態調査)を行うこと としている。 なお、平成28年度以降は、平成27年度の事業の成果等を踏まえ、重点とする業種、職種等を定め、 それらについてより掘り下げた調査研究を行う予定である。 (4) 結果の発信 厚生労働省、過労死等調査研究センターにおいて、過労死等に係る労災補償状況、調査研究の成果 等について、ホームページへの掲載等により公表することとしている。 なお、公務員の公務災害認定状況等については、公務員制度を所管する官庁において公表が予定さ れている。 3 都道府県労働局における対策の進め方 国が取り組む重点対策は、大綱第4に示されているところであるが、以下により、その積極的な推進 を図ること。 (1) 啓発 ア 国民に向けた周知・啓発の実施 本省において、事業者向け、国民向けの周知・啓発用のポスター、パンフレット等を作成するの で、局・労働基準監督署(以下「署」という。)における窓口での配布はもとより、地方公共団体、 関係団体等にも協力を求める等により、広く周知・啓発を行うこと。特に、11月は過労死等防止対 策推進法(平成26年法律第100号)で規定されている過労死等防止啓発月間であることから、これら のポスター、パンフレット等を活用した周知を集中的に行うこと。 併せて、遺族に対する精神保健に関する相談支援等について、本省において、都道府県等を通じ、 精神保健福祉センター等に対して周知・啓発の協力を要請することとしているので、局においても 了知すること。 また、安全衛生優良企業公表制度については、過重労働対策やメンタルヘルス対策に取り組んで いる企業が社会的に評価されるよう、引き続き、本省においてはホームページで周知することとし ているところである。局・署においては、「安全衛生優良企業公表制度の運営について」(平成27 年3月20日付け基発0320第2号)の記の6に留意の上、発注者等も含め、広く周知すること。 イ 大学・高等学校等における労働条件に関する啓発の実施 本省においては、文部科学省と連携し、高等学校、中学校において労働条件等について理解を深 める指導がしっかりと行われるよう学習指導要領の趣旨の徹底を図ることとしている。その際、労 働関係法令に関するハンドブックの活用や、局が行う労働関係法規等の授業の講師派遣について周 知を行う予定であるので、当面は高等学校、中学校等からの講師派遣の要請がなされた場合の対応 について、引き続き適切に行うとともに、別途指示するところにより、局から都道府県教育委員会 等に対して、講師派遣について、必要に応じて働きかけを行うこと。 また、本省において、大学生、高校生等の若年者を主な対象とする労働条件に関するセミナーを 実施し、過重労働による健康障害防止等について説明を行うこととしていることから、引き続き、 その周知を行うこと。 ウ 長時間労働の削減のための周知・啓発の実施 過重労働、賃金不払残業の疑いがある企業等に対する監督指導等及び過労死等を発生させた事業 場に対する当該疾病の原因の究明、再発防止対策の徹底の指導は、引き続き、実施すること。 また、長時間労働の削減のためには、労働時間の適正な把握が重要であることから、引き続き、 「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関する基準」(平成13年4月6日付け基発 第339号)の周知・啓発を行うこと。 労働基準法(昭和22年法律第49号)第36条第1項の規定に基づく協定(以下「時間外・休日労働協 定」という。)については、同法第106条第1項に基づき、使用者において労働者に周知させなけれ ばならないものであるが、引き続き、窓口指導、集団指導、監督指導等のあらゆる機会を通じて、 この周知を徹底するよう指導すること。また、「過重労働による健康障害防止のための総合対策」 (平成18年3月17日付け基発第0317008号)に基づき、月45時間を超えて時間外・休日労働を行わせ ることが可能である場合であっても、時間外・休日労働協定における特別延長時間や実際の時間外 ・休日労働の縮減について指導を行うこと。この際、リーフレット等を用いて、時間外労働がおお むね45時間を超えて長くなるほど業務と発症との関連性が徐々に強まり、発症前1か月間におおむ ね100時間又は発症前2か月ないし6か月間にわたって1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労 働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できることに留意するよう周知・啓発 を行うこと。 併せて、大綱における「平成32年までに週労働時間60時間以上の雇用者の割合を5%以下」とす る目標を踏まえ、週労働時間が60時間以上の労働者をなくすことに努めることや、長時間労働を削 減するためには労働時間等設定改善指針に規定された各取組を行うことが効果的であることにつ いて、「『今後の労働時間等設定改善関係業務の進め方について』の一部改正について」(平成27 年4月10日付け基発0410第2号)を踏まえ、引き続き、積極的な周知・啓発を行うこと。 また、過半数労働組合がない事業場に対しては、協定が適切に結ばれるよう、本省において新た に作成することとしているリーフレット等を活用し、過半数代表者(過半数代表者に選出されうる 労働者)に対する周知・啓発を行うよう指導すること。 さらに、調査研究により得られた知見を踏まえ、必要に応じてリーフレット等を作成することと しているので、これらのリーフレット等が作成されたときには、それらを活用した周知・啓発を行 うこと。 エ 過重労働による健康障害の防止に関する周知・啓発の実施 「過重労働による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」(平成18年3月17日付け基発第 0317008号)について、引き続き、事業者に広く周知・指導徹底を図ること。また、裁量労働制対象 労働者や管理・監督者についても、事業者に健康確保の責務があることから、労働安全衛生法(昭 和47年法律第57号)に基づき、医師による面接指導等を講じなければならないこと等について、引 き続き、啓発指導を行うこと。 また、労働者数50人未満の事業場(以下「小規模事業場」という。)に対しては、産業保健総合支 援センター地域窓口(地域産業保健センター)において、無料で面接指導を実施することができるの で、利用するよう、引き続き、勧奨すること。 併せて、本省において新たに作成することとしているリーフレット等を活用し、必要な睡眠時間 を確保することの重要性及び生活習慣病の予防など健康づくりに取り組むことの重要性についても、 事業者、国民に広く周知・啓発を行うこと。 また、本省において、事業主、労務担当者等を対象とした「過重労働解消のためのセミナー」を 実施するとともに、労働条件ポータルサイト「確かめよう労働条件」を開設しているので、引き続 き、その周知及び利用勧奨を図ること。 オ 「働き方」の見直しに向けた企業への働きかけの実施及び年次有給休暇の取得促進 「『働き方改革』の推進について」(平成26年12月22日付け基発1222第1号)に基づき、引き続き、 企業トップへの働きかけ等を行うこと。 本省において、先進的な取組事例や「働き方・休み方改善指標」等について、「働き方・休み方 改善ポータルサイト」による情報発信を行うとともに、「働き方改革シンポジウム」を開催するこ ととしているので、これらの周知、利用・参加勧奨等を図ること。 年次有給休暇の取得促進については、「年次有給休暇取得促進期間」(10月)において集中的な広 報を実施すること。また、本省において、地方公共団体と協働し、地域のイベント等にあわせた計 画的な年次有給休暇の取得を企業、住民等に働きかけ、地域の休暇取得促進の気運を醸成すること としていることから、当該地域管轄の局においては、関係機関と必要な連携を図ること。併せて、 本省において、地域の取組の好事例を地方公共団体に情報提供することとしていることから、局に おいても、地方公共団体の自主的な取組を促すよう配慮すること。 カ メンタルヘルスケアに関する周知・啓発の実施 「労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令等 の施行について(心理的な負担の程度を把握するための検査等関係)」(平成27年5月1日付け基発050 1第3号)に基づき、平成27年12月より施行される「ストレスチェック制度」について、引き続き、 あらゆる機会を通じて周知徹底を図ること。また、「当面のメンタルヘルス対策の具体的推進につ いて」(平成21年3月26日付け基発第0326002号)等に基づき、引き続き、監督担当部署や労災補償 担当部署と連携し、計画的に、メンタルヘルス対策を主眼とする個別指導等を行うこと。 小規模事業場に対しては、引き続き、地域産業保健センターの利用勧奨を図るとともに、併せて 「ストレスチェック」実施促進のための助成金の周知・利用勧奨を図ること。 また、産業保健総合支援センターにおいて、ストレスチェック制度の施行等を踏まえ、メンタル ヘルスに関する知識の付与と能力の向上等を目的とした研修を実施するので、事業者のみならず、 健康診断機関、医療機関、外部専門機関、医師会等関係団体等に対しても、その周知、受講勧奨を 図ること。 メンタルヘルスケアに関する周知に当たっては、リーフレット等を活用し、職場の上司・同僚だ けでなく、家族・友人等もメンタルヘルス不調のサインに気づき、必要に応じて専門家等につなげ ること、相談に行くことに対する共通理解を形成することが重要であることについても広く周知・ 啓発を行うこと。 キ 職場のパワーハラスメントの予防・解決のための周知・啓発の実施 「職場のパワーハラスメント対策の推進について」(平成24年9月10日付け地発0910第5号基発第 0910第3号)の記の第3の2に基づき、引き続き、積極的に周知・啓発を図ること。 特に、本省においては、パワハラの予防から事後対応までをサポートする「パワハラ対策導入マ ニュアル」の周知・普及及び全国47都道府県で人事労務担当者向けのセミナーを実施することとし ており、局においても、同マニュアルの周知、セミナーの周知、参加勧奨を行うこと。また、啓発 用ホームページ「あかるい職場応援団」や本省から送付する周知用資料を活用した周知・啓発も引 き続き遺漏なく実施すること。 ク 商慣行等も踏まえた取組の推進 平成27年度は、長時間労働の実態が見られるトラック運送業について、学識経験者、荷主、事 業者、行政(厚生労働省、国土交通省)などにより構成される協議会を中央及び各都道府県に設置し、 実態調査、対策の検討等を行うこととしている。さらに、平成28年度以降には、パイロット事業、 長時間労働改善ガイドラインの策定・普及等を行い、関係者が一体となって、長時間労働の抑制と その定着を図ることとしている。このため、局においては、別途指示するところにより適切に対応 すること。 (2) 相談体制の整備等 ア 労働条件や健康管理に関する相談窓口の設置 局・署で長時間労働や過重労働等に関する相談を受け付けた場合には、引き続き、相談内容を踏 まえて、早期かつ適切に対応すること。また、平日夜間・休日の電話相談窓口「労働条件相談ほっ とライン」を設置しているので、引き続き、その周知を行うこと。 また、メンタルヘルス不調、過重労働による健康障害等については、平成27年9月より電話によ る相談窓口を設置することとしているほか、ポータルサイト「こころの耳」におけるメールを活用 した相談窓口を設置しているので、その周知を行うこと。 健康管理に関しては、産業保健総合支援センターにおいて、産業保健スタッフ、事業者等からの 相談に対応するとともに、同センターの地域窓口において小規模事業場からの相談に対応している ので、引き続き、その利用勧奨を行うこと。 地方公共団体、民間団体が設置している過労死等に関する相談が可能な相談窓口について、情報 収集を行い、当該窓口を把握した場合には、必要な連携を図るとともに、その名称、連絡先、相談 が可能な内容等について本省労働基準局総務課に情報提供すること。 その他、産業医科大学において産業医のより実践的な能力向上に係る方策について検討中である ので了知すること。 イ 産業医等相談に応じる者に対する研修の実施 産業保健総合支援センターにおいて、過重労働やメンタルヘルスに関する相談に応じる医師、保 健師、産業保健スタッフ等を対象にした研修を実施することとしているので、その周知、受講勧奨 を行うこと。 また、これらの研修のテキストを公開することとしており、相談体制を整備しようとする企業等 に対し、その活用が可能であることを周知すること。 ウ 労働衛生・人事労務関係者等に対する研修の実施 産業保健総合支援センターにおいて、衛生管理者、労働衛生コンサルタント、社会保険労務士等、 労働衛生・人事労務に携わっている者を対象に、産業医等の活用方法に関する好事例や、良好な職 場環境の形成に関する研修を行うこととしているので、その周知、受講勧奨を行うこと。 (3) 民間団体の活動に対する支援 ア 過労死等防止対策推進シンポジウムの開催 平成27年度から、本省の委託事業として、家族の会と連携しつつ当面全国29か所においてシンポ ジウムを開催することとしている。さらに、今後おおむね3年を目途に全ての都道府県で開催する ことが目標にも掲げられている。このため、当該シンポジウムが開催される地域の局においては、 事前周知やシンポジウムにおける挨拶等について協力すること。また、必要に応じて、地方公共団 体に対し、協力・後援や事前周知等の支援を行うよう働きかけを行うこと。 イ シンポジウム以外の活動に対する支援 家族の会等、民間団体から過労死等防止のための研究会、イベント等への協力を求められた場合 には、速やかに本省にその旨情報提供するとともに、本省と協議しつつ、事前周知、後援等につい て必要な対応を行うこと。 ウ 民間団体の活動の周知 過労死等防止に関する活動を行う民間団体の把握に努め、当該団体を把握した場合には、その名 称、活動内容等について本省労働基準局総務課に情報提供すること。 本省においては、民間団体の名称、活動内容等に関するパンフレットを作成する予定であるので、 当該パンフレットを活用し、民間団体の活動の周知を図ること。 (4) 地方公共団体との協力・連携 地方公共団体は、国と協力しつつ、過労死等の防止のための対策を効果的に推進するよう努めるも のとされていることから、啓発事業等を実施する際には、都道府県をはじめ地方公共団体の労働主管 部局に対して、積極的な協力・連携を図ること。第12次労働災害防止計画(PDF:500KB)