当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について
(平成28年4月1日 基発0401第72号により廃止) |
改正履歴
基発第0326002号
平成21年3月26日
都道府県労働局長 殿
厚生労働省労働基準局長
当面のメンタルヘルス対策の具体的推進について
(平成28年4月1日 基発0401第72号により廃止)
職場におけるメンタルヘルス対策については、労働安全衛生法等の一部を改正する法律(平成17年法律
第108号)、「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(健康保持増進のための指針公示第3号。以下
「指針」という。)等により、その充実を図るとともに、平成20年度を初年度とする労働災害防止計画に
おいても「メンタルヘルスについて、過重労働による健康障害防止対策を講じた上で、労働者一人ひとり
の気づきを促すための教育、研修等の実施、事業場内外の相談体制の整備、職場復帰対策等を推進するこ
とにより、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場の割合を50%以上とすること。」を目標とし、重
点施策として推進しているところである。
また、自殺予防の推進については、自殺対策基本法(平成18年法律第85号)に基づく自殺総合対策大綱を
踏まえ政府一体となって取り組んでいるところであり、具体的には職場におけるメンタルヘルス対策を通
じた自殺予防の一層の推進を図っているところである。
一方、経済情勢の悪化等の影響により、健康面において労働者を取り巻く状況は今後一段と厳しさを増
すことが予想され、これに伴い自殺予防対策を含めた労働者のメンタルヘルス対策の推進は従前にも増し
て重要な課題となっているところである。
以上を踏まえ、当面のメンタルヘルス対策の具体的な進め方を下記のとおり定めたので、これに基づき
メンタルヘルス対策を的確に推進されたい。
記
第1 基本方針
厚生労働省実施の平成19年労働者健康状況調査によると、職業生活等において強い不安、ストレス等を
感じる労働者は約6割に上っており、また、メンタルヘルス上の理由により連続1か月以上休業し、又は退
職した労働者がいる事業場は7.6%であるという結果となっている。このような状況を背景に、精神障害等
による労災支給決定件数は増加傾向にあり、平成19年度は268件と3年前に比べ倍増している。
さらに、警察庁調べによると、我が国における自殺者数は10年連続で3万人を超えており、そのうちの
約3割が被雇用者・勤め人(会社役員等管理的職業を含む。)である。
このような状況に加え、経済情勢の悪化等の影響により、仕事の質・量、職場の人間関係を始めとした
職場環境等の悪化、これに伴う心の健康問題を抱える労働者の増加が正規・非正規を問わず危惧されると
ころであり、特に、自殺者数の増加が憂慮される。このため、心の健康問題の未然防止に向けた事業場の
取組を促進させる必要がある。
一方、メンタルヘルスケアに取り組んでいる事業場の割合は、平成19年労働者健康状況調査によると
33.6%と、5年前と比較していずれの事業場規模でも向上しているものの、労働災害防止計画に掲げる目標
達成に向けてより一層の取組が必要である。
以上を踏まえ、メンタルヘルス対策の一層の推進を図ることとし、とりわけ事業者の強いリーダーシッ
プはもとより労働者も積極的に協力し組織的な取組を行わせること、具体的な取組に当たっては指針に基
づき個々の事業場の実態に即した取組を着実に実施させることを基本とする。
また、メンタルヘルスに取り組んでいない事業場のその主な理由として「専門スタッフがいない」及び
「取り組み方が分からない」が挙げられていることを踏まえ、事業者の取組に当たっては、メンタルヘル
ス対策支援センター事業を始めとする各種支援事業の積極的な活用を図ることとする。
第2 実施事項
1 事業場に対する指導等の実施
(1) 経営トップに対する指導等の実施
企業及び事業場のトップに対して、局署幹部から、様々な機会をとらえ、メンタルヘルス対策
の重要性等について説明を行うとともに、率先して取り組むよう指導等を行うこと。
(2) 事業場の取組促進のための指導等の実施
管内の実情等を踏まえた上で、個別の事業場に対する指導等を行うこと。
事業場への指導等に当たっては、第3に示す「事業場におけるメンタルヘルス対策の具体的推
進事項」について確認し、必要な指導等を行うこと。
(3) 精神障害等による業務上の疾病が発生した場合の再発防止対策の指導の実施
精神障害等による業務上の疾病が発生した事業場に対して、再発防止の措置を行うよう必要な
指導を行うこと。
再発防止の措置に当たっては、衛生委員会等において労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。
以下「法」という。)第18条第1項第3号に基づき、「労働災害の原因及び再発防止対策」につい
て調査審議を行わせること。
2 業界団体等の自主的活動の促進
(1) 団体における自主的活動の促進
業界団体・地域団体・労働団体・労働災害防止団体等に対して、例えば教育研修の合同実施な
ど自主的な活動を行うよう働きかけを行うとともに、これら団体の各種会議、行事、広報紙等の
機会又は媒体を活用し、周知を行うこと。
(2) 啓発活動の促進
メンタルヘルス対策への取組についての社会的機運の醸成を図るため、地方労働審議会や労働
災害防止に関する協議会等地域の関係労使等の代表者が参集する機会を活用する等により、メン
タルヘルス対策の重要性等について説明を行い、例えばキャンペーンや合同宣言を行う等連携し
た取組への働きかけを行うこと。
3 支援事業の活用等
(1) 支援事業の活用促進
今後、以下の国の支援事業を実施する予定であるので、事業場に対する指導等に当たっては、
事業場の取り組むべき課題に対応した支援事業を教示し、これらの活用を促すこと。
ア メンタルヘルス対策に関する専門のポータルサイトの開設やパンフレットの配布等による
メンタルヘルス対策に関する情報の提供及び周知
イ 産業保健スタッフ等関係者に対する研修の実施等
ウ 地域産業保健センターにおける労働者に対する相談窓口の設置等相談体制の整備
(2) メンタルヘルス対策支援センターとの連携
全国の都道府県に設置されているメンタルヘルス対策支援センターにおいては、今後、
ア 事業場に対するメンタルヘルス対策の周知や情報の提供
イ 事業場からのメンタルヘルス対策・職場復帰支援に関する相談対応
ウ 事業場のメンタルヘルス対策への取組に対する支援
エ 事業場に対し上記(1)の支援事業及び登録相談機関やその他の事業場外資源の紹介・教示
オ 関係行政機関等とのネットワーク形成・連携等を行い、地域におけるメンタルヘルス対策
を支援するための中核的役割として担うこととしている。
このため、以下に留意すること。
ア 文書要請、説明会の開催等メンタルヘルス対策の周知に当たっては、メンタルヘルス対策
支援センターと連携を図ること。
イ 事業場がメンタルヘルス対策・職場復帰支援に取り組むことに当たっての相談先として、
メンタルヘルス対策支援センターの周知等を行うこと。
ウ 事業場に対する指導等に当たっては、メンタルヘルス対策支援センターによる事業場への
支援を受けるよう勧奨等を行うこと。
4 関係行政機関等との連携
(1) 関係行政機関との連携
自殺予防を含むメンタルヘルス対策については、職域のみの取組では解決されないこと及び家
族を含む地域での取組も重要であることから、その一体的推進を図るため、地方公共団体の地域
保健主管課、自殺対策主管課、保健所、精神保健福祉センター等と連携した取組を行うこと。
(2) 関係機関との連携
(1)の行政機関はもとより、地域産業保健センター、都道府県産業保健推進センター、各医師
会、精神科病院協会、精神神経科診療所協会等の関係団体、労災病院(勤労者メンタルヘルスセ
ンター、勤労者予防医療センターを含む。)、その他医療機関や相談の専門機関等の事業場外資
源とのネットワークづくりを行い、連携した取組を行うこと。
第3 事業場におけるメンタルヘルス対策の具体的推進事項
事業場における具体的なメンタルヘルス対策の推進に当たっては、特に以下に留意の上、指針に基づ
き、必要な指導等を行うこと。
1 衛生委員会等での調査審議の徹底等
(1) 衛生委員会等での調査審議の徹底
衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」という。)において、「労働者の精神的
健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」が労働安全衛生規則(昭和47年労働省令
第32号。以下「規則」という。)第22条第10号に基づく付議事項とされているところである。
特に、「心の健康づくり計画」の策定に当たっては、衛生委員会等において十分調査審議を行
うことが必要であることから、その調査審議の徹底について指導等を行うこと。
また、衛生委員会等で調査審議された議事概要については、規則第23条第3項に基づく労働者
への周知が規定されているところであるが、労働者の積極的な協力を促す観点も含め、議事概要
の周知の徹底について指導等を行うこと。
(2) 事業場における実態の把握
衛生委員会等における調査審議に当たっては、あらかじめ、メンタルヘルス上の理由による休
業者の有無、人数、休業日数等心の健康問題に係る事業場の現状を把握するよう指導等を行うこ
と。
(3)「心の健康づくり計画」の策定
指針4に基づく「心の健康づくり計画」を策定するよう指導等を行うこと。
特に、「心の健康づくり計画」には「事業者がメンタルヘルスケアを積極的に推進する旨の表
明」、「事業場内メンタルヘルス推進担当者の選任」及び「教育研修の実施」について定めるよ
う指導等を行うこと。
なお、常時50人未満の労働者を使用する事業場については、衛生委員会等の調査審議に代え、
規則第23条の2に基づく関係労働者の意見を聴くための機会を利用して、メンタルヘルス対策に
ついて労働者の意見を聴取するように努め、その意見を踏まえつつ「心の健康づくり計画」を策
定するよう指導等を行うこと。
(4) 調査審議の充実
心の健康問題に係る事業場の現状の把握、心の健康づくり計画の実施状況の評価及び計画の見
直し等について、衛生委員会等において調査審議し、審議の充実を図るよう指導等を行うこと。
2 事業場内体制の整備
(1) 事業場内メンタルヘルス推進担当者の選任
指針5(3)に基づき、衛生管理者、衛生推進者等から事業場のメンタルヘルスケアの推進の実務
を担当する「事業場内メンタルヘルス推進担当者」を選任するよう指導等を行うこと。
(2) 専門スタッフの確保
法に基づき選任が義務づけられている産業医、衛生管理者、衛生推進者及び安全衛生推進者に
ついては、指針5(3)に基づく役割を担うよう指導等を行うこと。
必要に応じ、担当者の育成が必要と認められる事業場に対しては、委託事業や都道府県産業保
健推進センター等で実施する所要の研修への参加勧奨を行うこと。
また、衛生管理者については、管内で「労働災害の防止のための業務に従事する者に対する能
力向上教育に関する指針」(能力向上教育指針公示第1号)に基づく衛生管理者能力向上教育(初任
時、定期又は随時)が実施されている場合には、必要に応じ、その受講を促すこと。
なお、産業医にあっては規則第14条第1項各号において、衛生管理者にあっては法第12条第1項
において、衛生推進者及び安全衛生推進者にあっては法第12条の2において、各々行うべき職務が
規定されているところであり、当該規定に基づき、メンタルヘルスケアに関する事項を含めた職
務を徹底するよう指導等を行うこと。
3 教育研修の実施
指針6(1)に基づき、メンタルヘルスケアを推進するための教育研修を実施するよう指導等を行う
こと。
特に、管理監督者(ラインによるケアを行う上司その他労働者を指揮命令する者をいう。)は、日
常的に労働者の状況や職場環境等を把握しうる立場にあり、ラインによるケアを適切に行う上で重
要な位置づけであることから、管理監督者への教育研修を実施するよう指導等を行うこと。
なお、規則第35条に基づく衛生のための教育の実施に当たっては、パンフレットを活用する等に
より、メンタルヘルスケアを推進するための教育研修についても実施するよう指導等を行うこと。
また、衛生教育の実施計画の作成に関しては、規則第22条第4号に基づき衛生委員会等において
調査審議しなければならないことから、その徹底を図るよう指導等を行うこと。
4 職場環境等の把握と改善
指針6(2)に基づき、職場環境等を把握し、評価することにより問題点を把握し、それに対する改
善を行うよう指導等行うこと。
なお、職場環境等の評価と問題点の把握に当たっては、指針に示すストレスに関する調査票の
ほか、必要に応じ、快適職場調査(ソフト面)の活用もあること。
5 メンタルヘルス不調者の早期発見と適切な対応の実施
(1) 相談体制の整備
指針6(3)に基づき、相談体制を整備するとともに、整備された相談体制が正規・非正規を問わ
ず全ての労働者に活用されるよう、相談体制の周知を行うよう指導等を行うこと。
相談体制の整備に当たっては、必要に応じ、事業場外資源の活用を促すこと。
なお、メンタルヘルス不調者を把握した場合には、必要に応じ医療機関やメンタルヘルス相談
の専門機関に迅速に取り次ぐことが重要である。今後、メンタルヘルス対策支援センターにおい
て地域にある事業場外資源とのネットワーク化を図ることとしているので、その活用を促すこと。
(2) 長時間労働者に対する面接指導の実施の徹底
法第66条の8、法第66条の8の2、法第66条の8の4又は法第66条の9に基づく長時間労働者等に対
する面接指導にあっては、メンタルヘルス面のチェックも行うこととしていることから、これら
長時間労働者に対する医師による面接指導及び事後措置を徹底するよう指導等を行うこと。
なお、労働者が面接指導の申出を行いやすくする観点に立って、平成18年3月17日付け基発第
0317008号(一部改正平成20年3月7日付け基発第0307006号)「過重労働による健康障害防止のため
の総合対策について」別紙1「過重労働による健康障害防止のための総合対策」別添「過重労働
による健康障害を防止するため事業者が講ずべき措置」中に示す5(2)イ「面接指導等を実施する
ための手続き等の整備」について指導等を行うこと。
(3) 健康診断実施時におけるメンタルヘルス不調の把握
法第66条第1項及び規則第43条から第45条の2までの規定に基づく健康診断実施時に、メンタル
ヘルス不調を把握した場合には、法第66条の5第1項の規定に基づく事後措置及び法第66条の7第1
項の規定に基づく保健指導の実施を徹底するよう指導等を行うこと。
(4) 心身両面にわたる健康保持増進対策(THP)の活用
メンタルヘルス不調の未然防止として、必要に応じ、「事業場における労働者の健康保持増進
のための指針」(健康保持増進のための指針公示第1号)に基づく取組を促すこと。
6 職場復帰支援
(1) 職場復帰支援プログラムの策定
指針6(4)に基づき、あらかじめ当該事業場の実態に即した職場復帰支援プログラムの策定、策
定された職場復帰支援プログラムの事業場内での周知を行うよう指導等を行うこと。
なお、職場復帰支援プログラムの具体的策定に当たっては、「心の健康問題により休業した労
働者の職場復帰支援の手引き」の活用を促すこと。
(2) メンタルヘルス対策支援センターの活用
今後、メンタルヘルス対策支援センターにおいて事業者等からの職場復帰支援に関する相談対
応、相談内容に応じた適切な助言、職場復帰支援を行う事業や事業場外資源の教示を行うことと
しているので、その活用を促すこと。
「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(PDF:272KB)