|
|
改正履歴
木造家屋建築工事における労働災害の防止を図るため、かねてより、木造家屋建築工事に係る安全な施
工方法について具体的な技術指針を策定すべく、当該工事の専門家で構成する「木造家屋建築工事安全施
工法研究会」を設置し、その内容の検討を行ってきたところであるが、今般、その結果が別添のとおり
「木造家屋建築工事安全施工指針」(内容省略)としてとりまとめられた。
ついては、これを送付するので、木造家屋建築工事における指導等の業務に活用されたい。
なお、関係業界団体に対しては別紙1のとおり本報告書の普及活用を図るよう要請したので了知された
い。
また、本報告書の要旨は別紙2のとおりであるので参考とされたい。
別紙1
基発第483号
昭和58年9月6日
全国建設労働組合総連合
(社)日本鳶工業連合会
(社)全国中小建築工事業団体連合会
建設業労働災害防止協会 代表者殿
労働省労働基準局長
「木造家屋建築工事安全施工指針」の送付について
労働災害防止の推進につきましては、日頃各別の御配慮を頂き感謝申し上げます。
建設工事における労働災害の発生状況は、安全管理の徹底、施工方法の改善等により遂年、減少して参
りましたが、木造家屋建築工事関係におきましては、依然として屋根・梁等からの墜落災害、木材加工用
機械等による切れ・こすれ災害、材料の飛来落下災害等が多発しており建設工事のなかでも高い災害発生
率を示しております。
労働省におきましては、かねてより建設工事における労働災害防止対策の一層の推進を行政の重点施策
の一つとして、強力に取り組んで参ったところであり、その中でも特に、木造家屋建築工事関係につきま
しては、昭和55年に労働安全衛生法施行令及び労働安全衛生規則の一部を改正し、木造建築物の組立て等
の作業における基本的な危険防止措置についての関係規定を定めたところであります。
また昭和57年1月より木造家屋建築工事現場に適応した安全な施工方法についての具体的かつ詳細な技
術指針を策定すべく、木造家屋建築工事の専門家で構成する「木造家屋建築工事安全施工法研究会」を設
置し、その内容の検討を行ってきたところですが、その結果がこのたび別添のとおり「木造家屋建築工事
安全施工指針」としてとりまとめられました。
つきましては、これを送付しますので、貴会の会員の方々に対する周知方をお願いいたしますとともに
会員各位において、本指針の趣旨が十分理解され、積極的に活用されますよう、その普及徹底方につきま
してもお願い申しあげます。
別紙 2
「木造家屋建築工事安全施工指針」要旨
1 まえがき
(略)
2 木造家屋建築工事における労働災害の現況
木造家屋建築工事における労働災害の発生状況は、近年、死傷災害(休業4日以上)件数をみても顕
著な減少傾向を示しておらず、例えば、着工木造家屋床面積当たりに換算した死傷災害件数ではむしろ
増加傾向にあり、また、その主な事故の型をみても、墜落災害、切れ・こすれ災害が依然として多く発
生している現状にある。
墜落災害の発生の主な要因をみると、木造家屋建築工事の施工に当たって墜落災害防止上重要な対策
として、足場、作業床を設けることなく作業を進めたり、安全帯も使用しない状態で作業が行われてい
ること等の実態がみられる。また、切れ・こすれ災害では、木工機械工具等の不安全状態での使用に起
因するものが少なくない実情にある。
3 木造家屋建築工事における安全対策のポイント
木造家屋建築工事における墜落災害等の労働災害を防止する重要な安全対策のポイントとして次の事
項があげられていること。
(1) 足場、作業床の設置について
イ 足場の選定
足場は、本足場、低層簡易枠組足場、ブラケット一側足場等を設置することが原則的に必要で
あるが、我が国の木造家屋建築工事現場でのスペースの制約条件や足場の使い勝手のよさ等から
ブラケット一側足場を設置することが最も望ましいものであること。
ロ 建方時の安全の確保
建方時には、建方の手順に合わせて順次作業床を確保すること。
ハ 足場組立て時の安全の確保
足場の建地は、屋根の軒の高さから1メートル程度上に出し、屋根上に手すり、滑り止めを設
けること。
ブラケット一側足場の作業床は、足場板を1枚又は2枚敷くことを原則とすること。
足場の設置に当たっては、同時に昇降設備を設け、必要に応じてシートを設けること(図1)。
(2) 親網の設置と安全帯の使用について
屋根勾配が6/10以上又は6/10以下であっても滑りやすい下地(合板下地等)上において屋根
作業を行う場合は、屋根足場を設置することが望ましいが、やむを得ない場合は親網を設置し安全
帯を使用すること(図2)。
(3) 木工用電動工具の使用について
木工用電動工具の使用に当たっては、特に(イ)安全装置を無効にしないこと、(ロ)作業床のない
箇所又は不安定な足場上では作業を行わないこと、(ハ)漏電防止装置を講ずることに留意すること。
(4) 服装等について
服装等の不適切に起因する災害を防ぐために、(イ)服装は、身体に合ったものとし、上衣、袖口
又はズボンのすそは突起物に引っかかる、又は機械に巻き込まれることのないよう始末すること
(ロ)保護帽を着用すること(ハ)はき物は、作業がしやすく、滑りにくいものとすること。に留意し
て適切な服装等を選定して着用する必要があること。
4 木造家屋建築工事安全施工指針
(略)
5 今後の課題
木造家屋建築工事における労働災害を防止するために、木造家屋建築工事を実際に施工する建設業者
及び関係労働者が自ら安全施工指針にのっとって施工中の安全確保を図るよう自主的な活動を進めると
ともに自主的な安全パトロールの実施等により工事現場の改善に努めることが大切であること。一方、
労働基準行政機関は関係機関との連携を強化し、事業者、労働者等の安全意識の高揚に努めるとともに、
安全施工指針の普及徹底を図ることが必要であること。
なお、この安全施工指針は、今後新しい工法の開発等を踏まえて、さらに見直しを行い、内容の整備
を図る必要があること。
木造家屋建築工事の安全施工法について
−木造家屋建築工事安全施工指針−
木造家屋建築工事安全施工法研究会
−目 次−
1.まえがき
2.木造家屋建築工事における労働災害の現況
(1) 墜落災害の多発
(2) 依然として多い切れ・こすれ災害
(3) 事業場の規模別等の災害発生状況
(4) 墜落等の重度な災害の発生要因
(5) 動力工具、手工具等による切れ・こすれ災害の増加要因
(6) その他の災害とその発生要因
3. 木造家屋建築工事における安全対策のポイント
(1) 足場と作業床の設置について
(2) 親網の設置と安全帯の使用について
(3) 木工用電動工具の使用について
(4) 服装等について
4. 木造家屋建築工事安全施工指針
(1) 各作業共通事項
(2) 軸組工法
(3) 枠組壁工法
(4) パネル工法
5. 今後の課題
6. 参考資料
(1) 死亡災害の発生状況の推移
(2) 災害の種類別死亡災害発生状況の推移
(3) 死傷災害の発生状況(休業4日以上の推移)
(4) 建設業における災害の種類別・工事の種類別発生状況(昭和56年)
(5) 墜落死亡災害分析表(昭和54年及び昭和55年)
(6) 作業の種類別、主な事故の型別死傷者数(休業4日以上、昭和56年)
(7) 主な事故の型別、起因物別死傷者数(休業4日以上、昭和56年)
(8) 工事の種類別、事業場の規模別死傷者数、請負別死傷者数(休業4日以上、昭和56年)
(9) 作業の種類別、職種別死傷者数(休業4日以上、昭和56年)
(10) 職種別、被災者の年齢別死傷者数(休業4日以上、昭和56年)
1.まえがき
建設業における労働災害は、長期的にみると全体として減少傾向にあるが、最近では、その減少傾向
も頭打ちとなっている。建設工事のうちでも木造家屋建築工事関係では、休業4日以上の死傷災害で、
建設工事全体の約33%を占め、しかも年々、その占める割合が高まる傾向にある。一方、死亡災害でみ
ると、建設工事全体の約11%を占め、しかも死亡災害の約74%は墜落災害となっている。
木造家屋建築工事における労働災害は、その発生形態をみると建方作業、屋根下地作業、屋根葺作業
等での墜落災害、造作作業等での木工機械による切れ・こすれ災害等が多く発生している。木造家屋建
築工事での労働災害防止の実効をあげるためには、墜落災害、切れ・こすれ災害等の防止対策の一層の
充実が今後の課題として重要視されてきている。
一般に、これらの労働災害を防止するためには、適切な足場の設置及びその使用管理の適正化、安全
帯の使用の励行等による対策の徹底あるいは、木工機械等の適正な使用の徹底等が重要である。しかし
ながら、これまでの木造家屋建築工事における対策を見ると、必ずしもこれらのことが十分に行われて
おらず、とりわけ、適切な足場の設置等に関する対策が不十分な状況にある。
このような情勢を踏まえ、労働省からの要請をうけて本研究会では、木造家屋建築工事に係る安全な
施工方法についての具体的かつ詳細な技術指針の策定を目途として昭和57年1月以降13回にわたり、
その内容の検討を重ね、以下のような木造家屋建築工事安全施工指針等をとりまとめた。
なお、本研究会の構成メンバーは次のとおりである。
木造家屋建築工事安全施工法研究会構成員名簿 (表)
(五十音順)
2.木造家屋建築工事における労働災害の現況
木造家屋建築工事における労働災害は、休業4日以上の死傷災害で建設工事全体の約33%を占めるに
至っており、また一方では、着工木造家屋床面積当たりに換算すると年々増加の傾向すらある(資料
(3)参照)。
このような木造家屋建築工事における最近の労働災害の現況からみて個個の問題を示せば次のとおり
である。
(1) 墜落災害の多発
木造家屋建築工事において、昭和56年に発生した災害の種類別死亡災害129件のうち、墜落によ
る災害は95件であり、死亡災害全体の約74%を占めている。その内容を墜落発生箇所別にみると、
屋根・屋上からのものが33件、梁・母屋からのものが29件と多く、ついで足場からのものが13件、
梯子からのものが6件、窓・階段・開口部・床の端からのものが5件と続いている(資料(4)参照)。
同年における木造家屋建築工事で発生した休業4日以上の死傷災害について抽出調査を行った結
果によると主な事故の型別では、墜落・転落によるものが全体の約35%であることからも木造家屋
建築工事の特徴的な災害であり、また、木造家屋建築工事が死亡・重度な災害に至る危険性の高い
作業形態をとる工事といえる。
同調査によると転落・墜落による休業4日以上の死傷災害については、死亡災害の発生形態とほ
ぼ同様であるが、作業別にみると、屋根葺き作業(1,495件)2階軸組・床組作業(917件)、屋根
下地作業(847件)、左官・タイル張り作業(632件)、塗装作業(514件)、造作作業(414件)と
続いている。
一方、起因物別の転落・墜落災害では、作業箇所(屋根、梁、母屋、桁、階段等)が2,835件
(34%)、用具(移動はしご、脚立等)が1,760件、足場が1,590件とそれぞれ約20%を占めている
(資料(6)及び(7)参照)。
(2) 依然として多い切れ・こすれ災害
昭和56年中に発生した建設業の休業4日以上の死傷災害について行った抽出調査によると、木造
家屋建築工事において発生した災害を主な事故の型別にみると、転落・墜落による災害(9,393件)、
切れ・こすれによる災害(7,114件)が他の災害に比べて圧倒的に多く占めている。ついで飛来・
落下による災害(3,337件)、転倒による災害(2,224件)の順となっている。
作業の種類別にみると、躯体工事における災害が全体の4割強を占め、ついで屋根葺き、壁等の
工事、準備工事、仕上等工事となっている。
作業の種類と主な事故の型との関係でみた場合の切れ・こすれ災害では、躯体工事におけるもの
が4,080 件と最も多く、その作業内容では造作作業が非常に多い。ついで準備工事、仕上等工事に
多く発生している。
切れ・こすれ災害について起因物別にみると木工機械、動力工具及び手工具によるものが全体の
90%を占めている。また、飛来・落下災害については、材料及び手工具が多いことが挙げられる
(資料(6)及び(7)参照)。
(3) 事業場の規模別等の災害発生状況
前述の抽出調査によると、事業場の規模別では、労働者数が1人〜4人、5〜15人の場合がそれ
ぞれ全体の43%及び40%を占めており、小規模の事業場での災害が相変わらず多い(資料(8)参照)。
職種別では災害の最も多いのが大工(54.3%)であり、ついで左官(6.9%)、土工(6.5%)、軽
作業者(4.5%)、屋根ふき工(4.2%)、とび工(4.0%)の順となっている。これらの職種と被
災時の作業との組合せのうち代表的なものは次のとおりである(資料(9)参照)。
大 工:躯体作業(造作作業、その他の作業、2階軸組・床組作業、屋根下地作業等)、準備工
事、仕上等工事(内装工事)
左 官:屋根葺き・壁等の工事(左官・タイル張り作業等)、躯体工事(壁下地作業等)
土 工:土工事及び基礎工事、躯体工事(造作作業等)、仮設工事(足場組立作業等)
軽作業者:躯体工事(屋根下地作業等)、その他の工事、屋根葺き、壁等の工事、準備工事)
屋根葺き工:屋根葺き、壁等の工事(屋根葺き作業)
とび工: 躯体工事(2階軸組、床作業等)、仮設工事(足場解体作業等)
また、年齢と災害の関係では30歳前後と45歳前後の者が多く被災しているのが目立っている。
(資料(10)参照)。
(4) 墜落等の重度な災害の発生要因
墜落・転落災害の発生の多発要因を考察すると次の点があげられる。
[1] 建方作業は、安全帯の使用も非常にむずかしい状態での作業であり、常に作業者の注意力に
依存する度合いが強い。作業の特殊性を考慮すれば、最も潜在的危険性の高い作業であるとい
える。
そのため、誤った動作による災害のほか、部材の取扱い作業中における動作の反動による災
害も少なくない。従って、作業工程の進行に合わせた適切な作業床の設置、作業方法の確立が
必要とされる。
[2] 屋根下地・屋根葺き作業は、屋根部材の取付け作業で足場の設置や安全帯の使用の励行を怠
ったことによる災害が多いが、大工、左官工、塗装工等にとって、作業の内容からみて比較的
安全対策はとりやすいものといえよう。つまり、作業工程の進捗に合わせたブラケット一側足
場等適切な足場の設置、親綱の設置と安全帯の有効な使用等により解決可能である。
[3] 解体作業は、[1]の建方作業より以上に作業時の安全の確保に困難を伴うものといえよう。加
えて、解体作業は、できるだけ安価に早く作業を進めようという意識があることも見逃せない。
解体作業の危険性に対する関係者の理解はもとより作業責任者と作業者の協力による安全な
作業手順、作業方法の確立が大切である。
[4] 左官・タイル作業及び壁下地作業では、[2]と同様に、安全な足場の確保が重要であり、特に
隣接建物等との間の空間の確保との関連で適切なブラケット一側足場等を選択することによっ
て改善されうるであろう。
[5] 造作作業では、はしご等の使用時の安全対策が重要である。
墜落等の重度な災害を防止するためには、足場の設置、安全帯の取付設備の確保と安全帯の
使用の励行、はしご、脚立等の適切な使用等物的な措置の確保が最も大切なことであるが、作
業の伝統性、短期性等もあり、工事責任者、作業者ともに比較的安全作業への意識の不足、日
常の仕事の中で教育訓練不足も災害多発の要因としてあげられる。
(5) 動力工具、手工具等による切れ・こすれ災害の増加要因
近年とみに木造家屋建築工事現場にも機械設備等による施工方法が導入されてきており、電動丸
鋸、電動ドリル等の動力工具や移動式クレーン等の揚重機械を使用する際に、これらのものの刃部
等との接触、これらのものにはさまれる等の災害が増加してきている。その要因として、機械工具
の取扱い上の不馴れもあるが、電動工具のように歯の接触防止措置を無効にして使用する等刃部と
の接触の危険性をまねくような状況や、手工具のようにその取扱いに未熟なために接触したり、は
さまれたりする災害が発生する例が多い。
このことは、不安全な状態での機械工具の使用はもとより取り扱う作業者に対する技能訓練・安
全教育不足や、作業環境の不安全な状態の放置、作業者の不安全行動も見逃せない要因の一つであ
る。
(6) その他の災害とその発生要因
その他の災害とその発生要因としては、次のことがあげられる。
[1] 取扱い中の物等による飛来・落下災害
イ 屋根・梁・作業床等からの飛来・落下災害の補強不足等――工具、不用材の投捨て、仮置
き材の固定不足、危険区域への立入り、仮組み部材の補強不足等
ロ 積荷、つり荷の飛来・落下災害――積荷固定不良、玉掛け不良、つり荷の下への立入等
[2] 足場、架構部材の倒壊災害――控え等倒壊防止措置不良、部材等の不安定状態の放置、部材
の中抜き等
[3]感電災害――電動機械工具のアース不良、電線の防護不良等
[4]踏抜、つまづき、激突災害――整理整頓の不徹底、はき物の不適切等
[5]腰痛災害――無理な荷の運搬、無理な作業姿勢等
3.木造家屋建築工事における安全対策のポイント
作業工程に沿った安全対策については、次節の安全施工指針に詳しく述べられているので、本節では、
そのなかでも特に留意すべき事項として、[1]足場と作業床の設置 [2]親綱の設置、安全帯の使用 [3]
木工用電動工具の使用 [4]服装等を取り上げそれぞれについて、安全対策上、重要なポイントをあげ
ることとする。
(1) 足場と作業床の設置について
イ 足場の選定
木造家屋建築工事現場においては、転落・墜落災害を防止する観点から、本足場、低層簡易枠
組足場、ブラケット一側足場等の足場を設置することが原則的に必要なことであるが、我が国の
木造家屋建築工事現場でのスペースの制約条件や足場の使い勝手のよさ等からブラケット一側足
場を設置することが最も望ましいものと考える。ただし、隣家が近接していて、丸太又は単管の
だき足場を設置することで足場からの転落・墜落の危険性が回避できる場合には、丸太又は単管
のだき足場を設置して差し支えないものである。
ロ 建方時の安全の確保
建方時における墜落災害を防止するためには、建方の手順に合わせて順次適切な作業床を確保
していくことが重要である。(作業床の確保の方法については、次節の安全施工指針を参照のこ
と。)
建物周囲の足場については、建方と併行して設置することが望ましいが、それが困難な場合は、
建方終了後すみやかに設置する。
ハ 足場組立て時の安全の確保(軸組工法・枠組壁工法におけるブラケット一側足場施工図参照)。
例1
(図) 南立面図・東立面図
(図) 北立面図・西立面図
(図) 屋根状図
例2
(図)南立面図・東立面図
(図)北立面図・西立面図
(図)屋根状図
(イ) 建 地
足場の建地は、屋根の軒の高さから1メートル程度上へ出す。軒の出が大きい場合は、外
側に持送り枠を設けて建地を延長する。
(ロ) 作業床
ブラケット一側足場の作業床は、足場板(幅20センチメートル以上の規格品)を1枚又は
2枚敷くことを原則とする。
(ハ) 屋根上の手すり
軒先より上に延長した足場の建地には、軒先から90センチメートル程度のところに手すり
を取り付けるとともに、屋根上から滑べり落ちるのを防ぐために軒先から高さ30センチメー
トルのところにも滑べり止めを設ける。
妻側の足場の建地には、屋根面から高さ90センチメートル程度の位置に、屋根勾配に平行
に手すりを取り付ける。
(ニ) 昇降設備
足場の設置に当たっては、同時に安全に昇降できる箇所に昇降設備を設ける。切妻屋根の
場合は、妻側に昇降設備を設けると小屋上に昇るのに便利である。
(ホ) シート
たる木の切落とし、野地板の切りくず等の飛来・落下、ほこりの飛散等を防止するための
シートを設けることが望ましい。シートは、軒先から高さ90センチメートル程度の位置に設
けた手すり(やむを得ない場合は、軒先から30センチメートルの位置に設けた滑べり止め)
までシートを張る。ただし、この場合には、壁つなぎ又は控えにより足場を補強する必要が
ある。
(2) 親綱の設置と安全帯の使用について
屋根勾配が6/10以上又は6/10以下であっても滑べりやすい下地(合板下地等)上において屋
根下地作業、屋根葺き作業等を行う場合は、屋根足場を設置することが望ましいが、やむを得ない
場合は、親綱を設置し、安全帯を使用する。
親綱を設置し、安全帯を使用する場合の具体例について参考までに次に掲げる。
〈具体例 1〉
親綱取付用金具を棟木又は母屋に取り付け、親綱を張り、これに安全帯を取り付けて使用する。
この場合の次の事項に留意する必要がある。(図)
[1] 親綱取付用金具は、棟木又は母屋から20〜30センチメートル突き出すこと。
[2] 棟木、母屋又は束の脱落を防止するため、これらをかすがい等によって確実に固定するこ
と。
[3] 親綱取付用金具は、瓦等をふくときに埋込み又は取りはずすこと。
〈具体例 2〉
棟木、母屋等に図−2のイ又はロに示す方法によりルーフロープを取り付けて使用する。(図)
(3) 木工用電動工具の使用について
木工用電動工具の使用に当たっては、特に次の事項に留意する必要がある。
[1] 安全装置を無効にしないこと。
[2] 作業床のないところ又は不安定な足場上では作業を行わないこと。
[3] 漏電防止措置を講ずること。
(4) 服装等について
高所作業及び木工用電動工具を使用する作業においては、服装等の不適切に起因する墜落、巻込
まれ等による災害が少なくない。
これらの災害を防ぐためには、特に次の事項に留意して、適切な服装等を選定して着用する必要
がある。
[1] 服装は、身体に合ったもので、上衣、袖口又はズボンのすそが突起物に引っかかったり、機
械に巻き込まれたりしないようにすること。なお、腰てぬぐい等での作業は行わないこと。
[2] 墜落・飛来・落下による災害防止のため、危険場所では保護帽を必ず着用すること。
[3] はき物は、作業がしやすく、滑べりにくいものとすること。建方、屋根作業等外部作業にお
いては、地下たびが適当であること。室内の造作作業等内部作業においてはゾウリでも差し支
えないこと。
4. 木造家屋建築工事安全施工指針
(1) 各作業共通事項
[1] 作業開始前には、必ず作業指揮者(作業主任者)が中心となって安全作業方法、手順等の打
合せを行うこと。
[2] 作業中は、作業方法の安全性に留意し、真しな態度で行うこと。
[3] 作業場内は、常に整理整頓に努めること。
[4] 雨、雪、強風等の悪天候時(悪天候が予想される場合を含む。)には、屋外作業を中止する
こと。
[5] 電動工具は、常に点検整備に勤め、正しく使用すること。
[6] 作業床のないところでは、電動工具を使用しないこと。
[7] 服装等は、作業に適したものとすること。
(2) 軸 組 工 法 (表)
(3) 枠 組 壁 工 法 (表)
(4)パ ネ ル 工 法 (表)
5.今後の課題
木造家屋建築工事における労働災害は、他の建築工事における労働災害が減少傾向にあるにもかかわ
らず、以前として顕著な減少を示しておらず、着工床面積あたりの死傷者数にあっては年々増加してお
り、今後の動向は予断を許さない状況にある。
木造家屋建築工事における労働災害の防止については、従来より労働安全衛生規則等において、墜落
災害、機械工具による災害等の防止、作業主任者の選任等基本的な安全基準が定められているところで
あるが、本研究会では各種工法における各工程ごとの安全上の留意点について検討を行い、安全施工指
針を作成したものである。
この安全施工指針に掲げられている留意点等が確実に遵守されれば、木造家屋建築工事における労働
災害も大幅に減少するものと思われるが、その前提として、安全施工指針の内容が関係事業主、労働者
等の間に広く普及し、その履行が徹底されることが必要である。
そのため、木造家屋建築工事を実際に施工する立場にある建設業者及び関係労働者自ら安全施工指針
にのっとって、施工中の安全確保を図るよう自主的な活動を地道に進めることが大切であり、また、関
係者による自主的な安全パトロールの実施等により工事現場の改善に努めるよう望むものである。
一方、労働基準行政としては、関係事業主団体、職業訓練行政機関、建築基準行政機関等との連携を
強化し、あらゆる機会を通じて、事業者、労働者等の安全意識の高揚に努めるとともに、安全施工指針
の普及徹底を図ることが必要である。
さらに、中小零細事業主に対しては、労働安全衛生融資等の利用等により、工事用仮設機材等の安全
化を図らせることにも留意する必要がある。
また、木造家屋建築工事における安全対策を一層充実させるため、簡便で安全性の高い足場、作業性
を低下させない安全帯及びその附属設備、安全性の高い電動工具等の研究開発を推進することも大切で
あろう。
なお、この安全施工指針は、これで完成したというものではなく、なお改善を要する部分、追加すべ
き項目等があると思われ、また、今後7×7工法等の新しい工法も開発されつつあるので、これらの点
を踏まえて、さらに見直しを行い、内容の整備充実を図っていくことが必要であると考える。
6.参考資料 (略)