ダイオキシン類の有害性についてはベトナム戦争時に米国の散布した枯れ葉剤に含まれたダイオキシンにばく露した退役軍人の疫学的追跡調査や、イタリアのセベンにおける化学工場の爆発にともなうダイオキシン汚染地域の住民への健康影響等多くの調査事例があり、発癌性を始めとして、生殖・免疫毒性、催奇形性、皮膚障 害など多岐に渡る影響の報告が行われている。国際がん研究機構(IARC)はこれらの健康障害に関する事例及び動物実験の結果から、1997年に2,3,7,8−テトラクロロジベンゾ−P−ダイオキシンをグループ1、即ち「ヒトに対して発がん性あり」と分類している。ダイオキシンはそれ自体、製造対象になることはなく、非意図的に廃棄物の焼却時や工業製品の製造時の副生物として生成する事が知られている。近年、ダイオキシンの環境化学的な知見が蓄積されるに従い、廃棄物焼却施設からの高濃度排出及び廃棄物の不法投棄に伴う土壌汚染などによる一般住民への健康障害についての社会の関心が高まり、これに対応すべく、1997年には厚生省及び環境庁がダイオキシン類の排出抑制のための規制を定め公表した。
このような社会状況において焼却事業場の労働環境についても、一般環境と同様に焼却作業従事者に対するダイオキシン類による健康影響への対策の必要性が生じてきた。そこで中央労働災害防止協会は廃棄物焼却事業場における作業者保護のための有効な労働衛生対策の提案を行う目的で委員会を設置し、この問題について検討した成果を取りまとめたものである。内容はA)労働環境における気中ダイオキシン類の測定方法の検討B)文献調査C)アンケート調査による労働衛生の実態調査よりなる。
労働環境における気中ダイオキシン類の測定方法の検討より、気中ダイオキシンは粒子状で存在していたこと、気中ダイオキシン濃度と気中総粉じん濃度と高い相関が得られたことなどが報告されている。
文献調査では、ダイオキシンの物性、主要文献の要旨、文献一覧、ドイツ通達(原文とその訳)、労働環境におけるダイオキシン8章健康および技術上の正常濃度(原文とその訳)と有害大気汚染物質測定方法マニュアルが掲載されている。
労働衛生の実態等についてアンケート調査を廃棄物処理事業場(一般廃棄物処理事業場有効回答438事業場、産業廃棄物処理事業場同167事業場)を対象に実施した。内容は事業場の概要、焼却炉の設備に関して、焼却炉の稼動状況、ダイオキシン濃度等に関する事項、作業場の労働衛生管理、その他である。
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