繊維工業
従来織物のサンプルを作るときは、ピンキングはさみ(織物の周囲をジグザグ状に細かいピッチに切れるはさみ)で約10cm〜15cm角の大きさに切ってい た。ところが、手作業であるため能率、寸法の正確性に欠け、また、1日何回となく繰り返す作業であるため、手が痛くなるという安全衛生上、品質上の諸問題があった。そこで、市販の押し切り裁断式の織物裁断機を購入し、これらの問題の解消を図ろうとしたが、この作業の従事者のほとんどが女性であるということもあり、次のような問題が生じた。
- ① 押し切り式であるため、刃の下でサンプル織物を準備調整中に何かの弾みで切断刃が下降する危険性があった。
- ② 裁断機はすべて鉄製であるので操作には力が必要であり重い。その原因は、ハンドルの構造とストッパーのスプリングが強すぎるためであり、腰や手首が痛くなる。
これら諸問題を解決するため、約1年間、部分的な改造を職場で検討した。例えば、ハンドルと本体を紐で固定する。ハンドルを「く」の字型にする。あるいは、安全バーの取り付け、および、切り刃の精密研磨の改善等を行い、約2年後、安全装置付き高性能の裁断機を完成した。
裁断が終わってハンドルを元に収めたときにロックされるような安全装置をつけた。
これは、リングの突起が安全バーの穴に入りロックされるようになっている。リングは軸を中心に円弧運動をするため、安全バーがスムーズに突起の近くに来るようリング状にし、さらに、突起が穴に確実に入るように安全バーにそりを持たせた。次に安全装置のロックの解除が片手で行えるように取り外しレバーとスプリングを取り付けた。取り外しレバーの上部を握ると水平部の先端で安全バーを持ち上げて、突起が穴から外れ、その状態のままハンドルを引くとロックの解除ができる。手をはなすと、取り外しレバーの下にあるスプリン グにより元に戻る。そしてレバーは小さい握力でも外すことができるめ、安全ロックをつけた。すなわち、二重安全装置である。従って、安全ロックのついた筒を反時計方向に回転し、レバーを握ると安全ロックが外れハンドルを押すことができる。また、ハンドルの先端をL字型にすることにより、力の必要なときに腰や手首などの体勢に無理が生じないようにした。その他ハンドルの握り部分に滑り止めの幅の広いゴムバンドを巻きつけ、手のひらが痛くないように改善し、作業性を向上させるようにした。
- 片手で簡単に、しかも二重安全装置がついているため、安全に操作ができるようになった。
- 切断時の姿勢がよくなり、腰や手首そして手のひらの痛みを解消できた。
- 少ない力でも多くの枚数を重ねて切れるようになった。
昭和61年1月〜昭和63年1月
6万円
有り