安全衛生情報センター
建築物の石綿等の使用の有無の事前調査については、石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号。 以下「石綿則」という。)において事業者にその実施を義務づけるとともに、当該事前調査が的確に行わ れるよう、関係省庁が整備した情報等の周知、石綿の調査に関する官民の資格を有する者による事前調査 の実施についての指導啓発を行うほか、有識者による検討等を踏まえ、通知の発出、リーフレット、マニ ュアル及びテキストの作成を行うなど、累次にわたって施策を見直してきたところである。 今般、これまでに集積された知見を踏まえ、建築物に係る事前調査において石綿含有建材の使用状況を 適切かつ有効に把握するための主な留意点を下記の通りまとめたので、周知啓発を図られたい。 併せて、本通達については、別添のとおり、関係事業者等団体の長宛て周知等を依頼したので了知され たい。
1 書面調査及び現地調査(目視、設計図書等による調査) (1) 書面調査 書面調査は、現地調査の効率性を高めるだけでなく、調査対象建築物を理解することにより、石綿 建材の把握漏れ防止につながるものであることから、これを省略すべきでないこと。 なお、設計図書や竣工図等の書面は石綿等の使用状況に関する情報を網羅しているものではなく、 また、必ずしも建築物の現状を現したものとは限らないことから、書面調査の結果を以て調査を終了 せず、石綿等の使用状況を網羅的に把握するため、現地調査を行うこと(2006(平成18)年9月の石綿等 の製造等禁止以降に着工した建築物等を除く。)。 (2) 現地調査における石綿含有建材の使用状況の網羅的な把握 建築物の事前調査は、建築物の解体や改修作業等を行うことに伴う、石綿等による労働者の健康障 害を防止するために行うためのものである。 このため、調査は、建築物のうち解体や改修作業等を行う部分について、内装や下地等の内側等、 外観からでは直接確認できない部分についても網羅して行うこと。 (3) 石綿を含有する可能性のある建材及びその石綿含有の有無の判断 労働安全衛生法令における石綿等の対象含有率は、昭和50(1975)年に石綿の重量が5%を超えるも の、平成7(1995)年に1%を超えるもの、平成18(2006)年9月に0.1%を超えるものとなった。このた め、石綿を含有する可能性のある建材について、平成18年9月以前に記載等された情報(裏面情報等) において単に石綿を含有しないとされていること自体を以て、石綿を含有しないものとは扱えないこ と。なお、6種類すべての石綿を対象にした情報でない場合は、石綿がないとの証明とならないこと はもちろんであること。 石綿を含有する可能性のある建材のうち、現場施工のものや表示(裏面情報等)のない工場生産製品 は、一般的に当該材料を特定することは困難であるため、当該材料が石綿を含有しないと明らかにす るには分析が必要であること。 なお、石綿を含有する可能性のある建材の種類は、「石綿(アスベスト)含有建材データベース」の 「関連情報」や「目で見るアスベスト建材」に例示されているので参考にできること。 (4) 同一と考えられる材料範囲の特定 例えば同一のフロア内・部屋内であっても、建築物等に補修・増改築がなされている場合や建材等 の吹付けの色が一部異なる場合等複数回の吹付けや複数業者による施工が疑われるときには、それぞ れの範囲ごとに別の材料として、独立して石綿の含有の有無を判断すること。 すなわち、同種類の製品等であっても、ある材料の分析結果や裏面情報等を以て、それとは同一と 考えられない範囲の材料について石綿含有の有無の判断を行わないこと(別のものに判断を転用しな い)(代表性の適切な判断)。 なお、改修工事等の仕上げでは、表面を同一色に塗装等されることも多く、表面の色が同一である ことのみを以て改修が行われていないとの判断は安易に行わず、例えば天井板であれば点検口から裏 面確認を行う等、必要な確認を行うこと。 2 試料採取 (1) 工場生産製品を含め、同一と考えられる建材であっても、製造段階におけるバラツキ等により、石 綿の含有状況に変動がある場合がある。そのため、石綿則第3条第2項の分析により石綿なしを判定し ようとする場合には、非意図的に混入した石綿の有無も確認することが必要であることから、分析方 法にかかわらず、同一と考えられる建材の範囲ごとに、原則として3箇所以上から試料を採取するこ と(変動性・均一性の適切な考慮)。 (2) 採取後における他の試料の混入を防止するため、採取箇所ごとに採取用具は洗浄する等、必要な措 置を講じること。なお、目的とする材料に隣接している材料等が分析の際に混入しないよう、試料採 取時や運搬時等に留意すること。 3 分析 平成26年3月31日付け基安化発0331第3号「建材中の石綿含有率の分析方法等に係る留意事項について」 によること。 4 事前調査における責任分担の明確化及び情報伝達 (1) 事業者は、事前調査が適切に行われるよう、上記1から3までの一連の過程に携わる者の間における 責任分担を明確にすべきであること。例えば、①同一と考えられる材料範囲の特定(代表性の適切な 判断)、②同一材料範囲のうち試料採取する箇所の選定(変動性・均一性の適切な考慮)について判断 を行う者を明確にした上で調査を実施すること。 (2) 特に一部解体や改修の作業について、作業の範囲に応じて調査すべき建築物の範囲が異なってくる ことから、事業者は、調査すべき範囲を明確にするため、施工責任者等から調査責任者等に対して作 業を行う範囲が適切に伝達されるよう必要な指示・依頼等を行うこと。 (3) 事業者は、分析が適切に行われるよう、現地調査ないし試料採取の責任者等から分析者等に対して、 採取した建材の種類など、分析を行うに当たって重要な情報が伝達されるよう必要な指示・依頼等を 行うこと。 5 調査の記録 (1) 石綿則第3条第1項及び第2項に基づく記録については、石綿含有建材の有無と使用箇所を明確にし、 その際、 ア 石綿を含有しないと判断した建材は、その判断根拠を示す イ 作業者へ石綿含有建材の使用箇所を的確に伝える ウ 調査の責任分担を明確にする 等について記録として残すことを目的に作成すべきであること。 具体的には、アに関して、石綿を含有しないと判断した建材については、例えばメーカーの石綿非 含有証明書、試料採取箇所を示す写真等や分析機関の分析結果報告書を添付すること。 また、ウに関して、①同一と考えられる材料範囲の特定、②同一材料範囲のうち試料採取する箇所 の選定について、それぞれ、判断を行った者が特定できるよう記録を作成すること。 (2) 石綿則第3条に基づく調査の記録は、石綿等による労働者の健康障害を防止するためのものである ことから、第3条の調査に関して、解体等の作業を伴わなければ確認の困難であった箇所等について、 記録をしておくこと。 6 作業計画 石綿則第4条の作業計画は、石綿等による労働者の健康障害を防止するためのものであることから、 当該計画において、第3条の調査に関して解体等の作業を伴わなければ確認が困難であった箇所等は、 解体等の作業の段階で石綿含有建材の有無を確認するよう作業計画に盛り込むこと。 7 石綿ばく露・飛散防止の措置 現地調査や試料採取など事前調査のための一連の工程は、解体・改修工事全体で見たときに、労働者 の石綿ばく露を最小化することを目的に行うものである。したがって、現地調査や試料採取において労 働者が石綿にばく露しないようすることが基本である。 そのため、裏面確認等は、できるだけ建材の切断等による取壊しを伴わないよう、照明やコンセント などの電気設備の取外し等により行うよう努めること。また、試料採取を行ったり、網羅的な調査のた めに現地調査において切断等による取壊しが必要な場合は、石綿則に基づく呼吸用保護具の着用や湿潤 化等の措置を徹底すること。 その他、試料採取したときは、採取痕から粉じんを再飛散させないよう適切な補修の手段を講じるこ と。 8 その他 上記1から7までの具体的留意事項については、厚生労働省の「石綿飛散漏洩防止対策徹底マニュアル」 や「石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル」等を参考にできること。 また、事前調査の関連では、以下のマニュアル等も参考になること。 ア 石綿(アスベスト)含有建材データベース(国土交通省、経済産業省) http://www.asbestos-database.jp/ イ 目で見るアスベスト建材(第2版)(国土交通省) http://www.mlit.go.jp/kisha/kisha08/01/010425_3_.html ウ 建築物石綿含有建材調査マニュアル(平成26年11月、国土交通省) http://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/build/jutakukentiku_house_tk_000053.html ※地方公共団体職員向けに作成されたものだが、参考資料として、石綿に関連する建築規制、石綿 が多用されている箇所、見落としやすい石綿建材などの事例を掲載している。