安全衛生情報センター
労働衛生対策については、これまでも労働基準行政の重要課題の一つとして、その推進を図ってきたと ころであり、職業性疾病の予防対策、過重労働による健康障害防止対策、メンタルヘルス対策等を進めて きたところである。 その結果、業務上疾病者数は長期的には減少してきたものの、近年は横ばいで推移しているところであ る。 一方で、印刷事業場において化学物質を使用していた労働者に、高い頻度で胆管がんが発生していた事 案が判明しており、化学物質による健康障害防止対策の徹底が改めて課題となっている。そのほか、石綿 や粉じんによる健康障害防止対策についても引き続き重要な課題となっている。 このような状況を踏まえ、今後の労働衛生対策の推進に関する基本方針について、下記によることとし たので、その効果的な推進に遺憾なきを期されたい。
1 基本的な考え方 (1) 事業場における自主的な労働衛生管理活動の促進を図るためには、総括安全衛生管理者、産業医、 衛生管理者、衛生推進者等の選任及び職務の励行、衛生委員会の設置及び運営等の労働衛生管理体制 の確立を基本とした上で、作業環境管理、作業管理及び健康管理並びに労働衛生教育の総合的な実施 の徹底を図っていく必要がある。 (2) まず労働衛生関係法令の履行確保を図ることが重要であるが、その上で、健康保持増進、快適職場 形成等の事業者の努力義務として規定された労働衛生対策の実施を指導するとともに、各種の指針、 ガイドライン等の周知徹底及びその対策の実施を指導することにより、総合的に事業場の労働衛生水 準の向上を図っていく必要がある。 特に化学物質については、事業場で取り扱われる種類が膨大であり、その危険有害性を認識せずに、 必要なばく露防止措置を講じていないものも見られることから、化学物質の危険有害性情報に基づく リスクアセスメントを実施するなど自主的な取組の促進が重要である。 (3) 対策の推進に当たっては、最大限の行政効果を得ることを常に念頭に置いて、監督指導、個別指導、 集団指導、自主点検等の中から適切な行政手法を選択し、それらを有機的に組み合わせることにより、 効果的かつ効率的に指導を行う必要がある。 特に化学物質対策については、多数の取扱事業場に対して改めてその対策を徹底する必要があるこ とから、中長期にわたり計画的に対応するとともに、行政が実施する指導に加え、事業場における自 主的労働衛生管理活動の促進を図るために、労働災害防止団体、業界団体等と連携した取組の実施や、 労働衛生に関する外部専門機関、国の支援事業等の活用促進も図っていく必要がある。 2 本対策推進に係る基本的な対応方針 (1) 情報の収集、管理 労働衛生対策の推進を的確に行うため、各事業場における有害業務の情報を始め管内の労働衛生に 係る情報について、あらゆる機会を捉えて収集に努めるとともに、その情報を指導実績と併せ、組織 的に管理すること。 (2) 計画的な取組の実施 各局においては、管内の産業・就業構造、職業性疾病発生状況、特殊健康診断実施状況、遵法状況 等を踏まえ、取り組むべき重点対象を定め、中長期的見通しの上に立った年間計画を策定し、監督指 導、個別指導、集団指導、自主点検等を実施すること。 具体的には、問題の認められた事業場・集団等を捉えた上で、法違反のおそれがある事業場に対す る監督指導、技術的・専門的観点からの事業場に対する個別指導、説明会や集団指導など集団的な手 法による周知徹底、管内実態を把握するための自主点検の実施など、各種の手法を的確に組み合わせ るとともに、対象が多い場合には、優先度を考えた計画とすること。 また、問題のある事業場については、繰り返し指導等を行うことにより、遵法状態の定着を図るこ と。 特に化学物質対策については、各局において管内状況等を踏まえ、中長期計画を策定し、監督指導、 個別指導、集団指導、自主点検等を実施すること。 (3) 問題事案等の把握と報告 新たに把握した職業性疾病発生状況に対して迅速に対応するため、特定作業において同一疾病が特 異的に発症している事案等、前例が無いと思われる疾病発生状況を把握した場合は、医学的知見が不 明であっても、速やかに本省労働基準局関係部署あて報告すること。 3 重点事項 (1) 基本的対策 事業場における労働衛生管理体制の確立、作業環境管理、作業管理及び健康管理の実施並びに労働 衛生教育の実施について的確な取組が行われるよう、次に掲げる各項目に留意の上、指導すること。 また、全国労働衛生週間、各局独自の各種行事等の機会を活用し、積極的な広報活動等を実施する ことにより、関係事業者、関係団体等の労働衛生意識の高揚を図ること。 ア 労働衛生管理体制 事業場において、多様化する労働衛生管理を適切に実施し、労働衛生対策を円滑かつ効果的に推 進するためには、総括安全衛生管理者、産業医、衛生管理者、衛生推進者等が中核的な役割を果た すとともに、作業主任者、作業環境測定士等の労働衛生関係の専門的知識を有する者も含めた組織 的な労働衛生管理を実施することが重要である。 このため、産業医、衛生管理者等を選任し、その者に健康管理、職場巡視等の必要な職務を行う よう徹底するとともに、その他各管理者等の責任と権限の明確化及び職務の励行並びにそれらに応 じた教育の実施等を行うなど、労働衛生管理体制の確立を図るよう指導すること。 労働衛生対策の効果的な実施のためには、労働者の意見が適切に反映されることが重要であり、 衛生委員会等において労働衛生対策の重要事項が調査審議されていることなどを確認し、必要な指 導を行うこと。 イ 作業環境管理 作業環境管理は、作業環境中の種々の有害要因を取り除いて適正な作業環境を確保するために行 うものである。このため、法令で定められた局所排気装置等を設置し、定期自主検査の実施等の保 守管理によりその機能を維持するとともに、定期的に的確な作業環境測定を行い、その結果を適切 に評価し、必要な措置を講じるほか、自主的な取組を行うことにより、作業環境の改善に結びつけ るよう指導すること。 事業場に対し作業環境改善のための指導を行うに当たっては、次の事項について確認し、必要な 指導を行うこと。 (ア) 粉じん作業場、有機溶剤使用作業場等法定の作業場においては、法定の局所排気装置、プッシ ュプル型換気装置、全体換気装置等が設置されているか (イ) 局所排気装置等が法定の能力のとおりに稼働しているか (ウ) 局所排気装置等及び除じん装置について、定期自主検査指針に基づき定期自主検査が行われて いるか、また必要な点検が行われているか (エ) 作業環境測定が定期的に作業環境測定基準に基づいて実施されているか (オ) 指定作業場においては、第一種又は第二種作業環境測定士(分析は法定の簡易測定に限る。)が 作業環境測定を実施しているか (カ) 指定作業場(放射性物質取扱作業室を除く。)における作業環境測定結果について作業環境評価 基準に基づき評価されているか (キ) 測定結果及び評価結果に基づき、必要に応じ、局所排気装置等の設備の設置及び改善、健康診 断の実施、保護具の使用等の適切な事後措置が行われているか ウ 作業管理 作業者が作業中に有害物質の影響を受ける度合いは作業内容や作業方法により大きく異なるが、 これらの要因を適切に管理し、労働者への影響を少なくするのが作業管理であり、法令及び通達に 基づく作業管理が行われるよう指導すること。 また、作業方法が法令及び通達で定められている業務以外のものについても、労働衛生の観点か ら作業内容を分析し、作業方法の検討を行うとともに、その結果を基に作業手順が定められ、それ に基づき作業が実施されるよう必要な指導を行うこと。 有毒なガス、粉じん等の有害な要因が存在する環境では、有害性の高い物質の使用中止又は有害 性のより低い物質への代替化等を検討するとともに、作業環境管理を実施し、それらの手法によっ てもなお有害な要因が十分に除去できない場合は、呼吸用保護具等の労働衛生保護具の使用により 対策を講じることが必要となるが、この場合における必要な労働衛生保護具の適切な使用及び管理 を徹底させること。 エ 健康管理 健康管理は、健康診断を通じて労働者の健康状態を把握し、作業環境や作業との関連を検討する ことにより、労働者の健康障害を未然に防ぐことや早期に発見することが必要であり、次に掲げる 事項に留意の上、指導すること。 (ア) 法定の一般健康診断及び特殊健康診断並びに通達により健康診断の実施が勧奨されている腰痛 の健康診断、振動工具の取扱業務に関する健康診断等が適切に実施されるよう指導を行うこと。 特に特殊健康診断については、対象労働者、項目及び期間について的確に実施されているか確認 し、必要な指導を行うこと。 (イ) 法定の一般健康診断及び特殊健康診断の実施の結果が労働者に通知されているか、また、有所 見者がいる場合における健康診断の結果についての医師等からの意見聴取、それを踏まえた事後 措置として作業場所の変更等のほか、作業環境測定の実施、施設・設備の設置等の措置が行われ ているかを確認し、必要な指導を行うこと。この場合において、衛生委員会等への付議状況につ いても確認すること。 (ウ) 深夜業に従事する労働者がいる場合には、深夜業等の特定業務従事者に対する6月以内ごとに1 回の健康診断の実施の徹底を図ること。自発的健康診断については、平成12年3月24日付け基発 第162号「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の施行について」により、 その趣旨を該当労働者に周知させること。 (エ) 労働者の時間外・休日労働時間の状況を確認し、長時間労働を行った労働者に対する面接指導 が適切に実施されているか確認し、必要な指導を行うこと。 オ 労働衛生教育 労働衛生教育は、労働衛生対策の実効を期す上で極めて重要であり、雇入時教育、危険有害業務 従事者に対する特別教育等が適切に実施されているか確認し、必要な指導を行うこと。 また、衛生管理者、作業主任者等労働衛生管理体制の中核となる者に対する能力向上教育等につ いて、平成3年1月21日付け基発第39号別紙「安全衛生教育推進要綱」に留意し、体系的・計画的な 実施を図るよう指導を行うこと。 (2) 職業性疾病予防対策 ア 化学物質による健康障害防止対策 化学物質関係法令の履行が確保されているか確認し、必要な指導を行うこと。労働安全衛生法第 28条第3項の規定に基づき厚生労働大臣が定める化学物質による健康障害を防止するための指針に 掲げる措置内容を実施するよう指導すること。 また、製造業者等により危険有害性情報のラベル表示と安全データシート(SDS)が交付されてい るか確認すること。 さらに、取扱事業者に対し、SDSの入手の徹底、危険有害性の労働者教育、SDSの情報に基づくリ スクアセスメントの実施の促進を図るとともに、SDSの情報に基づくばく露防止措置の徹底を図る よう指導すること。 イ 石綿による健康障害防止対策 石綿障害予防規則の履行が確保されているか確認し、必要な指導を行うこと。平成17年7月28日 付け基発第0728008号「石綿ばく露防止対策の推進について」に基づき指導すること。 また、石綿含有建材を利用した建築物の解体について、地方公共団体等と連携して、事前調査の 実施と届出が適切になされるよう指導すること。 ウ 粉じん障害防止対策 粉じん障害防止規則の履行が確保されているか確認し、必要な指導を行うこと。平成25年2月19 日付け基発0219第2号「第8次粉じん障害防止総合対策の推進について」に基づき指導すること。 エ 物理的因子による疾病・酸素欠乏症等の防止対策 (ア) 電離放射線障害防止対策 電離放射線障害防止規則の履行が確保されているか確認し、必要な指導を行うこと。 また、東日本大震災により生じた放射性物質により汚染された土壌等を除染するための業務等 に係る電離放射線障害防止規則の履行が確保されているか確認し、必要な指導を行うこと。 さらに、原子力施設に対しては、平成24年8月10日付け基発0810第1号「原子力施設における放 射線業務及び緊急作業に係る安全衛生管理対策の強化について」及び平成25年5月17日付け基発 0517第7号「原子力施設に対する監督指導等について」に基づき指導するとともに、除染等業務 従事者の放射線障害防止対策については平成24年3月2日付け基発0302第2号「除染等業務におけ る安全衛生対策の推進について」に基づき指導すること。 (イ) 酸素欠乏症等防止対策 酸素欠乏症等防止規則等の履行が確保されているか確認し、必要な指導を行うこと。 (ウ) 騒音障害防止対策 平成4年10月1日付け基発第546号「騒音障害防止のためのガイドライン」に基づき指導するこ と。 (エ) 振動障害防止対策 平成21年7月10日付け基発0710第5号「振動障害総合対策の推進について」に基づき指導するこ と。 (オ) 腰痛予防対策 平成25年6月18日付け基発0618第1号「職場における腰痛予防対策指針」に基づき指導するこ と。 (カ) 熱中症等の防止対策 平成21年6月19日付け基発第0619001号「職場における熱中症の予防について」に基づき指導す ること。 (キ) その他の健康障害防止対策 一酸化炭素中毒の予防対策、高気圧障害防止対策、廃棄物焼却施設におけるダイオキシン類対 策、VDT作業における労働衛生対策等について、管内の状況に応じ、指導すること。 (3) 過重労働による健康障害防止対策 平成18年3月17日付け基発第0317008号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」 に基づき指導すること。 (4) 健康確保対策及び職場環境の改善・快適化 ア 健康の保持増進 (ア) 職場におけるメンタルヘルス対策 「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(平成18年3月31日健康保持増進のための指針公 示第3号)の周知徹底を図るとともに、同指針に基づき指導すること。 (イ) 心身両面にわたる健康の保持増進(THP) 「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(平成19年11月30日健康保持増進のた めの指針公示第4号)の周知徹底を図るとともに、同指針に基づき指導すること。 イ 職場環境の改善・快適化 「事業者が講ずべき快適な職場環境の形成のための措置に関する指針」(平成4年7月1日労働省告 示第59号)の周知徹底を図るとともに、同指針に基づき指導すること。 ウ 職場における受動喫煙防止対策 職場における受動喫煙防止対策の促進が必要な事業場に対しては、必要に応じて、受動喫煙防止 対策助成金制度及び厚生労働省が実施する支援事業(測定支援事業・相談支援事業)を紹介し、それ らの活用を促すこと。 4 支援事業の活用 主に中小規模事業場における自主的な労働衛生活動の推進を図るため、専門的な指導・支援が必要な 場合には、労働衛生コンサルタントの活用の勧奨、産業保健総合支援センター事業(仮称)等の利用の勧 奨を行い、その活用の促進を図ること。 5 関係行政機関等との連携 効果的な労働衛生対策の推進を図るため、都道府県等の衛生主管部局、精神保健主管部局、大気保全 主管部局、建設主管部局等との連携を図ること。また、労働災害防止団体、業界団体等との連携による 周知等を図ること。