安全衛生情報センター
労働基準法施行規則の一部を改正する省令(平成25年厚生労働省令第113号。以下「改正省令」という。) 及び平成25年厚生労働省告示第316号(労働基準法施行規則の規定に基づき厚生労働大臣が指定する単体た る化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病を定める件。以下「改正告示」と いう。)が、平成25年9月30日に公布され、本日から施行及び適用されることとなったので、下記の事項に 留意の上、事務処理に遺憾なきを期されたい。
第1 改正の趣旨 労働基準法(昭和22年法律第49号)第75条第2項の業務上の疾病の範囲は、労働基準法施行規則(昭和 22年厚生省令第23号)別表第1の2(以下「別表」という。)に定められているところであるが、平成25 年6月から「労働基準法施行規則第35条専門検討会」(以下「専門検討会」という。)において、別表に 掲げる業務上の疾病の範囲について医学的検討を行い、同年7月3日に「労働基準法施行規則第35条専 門検討会報告書」が取りまとめられた。 今般の改正省令及び改正告示は、同報告書を踏まえ、業務上の疾病の範囲について改正を行ったも のである。 第2 改正事項等 1 改正省令について (1) 改正事項 ア 既に別表に規定する疾病に係る対象業務の追加 別表第4号3に規定する皮膚疾患の対象業務に「テレビン油にさらされる業務」を追加したこと。 イ 例示列挙する業務上の疾病の追加 別表第7号に次の疾病と対象業務を追加したこと。 (ア) ベリリウムにさらされる業務による肺がん (イ) 1,2-ジクロロプロパンにさらされる業務による胆管がん (ウ) ジクロロメタンにさらされる業務による胆管がん (2) 改正を行った別表各号の規定の内容 ア 別表第4号3「すす、鉱物油、うるし、テレビン油、タール、セメント、アミン系の樹脂硬化剤等 にさらされる業務による皮膚疾患」 (要旨) 本改正は、テレビン油にさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する皮 膚疾患を業務上の疾病として別表第4号3に追加したものである。 (解説) (ア) 「テレビン油」とは、マツ科植物の水蒸気蒸留や乾留によって得られる環状の炭化水素で、 α-ピネンを主成分とし、少量のβ-ピネンやジペンテンなどを含む混合物である。 なお、テレビン油は、第3種有機溶剤等に該当する有機溶剤として有機溶剤中毒予防規則(昭和 47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)に規定されている。 (イ) 該当業務としては、例えば、テレビン油を用いた塗料、コーティング剤、医薬品等の製造又は 取扱い業務等がある。 (ウ) テレビン油による皮膚疾患としては、アレルギー性接触皮膚炎がある。 イ 別表第7号6「ベリリウムにさらされる業務による肺がん」 (要旨) 本改正は、ベリリウムにさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生する肺 がんを業務上の疾病として新たに定めたものである。 (解説) (ア) 「ベリリウム」(元素記号:Be)とは、銀白色で、主に合金の硬化剤として利用される金属元素 である。ベリリウム及びその化合物を製造する場合には、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。 以下「安衛法」という。)第56条第1項に基づき、あらかじめ、厚生労働大臣の許可を受けなけれ ばならないとされており、また、ベリリウム及びその化合物は、第1類物質及び特別管理物質に 該当する特定化学物質として特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化 則」という。)に規定されている。 (イ) 該当業務としては、ベリリウム銅等の合金の製造等のほか、酸化ベリリウム、フッ化ベリリウ ム、硫酸ベリリウム、塩化ベリリウム、水酸化ベリリウムなどのベリリウム化合物の製造又は取 扱い業務等がある。 なお、ベリリウム及びその化合物(これらの物をその重量の1パーセントを超えて含有する製剤 その他の物(合金にあっては、ベリリウムをその重量の3パーセントを超えて含有するものに限る。) を含む。)を製造し、又は取り扱う業務(これらの物のうち粉状の物以外の物を取り扱う業務を除 く。)は、安衛法第67条による健康管理手帳交付の対象業務(以下「健康管理手帳交付対象業務」 という。)となっている。 (ウ)「肺がん」とは、肺に原発した悪性新生物をいう。 (エ) 本規定に定める疾病に係る業務起因性の判断に当たっては、昭和53年3月30日付け基発第186号 「労働基準法施行規則の一部を改正する省令等の施行について」(以下「186号通達」という。) の記の第3の1に基づき、業務起因性の判断が困難な事案に該当するものとして本省にりん伺する こと。 ウ 別表第7号12「1,2-ジクロロプロパンにさらされる業務による胆管がん」 (要旨) 本改正は、1,2-ジクロロプロパンにさらされる作業環境下において業務に従事することにより 発生する胆管がんを業務上の疾病として新たに定めたものである。 (解説) (ア) 「1,2-ジクロロプロパン」(化学式:C3H6Cl2)とは、常温で無色透明の液体であり、揮発性が 高く、特徴的な臭気(クロロホルム臭)がある。 なお、1,2-ジクロロプロパンは、本年8月13日に公布された労働安全衛生法施行令の一部を改 正する政令(平成25年政令第234号。以下「改正政令」という。)及び労働安全衛生規則及び特定 化学物質障害予防規則の一部を改正する省令(平成25年厚生労働省令第96号。以下「安衛則等改 正省令」という。)により、本日付けで、第2類物質及び特別管理物質に該当する特定化学物質と して特化則に規定されている。 (イ) 該当業務としては、例えば、印刷機等の洗浄又は払拭の業務がある。 なお、改正政令及び安衛則等改正省令により、1,2-ジクロロプロパン(これをその重量の1パー セントを超えて含有する製剤その他の物を含む。)を取り扱う業務のうち、屋内作業場等におい て行う印刷機その他の設備の洗浄又は払拭の業務については、本日付けで、健康管理手帳交付対 象業務に追加されている。 (ウ) 「胆管がん」とは、胆汁の通り道である胆管に生じる悪性腫瘍であり、内腔を覆う胆管上皮細 胞が悪性化したものが大部分である。胆管がんは、がんが生じた場所により大きく2つに分類さ れ、肝臓内の胆管に生じるがんを肝内胆管がん、肝臓外の胆管に生じるがんを肝外胆管がんとい う。 (エ) 本規定に定める疾病に係る業務起因性の判断に当たっては、186号通達の記の第3の1に基づき、 業務起因性の判断が困難な事案に該当するものとして本省にりん伺すること。 エ 別表第7号13「ジクロロメタンにさらされる業務による胆管がん」 (要旨) 本改正は、ジクロロメタンにさらされる作業環境下において業務に従事することにより発生す る胆管がんを業務上の疾病として新たに定めたものである。 (解説) (ア) 「ジクロロメタン」(化学式:CH2Cl2)とは、常温で無色透明の液体であり、揮発性が高く、特 徴的な臭気(甘い芳香臭)がある。 なお、ジクロロメタンは、第2種有機溶剤等に該当する有機溶剤として有機則に規定されている。 (イ) 該当業務としては、例えば、印刷機等の洗浄又は払拭の業務がある。 (ウ) 「胆管がん」については、上記ウの(解説)の(ウ)を参照。 (エ) 本規定に定める疾病に係る業務起因性の判断に当たっては、186号通達の記の第3の1に基づき、 業務起因性の判断が困難な事案に該当するものとして本省にりん伺すること。 2 改正告示について (1) 改正事項 平成8年労働省告示第33号(労働基準法施行規則の規定に基づき厚生労働大臣が指定する単体たる 化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病を定める件。以下「旧告示」 という。)に、別紙1の各表の左欄に掲げる17の単体たる化学物質及び化合物にさらされる業務によ る、それぞれ右欄に掲げる症状又は障害を主たる症状又は障害とする疾病を、業務上の疾病として 追加したこと。 (2) 新たに追加した症状又は障害 旧告示において用いられていた症状又は障害の表現に、新たに「生殖機能障害」を追加したこと。 (解説) 「生殖機能障害」とは、女性における無月経、男性における無精子症及び精子減少症をいう。 生殖機能障害を生じさせる化学物質としては、2-ブロモプロパンがある。 第3 改正内容の周知 今般の改正内容については、別途指示するところにより、関係労使、医療機関、事業主団体等に対 し幅広く周知を図ること。 第4 関係通達の改正 改正省令の施行及び改正告示の適用に伴い、関係通達を別紙2のとおり改めること。 第5 その他 1 旧告示に追加した別紙1の17の単体たる化学物質及び化合物について、各物質ごとの物性、主な用途 等の基本情報については別添のとおりである。 2 改正省令の施行及び改正告示の適用に伴う労災保険業務機械処理手引(平成23年3月31日付け基発03 31第3号)の別表5「傷病性質コード表」の改正については、別途指示する予定である。