安全衛生情報センター
1 趣旨等 職場における受動喫煙防止については、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「安衛法」とい う。)第68条の2により対策を進めているところであるが、これに関連し、昨年7月、健康増進法の一部 を改正する法律(平成30年法律第78号。以下「改正法」という。)が成立・公布されたところである。 改正法は、国民の健康の向上を目的として、多数の者が利用する施設等の管理権原者等に、当該多数 の者の望まない受動喫煙を防止するための措置義務を課すものである。一方、安衛法は、職場における 労働者の安全と健康の保護を目的として、事業者に、屋内における当該労働者の受動喫煙を防止するた めの措置について努力義務を課すものである。 本ガイドラインは、改正法が本年1月24日より順次施行されていることに伴い、改正法による改正後 の健康増進法(平成14年法律第103号。以下「健康増進法」という。)で義務付けられる事項及び安衛法 第68条の2により事業者が実施すべき事項を一体的に示すことを目的とするものである。 なお、事業者と管理権原者が異なる場合、当該事業者は、本ガイドラインに基づく対応に当たり、健 康増進法の規定が遵守されるよう、管理権原者と連携を図る必要がある。 2 用語の定義 本ガイドラインで使用する用語の定義は、次に掲げるとおりであること。 (1) 施設の「屋外」と「屋内」 「屋内」とは、外気の流入が妨げられる場所として、屋根がある建物であって、かつ、側壁がお おむね半分以上覆われているものの内部を指し、これに該当しないものは「屋外」となること。 (2) 第一種施設 「第一種施設」とは、多数の者が利用する施設のうち、学校、病院、児童福祉施設その他の受動 喫煙により健康を損なうおそれが高い者が主として利用する施設として健康増進法施行令(平成14年 政令第361号)第3条及び健康増進法施行規則(平成15年厚生労働省令第86号)第12条から第14条まで に規定するもの並びに国及び地方公共団体の行政機関の庁舎(行政機関がその事務を処理するために 使用する施設に限る。)をいうこと。 (3) 第二種施設 「第二種施設」とは、多数の者が利用する施設のうち、第一種施設及び喫煙目的施設以外の施設 (一般の事務所や工場、飲食店等も含まれる。)をいうこと。 (4) 喫煙目的施設 「喫煙目的施設」とは、多数の者が利用する施設のうち、その施設を利用する者に対して、喫煙 をする場所を提供することを主たる目的とする施設であって、次に掲げるものをいうこと。 ア 公衆喫煙所 施設の屋内の場所の全部を、専ら喫煙をする場所とするもの。 イ 喫煙を主たる目的とするバー、スナック等 たばこの対面販売(出張販売を含む。)をしており、施設の屋内の場所において喫煙する場所を 提供することを主たる目的とし、併せて設備を設けて客に飲食をさせる営業(「通常主食と認めら れる食事」を主として提供するものを除く。)を行う事業場。 ウ 店内で喫煙可能なたばこ販売店 たばこ又は専ら喫煙の用に供するための器具の販売(たばこの販売については、対面販売をして いる場合に限る。)をし、施設の屋内の場所において喫煙をする場所を提供することを主たる目的 とする事業場(設備を設けて客に飲食をさせる営業を行うものを除く。)。 (5) 既存特定飲食提供施設 「既存特定飲食提供施設」とは、次に掲げる要件を全て満たすものをいうこと。 ア 令和2年4月1日時点で、営業している飲食店であること。 イ 個人又は資本金5,000万円以下の会社が経営しているものであること(一の大規模会社が発行済 株式の総数の2分の1以上を有する場合などを除く。)。 ウ 客席面積が100平方メートル以下であること。 (6) 特定屋外喫煙場所 「特定屋外喫煙場所」とは、第一種施設の屋外の場所の一部のうち、当該第一種施設の管理権原 者によって区画され、受動喫煙を防止するために健康増進法施行規則で定める必要な措置がとられ た場所をいうこと。 (7) 喫煙専用室 「喫煙専用室」とは、第二種施設等の屋内又は内部の場所の一部の場所であって、構造及び設備 がその室外の場所(第二種施設等の屋内又は内部の場所に限る。)へのたばこの煙の流出を防止する ための技術的基準に適合した室を、専ら喫煙をすることができる場所として定めたものをいうこと。 専ら喫煙をする用途で使用されるものであることから、喫煙専用室内で飲食等を行うことは認め られないこと。 (8) 指定たばこ専用喫煙室 「指定たばこ専用喫煙室」とは、第二種施設等の屋内又は内部の場所の一部の場所であって、構 造及び設備がその室外の場所(第二種施設等の屋内又は内部の場所に限る。)への指定たばこ(加熱式 たばこをいう。)の煙の流出を防止するための技術的基準に適合した室を、指定たばこのみ喫煙をす ることができる場所として定めたものをいうこと。 指定たばこ専用喫煙室内では、飲食等を行うことが認められていること。 3 組織的対策 (1) 事業者・労働者の役割 職場における受動喫煙防止対策を効果的に進めていくためには、企業において、組織的に実施す ることが重要であり、事業者は衛生委員会、安全衛生委員会等(以下「衛生委員会等」という。)の 場を通じて、労働者の受動喫煙防止対策についての意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把 握した上で、各々の事業場における適切な措置を決定すること。 職場の受動喫煙防止対策の推進のためには、当該事業場に従事する労働者の意識、行動等の在り 方が特に重要であるため、労働者は事業者が決定した措置や基本方針を理解しつつ、衛生委員会等 の代表者を通じる等により、必要な対策について積極的に意見を述べることが望ましいこと。 (2) 受動喫煙防止対策の組織的な進め方 職場における受動喫煙防止対策の実施に当たり、事業者は、事業場の実情に応じ、次のような取 組を組織的に進めることが必要であること。 ア 推進計画の策定 事業者は、事業場の実情を把握した上で、受動喫煙防止対策を推進するための計画(中長期的な ものを含む。以下「推進計画」という。)を策定すること。この場合、安全衛生に係る計画、衛生 教育の実施計画、健康保持増進を図るため必要な措置の実施計画等に、職場の受動喫煙防止対策 に係る項目を盛り込む方法もあること。 推進計画には、例えば、受動喫煙防止対策に関し将来達成する目標と達成時期、当該目標達成 のために講じる措置や活動等があること。 なお、推進計画の策定の際は、事業者が参画し、労働者の積極的な協力を得て、衛生委員会等 で十分に検討すること。 イ 担当部署の指定 事業者は、企業全体又は事業場の規模等に応じ、受動喫煙防止対策の担当部署やその担当者を 指定し、受動喫煙防止対策に係る相談対応等を実施させるとともに、各事業場における受動喫煙 防止対策の状況について定期的に把握、分析、評価等を行い、問題がある職場について改善のた めの指導を行わせるなど、受動喫煙防止対策全般についての事務を所掌させること。 また、評価結果等については、経営幹部や衛生委員会等に適宜報告し、事業者及び事業場の実 情に応じた適切な措置の決定に資するようにすること。 ウ 労働者の健康管理等 事業者は、事業場における受動喫煙防止対策の状況を衛生委員会等における調査審議事項とす ること。また、産業医の職場巡視に当たり、受動喫煙防止対策の実施状況に留意すること。 エ 標識の設置・維持管理 事業者は、施設内に喫煙専用室、指定たばこ専用喫煙室など喫煙することができる場所を定め ようとするときは、当該場所の出入口及び施設の主たる出入口の見やすい箇所に必要な事項を記 載した標識を掲示しなければならないこと。 なお、ピクトグラムを用いた標識例については、「『健康増進法の一部を改正する法律』の施 行について」(平成31年健発0222第1号)の別添3や「なくそう!望まない受動喫煙」ホームページ を参照すること。 オ 意識の高揚及び情報の収集・提供 事業者は、労働者に対して、受動喫煙による健康への影響、受動喫煙の防止のために講じた措 置の内容、健康増進法の趣旨等に関する教育や相談対応を行うことで、受動喫煙防止対策に対す る意識の高揚を図ること。さらに、各事業場における受動喫煙防止対策の担当部署等は、他の事 業場の対策の事例、受動喫煙による健康への影響等に関する調査研究等の情報を収集し、これら の情報を衛生委員会等に適宜提供すること。 カ 労働者の募集及び求人の申込み時の受動喫煙防止対策の明示 事業者は、労働者の募集及び求人の申込みに当たっては、就業の場所における受動喫煙を防止 するための措置に関する事項を明示すること。 明示する内容としては、例えば以下のような事項が考えられること。 ・施設の敷地内又は屋内を全面禁煙としていること。 ・施設の敷地内又は屋内を原則禁煙とし、特定屋外喫煙場所や喫煙専用室等を設けていること。 ・施設の屋内で喫煙が可能であること。 (3) 妊婦等への特別な配慮 事業者は、妊娠している労働者や呼吸器・循環器等に疾患を持つ労働者、がん等の疾病を治療し ながら就業する労働者、化学物質に過敏な労働者など、受動喫煙による健康への影響を一層受けや すい懸念がある者に対して、下記4及び5に掲げる事項の実施に当たり、これらの者への受動喫煙を 防止するため、特に配慮を行うこと。 4 喫煙可能な場所における作業に関する措置 (1) 20歳未満の者の立入禁止 事業者は、健康増進法において、喫煙専用室などの喫煙可能な場所に20歳未満の者を立ち入らせ ることが禁止されていることから、20歳未満の労働者を喫煙専用室等に案内してはならないことは もちろん、20歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務を行わせないようにすること(喫煙 専用室等の清掃作業も含まれる。)。また、20歳未満と思われる者が喫煙専用室等に立ち入ろうとし ている場合にあっては、施設の管理権原者等に声掛けをすることや年齢確認を行うことで20歳未満 の者を喫煙専用室等に立ち入らせないようにさせること。 (2) 20歳未満の者への受動喫煙防止措置 事業者は、健康増進法において適用除外の場所となっている宿泊施設の客室(個室に限る。)や職 員寮の個室、特別養護老人ホーム・有料老人ホームなどの入居施設の個室、業務車両内等について も、望まない受動喫煙を防止するため、20歳未満の者が喫煙可能な場所に立ち入らないよう措置を 講じること。 (3) 20歳以上の労働者に対する配慮 事業者は、20歳以上の労働者についても、望まない受動喫煙を防止する趣旨から、事業場の実情 に応じ、次に掲げる事項について配慮すること。 ア 勤務シフト、勤務フロア、動線等の工夫 望まない受動喫煙を防止するため、勤務シフトや業務分担を工夫すること。また、受動喫煙を 望まない労働者が喫煙区域に立ち入る必要のないよう、禁煙フロアと喫煙フロアを分けることや 喫煙区域を通らないような動線の工夫等について配慮すること。 イ 喫煙専用室等の清掃における配慮 喫煙専用室等の清掃作業は、室内に喫煙者がいない状態で、換気により室内のたばこの煙を排 出した後に行うこと。やむを得ず室内のたばこの煙の濃度が高い状態で清掃作業を行わなければ ならない場合には、呼吸用保護具の着用等により、有害物質の吸入を防ぐ対策をとること。また、 吸い殻の回収作業等の際には、灰等が飛散しないよう注意して清掃を行うこと。 ウ 業務車両内での喫煙時の配慮 営業や配達等の業務で使用する車両内などであっても、健康増進法において喫煙者に配慮義務 が課せられていることを踏まえ、喫煙者に対し、望まない受動喫煙を防止するため、同乗者の意 向に配慮するよう周知すること。 5 各種施設における受動喫煙防止対策 (1) 第一種施設 事業者は、第一種施設が健康増進法により「原則敷地内禁煙」とされていることから、第一種施 設内では、受動喫煙を防止するために必要な別紙1の技術的基準を満たす特定屋外喫煙場所を除き、 労働者に敷地内で喫煙させないこと。また、技術的基準を満たすための効果的手法等の例には、別 紙2に示すものがあること。 (2) 第二種施設 ア 事業者は、第二種施設が健康増進法により「原則屋内禁煙」とされていることから、第二種施 設内では、次に掲げるたばこの煙の流出を防止するための技術的基準に適合した室を除き、労働 者に施設の屋内で喫煙させないこと。 (ア) 喫煙専用室 喫煙専用室は、別紙1のたばこの煙の流出を防止するための技術的基準を満たすものでなけ ればならないこと。また、技術的基準を満たすための効果的手法等の例には、別紙2に示すも のがあること。 (イ) 指定たばこ専用喫煙室 指定たばこ専用喫煙室は、別紙1の指定たばこの煙の流出を防止するための技術的基準を満 たすものでなければならないこと。また、技術的基準を満たすための効果的手法等の例には、 別紙2に示すものがあること。 イ 事業者は、望まない受動喫煙を防止するため、指定たばこ専用喫煙室を設ける施設の営業につ いて広告又は宣伝をするときは、指定たばこ専用喫煙室の設置施設であることを明らかにしなけ ればならないこと。 ウ 事業者は、受動喫煙を望まない者が指定たばこ専用喫煙室において業務や飲食を避けることが できるよう配慮すること。 エ 施設の屋内を全面禁煙とし、屋外喫煙所(閉鎖系に限る。)を設ける場合にあっては、これらに 要する経費の一部については助成を受けることができること。 (3) 喫煙目的施設 ア 事業者は、望まない受動喫煙を防止するため、喫煙目的室を設ける施設の営業について広告又 は宣伝をするときは、喫煙目的室の設置施設であることを明らかにしなければならないこと。 イ 事業者は、受動喫煙を望まない者が、喫煙目的室であって飲食等可能な室内において、業務や 飲食を避けることができるよう配慮すること。 (4) 既存特定飲食提供施設 ア 事業者は、望まない受動喫煙を防止するため、喫煙可能室を設ける施設の営業について広告又 は宣伝をするときは、喫煙可能室の設置施設であることを明らかにしなければならないこと。 イ 事業者は、受動喫煙を望まない者が喫煙可能室において業務や飲食を避けることができるよう 配慮すること。また、業務上であるか否かにかかわらず、受動喫煙を望まない者を喫煙可能室に 同行させることのないよう、労働者に周知すること。 ウ 事業者は、望まない受動喫煙を防止するため、既存特定飲食提供施設の飲食ができる場所を全 面禁煙として喫煙専用室又は屋外喫煙所を設置する場合には、別紙1の技術的基準を満たす喫煙専 用室を設ける、又は、屋外喫煙所を設けることが望ましいこと。この場合、これらの措置(屋外喫 煙所にあっては閉鎖系に限る。)に要する経費の一部について助成を受けることができること。 エ 健康増進法により次に掲げる事項が求められていることから、事業者はそれらの事項が実施さ れているか管理権原者に確認すること。 (ア) 既存特定飲食提供施設の要件に該当することを証する書類を備えること。 (イ) 喫煙可能室設置施設の届出を保健所に行うこと。 6 受動喫煙防止対策に対する支援 事業者は、5の(2)及び(4)の助成対象となる措置に要する費用の一部への助成など、職場の受動喫煙 防止対策に取り組む事業者への支援制度を活用しようとするときは、次に掲げる各制度の問合せ先へ相 談することができること。 (1) 助成金に関する事項 事業場の所在地を所管する都道府県労働局労働基準部健康主務課 (2) 受動喫煙防止対策の技術的な相談 厚生労働省ホームページで最新の問合せ先を確認すること。 厚生労働省ホームページ: (https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/ki tsuen/index.html) (3) たばこの煙の濃度等の測定機器の無料貸出し 厚生労働省ホームページ(同上)で最新の問合せ先を確認すること。