安全衛生情報センター
第1 趣旨 事業者は、粉じんにさらされる労働者の健康障害を防止するため、粉じん障害防止規則(昭和54年労 働省令第18号。以下「粉じん則」という。)及びじん肺法(昭和35年法律第30号)の各規定に定める措置 を講じなければならない。また、これらの措置はもとより、より防護係数の高い呼吸用保護具の使用等、 粉じんによる健康障害防止のための自主的取組を推進することが望まれる。 本「粉じん障害を防止するため事業者が重点的に講ずべき措置」は、これら事業者が講じなければな らない措置等のうち事業者が特に実施すべき事項及び当該事項の実施を推進するために必要な措置をと りまとめたものである。 なお、近年実施した調査結果等を踏まえ、屋外におけるアーク溶接作業及び岩石等の裁断等作業にお いては、当該作業における粉じん障害防止対策を強化するため、粉じん則及びじん肺法施行規則(昭和 35年労働省令第6号)が改正され、平成24年4月に施行されたこと、金属等の研磨作業は、じん肺新規有 所見労働者の占める割合が高いこと、ずい道等建設工事においては、当該建設工事における粉じん障害 防止対策を引き続き推進する必要があること、また、離職時又は離職後にじん肺所見が認められる労働 者の健康管理を引き続き推進する必要があること等から、第8次粉じん障害防止総合対策においては、 「アーク溶接作業と岩石等の裁断等作業」、「金属等の研磨作業」、「ずい道等建設工事」及び「離職 後の健康管理」を重点事項として、これら事項において事業者が重点的に講ずべき措置について記述し ている。 第2 具体的実施事項 1 アーク溶接作業と岩石等の裁断等作業に係る粉じん障害防止対策 (1) 改正粉じん則及び改正じん肺法施行規則の内容に基づく措置の徹底 事業者は、粉じん則の改正(平成24年4月1日施行)により、屋外での金属をアーク溶接する作 業が、粉じん則第23条(休憩設備)の規定の適用を受けることとなったので、この措置を確実に 講じること。 併せて、じん肺法施行規則の改正(平成24年4月1日施行)により、金属をアーク溶接する作業に ついて、屋外でのみ行う者やその大半が屋外であり屋内での作業に常時性が認められない者に 対しても、じん肺法に定める健康診断を実施し、また、これらの者に関する、じん肺法施行規 則第37条に定める健康管理実施状況報告を提出する必要があるので、これらの措置を確実に講 じること。 また、事業者は、アーク溶接作業と岩石等の裁断等作業が、じん肺にかかるおそれがある「粉 じん作業」であることを認識するとともに、労働者に対し、当該作業が粉じん作業であり、当 該作業に従事する労働者は有効な呼吸用保護具を使用する必要があること等の周知徹底を図る ため、その要旨を記したものを、アーク溶接等の作業場の見やすい場所への掲示、粉じん障害 防止総合対策推進強化月間及び粉じん対策の日を活用した普及啓発等を実施すること。 なお、当該事項の周知徹底については、衛生委員会等も活用すること。 (2) 局所排気装置、プッシュプル型換気装置等の普及を通じた作業環境の改善 事業者は、屋内でアーク溶接作業を行う場合、粉じん則第5条に基づき、全体換気装置による 換気の実施又はこれと同等以上の措置を講じなければならないこと。この措置に当たっては、 より効果的に粉じんの発散防止を図るため、局所排気装置、プッシュプル型換気装置、ヒュー ム吸引トーチ等が望ましいため、その使用を推進すること。 (3) 呼吸用保護具の着用の徹底及び適正な着用の推進 事業者は、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させるため、次の措置を講じること。 ア 保護具着用管理責任者の選任 作業場ごとに、「保護具着用管理責任者」を、衛生管理者、安全衛生推進者又は衛生推進者 等労働衛生に関する知識、経験等を有する者から選任すること。 イ 呼吸用保護具の適正な選択、使用及び保守管理の推進 平成17年2月7日付け基発第0207006号「防じんマスクの選択、使用等について」に基づき、 「保護具着用管理責任者」に対し、次の適正な選択、使用及び保守管理を行わせること。 [1] 呼吸用保護具の適正な選択、使用、顔面への密着性の確認等に関する指導 [2] 呼吸用保護具の保守管理及び廃棄 [3] 呼吸用保護具のフィルタの交換の基準を定め、フィルタの交換日 等を記録する台帳を整備すること等フィルタの交換の管理 ウ 電動ファン付き呼吸用保護具の使用について 電動ファン付き呼吸用保護具は、防じんマスクと比べて、一般的に防護係数が高く労働者の 健康障害防止の観点からより有用であることから、その着用が義務付けられている特定の作業 以外の作業においても、その防護係数等の性能を確認した上で、これを着用することが望まし いため、その着用を推進すること。 (4) 健康管理対策の推進 ア じん肺健康診断の実施の徹底 事業者は、じん肺法に基づき、じん肺健康診断を実施し、毎年じん肺健康管理実施状況報告 を提出すること。また、事業者は、じん肺健康診断の結果に応じて、当該事業場における労働 者の実情等を勘案しつつ、粉じんばく露の低減措置又は粉じん作業以外の作業への転換措置を 行うこと。 イ じん肺有所見労働者に対する健康管理教育等の推進 事業者は、じん肺有所見労働者のじん肺の増悪の防止を図るため、産業医等による継続的な 保健指導を実施するとともに、「じん肺有所見者に対する健康管理教育のためのガイドライン」 に基づく健康管理教育を推進すること。 さらに、じん肺有所見労働者は、喫煙が加わると肺がんの発生リスクがより一層上昇するこ と、一方、禁煙により発生リスクの低下が期待できることから、事業者は、じん肺有所見労働 者に対する肺がんに関する検査の実施及びじん肺有所見労働者に対する積極的な禁煙の働きか けを行うこと。 (5) じん肺に関する予防及び健康管理のための教育の徹底 事業者は、アーク溶接作業に常時従事する労働者に対して、じん肺法第6条に基づき、じん肺に 関する予防及び健康管理のために必要な教育を実施しなければならないこと。この教育は、粉じ ん則第22条に定める特別教育の科目に準じて実施すること。 2 金属等の研磨作業に係る粉じん障害防止対策 (1) 特定粉じん発生源に対する措置の徹底等 事業者は、金属等の研磨作業に係る特定粉じん発生源(粉じん則別表第2に掲げる箇所をいう。 以下同じ。)については、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置の設置の措置等を講じるとと もに、粉じん則第10条に基づき、除じん装置を設置すること。 (2) 特定粉じん発生源以外の粉じん作業に係る局所排気装置等の普及を通じた作業環境の改善 事業者は、屋内で手持式又は可搬式動力工具を用いて金属等の研磨作業を行う場合には、第2の 1の(2)と同様の措置が望ましいため、その実施を図ること。 (3) 局所排気装置等の適正な稼働並びに検査及び点検の実施 ア 局所排気装置等における検査・点検責任者の選任 事業者は、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は除じん装置のそれぞれの設備ごとに、 局所排気装置等の定期自主検査者講習を修了した者から「検査・点検責任者」を選任すること。 イ 局所排気装置等の検査及び点検の実施 事業者は、選任した「検査・点検責任者」に対し、局所排気装置、プッシュプル型換気装置 又は除じん装置について、定期自主検査及び点検を行わせるとともに、当該検査・点検の結果 に基づく補修等の必要な措置を講じること。 (4) 作業環境測定の実施及びその結果の評価に基づく措置の徹底 事業者は、粉じん則第26条及び第26条の2に基づき、作業環境測定を実施するとともに、作業 環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号)に基づき評価し、第3管理区分又は第2管理区分に区分 された作業場については、施設、設備、作業工程及び作業方法の点検を行い、その結果に基づき、 作業環境を改善するために必要な措置を講じること。 (5) 特別教育の徹底 事業者は、特定粉じん作業(粉じん発生源が特定粉じん発生源である粉じん作業をいう。)に常 時従事する労働者に対し、粉じん則第22条に基づき、特別教育を実施すること。 (6) 呼吸用保護具の着用の徹底及び適正な着用の推進 局所排気装置等の設置を要しない場合には、事業者は、第2の1の(3)と同様の措置を講じること。 (7) たい積粉じん対策の推進 ア たい積粉じん清掃責任者の選任 事業者は、粉じん則第24条に基づく粉じん作業を行う場所の清掃を行う責任者として、「た い積粉じん清掃責任者」を選任すること。 イ たい積粉じん除去のための清掃の推進 事業者は、選任した「たい積粉じん清掃責任者」の指揮の下で、毎日の清掃及び1月に1回以 上、定期に、たい積粉じん除去のための清掃を行わせること。 (8) 健康管理対策の推進 事業者は、第2の1の(4)と同様の措置を講じること。 3 ずい道等建設工事における粉じん障害防止対策 (1) ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドラインに基づく対策の徹底 事業者は、平成12年12月26日付け基発第768号の2「ずい道等建設工事における粉じん対策の推 進について」において示された「ずい道等建設工事における粉じん対策に関するガイドライン」 (以下「ガイドライン」という。)に基づくその措置を講じること。また、必要に応じ、建設業労 働災害防止協会の「新版ずい道等建設工事における換気技術指針」(平成24年3月)も参照すること。 特に、次の作業において、労働者に着用させなければならない呼吸用保護具は電動ファン付き 呼吸用保護具に限られることに留意すること。 また、その使用に当たっては、粉じん作業中にファンが有効に作動することが必要であるため、 予備電池の用意や休憩室での充電設備の備え付け等を行うこと。 [1] 動力を用いて鉱物等を掘削する場所における作業 [2] 動力を用いて鉱物等を積み込み、又は積み卸す場所における作業 [3] コンクリート等を吹き付ける場所における作業 なお、事業者は、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第88条に基づく「ずい道等の建設等の 仕事」に係る計画の届出を厚生労働大臣又は労働基準監督署長に提出する場合には、ガイドライ ン内記載の「粉じん対策に係る計画」を添付すること。 (2) 健康管理対策の推進 事業者は、第2の1の(4)と同様の措置を講じること。 (3) 元方事業者の講ずべき措置の実施の徹底等 元方事業者は、ガイドラインに基づき、粉じん対策に係る計画の調整、教育に対する指導及び 援助、清掃作業日の統一、関係請負人に対する技術上の指導等を行うこと。 4 その他の粉じん作業又は業種に係る粉じん障害防止対策 事業者は、その他の粉じん作業又は業種についても、作業環境測定の結果、新規有所見者の発生 数、職場巡視の結果等を踏まえ、上記の措置に準じて、粉じん障害防止対策を推進すること。 5 離職後の健康管理 事業者は、粉じん作業に従事し、じん肺管理区分が管理2又は管理3の離職予定者に対し、「離職 するじん肺有所見者のためのガイドブック」(平成23年3月)(以下「ガイドブック」という。)を配 付するとともに、ガイドブック等を活用し、離職予定者に健康管理手帳の交付申請の方法等につい て周知すること。 その際、特に、じん肺合併症予防の観点から、積極的な禁煙の働きかけを行うこと。なお、定期 的な健康管理の中で禁煙指導に役立てるため、粉じん作業に係る健康管理手帳の様式に、喫煙歴の 記入欄があることに留意すること。 また、事業者は、粉じん作業に従事させたことがある労働者が、離職により事業者の管理から離 れるに当たり、雇用期間内に受けた最終のじん肺健康診断結果証明書の写し等、離職後の健康管理 に必要な書類をとりまとめ、求めに応じて労働者に提供すること。