労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について
改正履歴
基発第505号
平成11年8月13日
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について
労働安全衛生規則の一部を改正する省令(平成11年労働省令第35号)は、本日公布され、平成一一年一〇
月一日(一部の規定は平成一二年一月一日)から施行されることとなった。今回の改正は、ジャッキ式つり
上げ機械による労働災害の発生状況にかんがみ、同種災誓防止対策の一層の充実を図るために行われたも
のであり、その内容は下記のとおりであるのでその施行に遺漏のなきを期されたい。
記
第1 改正の要点
1 ジャッキ式つり上げ機械(複数の保持機構(ワイヤロープ等を締め付けること等によって保持する機
構)を有し、当該保持機構を交互に開閉し、保持機構間を動力を用いて伸縮させることにより荷のつ
り上げ、つり下げ等の作業をワイヤロープ等を介して行う機械)の調整又は運転の業務を、労働安全
衛生法第59条第3項に基づく特別教育の対象としたこと。(第36条関係)
2 事業者は、建設工事の作業において使用するジャッキ式つり上げ機械については、次の要件に該当
するものでなければ、使用してはならないこととしたこと。(第194条の4関係)
(1) 目的に適応した必要な強度を有すること。
(2) 構についてはワイヤロープ等を保持するために必要な能カを有すること。
(3) の保持機構が同時に開放されることを防止する機構を有していること。
(4) 損傷、摩耗、変形又は腐食のないものであること。
3 事業者は、建設工事の作業を行う場合において、ジャッキ式つり上げ機械を用いて荷のつり上げ、
つり下げ等の作業を行うときは、次に掲げる措置を講じなければならないこととしたこと。
(第194条の5、第194条の6、第194条の7関係)
(1) 項が示された作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行うこと。また、当該作業計画
を関係労働者に周知させること。
イ 作業の方法及び順序
口 使用するジャッキ式つり上げ機械の崩壌及び倒壊を防止するための方法
ハ 作業に従事する労働者の墜落による危険を防止するための設備の設置の方法
二 使用する機械等の種類及び能力
(2) 作業区域内に関係労働者以外の労働者の立入りを禁止すること。
(3) 悪天候のため、作業の実施について危険が予想されるときは、作業を中止すること。
(4) ジャッキ式つり上げ機械を施設、仮設物等に据え付けるときは、確実に固定させること。
(5) ジャッキ式つり上げ機械を据え付ける施設、仮設物等については、その耐力を確認し、耐力が不
足しているときは、補強すること。
(6) 作業に従事する労働者に保護帽を着用させること。
第2 細部事項
1 適用等
(1) 「ジャッキ式つり上げ機械」とは、複数の保持機構、保持機構間の伸縮部、つり材(ワイヤロープ
等)及びこれらを搭載する架台から構成され、保持機構によりつり材を保持し、つり材を介して荷の
つり上げ、つり下げ等のみを行うことを目的とした機械装置をいうものであり、荷をつり上げ、及
びこれを水平に運搬することを目的とするクレーンには該当しないものであること。
また、「ジャッキ式つり上げ機械」には、架台に保持機構及び伸縮部が固定され、荷に固定した
つり材を移動させるものと架台につり材が固定され、荷に固定された保持機構及び伸縮部が荷とと
もに移動するものがあること。
(2) クレーンのクライミング機構等機械装置に組み込まれ、当該機械装置自体を移動させる機構につ
いては、「ジャッキ式つり上げ機械」に該当しないものであること。
(3) 「保持機構」には、つり材のワイヤロープの周りに配置したコレット(楔状の金具)を油圧により
締め付け、摩擦力で固締保持するもの、つり材のPC鋼より線を重力による自然噛み込み式の楔で保
持するもの、つり材の等間隔に穴のあいたテンションプレートをその穴にピンを挿入することによ
り保持するもの、つり材のステップ(溝)を切った鋼棒のステップ部をコレット等で保持するもの、
つり材のねじを切った鋼棒をナット等により保持するもの等があること。
(4) 「ワイヤロープ等」の「等」には、PC鋼より線、ロッド、テンションプレート等が含まれるもので
あること。
(5) 「荷のつり上げ、つり下げ等」の「等」には、荷を地切りをせずに斜め方向に移動させること、
長尺物の一端を引き上げて長尺物を立ち上げること等のジャッキ式つり上げ機械のすべての保持機
構が同時に開放されること等により荷が落下するおそれのある作業が含まれるものであること。
2 特別教育(第36条第10号の4関係)
「調整の業務」とは、ジャッキ式つり上げ機械を使用する作業開始時における油圧管の配管作業、
作動圧力設定作業、操作機器の条件設定作業等つり上げ、つり下げ等作業の準備作業をいうもので
あること。
3 保持機構等(第194条の4関係)
(1) 第1号は、ジャッキ式つり上げ機械自体が荷をつり上げ、つり下げ等の作業中に倒壊、崩壊するこ
とがないよう、ジャッキ式つり上げ機械の保持機構、伸縮部、つり材及び架台がそれぞれ必要な強
度を有することを義務付けたものであり、別添(7ぺージ:編集部)の構造基準により確認することが
できるものであること。
(2) 第2号は、保持機構の保持する能力が不足することにより荷が落下することがないよう、保持機構
が必要な保持能力を有することを義務付けたものであり、つり材を摩擦力で保持する保持機構にお
いては、保持機構に係る荷董の二倍以上の荷重を保持できることが必要であること。
(3) 第3号の「すべての保持機構が同時に開放されることを防止する機構」には、荷の荷重がかかって
いる場合には保持機構の開放が物理的にできないような機構のほか、自動操作の場合、操作プログ
ラム上で同時開放を防止するインターロック機能を有することも当該機構に該当するものであること。
なお、当該機構は、労働安全衛生規則第28条及び第29条の「安全装置等」に該当するものである
こと。
4 作業計画(第194条の5関係)
第2項第2号は、ジャッキ式つり上げ機械の構造、強度、固定方法、据え付ける施設、仮設物等の
耐力、補強方法等をいうものであること。
5 ジャッキ式つり上げ機械の作業(第194条の6関係)
第2号の「強風、大雨、大雪等の悪天候のため」の意義は、労働安全衛生規則第517条の3第2号の
「強風、大雨、大雪等の悪天候のため」の意義と同様であること。
労働安全衛生規則の一部を改正する省令の新旧対照条文(表)
別添
ジャッキ式つり上げ機械の構造規格
1 ジャッキ式つり上げ機械の構造部分の許容応力
ジャッキ式つり上げ機械の構造部分(荷をつり上げ、つり下げなどを行なうための支持部分)の銅材
に係る計算に使用する許容引張応力の値、許容圧縮応力の値、許容曲げ応力の値、許容せん断応力の
値、許容支え圧応力及び許容座屈応力の値は、それぞれ次の式により計算して得た値とする。
(1) 許容引張応力(σta)
σta=σa
σaは鋼材に係る次に掲げる値のうちいずれか小さい値
イ 降伏点または耐力(単位ニュートン毎平方ミリメートル)の値を1.5で除して得た値
口 引張強さ(単位ニュートン毎平方ミリメートル)の値を1.8で除して得た値
(2) 許容圧縮応力(σca)
σca=σa/1.15
(3) 引張応力の生じる側における許容曲げ応力(σbat)
σbat=σa
(4) 圧縮応力の生じる側における許容曲げ応力(σbac)
σbac=σa/1.15
(5) 許容せん断応力(τa)
τa=σa/√3
(6) 許容支え圧応力(σda)
σda=1.42σa
(7) 許容座屈応力(σk)
λ<20の場合
σk=σca
20≦λ≦200の場合
σk=σca/ω
λ:有効細長比
ω:クレーン構造規格(平成7年労働省告示第134号)別表第1に定める座屈係数
2 許容応カの値の割増し
上記1の許容応力の値は、下記5の(2)の[2]の荷重の組合わせによる計算においては15パーセントを、
下記5の(2)の[3]及び[4]の荷重の組合わせによる計算においては30パーセントを限度として割り増し
た値とすることができる。
3 つり材の安全率
つり材の安全率については、次のとおりとする。
なお、この安全率は、つり材の破断(切断)荷重の値を当該つり材に作用する荷重の最犬値で除して
得た値とする。
(1) テンションプレート(つり鋼帯)及びテンションバー(つり鋼棒)
2.5以上
(2) ワイヤーロープ
3.55以上
(3) PC鋼より線
2.5以上
4 保持機構の安全率
摩擦力で保持する保持機構の安全率は、2以上とする。
なお、この安全率は、保持機構が保持できる荷重の最大値を当該保持機構に作用する荷重の最大値
で除して得た値とする。
5 荷重
(1) 構造計算に使用する荷重
ジャッキ式つり上げ機械の構造部分にかかる荷重のうち計算に使用する荷重は、次に掲げるとお
りとする。
[1] 垂直動荷重
[2] 垂直静荷重
[3] 風荷重
ジャッキ式つり上げ機械のうち、つり材を除いた部分が風を受けることによって生ずる力をい
う。風荷重は、水平方向に作用するものとし、次の式により計算して得た値とする。
W=qCA
W:風荷重(単位ニェートン)
q:速度圧(単位ニュートン毎平方メートル)
ジャッキ式つり上げ機械の作動時は、q=834√h
停止時は、q=9804√h
h:ジャッキ式つり上げ機械の風を受ける面の地上からの高さ(単位メートル)(高さが16メー
トル未満の場合には16)
C:風力係数
A:受圧面積(単位平方メートル)
上記の風力係数及び受圧面積については、クレーン構造規格第9条を準用する
[4] 地震荷重
垂直静荷重の20パーセントに相当する荷重がジャッキ式つり上げ機械に対し水平方向に作用す
るものとして計算して得た値とする。
(2) 強度計算に係る荷重の組合わせ
構造部分を構成する部材の断面に生ずる応力の値は、次に掲げる荷重の組合わせによる計算にお
いて、それぞれ上記1に規定する許容応力の値を超えてはならない。また、ここに規定する応力の
値は、それぞれの荷重の組合わせにおいて、当該構造部分の強度に関し最も不利となる場合におけ
るそれぞれの荷重によって計算するものとする。
なお、保持機構及び伸縮部の計算においては[4]の組み合わせ、つり材の計算においては[2]、
[3]及び[4]の組合わせは適用しない。また、架台以外の計算においては、垂直静荷重を考慮する必
要はない。
[1] 動荷重係数を乗じた垂直動荷重及び静荷重係数を乗じた垂直静荷重の組合わせ
[2] 動荷重係数を乗じた垂直動荷重、静荷重係数を乗じた垂直静荷重及び作動時における風荷重の組
合わせ
[3] 垂直動荷重、垂直静荷重及び地震荷重の組合わせ
[4] 垂直静荷重及び停止時における風荷重の組合わせ
[1]及び[2]の動荷重係数及び静荷重係数は、それぞれジャッキ式つり上げ機械の作業状況、つり上
げ、つり下げなどの速度、荷のアンバランスなどに応ずる値とする。