アルミニウム及びアルミニウム合金の工作基準について |
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近時、アルミニウム及びアルミニウム合金が圧力容器の材料として使用されることが多くなってきてい
るが、これらの材料については、溶接工作等にあたって特段の配意が必要である。このため、アルミニウ
ム及びアルミニウム合金の工作基準を別紙のとおり定めたから、本基準の内容を圧力容器製造業者等に十
分周知されたい。
アルミニウム及びアルミニウム合金の工作基準
1.適用範囲
1.1 本基準は、表1に示すアルミニウム及びアルミニウム合金(以下アルミニウムという。)を用い
て圧力容器を製造する場合の工作に適用する。
1.2 本基準はアルミニウムの工作において特有の事項を示すもので、一般的な工作基準は圧力容器構
造規格に示すところによること。
2.アルミニウム材料取扱い上の注意
(1) アルミニウムは、一般に鋼に比較して柔らかく、かつ、たわみやすいから、傷、曲り等を生じな
いように取扱うこと。
(2) アルミニウムの材質には種々のものがあるから、貯蔵中又は工作中に混同のおそれがないように
すること。アルミニウムの貯蔵及び工作は、ほこり、腐食性ガス、雨水、湿気などのはなはだしく
ないところで行うこと。
(3) アルミニウムは、鋼と比較して熱膨張係数が大きいので、膨張、収縮による寸法変化に留意して
工作すること。
3.切 断
3.1 けがき
けがきは、原則として墨又はけがき塗料を使用して行うこと。
けがき塗料は、腐食性のないものを用いること。
3.2 切断方法
切断は、各種シャー、ソー、カッタ等の機械による切断又はプラズマジェット切断によるものと
すること。
3.3 切断後の処置
切断によって生じた切断面の凹凸、かえり、その他の欠陥は、グラインダ又はやすりを使用する
等適当な方法により仕上げること。
4.成 形
(1) 成形加工に用いる工具、治具類はその面を平滑にし、ライナ等は必ず面を仕上げ、角には適当な
丸みをつける等、加工材の表面に傷をつけないように注意すること。加工材と工具、治具類との接
触面は、必要に応じ、ボール紙、ゴム板、木材等で保護すること。
(2) 加工は、冷間加工を原則とすること。やむを得ず熱間加工を行う場合の加熱温度は、通常400℃
以下(A6061−T6は150℃以下、A7N01−T6は200℃以下)とすること。
温度測定には、熱電対式表面温度計又は温度測定用チョークなどを用いるものとすること。
(3) 絞り加工の場合には、しわ抑え圧力、ポンチ及びダイスの丸味に注意し、材料や工具を清浄にす
ること。加工の際に用いる潤滑剤の種類には、十分留意すること。
(4) 複雑な成形加工を行う場合には、途中で中間焼なましを行っても差し支えないこと。この場合、
焼なまし温度は、通常400℃以下(A6061−T6は150℃以下、A7N01−T6は200℃以下)とす
ること。
5.溶 接
5.1 溶接方法
アルミニウムの溶接は、交流テイグ溶接、直接テイグ溶接、直流ミグ溶接、プラズマアーク溶接等
により行うものとすること。
5.2 開先加工
(1) 開先加工は、機械切削又はプラズマジェット切断によるものとすること。日本工業規格A7N01
をプラズマジェット切断する場合は、切断面から1mmの部分について機械切断により仕上げるこ
と。
(2) 開先加工により凹凸その他の欠陥を生じた部分は、やすり、カッター等により滑らかに仕上げ
ること。
(3) 開先形状は、溶接方法、板厚、溶接姿勢、層数、裏あて、裏はつりの有無、溶接変形等を考慮
して決定すること。
(4) 開先表面及びその周辺の母材表面は、アセトン等適当な有機溶剤を用いて、油脂、塗料、汚れ
等の異物を完全に除去した後、清浄なステンレス鋼細毛ワイヤーブラシ、やすり、ロータリカッ
タ等を用いて酸化物などを除去すること。
5.3 溶接要領
5.3.1 溶接作業場
溶接作業場は、ほこり、鉄粉及び湿気が少なく、かつ、清潔なものとすること。屋外の作業場は
適当な風よけ、雨よけ等を設けること。
5.3.2 シールドガス
シールドガスは、溶接方法、板厚、溶接姿勢等に応じ、アルゴン、ヘリウム又はこれらの混合ガ
スとすること。
使用するアルゴンは、日本工業規格K1105(溶接用アルゴンガス)に規定するものとし、ヘリウ
ムは純度99.98%以上のものとすること。
5.3.3 溶接装置
(1) テイグ溶接装置の制御装置は、確実にアークを発生させ、かつ、安定したアークを維持させ
るために、高周波発生装置及びアルゴン制御装置を内蔵するものとすること。
(2) 直流テイグ溶接は、溶込みを必要とする場合は直流棒マイナスとし、ミグ溶接において直流
棒プラスとすること。
(3) テイグ溶接における電極は、日本工業規格Z3233(テイグ溶接用タングステン電極棒)に定
めるもの又はこれと同等以上のものを使用すること。
(4) 溶接装置を使用するに当たって、溶接ワイヤが直接接触する送りローラ、ライナ、ガイドチ
ューブ等に付着した油脂、湿気、ごみ等は、適当な有機溶剤を用いて除去すること。また、溶
接開始前に冷却水の通水状態、アースの接触状態、ガス電磁弁、溶接電流用電磁開閉器等を確
認するとともに、トーチノズル内面に結露がないことを確認すること。
5.3.4 溶接棒及び電極ワイヤ
(1) 溶接棒又は電極ワイヤは、日本工業規格Z3232(アルミニウム及びアルミニウム合金溶接棒
並びに電極ワイヤ)に定めるもの又はこれと同等以上のものを使用すること。
(2) 母材と溶接棒又は母材電極ワイヤの組合せは、その使用目的に応じ、溶接部の強度等、延性、
耐食性、応力腐食割れ、内容物に及ぼす影響を考慮して決定すること(常温又は低温で使用す
る一般的な構造物を対象にした場合の代表的な組合せの一例を表2に示す)。
(3) 溶接棒及び電極ワイヤは、清浄で乾燥した場所に保管し、湿気及びほこりにさらさないこと。
これらを材質別に区分した色分け及びラベルは、脱落しないように注意すること。
(4) 溶接棒及び電極ワイヤは、素手による取扱い及び汚れた手袋をしての取扱いをさけること。
また、製造後長期間経過したもの、汚染されたもの又は汚染されたおそれのあるものは使用し
ないこと。
5.3.5 ひずみ防止
(1) 溶接ひずみを防止するため、できるだけ治具、固定具等を用いるものとすること。
(2) 拘束、逆ひずみ等によって角変形を防止すること。
5.3.6 裏あて
裏あては、母材と同質の材料、ステンレス鋼、銅、軟鋼、グラスファイバー等を用いること。な
お、溶接後取り除かない裏あては、母材と同質の材料を用いること。
5.3.7 予 熱
予熱は、原則として行わないこと。層間温度は、できるだけ低い方がよいので、70℃以下を原則
とすること。ただし、溶接材料などに特別の考慮が払われている場合は、この限りでないこと。
特に予熱を行う必要がある場合の予熱温度測定には、熱電式表面温度計、温度測定用チョーク等
を用いるものとし、この場合において、チョークを使用するときは、開先表面で温度測定を行わな
いこと。
5.3.8 仮付け溶接
(1) 仮付け溶接は、拘束治具、スペーサ等により適正、均一にルート間隔を保持し、本溶接に際
して板の食違い等を生じないようにすること。
(2) 仮付け溶接は、溶接中に生ずる食違い又はひずみを木ハンマ等で、きょう正しながら行うも
のとすること。
(3) 仮付け溶接によって生じた黒粉、酸化被膜等の付着物その他の有害な欠陥は、本溶接の前に
十分に除去すること。仮付け溶接部が割れた場合には割れたビードを完全に除去し、再度仮付
け溶接を行った後本溶接を行うこと。
5.3.9 本溶接
(1) 溶接条件は、継手の形式、溶接方法、板厚、開先形状、溶接姿勢に応じて選定すること。
(2) 溶接継手の両端は、欠陥が生じやすいので、同質の材料のタブ板を取り付け、溶接の始端及
び終端をタブ板の上に置くのが望ましいこと。なお、タブ板を使用しない溶接の始端、終端、
ビードの継目等は、その位置においてトーチの操作、ビードの重ね方、クレータの埋め方等に
注意し、有害な欠陥を生じないようにすること。
5.4 裏はつり
突合せ両側溶接においては、原則として、裏はつりを行うこと、裏はつりは、ニューマチックたが
ね、ロータリカッタ等を用いて行うものとし、表面は滑らかにすること。
5.5 溶接部の仕上げ
5.5.1 溶接完了時には、溶接部及びその近傍のスパッタを十分に除去すること。
5.5.2 溶接部の余盛りは、滑らかに盛り上げること。放射線検査を行う突合わせ溶接継手の余盛り
の高さは、表3によること。
なお、繰返し荷重による疲れが問題となる継手は、余盛りを母材面まで平滑に削除し、又は
できるだけ滑らかに仕上げることが望ましいこと。
5.6 補修溶接
割れ、溶込み不良、溶込み不足、有害なアンダカット、ブローホール等の欠陥を発見した場合は、
その部分を十分に除去した後再度溶接すること。
6.溶接後熱処理(応力除去焼なまし)
溶接後熱処理は、原則として行わないこと。
7.溶接部に対する試験及び検査
7.1 機械的試験
(1) 機械的試験の種類及び回数は、圧力容器構造規格第126条によること。なお、自由曲げ試験の代
わりに表曲げ試験を行っても差し支えないものとすること。
(2) 引張試験の試験片の形状行及び法並びに合格基準は、圧力容器構造規格第127条及び第128条に
よること。
(3) 表曲げ試験及び裏曲げ試験の試験片の形状及び寸法並びに試験方法は、日本工業規格Z3124
(突合せ溶接継手ローラ曲げ試験方法)又は日本工業規格Z3122(突合せ溶接継手型曲げ試験方
法)によること。ただし、ローラ曲げ試験の場合で板厚が19mmを超えるときは、表曲げ試験片は
裏側を、裏曲げ試験片は表側を切削して板厚を19mmまで減少することができること。
(4) 側曲げ試験片の形状及び寸法は、圧力容器構造規格第131条によること。試験方法は日本工業規
格Z3124(突合せ溶接継手ローラ曲げ試験方法)によること。
(5) 曲げ試験の目的を達するよう曲げることができない突合せ溶接継手の曲げ試験の場合には、溶
着金属を長手方向に置いても差し支えないこと。また、異種のアルミニウム合金材質の突合せ溶
接継手にあっては、溶着金属を長手方向に置いた表曲げ試験及び裏曲げ試験に代えて側曲げ試験
を行っても差し支えないこと。
(6) ローラ及び型曲げ試験における内側曲げ半径は、表4に示す値とすること。
(7) 曲げ試験は、次に示す欠陥を生じない場合に合格とすること。
(a) 割れの長さが3mmを超える場合(縁角に生ずる小さな割れを除く。)
(b) 一箇所の割れの長さが3mm以下でもその合計の長さが7mmを超える場合
7.2 放射線検査
(1) 突合せ溶接部は、全溶接線にわたって放射線検査を行うこと。
ただし、都道府県労働基準局長がその必要がないと認めた場合には、部分放射線検査によって
も差し支えないこと。
(2) 試験方法は、日本工業規格Z3105(アルミニウム溶接部の放射線透過試験方法及び等級分類方
法)によること。
(3) 放射線検査の合格基準は、日本工業規格Z3105の等級分類に定めるB級以上とすること。
7.3 その他の深傷検査
放射線検査が困難な場合には、超音波深傷検査、染色深傷検査その他可能な非破壊検査を行い、溶
接部に有害な欠陥のないことを確認すること。