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地方労働行政の重点政策(平成14年)
第2 地方労働行政の課題
1 労働基準行政の課題
(1) 現下の厳しい経済情勢下での労働条件の確保・改善に関する課題
我が国経済が低迷している中、雇用を取り巻く状況も厳しいものとなっており、労働条件の引下げ、サービス残業、会社都合等による解雇等が行われ、これらに関連した賃金の支払、解雇手続などの法定労働条件の履行を確保する上での問題も顕在化しているところである。しかしながら、法定労働条件は、いかなる経済情勢下においても確保されるべきものであり、特に現下のような状況においては、労働条件の確保に関する国民の関心は高く、労働基準行政に対する期待に応えることが求められている。
このように、労働条件の確保を図るために労働基準行政が果たすべき役割が重要となっていることを踏まえ、一般労働条件の確保・改善対策について、これを積極的に推進していくことが肝要である。
また、産業構造の変化、経済のグローバル化等の経済社会の変化、労働市場の構造の変化、労働者の働き方・就業意識の多様化等の状況にかんがみ、労働契約の期間や労働契約終了の手続・要件の在り方や裁量労働制の在り方等、今後の労働条件に係る制度の在り方について、平成13年9月19日より労働政策審議会(労働条件分科会)において検討を行っているところである。
(2) 労働時間に関する課題
法定の週40時間労働制及び特例措置対象事業場における週44時間労働制や「時間外労働の限度基準」など、労働時間に関する法定基準については、引き続きその遵守を図りつつ、労働時間の短縮について「年間総実労働時間1800時間の達成・定着」という政府目標に向け、所定外労働の削減及び年次有給休暇の取得促進に重点を置き、引き続きこれに取り組んでいく必要がある。
また、創造的・自律的な働き方を可能にする環境整備としての裁量労働制について普及促進と適正な実施の確保を図る必要がある。
(3) 労働安全衛生の確保に関する課題
依然として労働災害が多発している状況にあり、第9次の労働災害防止計画の最終年度に当たることを踏まえ、建設業における労働災害防止対策、機械設備の安全化及び交通労働災害防止対策等による労働災害の大幅な減少を図るための施策を引き続き展開するとともに、労働安全衛生マネジメントシステムの普及促進等事業場が自主的に安全衛生水準の向上を図るための施策等を推進する必要がある。
また、職場におけるメンタルヘルス対策や産業保健活動の推進、ダイオキシン類等の化学物質による健康障害防止対策等労働者の健康を確保するための施策を推進していく必要がある。
(4) 労災補償の課題
被災労働者及びその遺族の救済という労働者災害補償保険法の本来の役割にかんがみ、迅速・適正な労災補償の実施に努める必要がある。特に、資料収集等が多岐にわたる「過労死」や「過労自殺」を始めとする労災請求事案については、脳・心臓疾患に関する新認定基準等の的確な運用により、迅速・適正な労災補償を行う必要がある。
また、脳・心臓疾患の発症の予防に資するための「二次健康診断等給付」の活用を図るために引き続き周知啓発に努める必要がある。
さらに、通勤災害保護制度等について、労働者の多様な就業形態等に対応した在り方を検討する必要がある。

2 職業安定行政の課題
我が国の景気は一段と悪化し、雇用失業情勢についても厳しさを増している中で、政府においては「改革なくして成長なし」との基本的考え方の下、構造改革を一層加速しているところであるが、その際には現下の厳しい雇用情勢にもかんがみ、構造改革の進展に伴う「痛み」に対応する雇用対策に万全を期す必要がある。このため、政府においては、緊急かつ重点的に取り組むべき事項を「総合雇用対策」として取りまとめたところである。
平成14年度においても、このような基本的考え方に立ち、
(1) 雇用面のセーフティネット整備のための施策の機動的かつ効果的な展開、
(2) マッチング機能の強化等円滑な労働移動の促進に向けた労働市場の基盤整備
(3) 雇用機会の拡大が見込まれる分野での雇用創出支援、
を一体的に推進することにより、厳しい雇用情勢の対応に万全を期すとともに構造改革の着実な実施を可能なものとし、国民の雇用不安を一刻も早く払拭することに全力を挙げて取り組むことが必要である。
また、少子・高齢化の急速な進展の中で、国民の一人一人が長生きして良かったと実感できる豊かで活力ある社会を実現するためには、高齢者の高い就業意欲が活かされ、その有する能力が十分に発揮されることが不可欠となる。これを踏まえ、当面は65歳までの雇用の確保に取り組みつつ、将来的には年齢にかかわりなく働ける社会の実現に向けた環境整備を進めることが重要である。
一方、新規学卒者の就職環境が極めて厳しい状況にあるなど、若年者をめぐる雇用情勢は一層厳しさを増しつつある。このため、学校卒業時の就職促進を図るとともに、若年求職者に対する就職支援、学校等と連携した早期職業意識啓発の推進に努め、将来の我が国を担う若年者の雇用の安定を図ることが求められる。
さらに、障害者を取り巻く厳しい雇用情勢に適切に対応するため、障害者雇用対策の見直しを行い、障害者の雇用確保・職場定着のための施策を充実するとともに、雇用と福祉との積極的な連携を図っていくことが課題となっている。
これらに加えて、港湾労働、建設労働、林業労働等を取り巻く環境の変化に対応して労働者が安心して働くことができる雇用環境の整備を行うとともに、沖縄県における雇用対策、ホームレスの就労支援策など個別施策分野における雇用対策をきめ細かく行っていくことが重要である。

3 雇用均等行政の課題
働く女性が性別により差別されることなく、その能力を十分に発揮できる雇用環境を整備するとともに、男女がともに育児や介護について家族としての役割を果たしながら充実した職業生活を営むことができる環境をつくることは、ますます重要なものとなっている。特に、少子化が進展する中で、働きながら子どもを産み育てやすい雇用環境を整備し、仕事と子育ての両立の負担を軽減することは、経済社会の活力を維持していく上でも重要かつ喫緊の課題となっている。
そのため、雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の確保については、平成12年7月に策定された男女雇用機会均等対策基本方針に沿って「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(以下「男女雇用機会均等法」という。)の履行確保を図るとともに、女性の能力発揮のための企業の積極的取組(ポジティブ・アクション)を促進すること等により、実質的な男女の均等確保の実現を目指すことが課題である。
また、平成13年11月に改正された「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」(以下「育児・介護休業法」という。)の円滑な施行を図り、労働者が仕事と育児・介護を両立しやすくすることが課題となっている。
特に、労働者が育児休業から復帰した後に働き続けやすくするため、子育てに必要な時間を確保しやすい柔軟な働き方ができる勤務時間短縮等の措置や子の看護のための休暇制度の早期導入を図ることが重要となっている。
さらに、雇用・就業形態の多様化に伴う課題に対応するため、パートタイム労働者に対する通常の労働者との均衡等を考慮した適正な労働条件の確保及び雇用管理の改善、在宅ワークの健全な発展のための施策の推進が重要となっている。
加えて、現下の厳しい雇用情勢にかんがみ、女性であることや妊娠・出産等を理由とする差別的解雇、昇進・昇格における男女差別的取扱い、育児休業や介護休業の取得等に係る相談への的確な対応を図ることが一層重要になる。

4 労働保険適用徴収業務の課題
労働保険は、労災保険給付や失業等給付を通じた労働者の福祉の増進に寄与するとともに労働行政の各種施策の推進を財政面から支える制度として重要な役割を担うものであることを十分に踏まえ、労働保険制度を支える適用徴収業務をより一層適正かつ円滑に実施していくことが重要である。
このため、労働保険料及び社会保険料の徴収事務の一元化という課題を含め、以下の課題に適切に対応していく必要がある。
なお、その際、都道府県労働局は、労働基準監督署及び公共職業安定所との連携に加え、都道府県労働局内の総務部又は労働保険徴収部と労働基準部及び職業安定部との連携に十分留意する必要がある。
(1) 労働保険の適用業務については、厳しい経済情勢の下で、平成12年度末に適用事業場数は、前年度から約1万2000事業場増加し、約306万1000事業場となったが、依然として、商業・サービス業等における小零細事業を中心に未手続事業が相当数残されている。また、派遣労働者やパートタイム労働者など就業形態の多様化に対応するため、昨年度、パートタイム労働者、登録型派遣労働者の雇用保険に係る適用基準が見直されたところであるが、これらも踏まえ、適用促進についてさらに積極的な取組を図る必要がある。
(2) 労働保険料の収納状況については、昨今の厳しい経済情勢もあり、平成12年度における収納済歳入額は前年度を280億円以上も下回るなど、平成元年度以降で最も低い水準となっている。一方、収納未済歳入額は平成11年度は若干減少したものの、平成12年度は再び増加に転じ、また収納率は平成2年度をピークに年々低下し続けていることから、労働保険料の適正な徴収のための積極的かつ効率的な取組が重要な課題となっている。
(3) 労働保険事務組合(以下「事務組合」という。)は、労働保険の適用徴収制度の中で重要な役割を担っており、今後とも、その充実・発展は必要不可欠であるため、事務組合について、より一層の適正かつ健全な運営の確保と活動の活性化・自立化を進める必要がある。
(4) 「今後の経済財政運営及び経済社会の構造改革に関する基本方針(平成13年6月26日閣議決定)」において、「制度の実施・運営の面でも、社会保険と労働保険の徴収事務の一元化など、行政事務運営の一層の効率化を進め、国民へのサービスの向上を図る」こととされたこと等を踏まえ、一元化に向けた取組を進める必要がある。

5 個別労働関係紛争の増加に係る課題
厳しい社会経済情勢の下での企業組織の再編や、企業の人事労務管理の個別化、あるいは労働者の働き方に対する意識・価値観の変化等に伴う就業形態の多様化等を背景に、解雇や労働条件引き下げ、セクシュアルハラスメント、職場におけるいじめ等多岐にわたる分野の個別労働関係紛争が、依然として増加しており、その迅速・適正な解決を図っていく必要がある。

6 各行政間の密接な連携
(1) 厳しい雇用情勢への総合的対応
雇用情勢は、いずれの地域においても厳しい状況にあり、これに伴う労働者の保護や雇用の安定等の課題に効果的に対応するため、総合的地方労働行政機関である都道府県労働局が中心となって総合的な対策を講じていくことが必要である。
特に、大規模な雇用調整に際して、関係労働者の賃金債権の確保や失業の予防、再就職促進等に向けた対策を一体的かつ迅速に実施していくことが重要である。
(2) 男女雇用機会均等確保及び職業生活と家庭生活の両立支援についての効果的な対応
女性労働者の増加に対応した男女雇用機会均等確保対策及び少子・高齢化に対応した職業生活と家庭生活の両立支援対策は、一義的には雇用均等行政において重点的に推進されるものであるが、事業主への効果的な指導を行うとともに、相談への迅速・的確な対応を行う観点から、労働基準行政及び職業安定行政との連携が重要な課題となっている。
(3) 複数の行政分野にまたがる問題への総合的対応
複数の行政による総合的対応が求められているパートタイム労働、派遣労働、外国人労働及び障害者雇用等について、各種月間等において関係法令等の内容を労働者及び事業主等に対し集中的に周知・啓発する場合や、労働者からの相談への対応や所要の事業主指導を行う場合に、関係行政間の連携を密にしていくことが重要な課題となっている。
(4) 他の行政分野における行政手段等の相互活用
都道府県労働局においては、上記のような政策的な連携に加え、総合的な行政サービスを国民に対して提供するとともに、行政の効果的運営を図るため、各行政分野固有の政策課題への対応に当たっても、基本的性格や手法の異なる各行政の特性を十分踏まえつつ、他の行政分野における行政手段を相互に活用し、又は行政手法を参考とする等により、施策の実施方法について創意工夫を凝らしていくことが重要である。
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