(別添) 職場における腰痛発生状況の分析 第1 腰痛発生状況の概要 1 業種別発生件数及び発症率について(I.平成16年に発生した休業4日以上の腰痛等集計結果表 (以下「I」という。)−第1表、第2表) (1)昭和61年及び昭和63年に職場において発生した休業4日以上の腰痛に係る労働者死傷病報告13,166件 (昭和61年5,820件、昭和63年7,346件)を抽出して行った調査(以下「前回調査」という。)では、 発生件数が多い業種は製造業(4,174件)、建設業(1,903件)運輸交通業(2,978件)及び商業, 金融・広告業(1,372件)であった。 一方、平成16年に発生した休業4日以上の腰痛に係る労働者死傷病報告のうち集計、分析に必要な 事項を満たしているもの(4,008件)を抽出して行った調査(以下「今回調査」という。)では、 製造業(752件)、運輸交通業(679件)及び商業,金融・広告業(714件)で発生件数が多いほか、 保健衛生業(697件)における発生件数が多い。 (2)発生件数に関して前回調査で高い割合を占めた製造業(31.70%)、建設業(14.45%)及び運輸 交通業(22.62%)は、今回調査でそれぞれ18.76%、6.96%及び16.94%とその割合は減少している。 一方、商業,金融・広告業及び保健衛生業で、前回調査よりもその割合が増加している。商業, 金融・広告業は前回調査10.42%から今回調査17.81%と7.39ポイントの増加であった。また、保健 衛生業は前回調査ではその他の事業に分類されていたため、増加したポイント数は明らかにできない。 しかし、前回調査でその他の事業の割合が13.64%であるのに対し、今回調査では保健衛生業だけで 17.39%を占めていることから、ポイントは前回調査に比して大幅に増加しているものと考えられる。 (3)労働人口1万人対発症率に関して、今回調査では多くの業種で前回調査より減少している。しかし、 前回調査においてその他の事業に分類されていたため単純な比較ができないものの、今回調査では 清掃・と畜業(2.6)とともに保健衛生業(1.7)で、前回調査(その他事業0.7)を大きく上回って いる。 なお、前回調査では昭和61年業種別労働基準法適用事業場労働者数を用いて2か年の結果を合計し て集計しているので、当該数を2倍して母数とし労働人口1万人対の発生件数を算出しており、今回 調査では平成13年業種別労働基準法適用事業場労働者数を用いて労働人口1万人対の発生件数を算出 した。 (4)I−第1表、第2表をまとめると製造業、運輸交通業、商業,金融・広告業及び保健衛生業で腰痛が 多く発生しており、なかでも保健衛生業は発症率が前回調査を上回っていることが考えられる。 このため、Iの集計結果に基づく分析は、製造業、運輸交通業、商業,金融・広告業のうち発生件 数が多い商業及び保健衛生業(以下「多発業種」という。)を重点とした。 また、多発業種のうち保健衛生業は発症率が1.7と前回調査(その他事業0.7)を上回っており、 なかでも社会福祉施設が発生件数(保健衛生業697件のうち社会福祉施設407件)、発症率(保健衛 生業1.7に対し社会福祉施設3.3)ともに高いことから、今回調査において別途調査を行い、その 集計結果をII.社会福祉施設における腰痛集計結果表(以下「II」という。)としてとりまとめ、 分析を行った。 2 発生月等について(I−第3表、第4表、第5表) (1)発生月 前回調査では1月(7.6%)及び12月(5.8%)が少なく、今回調査においても1月(7.2%)及び 12月(7.1%)が他の月に比べて若干少ない。12月及び1月の発生件数が少ない理由として事業場の 稼働日数が比較的少ないことが考えられるものの、気温の低い冬季に腰痛が多発するという傾向は、 今回調査においても認められない。多発業種間についてみても、大きな差は認められない。 (2)発生曜日 前回調査では月曜日が20.3%と週の始めに多発する傾向が認められたが、今回調査でも月曜日が 20.9%と同様の傾向にあることが認められた。 多発業種についてみると、月曜日の発生が製造業(23.8%)及び運輸交通業(23.1%)で多かった ものの、商業及び保健衛生業は、それぞれ18.0%及び16.9%と全産業における割合を下回っていた。 商業及び保健衛生業は、日曜日の発生がそれぞれ8.5%及び7.9%と全産業における割合(6.4%)を 上回っている。当該業種は、日曜日も稼働することが多いためと考えられる。 事業場の稼働日であればいずれの曜日であっても、腰痛に注意する必要があるが、休日明けに特 に注意を要するものである。 (3)発生時間帯 前回調査では午前8時1分から午前11時までの3時間で全体の42.7%を占めており、午前9時1分から 午前10時までの1時間にピーク(16.6%)がある。今回調査においても、午前8時1分から午前11時ま での3時間で全体の40.5%を占め、午前9時1分から午前10時までの1時間にピーク(15.0%)があるこ とから、傾向の変化はみられなかった。 多発業種についてみると、午前9時1分から午前10時までの1時間にピークがあるのが製造業(16.6%) 及び運輸交通業(12.4%)、午前10時1分から午前11時までの1時間にピークがあるのが商業(14.5%) 及び保健衛生業(16.9%)といずれの業種も午前9時1分から午前11時までの間にピークがあり、多発 業種間で大きな差は認められない。 3 事業場規模について(I−第6表) (1)前回調査では10〜49人(38.5%)が最も多く、次いで50〜299人(26.3%)、9人以下(23.2%) の順であった。今回調査においても10〜49人(37.6%)、50〜299人(33.4%)、9人以下(19.3%) の順であり、大きな変化はみられなかった。多発業種についてみると、保健衛生業のみ、50〜299人の 事業場規模のところで半数を超える55.8%を占め、発生件数のピークになっていた。他の多発業種 については、10〜49人の事業場規模のところがピークであるが、50〜299人の事業場規模のところも、 およそ30%と高い割合を示している。 (2)常時50人未満の労働者を使用する事業場はもちろんのこと、常時50人以上の労働者を使用する 事業場にあっては、衛生委員会において腰痛予防対策に係る調査審議を行わせ、積極的に事業者に 対して意見を述べさせる等、労使一体となって積極的に取り組んでいくことが重要である。 4 被災労働者の性別等について(I−第7表、第8表、第9表) (1)性別 前回調査では男性85.5%、女性14.5%と大半を男性が占めていたが、今回調査では男性67.0%、 女性33.0%と女性が占める割合は大きく増加している。 多発業種についてみると、保健衛生業で女性79.8%と圧倒的に女性が占めている。 女性による重量物取扱い作業に関しては、女性労働基準規則(昭和61年労働省令第3号)第2条及び 第3条に定める重量制限はもとより、一般に女性の持ち上げ能力は男性の60%位とされていることに 留意する必要がある。 (2)年齢 前回調査では35〜39歳(15.7%)が最も多く、次いで40〜44歳(14.4%)、45〜49歳(13.1%) の順であった。今回調査では30〜34歳(17.1%)、25〜29歳(16.7%)、35〜39歳(14.5%)の順で あり、前回調査に比べて若い年齢層に多く発生していることが認められる。 多発業種についてみると、30〜34歳年齢層のところで製造業(16.9%)、運輸交通業(23.1%) 及び商業(17.0%)においてピークがある一方、保健衛生業においては、それよりも若い年齢層 (25〜29歳)のところで22.4%とピークになっていた。保健衛生業では、次に多いのが20歳〜24歳 年齢層(13.6%)であり、若い年齢層においても腰痛が発生していることが認められる。 満18歳未満の年少者による重量物取扱い作業に係る年少者労働基準規則(昭和29年労働省令第13 号)第7条に定める重量制限はもとより、若い年齢層に対して十分な腰痛予防対策を講じることに留意 する必要がある。 (3)経験年数 前回調査では10年以上(33.9%)が最も多く、次いで5〜10年未満(18.2%)、1〜3年未満(16.8%) の順であった。今回調査でも10年以上(25.1%)が最も多かったが、次いで1〜3年未満(22.1%)、 1年未満(21.0%)の順であり、経験の浅い労働者の占める割合が増加していた。 多発業種についてみると、商業及び保健衛生業で経験年数3年未満の労働者の占める割合が、それ ぞれ51.8%及び50.2%と過半数を占めている。 腰痛の予防は、経験年数の長短でその対象を限定することなく取り組んでいく必要がある。 5 休業見込日数等について(I−第10表、第11表) (1)休業見込日数 29日以上の休業を要する腰痛が占める割合が、前回調査で32.7%、今回調査で35.5%といずれも 最も多く、傾向に変化はみられなかった。また、多発業種間で大きな差は認められない。 このように依然として腰痛は休業期間を長期化する可能性があるものである。 (2)傷病分類別 前回調査では捻挫(51.8%)が最も多く、次いで多いのがぎっくり腰(25.2%)であったが、今回 調査では最も多かったのはぎっくり腰(36.7%)で、次いで捻挫(32.3%)であった。また、椎間板 ヘルニアが占める割合が前回調査9.0%から今回調査19.0%と10ポイント増加している。 多発業種間で大きな差は認められない。 6 単独・共同作業について(I−第12表) (1)前回調査では単独作業が92.0%、共同作業が7.6%と圧倒的に単独作業が多い。今回調査においても 単独作業92.1%、共同作業7.9%と傾向に変化はみられなかった。 多発業種についてみると、保健衛生業で単独作業83.9%、共同作業16.1%と共同作業の占める割合 が比較的高かった。保健衛生業では介護作業等人を扱う作業が多く、当該作業を2人以上の労働者で 行う機会も多いことから、共同作業が占める割合が高いものと考えられる。 (2)腰痛予防の措置を講じるにあたっては、適切な自動装置の使用等作業の自動化又は省力化による 労働者の負担軽減に取り組むことを原則とし、人力による重量物取扱い作業が残る場合には、作業 速度、取扱い物の重量の調整等により、腰部に過度の負担がかからないようにすることが大切である。 7 被災場所等について(I−第13表、第14表) (1)今回調査では被災場所を「事業場内」及び「事業場外」の2つに分類し、調査集計を行った。その 結果、被災場所が事業場内であったものの割合は68.4%、事業場外であったものの割合は31.6%で あった。 多発業種についてみると、運輸交通業で事業場外であったものの割合が77.0%と事業場外で多く 発生していた。 (2)今回調査では腰痛発生時の作業に係る取扱い対象を「人」「荷」及び「その他」の3つに分類し、 調査集計を行った。 「人」とは、腰痛発生時に人を取り扱う又は人が介在する動作を行っていたものいう。社会福祉 施設において要介護者を介護する動作、旅客運送事業において乗客を介助する動作、理美容業におい て客の洗髪をする動作等がある。 「荷」とは、貨物運送等のために特定の荷姿をしている物だけをいうものでなく、また、物の一部 を含むものである。したがって、例えば腰痛発生時に貨物自動車のあおりを持ち上げる動作を行って いた場合、「荷」に分類している。「下→上(能動)」とは、荷の位置を現在位置から上方へ移動 することを目的とした動作をいう。物の持ち上げ・積み込み、物の引き上げ、高所に物を置くがある。 「上→下(能動)」とは、荷の位置を現在位置から下方へ移動することを目的とした動作をいう。 荷降ろし、高所に置かれた物を取り下ろすがある。「前後左右(能動)」とは、主に荷を前後また 左右の方向へ移動することを目的とした動作をいう。物の運搬・移動、物の押し引き、物の陳列、 物をずらす・引きずる動作があるほか、ゴミ袋をゴミ収集車に投入するがごとき物を投げ込む動作も 含まれる。「不動(能動)」とは、荷を持った状態で荷の移動をともなわない動作をいう。したがって、 荷を持った状態での歩行等は荷の移動を目的とした動作であるから、「前後左右(能動)」に分類され、 ここでは物を持った状態で振り返る動作があるほか、物を背負う動作、バケツの水を捨てるがごとき 動作等をいう。「制動(受動)」とは、被災労働者の意思によらないところで移動する荷を制動する ことを目的とした動作をいう。崩れ落ちてきた荷を支える動作、落としそうになった荷を支える動作、 渡された荷を受け止める動作がある。 「その他」とは、腰痛発生時に「人」又は「物」に分類されない動作を行っていたものをいう。 屈む、中腰になる、長時間中腰でいた状態から背伸びをする、後ろを振り返る、長時間屈んでいた 状態から立ち上がる等の動作があるほか、主に次に掲げるものがあった。 ア 足を滑らせる、つまずく、踏み外す、高所から飛び降りる等不安全な状態又は不安全な行動 イ ハンマー類の振り上げ、スコップ作業、鍋のかくはん、デッキブラシ類による床清掃、刈払機類 によるスイング作業、自動車の乗り降り等特有の作業姿勢 ウ うつ伏せ、四つんばい等四肢の自由度が極めて低い作業姿勢 エ 落ちてきた物や暴れる動物を避ける等とっさの行動 オ 着陸時等に発生した飛行機の機体の揺れによる客室乗務員の腰痛、自動車運転中の急停止で受 けた衝撃による運転者の腰痛等作業環境の物理的変化 (3)調査集計の結果、「荷」を取扱対象とするものが全体の69%と最も多く、なかでも荷の位置を現在 位置から上方へ移動することを目的とした動作によるものが全体の39.9%を占めていた。 なお、今回調査では足を滑らせる、踏み外す等によって転倒して発生した腰痛であっても、物を 運搬している最中であれば「荷」に分類している。集計は行っていないものの「荷」に分類している ものには、足を滑らせる、つまずく、踏み外す等不安全な状態に起因するもの、屈む、中腰になる等 の動作に起因するもの等も相当数含まれていることに注意しなければならない。 第2 社会福祉施設における腰痛発生状況 1 発生月等について(II−第1表) (1)気温の低い冬季に腰痛が多発するという傾向は認められず、他の業種と同様、季節に関わりなく 腰痛予防に取り組んでいく必要がある。 (2)保健衛生業全体で事業場外において発生した腰痛が占める割合は16.1%であるが、社会福祉施設 についてみると、407件のうち事業場外において発生した腰痛が80件と19.6%を占めており、割合が 少し高くなっている。 2 人を対象とする取扱い動作による腰痛について(II−第2表、第3表、第4表、第5表、第6表) (1)社会福祉施設における発生件数407件のうち344件(84.5%)が人を取扱い対象とする腰痛であった。 この344件のうち事業場内で発生したものが275件(79.9%)、事業場外で発生したものが69件(20.1%) であった(II−第2表)。 なお、該当する介護そのものだけでなく、当該介護に至るまでの移乗介護及び当該介護を行った後 に行う移乗介護を含めて介護の種類の分類を行っている。したがって、例えば食堂において食事介護 を行うため、施設介護において、要介護者の居室ベッドから車いすへの移乗を行うときに腰痛が発生 したときは「食事」に分類している。 また、「その他(移乗以外)」「その他(移乗)」には食事、入浴、排せつ及びおむつ交換のいずれ にも該当しない介護のほか、介護の種類が明確でないものが含まれる。 心身障害児施設において発生した腰痛であって、動作の性質上、「保育」に分類するのが適当と判断 されたものは「保育」に分類している。 (2)介護の種類が「その他」に分類されるものを除けば、事業場内において発生した腰痛、事業場外に おいて発生した腰痛ともに入浴介護で最も多く発生している(事業場内23.3%、事業場外34.8%)。 しかし、その大半は移乗介護によるものであった。また、介護の種類に関わりなく「移乗」「移乗 以外」の2つで分類した結果、保育を除く320件のうち224件(70.0%)が移乗介護による腰痛であった (II−第3表)。このため、移乗介護に関してはさらに調査を行い、その集計結果をII−第5表及び 第6表としてとりまとめ、分析を行った。 (3) 今回調査では224件の移乗介護について移乗元・移乗先別に分類し、集計を行った(II−第5表)。 「移乗元」とは要介護者が移乗させられる前に位置していた場所のことであり、「移乗先」とは 要介護者を移乗しようとした場所である。 「ベッド」にはストレッチャー等一定の高さを有している設備が含まれる。 「車いす」にはリクライニングタイプのものが含まれるほか、通常のいす、浴用のいす等が含まれる。 「床」には畳敷きの床、床に敷かれた布団等が含まれる。 「トイレ」にはポータブルタイプのものが含まれる。 「その他」とは移乗元又は移乗先が明確でないものをいう。 (4)II−第5表で集計した結果、移乗元について車いす(36.6%)及びベッド(32.6%)で約70%を占 め、移乗先について車いす(45.1%)及びベッド(25.4%)で70%を超えていた。この分類に単独・ 共同作業の分類を掛け合わせたところ、発生件数が10件を超えるものは、単独作業でベッドから車いす へ移乗する作業の46件、単独作業で車いすからベッドへ移乗する作業の31件、単独作業で車いすから 車いすへ移乗する作業の18件、共同作業で車いすからベッドに移乗する作業の13件の4作業であった。 (5)当該4作業について介護方法等の傾向を把握するため、要介護者から見た被災労働者の立ち位置別 及び要介護者を支えた身体の部位別に分類し、集計を行った(II−第6表)。 「立ち位置」とは要介護者から見た腰痛発生時の被災労働者の立ち位置をいう。 「正面」とは被災労働者が座位又は立位の要介護者と向かい合う位置にいることをいう。 「側面」とは被災労働者が座位、立位又は臥位の要介護者の側面に位置していることをいう。 「背面」とは被災労働者が座位又は立位の要介護者の背後に位置していることをいう。 「頭側」とは被災労働者が臥位の要介護者の頭部に位置していることをいう。 「支える部位」とは移乗を行う際に被災労働者の手が位置する要介護者の身体の部位をいう。 (6)II−第6表で集計した結果、単独作業の3作業について、被災労働者が要介護者の正面に立って、 要介護者の腋下から腕を差し込んで、要介護者の背中又は腰に手を回す方法(「正面−背/背」又は 「正面−腰/腰」が該当)が最も多く採られており、いずれの作業も50%を超えていた。 また、残る共同作業の1作業については、被災労働者が要介護者の背面に立って、要介護者の腋 下から腕を差し込んで、要介護者の胸側に手を回す方法(「背面−胸/胸」が該当)が38.5%を 占めており、最も多かった。 (7)移乗以外の介護における腰痛を発症したときの動作の事例については、主に次に掲げるものがあった。 ア 食事介護に関して、要介護者を半座位の状態にして床に座らせ、要介護者の背面で正座をしながら、 要介護者を保持して食事を与えていたところ、要介護者がずり落ちそうになり、それを引き寄せよう としたとき イ 入浴介護に関して、浴槽内で入浴中の要介護者が深く浸かりすぎないよう、要介護者の位置又は 姿勢を整えようと要介護者を支えたとき ウ 排せつ介護に関して、便座からずり落ちそうになった要介護者を支えたときや、便座に座る要 介護者の位置が浅いためこれを直そうとしたときがあるほか、要介護者が緊張状態になったため、 他の介護者を呼んで支援を求めようとしたところ、要介護者がこれを拒否し、無理な体勢で介護 せざるをえなかったとき エ おむつ交換に関して、ベッドの奥で臥位の状態でいる要介護者を手前に引き寄せようとしたとき があるほか、要介護者に着用するおむつの位置を調節するため、仰向けの要介護者の両膝裏に片腕を 差し入れて抱え上げたとき、おむつ交換のため要介護者の体位変換を行ったとき オ 介護の種類に関わりなく、車いすの座る要介護者の位置が浅いためこれを直そうとしたとき、 車いすからずり落ちそうになった要介護者を支えたとき、要介護者のベッド上の位置を上方へ スライドさせたとき、バランスを崩して倒れそうになった要介護者を支えたとき、上半身を抱え 起こす起床介護を行ったとき (8)移乗以外の介護における腰痛を発症したときの事情については、共同で行う移乗作業で介護労働者 2人それぞれの呼吸が合わず一方に過度の負担がかかったとき、要介護者がバランスを崩して倒れ かかったり、要介護者が興奮、抵抗又は緊張等したために負担のかかる動作をしなければならなかった とき、要介護者がベッドのサイドレールをつかんでいることに気づかずに移乗作業の動作に入ったとき、 作業空間が狭く負担のかかる姿勢をとったとき等があるほか、ベッドの高さが低すぎたことに原因が あったとされるもの、要介護者と被災労働者との身長、体重等の体格差に原因があったとされるもの も見受けられた。 (9)また、腰に痛みを感じても、1人の夜勤のため我慢して作業を続けなければならなかったこと、要 介護者を支えているときに急に腰を痛めても、要介護者の安全上、支える動作を中断することができ なかったこと、職場のルールにより2人で作業を行うべきところ、他の労働者が全員休憩時間中であった ため1人作業を行ってしまったこと、訪問介護において要介護者の家族の賛同が得られないことから、 ベッドの近くにポータブルトイレを設置できず、距離を要する移動介護を繰り返し行ったこと等が 症状悪化の一因とされるものがあり、社会福祉施設の勤務体制や特有事情が背景としてあるとされる ものも見受けられた。 (10)保育中における腰痛は24件であるが、子供を抱え上げたときが13件(54.2%)と過半数を占めて いた(II−第4表)。この中には2人の子供をそれぞれの腕で抱えて立ち上がったときや、乳母車か ら取り上げた乳児が不意に反り返ったため落としそうになり、これをとっさに支えようとしたとき 等がある。 残る11件(45.8%)は子供に体当たりされたり、飛び乗られたりしたことによるものである。 そのうち8件は後方からの体当たり等であった。 3 社会福祉施設における腰痛予防対策の推進について 今回調査により社会福祉施設において腰痛が多く発生しているのは一定の移乗介護のときであり、 そのときの介護動作も一定の方法が多く採られていることが認められた。当該方法は多くの社会福祉 施設で行われているものと考えられるが、それにもかかわらず当該方法による腰痛が多く発生している。 介護作業における腰痛予防の措置として、腰痛指針は、適切な介護設備、機器等の導入を図ることを 定めており、関係事業者においては、今回の分析結果を踏まえ、適正な介護機器の活用等により介護 労働者の負担を一層軽減する作業方法を積極的に取り入れることが求められるところである。 なお、移乗介護に関しては、独立行政法人労働安全衛生総合研究所が発行している「介護者のための 腰痛予防マニュアル〜安全な移乗のために〜」(平成19年2月初版)において移乗介護のための介護機器 の活用を紹介しているので、参考とされたい(当該マニュアルは独立行政法人労働安全衛生総合研究所 ホームページ(http://www.jniosh.go.jp/)から入手できる。)。 第3 分析のまとめ 職場において腰痛が発生した時の作業状況を調査した結果、多くの場合において腰痛指針に基づく総合的 な腰痛予防対策が十分に講じられていない可能性が認められたところであり、関係事業者においては今回 の分析結果を活用し、職場にひそむ腰痛の発生要因を発見し、その排除又は軽減により積極的に取り組む ことが必要である。