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別紙(3)

血中および尿中の鉛の検査方法

1 目的と原理
  鉛業務従事作業者にみられる血中および尿中の鉛量の増加の程度を測定することにより、鉛への暴露
 の程度ないしは鉛中毒罹患の有無を判定する資料とする。
  ジチゾン(diphenylthiocarbazone:Dzと略す)液はクエン酸を含むpH9−12の弱アルカリ溶液中で鉛
 イオンと、錯塩を作り、有機溶媒に抽出されて特有の呈色を示す。これを比色定量とする。
2 器具と試薬
 (1) 器具
  イ 採血用具一式
  ロ 注射筒(20ml)
  ハ 注射針(1/1)
  ニ 採尿容器(ポリエチレン広口1,000ml以上)
  ホ 石英容器(ビーカー200ml以上):乾式灰化用
  ヘ 電気炉
  ト ケルダールフラスコ(200ml以上):湿式灰化用
  チ ろ過器(石綿又はガラス)
  リ 電熱板又は赤外線ランプ
  ヌ 分液ロート(100〜300ml数回及び1l)
  ル 目盛付共栓付試験管(20ml):検定済
  ヲ 分光光度計又は510〜520mμのフイルターを有する光電比色計
  ワ 乳鉢、ろ紙、水浴、蒸留器
    塩ビ製品は鉛の溶出が多いのでつかわないこと。
    〔器具の清浄法〕
    注射筒及び鉛を含まないガラス、及び石英の器具は最初クロム硫酸に浸漬したのち、水洗し、次
   いで5%硝酸で約10分間煮沸したのち精水で十分洗浄し、乾燥して使用する。注射針は1%硝酸、次
   いで精水をよく通して洗い、精水で10分間煮沸乾燥する。採尿容器は30%硝酸であらかじめよく除
   鉛しておき、精水で洗浄乾燥させる。
    なお、塩ビ製品は鉛の溶出が多いので用いない。
 (2) 試薬
   除鉛操作をするものでもなるべく試薬特級を用いる。クロロホルムは試薬1級を精製する。ジチゾ
  ン試薬特級(重金属鉛として0.002%以下)を使用する。
  イ 再蒸留水又は純水(以下精水と記す)
  ロ 硫酸塩酸、硝酸、過塩素酸、アンモニア水(いずれも鉛定量用又は試薬特級)
  ハ クエン酸アンモニウム溶液(40%)
    クエン酸400gを乳鉢で粉砕し、少量の水で溶解後0.04%チモールブルー溶液数滴を加え、撹伴
   しながらアンモニア水(約30%)を発熱がひどくならないように少量ずつ混じてpH8.5〜9.0(淡青色)
   とし、無灰ろ紙で試薬中のゴミを除き、分液ロートにうつす。
    次にこれにDz(除鉛用)液約50mlを加え、よく振とうし、Dz層を分別して捨てる。加えたDz液が
   振とう後も原色のままで残るまで振とう分別をくりかえす。
    ついで精製クロロホルム(後記)を約10ml加え、クエン酸アンモニウム溶液中に残留したDzを振と
   う抽出して分別する。加えたクロロホルムが振とう後も着色しなくなるまでくり返す。最後に精水
   を加えて1lとする。これは冷暗所に保存する。
  ニ 塩酸ヒドロキシルアミン溶液(20%)
    粉末20gを分液ロートにとり、水6.5ml、を加えて溶解し、0.04%チモールブルー溶液数滴を加
   え黄色を呈するまでアンモニア水を加える。次に5%ジエチルジオカルバミン酸ナトリウム水溶液
   2mlを加えて振とうし、更に精製クロロホルム約5mlを加えて振とうし、(静置後)褐色の下層液を
   分別して捨てる。分別したクロロホルム(下層)に約0.5%の割合になるように硫酸銅水溶液を加え
   て振とうしても、クロロホルムが黄色を呈しなくなるまで精製クロロホルムによる洗滌分別をくり
   かえす。分液ロート中の残液に塩酸を加え、淡ピンク色を呈したものに精水を加えて100mlとする。
  ホ シアン化カリウム溶液
    シアン化カリウムと精水で50g/dl水溶液をつくり、無灰ろ紙でろ過したのち分液ロートに移す。
   ハと同様の除鉛操作を(72時間以内に)行なつたのち精水を加えて1lとする。冷暗所に保存する。
  ヘ 稀シアン化カリウム液:1%KCN100ml+アンモニア水1ml
  ト シアン化カリウム、アンモニア水混合液
    精製した50%シアン化カリウム液40mlにアンモニア水150mlを混ぜ、水を加えて1lとする。冷暗
   所に保存する。
  チ 精製クロロホルム
    クロロホルムを蒸留用フラスコにうつし、少量のCaCl2を加え、24時間静置後、さらに精製エタ
   ノールを1/100容追加し、水浴上で加温蒸留し、60°C〜61°Cの分留水をあらかじめ精製エタノ
   ール少量(分留クロロホルムの1/100容)を入れた瓶中に受ける。冷暗所に保存する。以上の操作
   のほかに1%塩酸で洗い、更に水洗すれば使用に耐えることがあり、この場合もエタノールを添加
   して保存する。
  リ ジチゾンクロロホルム液(除鉛、定量用)
    Dz5.0mgを精製クロロホルムに溶かして100mlとする。
    使用の都度作る。
  ヌ ジチゾンベンゼン
    Dz2.0mgをベンゼン100mlに溶かす。
  ル 鉛標準液
    硝酸鉛(試薬特級)1.5984gを1%硝酸で1lとする。このもの1ml中には鉛1.0ml(1,000μg)を含有
   する。
    これを使用前に1%硝酸で10μg/ml或いは1μg/mlとして用いる。
  ヲ フエノールレツド(指示薬)
  ワ チモール青(0.04%)
    N/20水酸化ナトリウム液4.3mlをとり、微細粉末としたチモール青0.1gに少量ずつ加えて溶解
   し、これを精水約20mlで分液ロートに流し込み、次にアンモニア水を滴下しながらよく混合して、
   液が紫色を呈したら(pH9.0)、2%ジエチルジオカルバミン酸ナトリウム1lを加えてニと同様に処
   理して除鉛し、その後に精水を加えて250mlとする。しかし除鉛は実際上、いらない場合が多い。
3 検量曲線
  鉛標準液を1%硝酸で、それぞれ1〜50μgの鉛を含む溶液50mlずつを各濃度ごとに作り、これを分液
 ロートにとり、Dzクロロホルム溶液10ml、シアン化カリウム、アンモニア水混合液10mlを加てて直ち
 に強く振とうする。分層したクロロホルム層を比色計にかけて吸光度を知り検量曲線を作製する。
  1例を示すと次のごとくである。
  鉛(μ9) Dz量(ml) クロロホルム(ml)
  1 0.1 9.9
  5 0.5 9.5
  10 1.0 9.0
  15 1.5 8.5
  20 2.0 8.0
  25 2.5 7.5
  30 3.0 7.0
  35 3.5 6.5
  40 4.0 6.0
  45 4.5 5.5
  50 5.5 5.0
4 試料の採取
 (1) 血液 採取する血液量は10〜20gとする。
 (2) 尿 なるべく24時間尿から約100mlを定量用に供する。作業場で蓄尿するときには外部からの汚染
  をさけるように注意すること。
5 試料の前処理
 (1) 乾式灰化法
  イ 血液
    血液をあらかじめ正確に秤量しておいた石英ビーカーに移し、すみやかに10mgの単位まで秤量す
   る。ついで電熱板上で又は、赤外線ランプで100℃に加温し、完全に乾燥した後、電気炉に入れて
   除々に500℃とし、そのままで5〜10時間加熱すれば、白色の灰をうる。
  ロ 尿
    蓄尿をよく混じて比量を測り、約100mlを石英ビーカーにとり、血液と同様に処理すれば白色の
   灰を得る。
 (2) 湿式灰化法
  イ 血液
    採取秤量した血液をケルダールフラスコに入れ、硝酸15ml、硫酸3mlを加え除々に加熱して濃縮
   し、煙の色が黄褐色から黒色になつたとき止め、これを冷却して過塩素酸3mlを加える。再び加熱
   して煙が黒色から赤褐色になり、更に白煙をあげたところで止める。冷却して、精水20〜30mlを
   加えて煮沸し、冷却して定量に供する。
  ロ 尿
    採取した尿を振りまぜ、比重を測り、その50〜100mlを正確にはかつてケルダールフラスコに入
   れ、硫酸2mlを加え15〜20mlまで煮沸濃縮し、硝酸15mlを加え、小火炎で徐々に加熱する。液が黄
   色透明となり、酸化窒素の褐色煙が発生するようになつたら一度冷却し、過塩素酸2mlを加え、さ
   らに温度をあげる。三酸化イオウの白煙が発生し、液が微黄色又は殆んど無色になるまで加熱する。
   もし内容液が褐色をおびている場合には、さらに硝酸を追加し前と同様に小火炎で徐々に加熱して
   灰化をくり返す。
    分解液に沈澱物があれば、石綿又はガラスろ過器を用いてろ過し、残留物は10〜20ml精水をも
   つて洗い、ろ液に加える。
6 測定
 (1) ジチゾン単色法
   四塩化炭素を用いる方法もあるが、より簡便な方法としてベンゼン法(尿中鉛測定簡便法)をとりあ
  げた。
  イ 検液調製
    灰化液に水15mlを加え、5〜10分間煮沸後、クエン酸アンモニア液5mlを加え、常温まで冷却ア
   ンモニア水でアルカリ性(指示薬フエノールレツド)とし約5分間煮沸加温し、これを検液として分
   液ロートに移す。
  ロ 抽出定量
    検液(鉛1〜100μg)に水を加えて約50mlとし、クエン酸アンモニア液5〜10ml、チモール青指示
   薬2〜3滴を加え、アンモニア水を滴下して青色を呈するまで中和する。塩酸ヒドロキシアルアミン
   溶液3mlを加え、アンモニア水を滴下して弱アルカリ性(pH約7.6)とする。Dzベンゼン10mlを正確
   に加え、約1分間ふりまぜ静置して分離する。
    ベンゼン層が濃赤色を呈し、下層が殆んど無色あるいは徴かに橙色をおびるにとどまるときは、
   Dz量が不足していることをあらわすから、さらにDzベンゼンを正確に20ml加えて1分間振とうする。
    下層を捨て、ベンゼン層にシアン化カリウム溶液Dzをベンゼン10mlについて40mlの割合で加え、
   約30秒間ふりまぜたのち下層を捨て、ベンゼン層を10mmのキユーペツトにとり、波長520mμで吸
   光度を測定する。
 (2) ジチゾン混色法
  イ 湿式灰化の場合は灰化液をそのまま定量に供する。乾式灰化物には塩酸2〜5mlおよび精水約20ml
   を加えて、電熱板100°C以下に加温し、灰化物を完全に溶解させる。これにチモール青溶液数滴と
   クエン酸アンモニウム液15mlを加え、さらに塩酸ヒドロキシルアミン液1mlを加えアンモニア水で、
   pH8.5〜9.0(淡青色)とする。この際、試料液のアンモニア液を加えすぎないこと。また白色沈澱
   物を生ずることがあるが、主として水酸化鉄燐酸塩であるから、クエン酸アンモニウム液を更に追
   加すると沈澱物が少量のときは溶解せしめうる。
  ロ この試料液を分液ロート(a)に移し、石英ビーカーの内面を精水で数回洗い(a)に加える。
  ハ (a)に10%シアン化カリウム5mlを加え、静かに混合したのち精製クロロホルム0.5mlとしDz液
   0.5ml加えて強く振とうする。静置すると分層したDzクロロホルム層は含有する鉛量に応じて、緑
   紫−エンジ−赤−朱紅の各段階の色調を示す。紫、エンジ、赤色の場合はDz液が不足であるので適
   当量のDz液を少量ずつ加えて振とうし帯紫濃エンジ色とする。
    この時までに使用したDzの全量、Dzを最初0.5液加えた時の液の色調および最後の色調の三者を
   記録する。
  ニ 次にこのものにDz1〜3mlを追加、振とうし、静置して分層したDz−クロロホルム層を予め精水
   20mlを入れた第2の分液ロート(b)に分別する。(a)には少量の精製クロロホルムを加えて、なお
   (a)に残つている着色層を分別し(b)に加える。次に更に(a)に2〜3mlDzを加え(a)内のDzの色調が
   原色のまま残るまで、数回追加、振とうして(b)への分別をくりかえす。
    最後に(b)に少量の精製クロロホルムを加え残留する微量のDzを全て(b)に分別する。
  ホ (b)を振とうして静置した後クロロホルム層の第3の分液ロート(c)に移し、少量の精製クロロホ
   ルムを数回にわたつて(b)に加えては振とうして(c)に分別し、(b)に加えた精製クロロホルムが着
   色しなくなるまでくりかえす。
  ヘ (c)に1%硝酸50mlを加えて強く振とうすると、鉛はDzから離れて硝酸層に移行し、クロロホル
   ム層はDzの原色である縁色にかえる。
    そこでクロロホルム層を別の回収用容器に分別し(c)クロロホム層を数mlずつ加えて軽く振とう
   して、Dzを完全に分別し、(c)の活栓孔内に無色のクロロホルムが残る程度とする。
  ト (c)に最初使用したDzと等量のDzを加える。Dzが少量すぎて色調判定と分別に不便と考えられる
   ときは、適当量の精製クロロホルムを加える。次にシアン化カリウム、アンモニア水溶液10mlを
   加えて強く振とうする。クロロホルム層の色が赤色のときはDzの不足であるから、少量ずつDzを
   追加して振とうし、帯紫濃エンジ色になるまでくりかえす。(c)のクロロホルム層を10mlの目盛付
   共栓試験管に分別し、さらは(c)に少量の精製クロロホルムを加えて振とうし、この試験管に分別
   する。この操作を振とう後のクロロホルム層が呈色しなくなるまでくりかえす。最後に目盛付共栓
   試験管の10mlの目盛まで精製クロロホルムを加えてよく混ぜる。
    共栓試験管の内容をキユーベツトに移し、波長510mμで吸光度を測定し、検量曲線から試料中
   の鉛量を知る。
    (注) ブランクは血液又は尿の代りに、等量の精水を用い、毎日必ず実施する。
      その大きさは1μg以下であるべきである。
   附1 ポーラログラフ法
  イ Dz混色法と同様にして得た酸性試料溶液に、チモーブルー数滴とクエン酸アンモニウム液5〜10
   ml加え、アンモニア水でpH8.5〜9.0とする。(この際白色沈澱物を生じたならばさらにクエン酸ア
   ンモニウム液を追加することにより溶解せしめうる。)
  ロ この試料液を分液ロート(a)に移し、原容器に水で数回内部を洗つて(a)を加える。次に塩酸ヒド
   ロキシルアミン液1mlを加え、アンモニア水でpH8.5〜9.0調整し、更に10%シアン化カリウム5ml
   を加え混合する。その後これにDz液1mlを加え強く振とうする。静置により分層したDz層の色を記
   憶しておく。(後で1N塩酸を加えるときの参考とする。)
    さらにDz液2mlを加え、強く振とう静置後Dz層を第2の分液ロート(b)に分別する。加えたDz液が
   振とう後も原色のままで残るまで(a)の振とう分別をくり返し、Dz層を(b)に加える。
  ハ (b)に最初呈したDz層の色に応じて、1N−塩酸を加える。(Dz層が緑ないし帯緑紫のときは3ml、
   エンジないし朱紅のときは5ml程度のメスピペツトで、正確に加える。)強く振とうすることにより
   鉛はDzから離れて塩酸層に移行し、Dz層は原色たる緑色にかえる。しばらく放置した後Dz層は捨て
   る。
  ニ ポーラロ用セルに分液ロートの上部より塩酸層を約2ml入れる。次にセルに水銀少量を入れ10〜
   15分間窒素ガスを導入し、酸素を追い出す。
  ホ (−)0.35V〜(−)0.6V VS.S.CEの間で型のとおりにポーラログラフ操作を行なう。ここに1N
   −塩酸では鉛の半波電位は(−)4.3V VS.S.CEである。

            原子吸光分析法による尿中および血中鉛量の測定法

 原理:原子吸光分析は、原子が活性化される時に光を吸収する現象を利用した分析法である。金属元素
は炎の中で熱解離して原子状態になるが、この状態が最も安定した電子配列を有する基底状態である。基
底状態の原子にほかからのエネルギーを加えると、このエネルギーを吸収して励起状態になる。従つて原
子蒸気を一定の温度で熱平衡を保たせておくと、一部は励起状態、他の一部は基底状態となる。特定の金
属元素を炎に入れて原子蒸気とし、ほかから同じ元素のスペクトルを出す連続光を当てると、透過する連
続光は吸収されて暗くなる。この吸収を利用したものが原子吸光(吸収)法である。

           T 尿中および血中鉛量のジチゾン抽出、原子吸光測定法
 (1) 試薬
  1) 硝酸
  2) 硫酸
  3) 過塩素酸
  4) クエン酸アンモニア溶液
    クエン酸50gを水に溶かし、アンモニアでアルカリ性とし(pH約9.5)、水を加えて全量を100mlと
   する、適当な濃度のジチゾンクロロホルムで鉛を除去したのち使用する。
  5) 指示薬チモールブルー溶液
    チモールブルーを少量のエチルアルコールに溶かし、さらに水を加えて溶液とする。溶液は0.04
   %位でよい。
  6) アンモニア水
  7) 5%シアン化カリウム溶液
    水に100mlシアン化カリウム5gを溶かして作る。適当な濃度のジチゾンクロロホルムで鉛を除去
   したのち使用する。
  8) 20%塩酸ヒドロキシルアミン溶液
    塩酸ヒドロキシルアミン20gを水に溶かし、アンモニア水でアルカリ性とし、さらに水を加えて
   全量を100mlとする。適当な濃度のジチゾンクロロホルムで鉛を除去したのち使用する。
  9) ジチゾンクロロホルム
    ジチゾンクロロホルムは、分液ロート中でジチゾン100mgをクロロホルムに溶かし、水洗後、水
   を加えアンモニア水でアルカリ性にして振る。ジチゾンは水層に移る。水層をクロロホルムで洗浄
   し、クロロホルム層が淡緑色になるまでくり返す。水層を残し、水層を塩酸で酸性にし、クロロホ
   ルムを加えて振ると、ジチゾンはクロロホルムに移る。これを水洗して塩酸を除去して使用する。
  10) 0.5%シアン化カリウム溶液
    シアン化カリウム0.5gを水100mlに溶かして作る。適当な濃度のジチゾンクロロホルムで鉛を除
   去しておく。
  11) 2%硝酸
    硝酸2mlをとり、水で100mlとする。
  12) 鉛基準液
    硝酸鉛1.60gを精秤し、水に溶かし、硝酸(1+1)1mlを加えメスフラスコ1lに入れ、水で全量を
   1lとする。この溶液1mlを正しくメスフラスコ1lにとり、2%硝酸で標線までうすめる。この溶液
   は1ppm溶液である。同様にして各種ppmの鉛硝酸溶液を作成する。
   注意事項:
  イ 硝酸、硫酸、過塩素酸の鉛を除去することは大変である。従つて出来るだけ鉛の少ないものを使
   用しなければならない。鉛定量用のものでもかなり鉛を含んでいることがあるから注意すること。
  ロ 試薬はすべて特級を使用すること。
  ハ 鉛基準液は原子吸光測定のさい2%硝酸を用いるので、2%硝酸溶液としておく。
  ニ 市販のジチゾンは、すでに酸化されているものを含んでいる場合もあるので、それを確認し、必
   要ならば純化しなければならない。
 (2) 器具
  1) ケールダールフラスコ
  2) 分液ロート
  3) 試験管(共栓試験管を含む)
  4) ピペツト類、メスシリンダー、ビーカーなど一式
  5) 湿式灰化のための熱源装置一式
  6) 原子吸光分光光度計一式
   注意事項:
  (1) ケールダールフラスコ、分液ロート、試験管、ビーカーなどは超硬質ガラス(無鉛ガラス)製の
   ものを使用すること。
  (2) ガラス器具類はすべて10%硝酸を浸しておき、よく水洗したのち純水または鉛のない蒸留水で
   再水洗したのち使用する。
 (3) 操作
  1) 灰化
   イ) 尿……尿100mlをケールダールフラスコにとり、硝酸20mlを加えて加熱する。酸化窒素の褐
    色の煙が殆んど出なくなり、液が淡黄色透明になればやめる(約2〜3ml残してやめる)。冷却後
    過塩素酸3mlを加え加熱し、液が微黄色ないし無色に近くなるまで加熱する。この場合も加熱し
    すぎを防ぐことが大切で、約2ml残して加熱をやめる。
   ロ) 血液……血液約10mlを予め秤量しておいたケールダールフラスコに入れ、再秤量し血液の重
    量を求めておいてから、硝酸20mlを加え加熱する。酸化窒素の煙が殆んど出なくなり、液が淡
    黄色透明となればやめる(約2〜3ml残しておく)。次いで硫酸3mlを加え、色が殆んどなくなるま
    で加熱する(2〜3ml残してやめる)。冷却後過塩素酸2mlを加えて微黄色ないし無色に近くなるま
    で加熱する。この場合も約2ml残して加熱をやめる、灰化のさい加熱しすぎると試料中の鉛が消
    失することがあるので、注意する必要がある。
  2) 灰化液を純水または鉛のない蒸留水約50mlを用いて分液ロートへ移す。
  3) 次いでクエン酸アンモニア溶液5mlを加える。
  4) 指示薬チモールブルー溶液5〜6滴加える。
  5) アンモニア水でアルカリ性とする。鉛はpH8.5〜11で抽出できるが、pH9.0〜9.5位がよい。
  6) 5%シアン化カリウム溶液5mlを加える。
  7) 20%塩酸ヒドロキシルアミン溶液1mlを加える。
  8) 5mlのジチゾンクロロホルムで2回抽出し、クロロホルムを試験管に合せておく、これで抽出を完
   了しない場合にはさらにこの操作をくり返す。抽出が終ればクロロホルムは緑色のままである(シ
   アン化カリウムによつては緑色を消すことがあるので注意を要する)。抽出が終ってからジチゾン
   の入つていないクロロホルムを少量加えて振り、クロロホルムをさきの試験管に合せておく。
  9) 試験管に集めたクロロホルムを分液ロートに移し、0.5%シアン化カリウム溶液20〜30mlで軽く
   洗い、さちに20〜30mlの水で軽く洗つてから、共栓付試験管に移し、2%硝酸100mlを加えて強く
   振る。このさい水層がクロロホルム層に入り込んでいると、水層はアルカリ性であるため、2%硝
   酸の酸度が落ち、鉛の硝酸への移行が悪くなる。従つて水層が少しもクロロホルム層に入らないよ
   うに注意しなければならない。
  10) 硝酸層の鉛濃度を原子吸光分光光度計によって測定する。共栓試験管を用いるさいにはその上
   層の硝酸層をそのまま噴霧して測定できる。
  11) 基準としては1ppm(時には2ppm、3ppmなど)のるのを噴霧測定して、その波高を基準とする。
   1ppm、2ppm、3ppmなどの基準液で検量線を作成してもよい。(図1)
 (図1)原子吸光分光光度計を用いた場合の基準液の高(1、2、3、4、5ppm)および実際の測定
                     例(2%硝酸溶液)

       図1

  注意事項:
 (1) 本方法では尿中鉛量10μg/l、血中鉛量10μg/100g程度から測定可能である(実際には5μg程度
  から測定できる。尿の場合で本方法により測定できない場合には尿量を増やして測定し直すか、硝酸
  層を濃縮して測定すればよい。血液の場合も同様硝酸層を濃縮して測定することも可能であるが、鉛
  量が非常に少いことが予測され、この方法で測定不可能と考える場合(シチゾン抽出のさいにでも分
  るが)には、逆抽出の2%硝酸を5mlにすればよい。
 (2) 本方法でジチゾシ抽出すれば、カドミウムはmaskingできないので(カドミウムはmaskingする方
  法はない)、原子吸光測定する硝酸には鉛とカドミウムが共存することになる。すなわちカドミウム
  と鉛を同時抽出することが可能であるということでもある。しかしカドミウムイオンは、鉛イオンに
  よつて干渉され、測定値が高くなるので、カドミウムを測定する場合には別に抽出のさいのpHを12以
  上(pH13.5位の方がよい)にして、鉛をジチゾンとキレートさせずに単独に抽出した方がよい。反対
  に鉛のジチゾンによる単独抽出は不可能である。比色の場合にはジチゾン鉛も、ジチゾンカドミウム
  も最大吸収波長520mμ前後の赤(ピンク)色を呈するので、混合されて比色されていることになる。
  原子吸光測定の場合には鉛イオンは、尿中カドミウム量として10μg/l、血中カドミウム量として
  10μg/100g程度までのカドミウムイオンによつては干渉されないので、通常の場合にはカドミウム
  イオン存在は考慮に入れなくてよい。従つて原子吸光測定の方が比色法より正確な値をうることがで
  きる。
 (3) 本方法はジチゾンクロロホルムを使用する混色法を採用した。ジチゾン抽出には四塩化炭素、ベ
  ンゼンを用いる単色法もあり、夫々長所をもつているが、数多くの検体をとり扱う場合の検査員の中
  毒の危険性を考えてクロロホルムを採用した。
 (4) 本方法で最も重要なポイントはジチゾン抽出を完全にすること、硝酸へ移すさいに硝酸層へ水層を
  入れないことである。特に後者に注意すべきである。
 (5) 希硝酸で逆抽出せずにクロロホルムや四塩化炭素、ベンゼンのまま測定する方法も考えられるが、
  クロロホルムや四塩化炭素はフレームが不安定であり、ベンゼンはフレームが非常に大きく白熱し、
  ススが出る(武内ら5)ので測定は感心しない。従つてジチゾン抽出のさいは、どの方法をとつても希
  硝酸に逆抽出して測定しなければならない。
 (6) 測定にさいしてはその都度盲検値を測定しておかねばならない。また試薬の全ブランクは1μg以下
  であることが望ましく、そのようにすることは可能である。
 (7) 原子吸光測定は僅かであるが経時変化する。またホロー・カソード、ランプは使用時間によつて感
  度が低下して来る。従つて基準はできるだけ頻繁に測定しておく必要がある。デジタル表示の原子吸
  光分光光度計を使用するさいにも終時変化とランプの感度低下に気をつけて対処しなければならない。
  また、検量線を使用する場合も、これらの点から再三・再四検量線を作成しなければならない。

           U 尿中および血中鉛量のAPDC―MIBK抽出、原子吸光測定法

A 尿中鉛の測定法
  灰化して測定する方法
 1 試薬
  1) 硝酸
  2) 硫酸
  3) アンモニア水
  4) 1%ピロリジン、ジチオカルバミン酸アンモニウム(APDC)溶液APDC1gを水100mlに溶かして作成
   する。要すればろ過する。
  5) メチルイソブチルケトン(MIBK)
    水を飽和させる。
  6) 鉛基準液
    硝酸鉛1.60gを精秤して水に溶かし、硝酸(1+1)1mlを加え、メスフラスコ1lに入れ水で全量を
   1lとする。この溶液1mlを正しくメスフラスコ1lにとり、水で殆んど標線までうすめ硝酸でpHを3.5
   注1)に合せてから、さらに水を標線まで加える。この溶液1mlは鉛0.001mgを含む(1ppm溶液)。
 2 器具
  1) ケールダールフラスコ
  2) 分液ロート
  3) 試験管
  4) ピペツト類、メスシリンダー、ビーカーなど一式
  5) 共栓付遠沈管(約50ml)
  6) pHメーター
  7) 遠心沈澱器
  8) 湿式灰化のための熱源装置一式
  9) 原子吸光分光光度計一式
  10) 振盪機(できれば)
    注意事項:―
    ケールダールフラスコ、分液ロート、試験管、遠沈管などは超硬質ガラス(無鉛ガラス)製を使用
   すること。ガラス器具はすべて10%硝酸に浸しておきよく水洗したのち、純水または鉛のない蒸留
   水で再水洗して使用する。
 3 操作
  1) 灰化
    尿50mlをケールダールフラスコにとり、硝酸、過塩素酸で湿式灰化する。灰化法はジチゾン抽出
   原子吸光測定の場合の灰化(T、31)、イ)参照)と同様に行なう。
  2) 灰化液を純水または鉛のない蒸留水約50mlで分液ロートに移し、アンモニア水でpHを3.5注1)に
   する。
  3) 次いで1%ピロリジン・ジチオカルバミン酸アンモニウム(APDC)溶液3mlを加え数分振り、さら
   にメチルイソブチルケトン(MIBK)10mlを加えて数分振る。
  4) 次に数分静置したのち共栓付遠沈管にMIBK層全部と水層の一部(入るだけ)を入れて遠沈したの
   ち、MIBK層を噴霧測定する。注)
   注) 出来るだけ早く測定すること。
  5) 鉛基準液(1ppm)、10ml(pH3.5)を共栓付遠沈管に入れ1%APDC3ml、MIBK10mlを加え強く振り、
   水層とMIBK層が分離してから、MIBK層を噴霧測定したものが1ppmの基準波高である。この波高と
   試料の波高とを比べて鉛量を算定する。(図2)
    検量線を作成して算出する場合には鉛基準液5ml(0.5ppm)、10ml(1ppm)、15ml(1.5ppm)、20ml
   (2ppm)を同様共栓付遠沈管に入れ、夫々に1%APDC3ml、MIBK10mlを加えて振り、MIBK層を噴霧測
   定し、作成する。
  (図2)原子吸光分光光度計を用いた場合のAPDC−MIBK法による基準波高と実際の測定例
                  (MIBK10ml使用の場合)

       図2

   注意事項:―
  (1) 本方法で尿50ml使用する場合には尿中鉛量4μg/l程度のものから測定可能である。
  (2) この方法においても盲検値は必ず測定しておかねばならない。
  (3) 試薬ブランクはできるだけ少くしておく必要がある。
B 血中鉛量の測定法
  灰化して測定する方法
 1 試薬
  1) 硝酸
  2) 硫酸
  3) 過塩素酸
  4) アンモニア水
  5) 1%ピロリジンジチオカルバミン酸アンモニウム(APDC)溶液
    尿中鉛の灰化して測定する方法の項(U、A、1、4)参照
  6) メチルイソブチールケトン(MIBK)
    尿中鉛の灰化して測定する方法の項(U、A、1、5)参照
  7) 鉛基準液
    尿中鉛の灰化して測定する方法の項(U、A、1、6)と同じ。
 2 器具
  1) ケールダールフラスコ
  2) 分液ロート
  3) 試験管、ピペツト類、メスシリンダー、ビーカーなど一式
  4) 共栓付遠沈管(約50ml)
  5) pHメーター
  6) 遠心沈澱器
  7) 湿式灰化のための熱源装置一式
  8) 原子吸光分光光度計一式
  9) 振盪器(出来れば)
   注意事項:
   ケールダールフラスコ、分液ロート、試験管、遠沈管などのガラスの質、洗浄のさいの注意は、ジ
  チゾン抽出原子吸光測定の項(1、2の注意事項)参照
 3 操作
  1) 灰化
    血液5〜16ml(10ml使用の方がよい)とり、予め秤量しておいたケールダールフラスコに入れ、再
   秤量して血液の重量を測定しておく。次いで硝酸、硫酸、過塩素酸の順に湿式灰化する。灰化はジ
   チゾン抽出原子吸光測定の項(T、3、1)、ロ))の通りに行えばよい。
  2) 灰化液を純水または鉛のない蒸留水約50mlで分液ロートに移し、アンモニア水でpHを3.5に合せ
   る。
  3) 1%APDC25mlを加えて数分振り、次いでMIBK10mlを加え数分振り、数分静置後、MIBK層と水層
   とが分離すれば、共栓遠沈管にMIBK層全部と入るだけの水層を入れて遠沈する。
  4) 遠沈後MIBK層をできるだけ早く噴霧測定する。
  5) 本方法では、血液中の鉄の存在か問題となるが1%APDC25mlを用いれば、影響が少ない。ただし、
   アルカリ性でトリエタノールアミンで鉄をいんぺいする方法もあるが、この場合は、ジチオカルバ
   ミンソーダを用いる。
  6) 鉛の基準は尿中鉛の灰化して測定する方法の項(U、A、1、6))と同じようにする。
   注意事項:―
  (1) 本方法では血液10ml使用した場合には、血中鉛量2μg/100g程度のものから測定できる。
  (2) 測定にさいしてはその都度盲検値を測定しておくことが絶対必要である。
  (3) 試薬ブランクはできるだけ少くすることが必要である。
  (4) 基準は頻繁に測定しておかねばならない。検量線を使用する場合にも検量線を頻繁に作成しな
   ければならない。またデジタル表示の器械を使用される場合には注意が必要である。