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危険性又は有害性等の調査等に関する指針
 趣旨等
  生産工程の多様化・複雑化が進展するとともに、新たな機械設備・化学物質が導入されていること等
 により、労働災害の原因が多様化し、その把握が困難になっている。
  このような現状において、事業場の安全衛生水準の向上を図っていくため、労働安全衛生法(昭和4
 7年法律第57号。以下「法」という。)第28条の2第1項において、労働安全衛生関係法令に規定
 される最低基準としての危害防止基準を遵守するだけでなく、事業者が自主的に個々の事業場の建設物、
 設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因する危険性又は有害性等
 の調査(以下単に「調査」という。)を実施し、その結果に基づいて労働者の危険又は健康障害を防止
 するため必要な措置を講ずることが事業者の努力義務として規定されたところである。
  本指針は、法第28条の2第2項の規定に基づき、当該措置が各事業場において適切かつ有効に実施
 されるよう、その基本的な考え方及び実施事項について定め、事業者による自主的な安全衛生活動への
 取組を促進することを目的とするものである。
  また、本指針を踏まえ、特定の危険性又は有害性の種類等に関する詳細な指針が別途策定されるもの
 とする。詳細な指針には、「化学物質等による労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置に
 関する指針」、機械安全に関して厚生労働省労働基準局長の定めるものが含まれる。
  なお、本指針は、「労働安全衛生マネジメントシステムに関する指針」(平成11年労働省告示第5
 3号)に定める危険性又は有害性等の調査及び実施事項の特定の具体的実施事項としても位置付けられ
 るものである。

 適用
  本指針は、建設物、設備、原材料、ガス、蒸気、粉じん等による、又は作業行動その他業務に起因す
 る危険性又は有害性(以下単に「危険性又は有害性」という。)であって、労働者の就業に係る全ての
 ものを対象とする。

 実施内容
  事業者は、調査及びその結果に基づく措置(以下「調査等」という。)として、次に掲げる事項を実
 施するものとする。
 (1) 労働者の就業に係る危険性又は有害性の特定
 (2) (1)により特定された危険性又は有害性によって生ずるおそれのある負傷又は疾病の重篤度及
    び発生する可能性の度合(以下「リスク」という。)の見積り
 (3) (2)の見積りに基づくリスクを低減するための優先度の設定及びリスクを低減するための措置
    (以下「リスク低減措置」という。)内容の検討
 (4) (3)の優先度に対応したリスク低減措置の実施

 実施体制等
 (1) 事業者は、次に掲げる体制で調査等を実施するものとする。
    ア 総括安全衛生管理者等、事業の実施を統括管理する者(事業場トップ)に調査等の実施を統
     括管理させること。
    イ 事業場の安全管理者、衛生管理者等に調査等の実施を管理させること。
    ウ 安全衛生委員会等(安全衛生委員会、安全委員会又は衛生委員会をいう。)の活用等を通じ、
     労働者を参画させること。
     エ 調査等の実施に当たっては、作業内容を詳しく把握している職長等に危険性又は有害性の特
      定、リスクの見積り、リスク低減措置の検討を行わせるように努めること。
    オ 機械設備等に係る調査等の実施に当たっては、当該機械設備等に専門的な知識を有する者を
     参画させるように努めること。
 (2) 事業者は、(1)で定める者に対し、調査等を実施するために必要な教育を実施するものとする。

 実施時期
 (1) 事業者は、次のアからオまでに掲げる作業等の時期に調査等を行うものとする。
    ア 建設物を設置し、移転し、変更し、又は解体するとき。
    イ 設備を新規に採用し、又は変更するとき。
    ウ 原材料を新規に採用し、又は変更するとき。
    エ 作業方法又は作業手順を新規に採用し、又は変更するとき。
    オ その他、次に掲げる場合等、事業場におけるリスクに変化が生じ、又は生ずるおそれのある
     とき。
     (ア) 労働災害が発生した場合であって、過去の調査等の内容に問題がある場合
     (イ) 前回の調査等から一定の期間が経過し、機械設備等の経年による劣化、労働者の入れ
        替わり等に伴う労働者の安全衛生に係る知識経験の変化、新たな安全衛生に係る知見の
        集積等があった場合
 (2) 事業者は、(1)のアからエまでに掲げる作業を開始する前に、リスク低減措置を実施すること
    が必要であることに留意するものとする。
 (3) 事業者は、(1)のアからエまでに係る計画を策定するときは、その計画を策定するときにおい
    ても調査等を実施することが望ましい。

 対象の選定
  事業者は、次により調査等の実施対象を選定するものとする。
 (1) 過去に労働災害が発生した作業、危険な事象が発生した作業等、労働者の就業に係る危険性又
    は有害性による負傷又は疾病の発生が合理的に予見可能であるものは、調査等の対象とすること。
 (2) (1)のうち、平坦な通路における歩行等、明らかに軽微な負傷又は疾病しかもたらさないと予
    想されるものについては、調査等の対象から除外して差し支えないこと。

 情報の入手
 (1) 事業者は、調査等の実施に当たり、次に掲げる資料等を入手し、その情報を活用するものとす
    る。入手に当たっては、現場の実態を踏まえ、定常的な作業に係る資料等のみならず、非定常作
    業に係る資料等も含めるものとする。
    ア 作業標準、作業手順書等
    イ 仕様書、化学物質等安全データシート(MSDS)等、使用する機械設備、材料等に係る危
     険性又は有害性に関する情報
    ウ 機械設備等のレイアウト等、作業の周辺の環境に関する情報
    エ 作業環境測定結果等
    オ 混在作業による危険性等、複数の事業者が同一の場所で作業を実施する状況に関する情報
    カ 災害事例、災害統計等
    キ その他、調査等の実施に当たり参考となる資料等
 (2) 事業者は、情報の入手に当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
    ア 新たな機械設備等を外部から導入しようとする場合には、当該機械設備等のメーカーに対し、
     当該設備等の設計・製造段階において調査等を実施することを求め、その結果を入手すること。
    イ 機械設備等の使用又は改造等を行おうとする場合に、自らが当該機械設備等の管理権原を有
     しないときは、管理権原を有する者等が実施した当該機械設備等に対する調査等の結果を入手
     すること。
    ウ 複数の事業者が同一の場所で作業する場合には、混在作業による労働災害を防止するために
     元方事業者が実施した調査等の結果を入手すること。
    エ 機械設備等が転倒するおそれがある場所等、危険な場所において、複数の事業者が作業を行
     う場合には、元方事業者が実施した当該危険な場所に関する調査等の結果を入手すること。


 危険性又は有害性の特定
 (1) 事業者は、作業標準等に基づき、労働者の就業に係る危険性又は有害性を特定するために必要
    な単位で作業を洗い出した上で、各事業場における機械設備、作業等に応じてあらかじめ定めた
    危険性又は有害性の分類に則して、各作業における危険性又は有害性を特定するものとする。
 (2) 事業者は、(1)の危険性又は有害性の特定に当たり、労働者の疲労等の危険性又は有害性へ
    の付加的影響を考慮するものとする。

 リスクの見積り
 (1) 事業者は、リスク低減の優先度を決定するため、次に掲げる方法等により、危険性又は有害性
    により発生するおそれのある負傷又は疾病の重篤度及びそれらの発生の可能性の度合をそれぞれ
    考慮して、リスクを見積もるものとする。ただし、化学物質等による疾病については、化学物質
    等の有害性の度合及びばく露の量をそれぞれ考慮して見積もることができる。
    ア 負傷又は疾病の重篤度とそれらが発生する可能性の度合を相対的に尺度化し、それらを縦軸
     と横軸とし、あらかじめ重篤度及び可能性の度合に応じてリスクが割り付けられた表を使用し
     てリスクを見積もる方法
    イ 負傷又は疾病の発生する可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それら
     を加算又は乗算等してリスクを見積もる方法
    ウ 負傷又は疾病の重篤度及びそれらが発生する可能性等を段階的に分岐していくことによりリ
     スクを見積もる方法
 (2) 事業者は、(1)の見積りに当たり、次に掲げる事項に留意するものとする。
    ア 予想される負傷又は疾病の対象者及び内容を明確に予測すること。
    イ 過去に実際に発生した負傷又は疾病の重篤度ではなく、最悪の状況を想定した最も重篤な負
     傷又は疾病の重篤度を見積もること。
    ウ 負傷又は疾病の重篤度は、負傷や疾病等の種類にかかわらず、共通の尺度を使うことが望ま
     しいことから、基本的に、負傷又は疾病による休業日数等を尺度として使用すること。
    エ 有害性が立証されていない場合でも、一定の根拠がある場合は、その根拠に基づき、有害性
     が存在すると仮定して見積もるよう努めること。
 (3) 事業者は、(1)の見積りを、事業場の機械設備、作業等の特性に応じ、次に掲げる負傷又は疾
    病の類型ごとに行うものとする。
    ア はさまれ、墜落等の物理的な作用によるもの
    イ 爆発、火災等の化学物質の物理的効果によるもの
    ウ 中毒等の化学物質等の有害性によるもの
    エ 振動障害等の物理因子の有害性によるもの
     また、その際、次に掲げる事項を考慮すること。
    ア 安全装置の設置、立入禁止措置その他の労働災害防止のための機能又は方策(以下「安全機
     能等」という。)の信頼性及び維持能力
    イ 安全機能等を無効化する又は無視する可能性
    ウ 作業手順の逸脱、操作ミスその他の予見可能な意図的・非意図的な誤使用又は危険行動の可
     能性

10 リスク低減措置の検討及び実施
 (1) 事業者は、法令に定められた事項がある場合にはそれを必ず実施するとともに、次に掲げる優
    先順位でリスク低減措置内容を検討の上、実施するものとする。
    ア 危険な作業の廃止・変更等、設計や計画の段階から労働者の就業に係る危険性又は有害性を
     除去又は低減する措置
    イ インターロック、局所排気装置等の設置等の工学的対策
    ウ マニュアルの整備等の管理的対策
    エ 個人用保護具の使用
 (2) (1)の検討に当たっては、リスク低減に要する負担がリスク低減による労働災害防止効果と
    比較して大幅に大きく、両者に著しい不均衡が発生する場合であって、措置を講ずることを求め
    ることが著しく合理性を欠くと考えられるときを除き、可能な限り高い優先順位のリスク低減措
    置を実施する必要があるものとする。
 (3) なお、死亡、後遺障害又は重篤な疾病をもたらすおそれのあるリスクに対して、適切なリスク
    低減措置の実施に時間を要する場合は、暫定的な措置を直ちに講ずるものとする。

11 記録
  事業者は、次に掲げる事項を記録するものとする。
 (1) 洗い出した作業
 (2) 特定した危険性又は有害性
 (3) 見積もったリスク
 (4) 設定したリスク低減措置の優先度
 (5) 実施したリスク低減措置の内容