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パラ−ニトロクロルベンゼンによる健康障害を防止するための指針について
(平成28年3年31日 基発0331第26号により廃止)

改正履歴

                                                                          平成6年3月25日
                                                                             基発第155号

  労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第3項の規定に基づき標記指針(以下「指針」という。)
を別添1<略>のとおり作成し、その名称、趣旨等を平成6年3月25日付け官報に公示した。
  指針は、パラ−ニトロクロルベンゼンによる労働者の健康障害の防止に資するため、その製造、取扱い
等に際し事業者が講ずべき措置について定めたものである。
  ついては、下記事項に留意の上、あらゆる機会をとらえて事業者及び関係事業者団体等に対して、指針
の周知を図るとともに、指針の趣旨を踏まえ各事業場においてパラ−ニトロクロルベンゼンによる健康障
害の防止対策が適正に行われるよう指導されたい。
  また、関係事業者団体に対しては別添2<略>により、指針の普及を図るよう要請したので了知された
い。
  なお、指針は、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第24条の9の規定により、都道府県労働
基準局において閲覧に供することにより公表するものであるので念のため申し添える。

記

第1  趣旨
    パラ−ニトロクロルベンゼンは、特定化学物質等障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特
  化則」という。)第2条第1項第2号の第2類物質に該当し、これを製造し、又は取り扱う業務を行な
  う場合には、労働者の暴露を防止する観点から、特化則において労働者の健康障害の防止のための所要
  の措置を講ずることとされているところである。
    労働省においては、パラ−ニトロクロルベンゼンの哺(ほ)乳動物に対するがん原性の疑いに着目した
  調査を進めてきたところであるが、今般、日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県秦野市)におけ
  る哺(ほ)乳動物を用いた長期毒性試験(経口投与)の結果からパラ−ニトロクロルベンゼンが哺(ほ)乳
  動物の脾(ひ)臓及び副腎に悪性の腫瘍(しゆよう)を発生させることが判明した。パラ−ニトロクロルベ
  ンゼンの人に対するがん原性については現在確定していないが、労働者がこれに長期間暴露された場合、
  皮膚障害、血液障害等従来から知られている健康障害のほかに、がん等の重度の健康障害を生ずる可能
  性も否定できず、この観点から労働者の健康障害の防止に特別の配慮が求められる。
    このようなことからパラ−ニトロクロルベンゼンのがん原性に着目し、指針において、現行の特化則
  の規定による措置以外に、労働者の健康障害を防止するために講ずべき措置を定めることとしたもので
  ある。
    なお、特化則は、パラ−ニトロクロルベンゼン及びパラ−ニトロクロルベンゼンをその重量の5パー
  セントを超えて含有するものについて適用されるが、指針ではパラ−ニトロクロルベンゼン及びパラ−
  ニトロクロルベンゼンをその重量の1パーセントを超えて含有するものが対象となることに留意された
  い。

第2  パラ−ニトロクロルベンゼンへの暴露を低減するための措置
  1  指針2の(1)関係
      特化則が適用される業務については、設備の密閉化、局所排気装置の設置等特化則に定める暴露低
    減措置を講ずることは当然であるが、これに加えて指針に定める措置を講ずることによって、パラ−
    ニトロクロルベンゼンへの暴露を低減させる趣旨であること。これらの措置については、特化則にお
    いて特段の規定を設けていないが、パラ−ニトロクロルベンゼンのがん原性に着目して労働者の暴露
    を低減させるために有効な措置であること。
    (1) 指針2の(1)のイ関係
        労働者の暴露の低減を図るため、事業場におけるパラ−ニトロクロルベンゼン等の製造量、取扱
      量、作業の頻度、作業時間、作業の態様等を総合的に勘案し、指針2の(1)のイに掲げる項目の中
      から適切な措置を講ずることとしたものであり、指針2の(1)のイに掲げるすべての項目について
      措置を講ずることを求める趣旨ではないこと。例えば、特化則適用業務であるために、すでに局所
      排気装置の設置をしている場合に、さらにパラ−ニトロクロルベンゼンへの暴露の低減を図るため
      に、作業方法を改善し、あるいは作業位置を工夫する等の措置を講ずれば、指針の趣旨に沿うもの
      であること。
        なお、「使用条件等の変更」には、パラ−ニトロクロルベンゼン等の湿潤化等があること。
    (2) 指針2の(1)のロ関係
        パラ−ニトロクロルベンゼンを含有する排気、排液等の作業場外への排出に当たっては、事業場
      の汚染による労働者の健康障害の防止についてはもちろん、付近一帯の汚染の防止に対しても当然
      配慮することを示したものであること。
  2  指針2の(2)関係
    (1) 指針2の(2)のイ関係
        特化則適用業務以外の業務については、事業場におけるパラ−ニトロクロルベンゼン等の製造量、
      取扱量、作業の頻度、作業時間、作業の態様等を総合的に勘案し、指針2の(2)のイに掲げる項目
      の中から適切な措置を講ずることとしたものであり、指針2の(2)のイに掲げるすべての項目につ
      いて措置を講ずることを求める趣旨ではないこと。例えば、一日のうちで、パラ−ニトロクロルベ
      ンゼン等に暴露する時間が極めて短時間である等の理由によって、設備の密閉化あるいは局所排気
      装置の設置が必ずしも現実的でない場合においては、パラ−ニトロクロルベンゼンへの暴露の低減
      を図るために、作業方法の改善及び保護具の使用を効果的に行う等の措置を講ずることは、指針の
      趣旨に沿うものであること。
        なお、指針2の(2)のイの「その他必要な措置」には、代替物質への変更、隔離室での遠隔操作
      等が含まれ、「使用条件等の変更」は、上記1と同様の趣旨であるとともに、「局所排気装置等」
      には、局所排気装置のほか、全体換気装置が含まれるものであること。
    (2) 指針2の(2)のロ関係
        上記1の(2)のロと同様の趣旨であること。

第3  作業環境測定
    特化則においては作業環境測定の結果及びその評価の結果の記録を原則として3年間保存しなければ
  ならないこととされているが、指針においては特化則適用業務、特化則適用業務以外の業務のいかんを
  問わず、作業環境測定の結果及びその評価の結果を記録し、これを30年間保存することとしたこと。
  これは、パラ−ニトロクロルベンゼンの人に対するがん原性については現時点では評価が確定していな
  いものの、がん原性を持つ可能性があることから、がん等の遅発性の健康障害は、その暴露状況を長期
  間にわたって把握する必要があることを考慮し、特化則の特別管理物質に係る作業の記録に関する記録
  の保存の規定にならったものであること。
    なお、同様の趣旨から、パラ−ニトロクロルベンゼンは、そのがん原性に着目した作業環境管理を行
  う必要があることから、指針の対象となる作業場については、作業環境評価基準(昭和63年労働省告示
  第79号)第2条の第1管理区分を維持するよう指導すること。

第4  労働衛生教育
    パラ−ニトロクロルベンゼン等を製造し、又は取り扱う業務に従事している労働者及び当該業務に従
  事させることとなった労働者に対して、パラ−ニトロクロルベンゼンの有害性等に着目した労働衛生教
  育を行うこととしたこと。
    なお、本教育は作業の変更がない限り繰り返し行う必要はないこと。

第5  暴露労働者の把握等
    労働者の氏名等の記録を保存することとしたのは、上記第3と同様の趣旨であること。
(参考)
1  日本バイオアッセイ研究センターにおける労働省委託のパラ−ニトロクロルベンゼンのラット及びマ
  ウスを用いた経口(混餌)投与によるがん原性試験結果の概要
    試験は、F344/DuCrj(Fischer)ラット(6週令)及びCrj:BDFlマウス(6週令)を用い、それぞれ
  雌雄各群50匹、4群の構成とし、合わせてラット400匹、マウス400匹を使用した。
    パラ−ニトロクロルベンゼンの粉末飼料中の濃度をラットでは1000、200、40、0ppm(対照群)、マ
  ウスでは、2000、500、125、0ppm(対照群)として調整し、104週間(2年間)自由摂取により投与し
  た。
    その結果、F344/DuCrj(Fischer)ラットでは雌雄ともに脾(ひ)臓の間葉系組織由来の腫瘍(しゆよ
  う)(線維腫(しゆ)、線維肉腫(しゆ)、骨肉腫(しゆ)、肉腫(しゆ)NOS、血管肉腫(しゆ))及び副腎の褐
  色細胞腫(しゆ)にパラ−ニトロクロルベンゼンの投与の影響と考えられる発生増加が見られ、明らかな
  がん原性が証明された。一方、Crj:BDF1マウスでは雄に血管腫(しゆ)、悪性リンパ腫(しゆ)及び肝細胞
  癌(がん)、雌に肝臓の血管肉腫(しゆ)と肝細胞癌(がん)の発生増加が認められたが、発生率が低値であ
  ることからがん原性を断定するには至らなかった。

腫瘍(しゆよう)の発生数(ラット、それぞれ50匹中)(表)

腫瘍(しゆよう)の発生数(マウス、それぞれ50匹中)(表)

  2  パラ−ニトロクロルベンゼンについて
    (1) 性状
        パラ−ニトロクロルベンゼンは常温常圧では黄色の結晶で、水に不溶、エタノール、エーテル及
      びベンゼンに可溶であり、また、物性等について表に示すとおりである。
    (2) 用途等
        パラ−ニトロクロルベンゼンは、アゾ染料や硫化染料の中間体、フェナセチンやアセトアミノフ
      ェン等の原料、ビタミン製造の中間体として使用され、平成3年度の生産量は推計で約2万トンで
      ある。
    (3)有害性
        パラ−ニトロクロルベンゼンは、局所の刺激は少ないが、皮膚から良く吸収され、メトヘモグロ
      ビン形成に起因する溶血性貧血がみられ、赤血球にはハインツ小体がみられることがある。
        その他、悪心、嘔吐、頭痛、食欲不振、めまい息苦しさなどの自覚症状がみられる。

表  パラ−ニトロクロルベンゼンの物性等(表)

3  その他のパラ−ニトロクロルベンゼンに係る情報
  (1) 日本産業衛生学会の評価
      現状では、がん原性についての評価はできないとしている。
  (2) 米国がん研究所(NCI)の評価
      雄のラット及び雌雄のマウスを用いた動物がん原性試験を実施した結果、雌雄のマウスで腫瘍(し
    ゆよう)の発生が見られたとしている。
4  指針と特化則との関係
    指針と特化則との関係は、下図<略>のとおりである。