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1,2−ジクロルエタンによる健康障害を防止するための指針について
(平成28年3月31日 基発0331第26号により廃止)

改正履歴

                                                                             基発第419号
                                                                          平成5年6月25日
  労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第3項の規定に基づき標記指針(以下「指針」という。)
を策定し、その名称及び趣旨を平成5年6月25日付け官報に公示した。
  指針は、1,2−ジクロルエタンによる労働者の健康障害の防止に資するため、その製造、取扱い等に際
し事業者が講ずべき措置に関する留意事項について定めたものである。
  ついては、別添<略>のとおり指針を送付するので、下記事項に留意の上、あらゆる機会をとらえて事
業者及び関係事業者団体等に対して、指針の周知を図るとともに、指針の趣旨を踏まえ各事業場において
1,2−ジクロルエタンによる健康障害の防止対策が適正に行われるよう指導されたい。
  また、関係事業者団体に対しては別紙<略>により、指針の普及を図るよう要請したので了知されたい。
  なお、指針は、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第24条の9の規定により、都道府県労働
基準局において閲覧に供することにより公表するものであるので念のため申し添える。
  おって、平成3年8月26日付け基発第513号「四塩化炭素による健康障害を防止するための指針につい
て」の第1の趣旨中「また、有機則第3条の規定により、所轄労働基準監督署長の適用除外を受けた場合
は、指針の適用は受けないものとする。」及び参考4「本指針と有機則との関係」の図中「有機則第3条
の監督署長の適用除外を受けた場合は指針の適用なし」並びに平成4年12月21日付け基発第658号「1,4−
ジオキサンによる健康障害を防止するための指針について」の第1の趣旨中「また、有機則第3条の規定
により、所轄労働基準監督署長の適用除外の認定を受けた場合は、指針の対象にならないものとする。」
及び参考4「本指針と有機則との関係」の図中「有機則第3条の監督署長の適用除外の認定を受けた場合
は、指針の対象外」を、削除する。

記

第1  趣旨
    1,2−ジクロルエタンは、有機溶剤中毒予防規則(昭和47年労働省令第36号。以下「有機則」という。)
  第1条第1項第3号の第1種有機溶剤に該当し、同項第6号に掲げる有機溶剤業務を行う場合には、比
  較的高濃度、短期間の暴露を防止する観点から、有機則において労働者の健康障害の防止のための所要
  の措置を講ずることとされているところである。
    1,2−ジクロルエタンのがん原性については、米国労働安全衛生研究所(NIOSH)等の研究機関が、哺
  (ほ)乳動物に対するがん原性の疑いに着目し、NIOSHでは、1,2−ジクロルエタンによる労働者の健康障
  害を防止するための勧告を出している。労働省においてもそのがん原性についての調査を進めてきたと
  ころであるが、今般、日本バイオアッセイ研究センター(神奈川県秦野市)における哺(ほ)乳動物を用
  いた長期毒性試験(吸入投与)の結果から1,2−ジクロルエタンが哺(ほ)乳動物の肝臓、乳腺(せん)及
  び肺に悪性の腫瘍(しゆよう)を発生させることが判明した。1,2−ジクロルエタンの人に対するがん原
  性については現在確定していないが、労働者がこれに長期間暴露された場合、肝障害、腎障害等従来か
  ら知られている健康障害のほかに、がん等の重度の健康障害を生ずる可能性も否定できず、この観点か
  ら労働者の健康障害の防止に特別の配慮が求められる。
    このようなことから1,2−ジクロルエタンのがん原性に着目し、指針において、現行の有機則の規定
  による措置以外に、1,2−ジクロルエタン又は1,2−ジクロルエタンを含有するものを製造し、又は取り
  扱う業務全般を対象として、労働者の健康障害を防止するために講ずべき措置を定めることとしたもの
  である。
    なお、有機則は、1,2−ジクロルエタン又は1,2−ジクロルエタンを5パーセントを超えて含有するも
  のについて適用されるが、指針では1,2−ジクロルエタン又は1,2−ジクロルエタンを1パーセントを超
  えて含有するものが対象となることに留意されたい。

第2  1,2−ジクロルエタンへの暴露を低減するための措置
  1  指針の2の(1)関係
      有機則が適用される業務については、設備の密閉化、局所排気装置の設置等有機則に定める暴露低
    減措置を講ずることは当然であるが、これに加えて指針に定める措置を講ずることによって、1,2−
    ジクロルエタンへの暴露を低減させる趣旨であること。これらの措置については、有機則において特
    段の規定を設けていないが、化学物質のがん原性に着目した場合に労働者の1,2−ジクロルエタンへ
    の暴露を減少させるために有効とされる措置であること。
    (1) 指針2の(1)のイ関係
        労働者の暴露の低減を図るため、事業場における1,2−ジクロルエタン等の製造量、取扱量、作
      業の頻度、作業時間、作業の態様等を総合的に勘案し、指針2の(1)のイに掲げた項目の中から当
      該事業場において適切な措置を講ずることとしたものであり、指針2の(1)のイに掲げるすべての
      項目について措置を講ずることを求める趣旨ではないこと。例えば、有機則適用業務であるために、
      すでに局所排気装置の設置をしている場合に、さらに1,2−ジクロルエタンの暴露の低減を図るた
      めに、作業方法を改善し、あるいは作業位置を工夫する等の措置は、指針の趣旨に沿うものである
      こと。
        なお、指針2の(1)のイの「その他必要な措置」には、代替物質への変更、隔離室での遠隔操作
      等が含まれ、「使用条件等の変更」には、使用温度の適正化等があること。
    (2) 指針2の(1)のロ関係
        1,2−ジクロルエタンを含有する排気、排液等の作業場外への排出に当たっては、事業場の汚染
      による労働者の健康障害防止の観点からは勿論、付近一帯の汚染防止に対しても当然配慮すること
      を示したものであること。
    (3) 指針2の(2)のニ関係
        設備、装置等の操作及び点検、異常な事態が発生した場合の措置、保護具の使用等についての作
      業基準を作成し、これを労働者に遵守させることによって、より効果的に暴露の低減を図ることを
      目的としたものであること。
  2  指針2の(2)関係
      有機則適用業務以外の業務については、1,2−ジクロルエタン等の製造量及び取扱量、作業の頻度、
    作業時間、作業の態様等を総合的に勘案し、当該作業場において指針2の(2)のイに掲げるものの中
    から適切な措置を講ずることとしたものであり、指針2の(2)のイに掲げるすべての項目について措
    置を講ずることを求めるものではないこと。例えば、一日のうちで、1,2−ジクロルエタン等に暴露
    する時間が極めて短時間である等の理由によって、設備の密閉化あるいは局所排気装置の設置が必ず
    しも現実的でない場合においては、作業方法の改善及び保護具の使用を効果的に行い、1,2−ジクロ
    ルエタンへの暴露の低減を図る等の措置は指針の趣旨に沿うものであること。
      なお、指針2の(2)のイに「その他必要な措置」及び「使用条件等の変更」は、上記1指針2の(1)
    のイ関係における場合と同様の趣旨であるとともに、「局所排気装置等」には、局所排気装置のほか、
    プッシュプル型換気装置及び全体換気装置が含まれるものであること。

第3  作業環境測定
    有機則においては作業環境測定の結果及びその評価の結果の記録を3年間保存しなければならないこ
  とされているが、指針においては有機則適用業務、有機則適用業務以外の業務を問わず、作業環境測定
  の結果及びその評価の結果を記録し、これを30年間保存することとした。これは、1,2−ジクロルエタ
  ンの人に対するがん原性については現時点では評価が確定してはいないものの、その可能性があること
  から、がん等の遅発性の健康障害は、その暴露状況を長期間にわたって把握する必要があることを考慮
  し、特定化学物質等障害予防規則(昭和47年労働省令第37号)の特別管理物質に関する記録の保存の
  規定にならったものであること。
    なお、1,2−ジクロルエタンは、そのがん原性に着目した作業環境管理を行う必要があることから、
  指針の対象となる作業場については作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号)第2条の第1管
  理区分を維持するよう指導すること。

第4  労働衛生教育
    1,2−ジクロルエタン等を製造し、又は取り扱う業務に従事している労働者及び当該業務に従事させ
  ることとなった労働者に対して、1,2−ジクロルエタンの有害性等に着目した労働衛生教育を行うこと
  としたこと。有機則適用業務にあたっては、昭和59年6月29日付け基発第337号「有機溶剤業務従事者
  に対する労働衛生教育の推進について」により労働安全衛生法第59条第3項の「特別教育」に準じた教
  育を行うこととされているが、1,2−ジクロルエタンの有害性にかんがみ、新たに指針の対象となる有
  機則適用業務以外の業務に従事する労働者に対しても適切な教育を行うことが必要であることから、指
  針において同様の労働衛生教育の実施について定めたものであること。
    なお、本教育は作業の変更がない限り繰り返し行う必要はないこと。また、有機則適用業務において
  すでに上記通達による教育を実施している場合は、重ねて指針に基づく教育を実施する必要はないこと。

第5  暴露労働者の把握等
    労働者の氏名等の記録を保存することとしたのは、上記第3と同様の趣旨であること。
(参考)
1  日本バイオアッセイ研究センターにおける労働省委託の1,2−ジクロルエタンのラット及びマウスを
  用いた吸入投与によるがん原性試験結果の概要(抄)
    試験は、F344/DuCrj(Fischer)ラット(6週令)及びCrj:BDF1マウス(6週令)を用い、それぞれ
  雌雄各群50匹、4群の構成とし、合わせてラット400匹、マウス400匹を使用した。1,2−ジクロルエタ
  ン濃度をラットでは160、40、10、0ppm(対照群)、マウスでは、90、30、10、0ppm(対照群)とし、
  1日6時間、週5日、吸入経路(全身暴露)により2年間(104週)投与した。その結果、ラットでは
  雄に腹膜の中皮腫(しゅ)、乳腺の線維腺腫(せんしゅ)、皮下組織の線維腫(しゅ)、雌に乳腺の腺癌(せ
  んがん)、腺腫(せんしゅ)及び線維腺腫(せんしゅ)、皮下組織の線維腫(しゅ)の発生増加が、また、
  Crj:BDF1マウスでは雄に肝臓の血管肉腫(しゅ)、雌に乳腺(せん)の腺癌(せんがん)、肺に細気管支−
  肺胞上皮癌(がん)と腺腫(せんしゅ)、肝臓の肝細胞腺腫(せんしゅ)、子宮の内膜間質性ポリープの発
  生増加が観察されたことから、ラット及びマウスに1,2−ジクロルエタンによるがん原性が示された。

腫瘍(しゆよう)の発生数(ラット、それぞれ50匹中)(表)

腫瘍(しゆよう)の発生数(マウス、それぞれ50匹)(表)

2  1,2−ジクロルエタンについて
  (1) 性状
      1,2−ジクロルエタンは常温常圧では無色透明の液体で、水に微溶、エタノール、エーテルとは自
    由に混和する。物性等については表に示すとおりである。
  (2) 用途等
      1,2−ジクロルエタンは、塩化ビニル製造原料、塗料溶剤、洗浄剤等として使用され、平成3年度
    の製造・輸入の合計数量は合わせて約87万トンである。
  (3) 有害性
      1,2−ジクロルエタンは、蒸気の吸入による粘膜の刺激症状がみられ、高濃度の場合は肺浮腫を生
    じることがある。主として吸入経路で吸収され、眠気、めまい、頭痛、食欲減退、吐き気などの症状
    が現れるほか、肝障害、腎障害、消化器障害を起こすことがある。また、接触によって皮膚障害を起
    こすことがある。

表 1,2−ジクロルエタンの物性等(表)

3  その他の1,2−ジクロルエタンに係る情報
  (1) 日本産業衛生学会の評価
      哺(ほ)乳動物に対するがん原性試験の結果等を考慮し、人間に対しておそらくがん原性を有すると
    考えられるが、その証拠が比較的十分でない物質としている。
  (2) 国際がん研究機関(IARC)の評価
      1,2−ジクロルエタンは、マウスに肺の悪性腫瘍(しゆよう)、悪性リンパ腫(しゅ)を発生させ、ラ
    ットでは雌雄に肝臓の血管肉腫(しゅ)を発生させるほか、雄に前胃の癌(がん)、雌では乳腺の悪性
    腫瘍(しゆよう)を発生させることから、哺(ほ)乳動物に対するがん原性の証拠は十分であり、人に対
    する影響については適切なデータを欠いているが、人に対しても発がん性があるとみなすことが適当
    であるとしている。
  (3) 米国労働安全衛生研究所(NIOSH)の評価
      1,2−ジクロルエタンに関するいくつかの動物実験の結果から人に対してもがん原性の疑いがある
    物質であるとしており、取扱い等に関する勧告を公表している。
4  指針と有機則との関係
    指針と有機則との関係は下図<略>のとおりである。