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スリップフォーム工法による施工の安全基準に関する技術上の指針 |
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改正履歴 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第28条第1項の規定に基づき、スリップフォーム工法による施工 の安全基準に関する技術上の指針を次のとおり公表する。 スリップフォーム工法による施工の安全基準に関する技術上の指針 1 総則 2-1 趣旨 この指針は、煙突工事、橋脚工事等に用いられるスリップフォーム工法による施工における労 働者の墜落、建設物の倒壊等の災害を防止するため、当該工法の施工上の留意事項について規定 したものである。 2 調査及び施工計画 2-1 調査 スリップフォーム工法により施工するに当たっては、当該工事の安全な施工に必要な資料を得 るため、あらかじめ、次に掲げる事項について調査を行うこと。 (1) 基礎地盤 (2) 気象条件 (3) 施工予定箇所付近の状況 (4) コンクリート又はその材料の取得の難易 2-2 施工計画 施工に先だち、工事の規模、工期、2-1による調査の結果等に適応した工程及び工事用機械設備、 測定用設備等の諸設備について施工計画を定め、施工計画書によりこれを明示すること。 この施工計画書には、諸設備についての設計図、設計計算書及び数量表を含めること。 3 設備 3-1 設備の基本 スリップフォーム工法による施工において使用する諸設備は、落下物による危険、労働者の墜 落の危険等の防止について十分配慮するとともに、これらの諸設備に加わる荷重に対して十分堅 固な構造とすること。 3-2 型わく 3-2-1 型わく工の構造 型わく工の構造は、次のとおりとすること。 (1) クライミングロッド(以下「ロッド」という。)にロッドの軸方向以外の荷重を作用さ せない構造であること。 (2) 全体としてねじれにくい構造であること。 (3) 全体の形状が常に保持され得る構造であり、かつ相互の部材が脱落しないように結合さ れていること。 (4) 部設備に作用する水平荷重を分散してコンクリート躯(く)体に伝達できる構造である こと。 (5) ロッドの盛替えを他のロッドに荷重をかけて行う場合には、盛り替えるロッドが負担し ている荷重を他のロッドに分散させ得る構造であること。 (6) 設計計算、工事中の操作等が容易に行えるようなるべく簡明な構造とすること。 3-2-2 型わく工の強度計算 型わく工の強度計算は、次のとおりとすること。ただし、計算理論の適用が困難な場合に は、従来の施工経験等により安全性が確認されている場合を除き、実際に近い条件の下で実 験を行い、その結果に基づき強度の検討を行うこと。 (1) 荷重は、次に掲げる各荷重を適宜組み合わせたものとすること。 イ 自重(附帯設備を含む。) ロ 積載荷重 ハ 付加荷重 ニ コンクリート側圧 ホ スリップ抵抗力 ヘ 風荷重 ト 地震荷重 (2) 鋼材の許容応力の値は、次の表に示す値以下とすること。(表) (3) 鋼材の許容座屈応力の値は、次の式により計算して得た値以下とすること。 λ<20の場合
fk= |
fc |
20≦λ≦200の場合
fk= |
1 |
fc |
ω |
備考 fk、fc、ω及びλは、それぞれ次の値を表すこと。 fk 許容座屈応力(単位kg/m2) fc 許容圧縮応力(単位kg/m2) ω 別表第1及び別表第2に定める座屈係数 λ 有効細長比 (4) 鋼材の縦弾性係数等の値は、次の表に示す値とすること。(表)
3-2-3 ロッドの設計 ロッドの設計に当たっては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) 露出部分(コンクリートの上端からジャッキチャックまでの間のロッドの部分をいう。 以下同じ)の長さは、座屈等の影響を考慮して決定すること。 (2) 継手による強度の低下を見込むこと。 (3) シースによる強度の増加は過大評価しないこと。 (4) 露出部分には、2以上の断手を設けないこと。 (5) ロッドの継手は、ジャッキがロッドに沿って上昇する場合に支障とならず、かつ、ロッ ドの支持有効面積が小さくならないようにすること。 3-2-4 シースの設計 シースの設計に当たっては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) ロッドとのクリアランスは、作業に差し支えのない範囲内において極力小さくすること。 (2) シースの厚さは、ロッドの補強効果と、ロッドとコンクリートとのクリアランスとの関 連において適当なものとすること。 (3) シースの長さは、その下端がせき板の下端よりも下の位置にくるようにすること。 (4) シースの上端は、ジャッキの下端等に確実に取り付けること。 3-2-5 ジャッキの設計 ジャッキの設計に当たっては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) ストロークは、ジャッキの上昇速度が不ぞろいであることによる影響が型わく工に及ば ない程度とすること。 (2) 一つのロッドについて、2箇所以上にチャックを有し、かつ、駆動時においても停止時 においても、いずれかのチャックでロッドを確実につかんでいる機構を有すること。 (3) ヨークのクロスメンバーに確実に取り付けられていること。 (4) 油圧式の場合にあっては、送油管系統が破損しても、ロッドを確実につかんでいる機構 を有すること。 (5) 各ジャッキの制御方式は、上部設備を水平に保持しつつ、同時に上昇させる方式とする こと。 3-2-6 せき板の設計 せき板の設計に当たっては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) せき板は、厚さ2mm以上の鋼板を用い、かつ、スチフナー等によって補強すること。 (2) 断手は、せき板の剛性を低下させない構造のものとすること。この場合、重合せ継手と するときは重なり部分が相互に離れない構造のものとし、突合せ継手とするときはすき間 ができない構造のものとすること。 3-2-7 ヨーク ヨークは、十分な剛性を有する鋼材を用い、ヨークレッグの下端が開きにくい構造とする こと。 3-3 足場 上部設備に設けられる足場については、次に定めるところによること。 (1) 足場の骨組は、すべて鋼材で構成すること。 (2) 足場の床には、堅固な床材をすき間なく敷きつめるとともに、床材は、脱落しないように確 実に固定しておくこと。 (3) 足場の床の端部には、高さ15cm以上の幅木を設けること。 (4) コンクリート補修用足場、スピンドル調整用足場等にあっては、その外側に18番線以上の太 さの線材を用いた亀甲網等の鉄網を取り付けること。 (5) 墜落のおそれのある箇所には、高さ90cm以上の堅固な手すり及び中さん及び床面からの高さ が15cm以上の幅木を設けるほか、安全ネットを取り付けること。 (6) 足場の床に開口部を設ける場合には、開口部の全面を覆うことができるふたを設け、かつ、 そのふたが容易に移動し、又は脱落しないようにすること。 3-4 人荷揚げ卸し設備 人荷揚げ卸し設備で、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)第 12条第6号又は第13条第28号に規定するエレベーターに該当しないものは、次に掲げる要件を満 たすこと。 (1) エレベーター構造規(昭和37年労働省告示第56号)第26条に定めるブレーキと同等以上の能力 を有するブレーキを備えること。 (2) マンケージ(人用搬器)は、エレベーター構造規格第21条各号(第2号を除く。)を満たすもの であること。 (3) 独立した2本以上の巻上げ用ワイヤロープを有すること。 (4) 巻上げ用ワイヤロープの安全係数は、10以上であり、かつ、巻上げ用ワイヤロープとそのワ イヤロープを巻き取るドラム又はシーブとの直径の比は、それぞれ20以上であること。 (5) 巻上げ用ワイヤロープは、マンケージ及び巻上げ用ドラムに、確実な方法で結合されている こと。 (6) 次に掲げる各種の安全装置を備えること。 イ 巻上げ用ワイヤロープの巻過ぎを自動的に防止する装置 ロ マンケージの速度が定格速度に相当する速度の1.3倍を超えないうちに動力を自動的に しゃ断する装置 (7) 巻上げ用ワイヤロープは、次に該当しないものであること。 イ ワイヤロープの一よりの間において、素線(フィラー線を除く。)の数の10%以上の素線が 切断しているもの ロ 直径の減少が公称径7%を超えるもの ハ キンクしたもの ニ 著しい形くずれ又は腐食があるもの ホ よじれやすいもの (8) 各部の強度等は、エレベーター構造規格に規定する基準に準じたものであること。 3-5 連絡設備等 (1) 上部設備と地上には、相互に連絡するための電話、電鈴等の連絡設備を設けること。 (2) 前(1)の連絡設備を設けた場所には、信号、合図等の連絡の方法を明示すること。 (3) 人荷揚げ卸し設備の安全な運行を図るため、工業用テレビを備えることが望ましいこと。 3-6 測定用設備等 施工中における危険を予知するため、次に掲げる設備を設けること。 (1) 上部設備のねじれ、偏心等を測定するための設備 (2) 気温測定装置 (3) 風向計及び風速計 (4) 雨量計 (5) コンクリート試験用設備 (6) その他必要な設備 4 コンクリートの管理 4-1 管理の基本 コンクリートの施工に当たっては、その工事現場において均等質で所要の品質のコンクリート が得られるよう、材料、機械、設備、作業方法等を管理すること。 4-2 材料 材料は、品質の確かめられたものを用いること。 4-3 配合(調合) コンクリートの配合(調合)は、若材令において所要の強度が得られるよう、作業に適合する ワーカビリティをもつ範囲内で、単位水量をできるだけ少なくすること。 4-4 点検 コンクリート打ちを行うに当たっては、あらかじめ、次に掲げる事項について点検すること。 (1) 材料 (2) 計量装置、ミキサー、バイブレーター等の機械設備 (3) せき板、配筋等 4-5 コンクリート打ち及び養生 コンクリート打ち及び養生に当たっては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) 各材料の計量は、コンクリート標準示方書(仕様書)に基づいて行うほか、試験練り等の結 果によって作成された現場示方書(仕様書)に基づき実施すること。 (2) 練混ぜ、運搬及び打込みは、コンクリート標準示方書(仕様書)に基づいて行うこと。 (3) 締固めは、バイブレーターを用いてコンクリート標準示方書(仕様書)に基づいて行うこと。 (4) 養生は、低温、乾燥、急激な温度変化等によりコンクリートが有害な影響を受けないよう、 十分に行うこと。 4-6 材料及びコンクリートの品質についての試験 材料及びコンクリートの品質については、コンクリート標準示方書(仕様書)に従って、随時、 試験を行うこと。 4-7 レデーミクストコンクリート レデーミクストコンクリートを使用する場合には、JIS A5308(レデーミクストコンクリート) の規定に従って使用し、かつ、その配合(調合)は、同規格に定めるB種とすること。 5 施行 5-1 施工の基本 スリップフォーム工法の施工は、2-2の施工計画に基づき実施するとともに、気象状況その 他の状況を考慮し、慎重に行うこと。 5-2 施工速度の決定 施工速度(単位時間当たりのコンクリート打設の高さをいう。以下同じ。)は、脱型部分のコ ンクリート躯(く)体がその部分のコンクリート躯(く)体重量の2倍以上の重量に相当する荷重に 対して耐え得るよう、コンクリートの品質に応じて決定すること。 5-3 施工の制約 (1) 上部設備における風速が毎秒15mを超える場合には、墜落及び物の飛散を防止するため、そ の場所における作業を停止すること。 (2) 大雨、大雪、気温の著しい変化等により、コンクリートの若材令において所要の強度が期待 できない場合には、施工速度の変更その他コンクリートの若材令における強度を確保するため の措置を講ずること。 5-4 上部設備における作業管理者 (1) 安全で、かつ、円滑な施工を進めるため、上部設備における作業については、作業管理者を 選任し、その者に当該作業を管理させること。 (2) 作業管理者には、スリップフォーム工法についての十分な知識と経験との有する者を充てる こと。 (3) 作業管理者には、次の事項を行わせること。 イ 上部設備における作業の方法を決定し、関係者に周知徹底させること。 ロ 上部設備における作業を常時指揮すること。 ハ 命綱及び保護帽の使用状況を監視すること。 5-5 施工における留意事項 5-5-1 上部設備における作業 上部設備における作業においては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) 上部設備については、最大積載荷重を定め、これを見やすい箇所に表示すること。 (2) 上部設備には、定められた積載荷重を超える荷重となる材料、人員等を載せないこと。 (3) ロッドの継手は、平面上における他のロッドの継手と同一水平面内にないこと。 (4) 露出部分の長さは、3-2-3の(1)で定められた長さを超えないようにすること。 (5) 定期に上部設備のねじれ、偏心等を測定し、かつ、その結果を記録するとともに、ねじ れ、偏心等を認めた場合には、これを速やかに修正すること。 (6) ロッドの盛替えを行うときは、1本ずつ行うこと。 (7) 強風、大雨、大雪等の悪天候の後、地震の後又は上部設備の上昇の停止、(通常の作業 における場合を除く。)の後に上部設備において作業を行う場合には、作業開始前に、上 部設備の各部を点検すること。 (8) ジャッキは、その作動の状態を監視しながら作動させること。 (9) 地上との連絡は、定められた連絡方法により行うこと。 (10) 気温、風速、雨量等の気象状況については、1日2回以上一定の時間に測定し、かつ、 その結果を記録すること。なお、気象状況に急激な変化が認められる場合は、その都度、 気象状況の測定及びその結果の記録を行うこと。 5-5-2 人荷揚げ卸し設備の使用 人荷揚げ卸し設備を使用する場合にあっては、次に掲げる事項について留意すること。 (1) 人荷揚げ卸し設備で、令第12条第6号又は第13条第28号に規定するエレベーターに該当 するものについては、次に定めるところによること。 イ 技能を選考して指名した者には運転を行わせること。 ロ その日の作業の開始に当たっては、あらかじめ、巻過防止装置その他の安全装置、ブ レーキ、クラッチ及びコントローラーの機能並びにワイヤロープが通っている箇所の状 態を点検すること。 (2) 人荷揚げ卸し設備で、令第12条第6号又は第13条第28号に規定するエレベーターに該当し ないものについては、次に定めるところによること。 イ 技能を選考して指名した者に運転を行わせること。 ロ 巻過防止装置については、クレーン等安全規則(昭和47年労働省令第34号)第105条に 定めるところに準じて調整を行うこと。 ハ 最大積載荷重を定め、これを見やすい箇所に表示すること。 ニ 定められた積載荷重を超える荷重をかけて使用しないこと。 ホ その日の作業の開始に当たっては、あらかじめ、巻過防止装置その他の安全装置、 ブレーキ、クラッチ及びコントローラーの機能並びにワイヤロープが通っている箇所の 状態を点検すること。 ヘ 1月を超えない一定の期間ごとに1回、クレーン等安全規則第120条に定めるところに 準じて検査を行うこと。 5-5-3 関係者以外の立入り禁止 上部設備の下方には、関係者以外の者の立入りを禁止し、かつ、その旨を見やすい場所に 掲示すること。 6 上部設備の撤去 6-1 作業要領の決定 上部設備の撤去作業の開始に当たっては、あらかじめ、作業の安全性を検討した上で、作業要 領を決定すること。 6-2 作業指揮者の選任 撤去作業を行う場合には、作業指揮者を選任し、その者に次に掲げる事項を行わせること。 (1) 撤去作業を直接指揮すること。 (2) あらかじめ、その作業の方法及び順序を作業者に周知させること。 (3) 器具、工具、命綱及び保護帽の機能を点検し、不良品がある場合には、それを取り除くこと。 (4) 命綱及び保護帽の使用状況を監視すること。 6-3 作業者 撤去作業に従事する作業者には、高所作業に対する適格性を有し、かつ、技能に優れた者を充 てること。 6-4 その他 撤去作業を安全に行い得るよう、煙突等の上部に本設備として堅固な作業台を設けるよう努め ること。