安全衛生情報センター
平成26年度における労災補償業務の運営に当たっては、特に下記に示したところに留意の上、実効ある 行政の展開に遺憾なきを期されたい。
第1 労災補償行政を巡る状況への対応 労災補償行政を巡る状況として、精神障害事案に係る労災認定件数は3年連続で過去最多を更新し ており、脳・心臓疾患事案及び石綿関連疾患事案に係る労災請求・認定件数についても高水準で推移 している。また、印刷事業場の労働者に発症した胆管がんの労災認定がマスコミに大きく取り上げら れるなど、労災補償行政に対する国民の期待や関心は高まりを示している。 一方、都道府県労働局(以下「局」という。)の定員事情は近年厳しく、また、行政経費に係る予算 も縮減等が続いており、このような状況において、労災補償行政は、業務上疾病に係る請求事案への 的確な対応、組織的な取組による長期未決事案の早期解消等を着実に推進しつつあるものの、引き続 き、これらの状況に対応した業務運営が不可欠となっている。 今後、労災補償業務を的確に遂行し、被災労働者等に対する迅速かつ公正な保護を図るためには、 局と労働基準監督署(以下「署」という。)が連携して効率的かつ計画的な業務の実施を一層徹底する とともに、平成26年度においては、特に次の事項を重点的に推進することが重要である。 @ 胆管がん事案の的確な調査 A 石綿関連疾患の適正な処理及び医療機関への請求勧奨の依頼 B 精神障害に係る労災認定基準の円滑な運用及び迅速処理 C 労災診療費の適正払いの徹底 D 長期未決事案の新規発生防止と迅速処理の定着 また、労災補償業務において取り扱う行政文書については、個人情報を含むものが大半であること から、情報漏えいが生じないよう、厳正に管理する必要がある。 さらに、労災補償業務の質的向上を図るためには、職員一人一人の資質の向上と十分な能力発揮が 不可欠である。このため、計画的な研修の実施、職員相互の知識伝達・経験交流の機会の増大等に取 り組むことが重要である。 第2 業務上疾病に係る的確な認定業務の運用等 1 胆管がん事案の的確な調査等 (1) 的確な調査の実施 胆管がんに係る労災請求件数については、平成26年1月末日現在、印刷業で83件、印刷業以外で 20件の計103件となっているが、このうち、印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検 討会(以下「検討会」という。)において、50件(印刷業46件、印刷業以外4件)の検討を終了したと ころである。 ジクロロメタン又は1,2-ジクロロプロパンのばく露を受けたことにより発症した胆管がんについ ては、平成25年3月15日以降時効が進行するとしていることから、相当以前の業務を原因とする請 求事案についても調査の対象となるところである。このような事情の中にあっても、各局署で十分 な調査が行われてきた結果、これまでの検討会においては、円滑に事案の検討を行うことができて いるところであり、引き続き、胆管がんに係る労災請求事案については、的確な調査の実施に努め ること。 なお、事業場廃止や客観的資料が現存しないこと等により、被災労働者が所属事業場において従 事した具体的な業務内容、各所属事業場における化学物質の使用状況のほか、作業場の換気状況に ついて調査が困難となっている事案も数多くみられることから、各事項の調査に当たっては、次の 事項に留意すること。 ア 職歴及び従事業務の内容 被災労働者の職歴及び従事業務の内容は、事業場廃止等の事情により調査が困難な場合であっ ても、化学物質の使用状況を推測する上で重要であるため、当時の事業主や同僚等の事業場関係 者のほか、事業場の取引先業者等からの聴取等を行うことにより、可能な限り特定に努めること。 イ 化学物質の使用状況 化学物質の使用状況については、被災労働者の従事業務(印刷、製版、文選等)や事業場の製造 製品から推測するほか、被災労働者が在職していた当時に流通していた洗浄剤等の製品を業界関 係者から確認する等により、推測することが考えられること。また、本省に報告されたSDS(安全 データシート)については、今後も随時集約の上、情報提供することとしているので、参考とす ること。 ウ 作業環境 (ア) 換気設備の能力 事業場に設置されていた換気設備の排気能力が不明である場合は、換気扇であればその羽根 径の確認を必ず行うこと。なお、この確認に当たっては、被災労働者や同僚労働者等からの聴 取により、羽根径を推定しても差し支えないこと。 (イ) 換気設備の稼働状況等 事業場に設置されていた換気設備の稼働状況(稼働開始・終了時間、作業中の稼働の有無な ど)のほか、作業場内の外気に通じる窓等の開閉状況については、必ず確認を行うこと。なお、 特に洗浄・払拭作業時の稼働状況について確認すること。 (2) 本省への報告 本省において、検討会を適切に運営するためには、適時に署における調査の進捗状況を把握し、 以後の調査方針等について指示を行う必要があることから、調査が終了していない事案であっても、 請求書受付後6か月経過時点の状況について、本省補償課職業病認定対策室に報告すること。 2 石綿関連疾患の適正な処理等 石綿による健康被害を受けた労働者については、隙間なく救済することが求められているところで あり、労災補償行政としては、次の対応を的確に行うこと。 (1) 石綿疾患労災請求指導料に係る医療機関への説明等 石綿関連疾患に係る労災請求の促進のため、医療機関に対し、患者への職歴確認や労災請求の勧 奨の依頼を行うことが重要である。 石綿関連疾患に係る労災認定事案の診療を行った医療機関が提出したレセプトについて、来年度 においても引き続き、石綿疾患労災請求指導料の労災診療費請求をしているか否かを確認し、その 請求がない医療機関に対しては、改めて指導料について説明するとともに、石綿ばく露歴等チェッ ク表の活用と労災請求の勧奨の依頼を行うこと。 (2) 石綿関連疾患の適正な診断等 石綿関連疾患については、中皮腫など認定基準に定められた疾病に該当するか否かに関する適正 な診断が重要であることから、良性石綿胸水を除き、労災医員等の意見を必ず徴すること。また、 労災医員等において疑義が示されたもの等については、必ず確定診断の依頼を行うこと。 なお、良性石綿胸水の事案については、全数確定診断の依頼対象としていることから、労災医員 等の意見を徴することなく、確定診断の依頼を行って差し支えないこと。 (3) 石綿ばく露作業従事歴の的確な把握 石綿ばく露作業従事歴は、労災認定の前提となる事項であり、石綿関連疾患の確定した診断名及 び胸膜プラーク等の医学的所見の有無とともに最も重要な事項の一つであることから、請求人又は 遺族から聴取した内容を踏まえ、事業場関係者や同僚労働者から必要な聴取を行うことにより、可 能な限り詳細に把握すること。 また、石綿ばく露作業に最後に従事した事業場の名称は、公表の対象となることも踏まえ、最終 石綿ばく露事業場の確認は慎重に行うこと。 (4) 石綿関連疾患に関する労災補償制度等の周知 ア 認定事業場に対する退職労働者等への周知依頼 石綿関連疾患に関する労災補償制度等の周知のうち、労災認定等事業場に対する退職労働者等 への制度の周知依頼については、本省において引き続き実施していくこととしている。 その際、各事業場から周知状況等について報告を求めており、事業場からの報告内容について は、管轄の局へ情報提供することとしたので、局署においても、機会をとらえて、周知等未実施 の労災認定等事業場に対し、退職労働者等への制度の周知等を依頼すること。 イ 地方公共団体への周知依頼 局においては、市区町村に対して、石綿労災認定等事業場の公表時期に合わせて広報紙・誌へ の労災補償制度や特別遺族給付金制度の掲載の依頼を行うとともに、死亡届の受付窓口における リーフレットの配布等の周知について依頼すること。 (5) 石綿労災認定等事業場の公表 石綿労災認定等事業場については、局からの報告を取りまとめの上、例年本省にて公表を行って いるところであるが、平成25年度においては、公表後、事業場名等の情報の一部に誤りが確認され たため、後日訂正の公表を行ったところである。 今後はこのようなことのないよう、別途指示するところにより、漏れのない事実確認、正確な資 料作成などの事務を的確に行うとともに、本省への報告は、局管理者の指揮の下、組織的に確認を 行った上で提出すること。 3 精神障害の認定基準の円滑な運用等 (1) 認定基準の適切な運用及び迅速な処理 精神障害事案の処理については、当該認定基準及び精神障害の労災認定実務要領に基づき行われ ているところである。平成25年12月末時点において、この平均処理期間は、平成24年度実績に比べ て短縮傾向にあるが、これをさらに短縮し、6か月以内に決定することが肝要である。 このため、引き続き、請求人聴取等の初動調査を迅速に行うほか、調査計画の作成時においては、 決定に至るまでに必要となる調査事項を的確に洗い出した上で、調査事項ごとに適当な実施時期を 定めた実効ある調査計画を作成するなど、決定時期を意識した調査の実施に努めること。 なお、調査計画の作成時から早期の決定が見込まれる事案については、決定に至るまでに真に必 要となる処理期間を設定することとし、漫然と決定時期を請求書受付の6か月後等としないこと。 (2) セクシュアルハラスメント事案の適切な対応 セクシュアルハラスメント事案については、その性質から、請求人等からの相談時や聴取に当た って、プライバシーに特に配慮するほか、各局に配置している労災精神障害専門調査員(以下「調 査員」という。)を積極的に活用するなどにより、適切に対応すること。 なお、調査員については、セクシュアルハラスメント事案に限ることなく、精神障害事案全般の 相談や聴取時に活用すること。 4 受診命令の適正な実施 労災保険法第47条の2に基づく受診命令は、業務上外の認定に必要な医学的判断資料が得られてい る事案について行うことのないよう、その必要性について十分な検討を行うとともに、受診命令を発 出する際は、必ず請求人に対して受診命令の趣旨を明確に説明し、理解を求めること。 また、受診命令の実施の決定に関与した医師が当該受診命令による検査・診断等を行うことにより、 請求人に不信感を生じさせることのないよう留意すること。 5 認定基準等に定める本省りん伺等の徹底 認定基準等において、本省へのりん伺や協議を行うことを定めている事案については、業務上外の 判断の斉一性を保つため、確実にりん伺等を行う必要がある。 このため、署管理者は、請求受付後速やかに担当職員にりん伺等の要否を確認させるとともに、自 らも給付決定等の決裁の過程において要否を必ず確認すること。その際、別途送付する「業務上疾病 の認定基準及び関連通達集」の本省にりん伺等すべき事案に係る一覧表を活用すること。 また、新しい疾病に係る労災請求事案など、補504による報告が必要な事案については、漏れなく 報告すること。 第3 労災診療費の適正払いの徹底 1 地方厚生局等から提供された指導結果等情報を活用した適正な審査・支払の実施 地方厚生局等が実施した保険医療機関等に対する個別指導・監査及び適時調査の結果情報について は、平成26年度においても、相当数の情報提供が見込まれるので、引き続き、提供された情報の内容 を精査し、当該情報の内容に応じ、医療機関に対する照会・確認や指導等を計画的に実施するなど、 提供された指導結果等情報への対応を適切に行うこと。 2 手術料等に係る重点的な審査の徹底等 会計検査院からの労災診療費に係る指摘額については、年々減少してきているものの、いまだ手術 料及び入院料を中心に指摘されているため、引き続き、次のとおり適正な審査等を徹底すること。 @ 手術料については、骨折観血的手術における内固定材料又は創外固定器の使用の有無をレセプ トから確認する等、重点審査項目に基づく審査の徹底を図ること。また、入院料については、労 災保険指定医療機関の施設基準に関する情報の確認を的確に行うほか、疑義が生じた場合には必 要な照会を確実に行うこと。 A 誤請求の多い労災保険指定医療機関等に対しては、個別の実地指導を行うなど、適正払いに向 けた医療機関等への指導を徹底すること。 B 医療担当者に対する本省主催の会議・研修の内容の確実な伝達、主任審査補助員を活用した審 査担当者の教育や、審査業務で培ったノウハウの共有化を図るなどにより、審査担当者の資質の 向上を図ること。 3 労災診療費算定基準の改定に伴う的確な審査の実施等 労災診療費算定基準の改定については、平成26年度に予定されていることから、改定後には、労災 保険指定医療機関等に対して、速やかに改定内容の周知の徹底を図るとともに、新たな算定基準に基 づく的確な審査を実施すること。 また、労災保険柔道整復師施術料金算定基準及び労災保険あん摩マッサージ指圧師・はり師きゅう 師施術料金算定基準についても、平成26年度に改定が予定されていることから、診療費と同様、改定 後の関係団体への周知及び的確な審査を実施すること。 第4 長期未決事案の新規発生防止と早期解消 平成25年度の長期未決事案は、平成25年12月末時点において、前年同期比で約2割減少しており、 長期未決事案の新規発生の防止及び早期解消に向けた組織的な取組は着実に浸透しつつある。 しかしながら、一部の局においては、長期未決事案の減少がみられず、その多くの局では、特定の 署における長期未決事案が早期解消の妨げとなっている状況にある。 このため、次の事項に留意し、引き続き長期未決事案の新規発生の防止及び早期解消に努めること。 1 長期未決事案の新規発生の防止 長期未決事案については、請求書受付後、調査の着手までに相当期間が経過しているもの、適切な 時期に調査計画又は処理経過簿が作成されないもの、調査計 画に必要な調査事項が盛り込まれてい ないもの等が認められるため、請求書受付後、速やかに調査に着手するとともに、請求書受付後3か 月経過時において、調査に相当期間を要することが見込まれるものについては、調査計画を確実に作 成すること。 また、請求書受付後3か月経過した事案について、署管理者は、処理経過簿を月1回以上の決裁によ り確認するとともに、事案検討会を月1回以上開催して的確な進行管理を行い、原則として請求から6 か月以内の決定を目指すこと。 なお、処理経過簿は、的確な進行管理の目的のみならず、請求人等からの申立て等の内容・経過や、 職員の請求人に対する処理経過の説明の事跡等を記録するためにも重要であることから、確実に記載 すること。 2 長期未決事案の早期解消 (1) 局管理事案の留意点 長期未決事案の早期解消については、局による事案の的確な指導や職員全体の意識の向上、精神 部会の定期的な開催などの体制整備等により、その件数を大幅に減少させた局がみられる一方で、 署に対する的確な指導や指導後の履行確認の不徹底な局が認められる。 このため、局においては、請求書受付後9か月経過した局管理事案について、局労災補償課長(以 下「局課長」という。)等が組織的に検討を実施し、署長に対して事案の処理に関する具体的な指 示を行うとともに、その履行状況を確認すること。 また、労働基準部長は、局管理事案を進行管理する中で、処理が確実に行われているか確認し、 局課長に対して必要な指示を行うとともに、長期未決事案への取組が不十分と認められる署長に対 して直接指導を行い、署の事務処理能力の向上を図ること。 (2) 署長管理事案の留意点 署長管理事案については、署内での事案検討会等において署長による期限を付した具体的な指示 が行われていないもの、事案検討会を開催していない又はその記録がないもの、処理経過簿の決裁 がなされていないもの等があり、その結果、必要な調査やその取りまとめに長期間を要している状 況が認められる。 署長は、このような問題が生じないよう、処理経過の決裁時及び事案検討会において、期限を付 した具体的な指示を行うとともに、この処理経過簿等への記録及びその後の実施状況の確認を確実 に行うこと。 また、局管理者は地方監察等を通じて署長の管理状況を把握し、署長に対して必要な指示を確実 に行うこと。 3 第三者行為災害事案の適切な取扱い 平成24年度末時点における長期未決事案が多い局の状況をみると、長期未決事案のうち、多くの部 分を第三者行為災害事案が占めていたところである。 第三者行為災害事案については、原則として自賠責保険等の支払を労災保険給付に先行させる(以 下「自賠先行」という。)取扱いとしているが、労災請求時に請求人の意向を確認することはもとよ り、自賠先行の取扱いを請求人が希望した場合であっても、保険会社等からの支払に時間を要してい る状況を把握したときには、請求人の意向を適宜確認の上、労災保険給付の決定を先行し、長期未決 の状態にならないようにすること。 具体的には、労災保険の支給決定に係る調査結果が取りまとまった時点、自賠責保険等の支払に係 る訴訟等が提起される可能性を把握した時点、求償の対象期間である災害発生から3年を経過する前 の時点などにおいて、請求人の意向を確認すること。 第5 労災請求事案に係る的確な調査の実施等 1 的確な調査の実施 労災請求事案の事務処理に当たっては、支給・不支給の判断に必要となる事実を効率的に収集する ため、特に次の点に留意し、請求事案ごとに必要な調査項目を明らかにした上で計画的に調査を行う こと。その際、調査内容が重複することのないよう留意するとともに、聴取等が必要な関係者につい ては確実に行うこと。 (1) 支給要件に係る的確な調査 支給要件の判断については、的確な調査結果から適切に行うことが肝要であるため、局署管理者 は、担当職員が調査結果復命書を作成するに当たり、業務起因性のほか、労働者性や消滅時効の完 成等、支給要件ごとにその該当の有無及び根拠を簡潔に記載するよう指示し、事実認定や支給要件 についての判断が適正か否かを決裁過程で確実に確認すること。 (2) 療養(補償)給付のみ請求されている事案に係る調査 疾病に係る請求については、療養(補償)給付のみ請求され、休業(補償)給付が請求されていない 場合であっても、業務起因性等について確実に調査を行った上で、支給要件に該当するかを判断す ること。 また、負傷に係る請求についても、労働者性や業務遂行性等についての判断が必要であることか ら、事案に応じた必要な調査を的確に行うこと。 (3) 労働者性の調査及び平均賃金の算定に当たっての留意点 労働者性の判断に当たっては、法人の役員について、商業登記簿、定款等の内容や部長等の兼務 の状況等を十分に確認しないまま労働者性を認めた事案もみられているので、昭和34年1月26日付 け基発第48号「労災保険法における法人の重役の取扱について」等により示された労働者性の判断 基準に基づき、的確に調査を行った上で判断すること。 また、平均賃金については、事業場から提出された平均賃金算定内訳書のみに基づき算定するの ではなく、賃金総額に算入すべき賃金は、実際に支払われていないものであっても、賃金債権とし て認定すべきものは含むことを踏まえ、適正に平均賃金を算定すること。 2 休業(補償)給付と障害厚生年金等の併給調整の確実な実施等 (1) 請求書等に記載された厚生年金保険等の受給関係の確認の徹底 平成25年会計実地検査において、障害厚生年金等の受給状況の把握が十分でなかったことなどに よる休業補償給付の過大な支払が指摘されたことを踏まえ、休業(補償)給付請求の受付に当たって は、同請求書の裏面の「厚生年金保険等の受給関係」欄の確認を徹底すること。 また、傷病の状態等に関する届について、「厚生年金保険等の受給関係」欄に記載があった場合 には、その厚生年金等が休業(補償)給付と同一の事由によるものか否かを確認し、同一の事由によ る場合には、障害厚生年金等との併給調整を確実に実施すること。 (2) 障害補償年金等に移行した時点における併給調整の再確認 休業(補償)給付の受給者が障害(補償)年金等に移行し、障害厚生年金等との併給調整を行う場合 には、年金移行前の休業(補償)給付の併給調整の必要性についても必ず確認すること。 (3) 傷病の状態等に関する届の確実な提出 休業(補償)給付の受給者のうち、療養開始後1年6か月を経過した日において治ゆしていない者に 対しては、当該受給者の傷病の状態の程度にかかわらず、傷病の状態等に関する届等を送付し、同 届を確実に提出させること。 第6 労災補償業務の適正な事務処理の徹底 1 基本的な事務処理の徹底 (1) 請求書等の即日又は翌日入力 受け付けた請求書等については、システム化されている業務に係るものは、入力前の請求書等の 特定の場所への保管を徹底し、請求書等の即日又は翌日入力を確実に実施すること。 また、請求書等を含め複数の文書が郵送により提出された事案について、請求書等が他部課に配 付されたことによる入力遅延が散見されることから、文書収受に携わるすべての職員に対して、請 求書等の即日又は翌日入力の必要性について十分説明し、適切な文書の配付を依頼すること。 (2) 入力後の請求書等の特定の場所での保管の徹底 入力後の請求書等については、その紛失を防止するため、特定の場所での保管を徹底し、少なく とも業務終了後における個人の机等での保管は厳に慎むこと。 2 請求人等への懇切・丁寧な対応 (1) 相談者等に対する丁寧な説明の実施 労災請求に関する相談対応の際には、相談者の傷病、年齢等の事情を踏まえた接遇を行い、わか りやすい言葉で丁寧に説明すること。 また、相談者等が請求することができると思われる労災保険の各種給付について、通院費や休業 補償特別援護金なども含め、漏れのない説明を行うよう徹底すること。 その際、相談者等が同一の傷病により健康保険による傷病手当金を受給していることをもって、 必ずしも労災保険の休業(補償)給付の支給要件に該当しなくなるものではないことに留意すること。 (2) 不支給決定等の場合の理由の説明 労災保険給付の不支給決定等の処分の通知を行う場合には、その処分理由を的確かつ具体的に記 載するよう指示されているところであり、「労働基準法施行規則別表第1の2に定める業務上疾病に 該当しないため」等の抽象的な理由の記載ではなく、労災保険給付事務取扱手引に示された事例を 参考として、具体的に不支給理由を記載すること。 また、脳・心臓疾患事案、精神障害事案及び長期未決事案の不支給決定を行った場合には、その 理由等についてわかりやすく説明するなど、引き続き請求人等への懇切・丁寧な対応を徹底するこ と。 3 労災年金関係業務の適正な処理 (1) 基本権取消事案の発生の防止 当初決定した年金の基本情報に誤入力等があったためシステム上の基本権を取り消す処理を行う 必要が生じた事案がみられることから、この発生を防止するため、支給決定時及び支給決定決議入 力時等において職員相互のチェック体制及び署管理者の審査・確認体制を確実なものとし、決裁時 における適正な事務処理を徹底すること。 (2) 厚生年金等との併給調整 厚生年金等との併給調整については、これまでに、遡及して厚生年金等の決定を受けたが併給調 整を行っていない事案や、労災年金とは同一の事由ではないのに併給調整が行われている事案等が 依然として見受けられることから、「厚年情報照合リスト」には適正な併給調整を行うために必要 な情報が含まれていることより、同リストを活用するとともに、定期報告書審査時等に添付された 厚生年金等の改定通知書等の添付書類の内容を精査し、疑義が生じた事案については、年金受給者 本人又は年金事務所等へ照会等を迅速に行うことにより、適正な給付に努めること。 (3) 文書報告事案に関するシステム改修 現在、局より本省労災保険業務課に文書報告事案として報告されているものについて、平成26年 度上半期において、署で機械処理を可能とするためのシステム改修を実施する予定である。詳細に ついては、システム改修のリリース時期が確定次第、追って通知する。 4 不正受給防止対策の徹底 不正受給については、第三者からの投書等の情報を得た場合には、署内で組織的に検討の上、実地 調査等を行うこと。併せて、署長は不正受給の疑いのある事案を把握した場合は、速やかに局に報告 すること。 また、不正受給の疑いのある受給者に対しては、確実に聴取等の調査を行い、不正受給と認められ る場合は原則として告発を行うこと。その際、局は署に対し、調査方法等について必要な指導を行う とともに、不正受給者に対する費用徴収を確実に行うこと。 5 労災かくしの排除に係る対策の一層の推進 全国健康保険協会(協会けんぽ)各都道府県支部から、業務上又は通勤による負傷に当たるとして、 健康保険法の保険給付について不支給(返還)決定を受けた者の情報を受け、それらの者に対して労災 請求の勧奨を行う取組については、引き続き推進を図ること。 健康保険法等の一部を改正する法律(平成25年法律第26号)が、平成25年10月1日から施行され、健 康保険の被保険者又は被扶養者の業務上の負傷について、労災保険の給付対象とならない場合は、健 康保険の給付対象とすることとなったため、健康保険の保険者等から労災保険に係る事項について照 会があった場合には、適切に対応すること。 また、労災保険給付に係る審査又は調査において、労災かくしが疑われる場合には、速やかに監督・ 安全衛生担当部署に情報を提供するなど、引き続き関係部門との連携を図ること。 なお、新規の休業補償給付支給請求書の受付に際し、労働者死傷病報告の提出年月日の記載がない 場合には、監督・安全衛生担当部署への情報提供を徹底すること。 6 労災請求事案等に関する監督・安全衛生担当部署との連携 (1) 監督・安全衛生担当部署への情報提供 脳・心臓疾患事案又は精神障害事案については、労災請求がなされた段階において、速やかに監 督・安全衛生担当部署へ情報提供を行うよう徹底すること。 また、精神障害事案については、上記に該当する事案も含めすべての認定事案について、安全衛 生担当部署への情報提供を行うこと。 さらに、新しい疾病に関する請求事案等であって、補504により本省への速報が必要なものにつ いては、必ず監督・安全衛生担当部署にも情報提供を行うこと。 (2) 効果的な労災補償制度の周知及び請求勧奨の取組 ア 技能実習生に対する労災補償制度の周知及び請求勧奨の取組 技能実習生については、我が国の労災補償制度についての知識が十分ではない場合が多いこと から、機会をとらえて労災補償制度の周知等を行うとともに、監督・安全衛生担当部署や公益財 団法人国際研修協力機構(JITCO)からの情報等により、労災保険給付の支給対象となり得る者を 把握したときは、労災保険給付の請求勧奨を実施する等適切に対応すること。 イ 集団指導等の機会をとらえた認定基準の周知の取組 精神障害及び脳・心臓疾患の認定基準については、監督・安全衛生担当部署が行うメンタルヘ ルスに関する集団指導等の機会をとらえ、これらの部署と連携を図り、その対象に応じた周知を 行うこと。 第7 適正な文書管理 1 行政文書の適正な管理 (1) 文書廃棄時の確認の徹底 平成25年度において、保存期間満了前の行政文書ファイルの誤廃棄が複数発覚している。 保存期間が満了した行政文書の廃棄のための文書の選別に当たっては、誤廃棄を防止するため、 平成22年12月27日付け基労発1227第1号「労災保険関係書類等のリスク評価に基づく対策の導入に ついて」に基づき、管理者(局においては労災補償課長、署においては労災担当課長。ただし、複 数次長制署においては労災担当次長。)又は補助者と担当者の複数名で行うよう徹底すること。 また、行政文書に該当しない不要書籍等の廃棄に当たっても、廃棄対象に行政文書が混入するこ とがないよう、廃棄時に複数名で確認すること。 (2) 所定の場所における保管の徹底 個人情報を含む行政文書ファイルの保管は、所定の場所において行い、その散逸を防ぐこと。 2 個人情報の厳正な管理 個人情報の厳正な管理については、平成25年度においても、多数の情報漏えいが生じていることか ら、次の事項に留意し、引き続き個人情報の厳正な管理を徹底すること。 (1) 誤送付の防止 誤送付については、送付先の医療機関が別法人で同一名称であったことにより宛先を誤った事案、 文書作成時に以前使用したデータを上書きして作成したことにより宛先又は記載の情報を誤った事 案、送付文書の一部に別人に係る文書が混入した事案がそれぞれ複数発生している。 文書の送付に際しては、平成22年11月30日付け地発1130第2号「都道府県労働局における保有個 人情報管理の徹底等について」及び平成25年2月28日付け地発0228第3号「都道府県労働局における 保有個人情報の管理の徹底等について」(以下「保有個人情報管理徹底通達」という。)に基づき、 送付状だけでなく送付文書のすべてについて複数人で確認するよう徹底すること。また、送付文書 に係る決裁の際には、決裁者は請求書等の他の文書と突合する等により、送付文書を十分確認する こと。 (2) 請求書の紛失の防止等 請求書等の受付後の紛失については、その大半が請求書等を誤って細断したと考えられるもので ある。 インターネットでダウンロードし提出された請求書は、コピー用紙等として販売されている用紙 への印刷が一般であり、その紙質から他の文書との混同が生じやすくなっているため、これまで以 上に、所定の保管場所での保管、クリアファイル等を活用した他の文書との混同の防止、不要文書 廃棄(細断)の際の確認の徹底等により、請求書等の紛失及び誤廃棄の防止を図ること。 また、局署間の送付文書について、送付までの間に紛失した事例も認められるため、文書の送付 は速やかに行うとともに、保有個人情報管理徹底通達に基づき、請求書等については特殊取扱郵便 により送付することが望ましいこと。 さらに、外部電磁的記録媒体の利用に当たっては、その貸出の管理簿による管理を徹底するとと もに、持ち出し時点では個人情報が保存されていない媒体であっても、聴取書作成等の個人情報を 記録する目的での庁舎外への持ち出しは行わないこと。 第8 社会復帰促進等事業の的確な実施 1 アフターケア、義肢等補装具費等に係る適切な事務処理 社会復帰促進等事業として行われる事業のうち、アフターケア健康管理手帳の交付・不交付決定や 義肢等補装具購入費の支給の承認・不承認決定等については、平成22年12月から行政処分と取り扱わ れているところであるが、これらの行政処分については、行政手続法に定められた事務を行うべきと ころである。 しかしながら、①傷病コードの記載漏れがあるアフターケアの健康管理手帳の交付申請について、 申請者に補正を求めることなく当該記載漏れの箇所に職員が記載し健康管理手帳を交付したもの、② アフターケアの健康管理手帳の交付決定を行ったにもかかわらず、当該交付決定を取り消すことなく、 新規申請のない中、他の傷病のアフターケアの健康管理手帳の交付決定を重ねて行ったもの、③義肢 等補装具購入費の支給の不承認決定において、申請者に交付された通知書の処分理由欄に、単に支給 要件に該当しないことのみを記載したもの等、事務処理に適切さを欠く事案が生じている。 今後、これらの事案の発生を防止するため、申請の形式上の要件に適合しない申請があった場合に は、行政手続法第7条に基づき申請者に対し補正を求めること。また、社会復帰促進等事業において 不承認決定等の行政処分を行う場合には、行政手続法第8条が処分理由を示さなければならないと規 定しており、不承認決定等に係る通知書への処分理由の記載は、可能な限り具体的に行うこと。 2 労災就学等援護費に係る適切な事務処理 (1) 申請書の即日又は翌日入力 労災就学等援護費申請書については、平成23年11月から、労災年金に係る請求書の受付入力がな されていれば、その決定前でも受付入力が可能となったことを踏まえ、申請書の即日又は翌日入力 を徹底すること。 (2) 通信制課程等の支給対象化 労災就学援護費の支給対象については、平成25年6月24日付け基発0624第2号「「労災就学援護費 の支給について」の一部改正について」により、平成25年4月1日から、通信制中学校、通信制高等 学校、中等教育学校の後期課程の通信制課程、特別支援学校の高等部の通信制課程、通信制専修学 校に在学する者が新たに対象となったことに留意すること。 (3) 年金受給権者に変更があった場合等の申請の勧奨 労災就学等援護費については、孫又は兄弟姉妹が新たに年金受給権者になったことや、遺族補償 年金の請求当時は未就学であった年金受給権者又は被災労働者の子がその後就学等したことにより、 支給要件を満たしたにもかかわらず、年金受給権者にその認識がないまま申請が行われない事案が、 いまだ認められるところである。 平成25年9月には、「労災就学援護費未支給者リスト」の配信(年3回)が開始されたことから、署 においては、これを活用して申請漏れの有無を確認し、労災就学等援護費の支給要件を満たすと考 えられるにもかかわらず申請がなされていない場合には、申請を勧奨すること。 第9 費用徴収 1 該当事案の漏れのない把握の徹底及び的確な徴収決定 労働者災害補償保険法第31条第1項に基づく費用徴収については、該当事案の漏れのない把握のた め、署においては、支給決定を行う際に保険料の納付状況を必ず確認するよう徹底し、局においては、 滞納事業場リストや労働者死傷病報告提出事業場リスト等の情報を定期的に把握し、署からの報告に 漏れがないか確認すること。 また、局管理者は、保険給付の支給決定から不必要に間隔を空けることなく費用徴収の該当の有無 を判断するため、署からの報告により把握した事案のリストを定期的に決裁し、速やかな費用徴収の 該当の有無の決定を行うこと。 2 定期的な納入督励の確実な実施及び組織的な進捗管理 費用徴収に係る債権管理については、進捗状況を組織的に管理することが必要であることから、局 管理者は、収納状況や時効中断措置又は納入督励の実施状況を記載できるリストを定期的に決裁の上、 債権管理計画に基づき、処理の遅れや時効中断措置の漏れがないよう徹底すること。 第10 第三者行為災害 1 徴収決定すべき事案の把握の徹底及び的確な徴収決定 (1) 徴収決定すべき事案の把握の徹底 第三者行為災害の求償事案については、署において、局への債権発生通知の報告の遅れにより当 該債権を時効により消滅させることがないよう、求償権を取得した事案について、初回の保険給付 を行った際には、速やかに保険給付(求償権取得・債権発生)通知書により報告を行うこと。また、 2回目以降の保険給付については四半期ごとに取りまとめ、局へ報告を行うことを徹底すること。 なお、当該報告については、署において組織的に管理すること。 (2) 的確な徴収決定 局においては、署から債権発生通知書が報告された場合は、納入告知を行わずに当該債権を時効 により消滅させることがないよう、速やかに債権の調査確認を行い、債権調査確認決定決議を遅滞 なく行うことを徹底すること。 また、当該事案の管理については、災害発生から3年以内に求償すべき債権を的確に徴収決定す るため、組織的に進行管理を行うこと。 なお、任意一括事案について、保険会社が過失割合等について第一当事者と示談交渉中であるこ と等を理由として、保険会社が直ちに求償に応じない事案等の納入告知の方法については、別途通 知することとしているので、当該取扱いにより行うこと。 2 定期的な納入督励の確実な実施及び組織的な進捗管理 第三者行為災害の損害賠償債権については、労災保険給付事務取扱手引において、債権管理計画を 策定の上、個々の債権の状況を管理し、同計画に基づく納入督励等を行うよう指示されているところ である。 このため、局においては、徴収決定した債権について、漫然と時間を経過させ時効を迎えることが ないよう組織的に管理し、局管理者は、収納状況や時効中断措置又は納入督励の実施状況について定 期的に決裁の上、必要な措置を講じること。 また、債務者に対する納入督励業務は、平成24年度から一部外部委託しているので、引き続きこれ を積極的に活用し、適正な納入督励を図ること。 なお、債権額が300万円以上の高額のものについては、求償額等について行政と債務者の見解に相 違点が存在する等、回収に当たって困難が伴うと見込まれる場合、弁護士又は弁護士法人に回収業務 を委託することが可能であることから、この積極的活用を検討し、債権回収計画に盛り込むこと。 第11 特別加入制度 1 特別加入手続きの変更等に伴う事務処理の徹底 (1) 基本的事務処理の徹底 特別加入に係る事務処理については、平成25年11月に申請書等の様式の改正、提出部数の変更、 特別加入システムの稼働等を行ったところである。これに伴い、労災保険特別加入関係事務取扱手 引を作成し、別途通知することとしているので、特別加入に係る承認等及び保険給付に際しては、 当該手引に基づく基本的な事務処理を徹底すること。 (2) 給付基礎日額の変更手続き 特別加入者に係る給付基礎日額については、特別加入者の所得の実態や本体給付との均衡を踏ま え、平成25年9月1日からその上限が25,000円に引き上げられたところである。改正時点で既に特別 加入していた者については、平成26年度に適用される給付基礎日額から当該上限額の選択が可能と なっている。その変更手続きが可能な時期は、年度末(3月18日から3月31日)及び年度更新期間であ ることから、これらに際して実施する説明会等の機会をとらえて、当該内容を周知すること。 また、給付基礎日額の変更決定を行った場合は、その内容を申請者に対して確実に通知すること。 2 特別加入制度の周知 (1) 建設業の一人親方等に対する特別加入制度の周知等 建設業の一人親方等の特別加入制度については、安全衛生担当部署と連携の上、建設業の事業者 団体等を通じ、あらゆる機会をとらえて周知すること。 また、周知に際しては、特別加入制度は労働者以外の者のための制度であること等、制度の趣旨 を丁寧に説明し、十分な理解の上で加入申請が行われるよう留意すること。 なお、粉じん作業等に一定期間従事したことのある者が特別加入を希望する場合、加入時健康診 断の受診が必要であることも併せて説明し、局においては、対象となる者が速やかに加入時健康診 断を受診できるよう、管内の地理的事情等を踏まえ、特別加入希望者の利便性に配慮した健康診断 実施機関との委託契約を行うこと。 (2) 海外派遣者の特別加入制度の周知 海外派遣者に対する補償制度については、社会的な関心が高まっていることから、海外派遣者の 特別加入制度について、労働保険年度更新説明会等での周知に加え、パンフレット等を活用して事 業主団体を通じた周知を図ること。 なお、周知に当たっては、平成25年11月以降、派遣予定期間について、特別加入申請書への記載 が不要となったことから、派遣予定期間の延長があった者についても、特別加入に関する変更届の 提出は不要となっていることに留意すること。 第12 行政上の争訟に当たっての的確な対応 1 行政事件訴訟の的確な追行 平成25年度の訴訟追行状況については、おおむね適切に立証活動が行われていると認められるとこ ろであるが、中には訴状の請求の原因に対する答弁において、一部の事項について安易に「認める」 としたために、その後の立証活動に支障が生ずることとなった例も認められたところである。 このため、訴訟追行に当たっては、法務当局はもとより、本省補償課労災保険審理室とも緊密な連 携の下、次の点に特に留意し、的確な処理を徹底すること。 (1) 新件提訴時の協議等の留意点 新件が提訴された段階等における留意点は、次のとおりである。 ① 新件協議を的確に実施するため、局において、事前に、事案に係る問題点、主張・立証上の ポイント等について十分把握・分析するとともに、原告の各主張に対する応訴方針を明確にし た上で、本省との協議に臨むこと。 ② 訴状の請求の原因に対する答弁に当たっては、原告の主張する内容を子細に検討し、その後 の立証上のポイントをも踏まえた上で、慎重に認否を決定すること。 ③ 既存の調査資料等を確認し、原処分庁の調査不足等により原告の主張に対して十分な主張・ 立証ができない場合には、必ず補充調査(関係者からの聴取、専門医の意見書等の資料の収集 など)を実施し、早期に必要な証拠を確保すること。 ④ 疾病の発症機序等、医学的な事項が主要な争点となっている事案については、専門医による 専門的かつ分かりやすい意見書を裁判所に複数提出し、これに基づき説得力のある主張を行う よう努めること。また、意見書の作成を依頼する専門医に対しては、証人としての出廷につい ても同意が得られるよう配意すること。 (2) 訴訟追行中の新たな主張等への対応 訴訟追行中に新たな主張がなされた場合等には、次のとおり対応すること。 ① 災害の原因や疾病名等の基本的な争点について、提訴後において主張の追加や変更がなされ た場合には、速やかに応訴方針を検討し、主張・立証に必要な証拠の収集等に努めるとともに、 これら主張の追加や変更が提訴後相当期間経過して行われた場合には、時機に遅れて許されな いものである旨の主張が可能か否か法務当局と相談・協議を行うこと。 ② 局管理者は、訴訟の進ちょく状況を常に把握し、特に準備書面案の作成、医学証人の選定な どの重要な段階において、訟務担当者に対する具体的な指示・指導を適切に行うこと。 2 審査請求事案の迅速・適正な処理 近年、審査請求件数が高止まりにある中、特に次の点に留意し、審査請求事務について一層迅速か つ適正な処理を図ること。 (1) 的確な進行管理 審査請求受理後6か月以上経過した長期未決事案については、平成25年12月末現在、前年同期に 比べて減少しているところである。局課長は、引き続き、労災保険審査請求事務取扱手引等に基づ き、毎月必ず審査請求事件ごとの審理状況を把握するなど、的確な進行管理を行い、長期未決事案 の更なる減少に努めること。 特に、長期未決事案が減少しない状況が続く局にあっては、個々の事案ごとに、処理経過簿に記 載された各月の実施事項を確認する等により、長期化している原因を把握し、その解消のために実 施すべき事項について審査官に対し具体的に助言する等必要な措置を速やかに講じること。 (2) 適正な審査決定 審査官における新たな証拠資料の収集及び追加調査等は、必要最小限にとどめることとしている が、原処分の調査内容が、適正な決定を行うために十分であるか否かについて、慎重に見極めを行 い、これに不足等があると認められる場合には、改めて関係者からの聴取や医師意見書の収集等を 行うよう徹底すること。 3 文書提出命令への対応 文書提出命令の申立てについて、裁判所から、文書の所持者である署や局に対し、文書提出義務の 有無についての意見を求められた場合には、裁判所が定めた期限内に意見を提出しなければならず、 また、提出義務がない旨の意見を提出したにもかかわらず、これに反して文書の提出が命令された場 合には、当該決定後短期間に即時抗告等の可否について決定しなければならない。このため、これら の通知を受領した際は、直ちに本省補償課労災保険審理室に報告すること。特に、署に通知があった 場合において、署から局への報告が遅延することのないよう徹底すること。 また、裁判所に対象文書を提出することが適当でない旨の意見書を提出する際は、対象文書の記載 内容に照らし、公務の遂行に生ずる支障をできる限り具体的に記載すること。 第13 地方監察の的確な実施 地方監察は、関係法令、通達等に基づく事務処理の適正かつ斉一的な実施に不可欠なものであるこ とに配意し、地方労災補償監察官監察指針を踏まえ効果的に実施すること。 特に、是正改善を要する事項は、単に問題点として提起するのみならず、当該問題の生じた背景、 原因を明らかにし、是正改善策について具体的に指導、助言するとともに、是正改善措置が継続的に 実施され適正な事務処理が確保されているかの検証を的確に行うこと。 また、地方監察結果と併せ、平成25年度中央労災補償業務監察結果報告書の内容と局署の事務処理 とを照らし合わせて自局の問題点等について検証の上、整理し、改善すべき事項や事務処理の留意点 等を各種会議、研修等のあらゆる機会を通じ、すべての労災担当職員に周知・徹底すること。 第14 研修の充実等職員の資質向上 初めて労災補償業務に就く者に対しては、労災業務OJTマニュアル等に基づき実地訓練を計画的か つ確実に行うこと。 また、新任の署管理者に対しては、局署の課題や局業務実施計画を踏まえた各管理者の果たすべき 役割等について、十分な時間を確保した研修を行うこと。 第15 その他 1 労災レセプト電算処理システムの普及促進 労災レセプト電算処理システムの普及促進については、労災保険給付の適正化及び審査事務の効率 化等の観点から重要であることから、平成26年1月24日付け基労発0124第1号「労災レセプト電算処理 システムの普及促進に向けた取組について」に基づき、平成28年度までを普及促進期間として、労災 保険指定医療機関等への利用勧奨を確実に行うこと。 2 訪問看護費用システム開発による本省払い化 訪問看護費用のシステム化については、平成26年9月を目処に実施する予定である。当該システム の稼働に伴い、請求様式がOCR帳票となり、訪問看護費用の支払いは、本省払い化されることとなる。 訪問看護費用に係る事務処理については、別途指示するところにより適正に取扱うこと。