安全衛生情報センター
第三次産業(交通運輸業及び貨物取扱業を除く。以下同じ。)における休業4日以上の死傷災害は、ここ 10年間横ばい状況にあり、災害発生件数全体に占める割合は、全産業の4割を超えており年々増加傾向に ある。 一方、「新成長戦略」(平成22年6月18日閣議決定)における「(別表)成長戦略実行計画(工程表)」にお いて、2020年までに実現すべき成果目標として「労働災害発生件数を3割減」が掲げられたことから、目 標達成のため、第三次産業における労働災害を大幅に減少させる必要がある。 しかしながら、第三次産業の多くの業種においては、建設業、製造業等に比べて災害発生率が低いこと もあり、労働災害防止に関する取り組みが低調な事業者が少なくないことから、事業者が労働災害防止に 取り組む気運の醸成を図りつつ、災害減少に向けて中長期的に施策を推進することが重要である。なお、 短期的には休業4日以上の死傷災害件数は毎年3%減少させることが必要となっているが、平成22年におけ る同件数は前年比1.9%増となっており、本年は前年比5%の減少を目標に取組を強化することが必要とな っているところである。 このため、下記により、本省、都道府県労働局(以下「局」という。)及び労働基準監督署(以下「署」 という。)が各々の役割を果たしながら、第三次産業における労働災害防止対策(以下「対策」という。) を進めていくこととしたので、了知の上、対策の的確な実施を図られたい。
1. 基本的考え方 (1) 第三次産業における労働災害と対策の現状 第三次産業における労働災害は、年間5万件近く発生しており、全産業の4割を超えている(別紙1図 1参照)。その業種内訳は、災害の多い順に小売業12,329件(25.0%)、社会福祉施設5,533件(11.2%) 及び飲食店4,021件(8.2%)と、これら3業種で第三次産業全体の4割半を、全産業の2割弱を占めている (別紙1図2参照)。 また、事故の型別では「転倒」14,619件(29.6%)及び「動作の反動・無理な動作」(以下「動作の反 動等」という。)7,836件(15.9%)といった比較的重篤度の高くない災害で、第三次産業における事故 の型全体の4割を超える状況にある(別紙1図3参照)。 さらに、上記3業種においては、災害発生率(年千人率)が全産業平均より低い特徴が見られる(別紙1 図4参照)。 これまで、第三次産業における労働災害防止対策は、別紙2のとおり、労働災害発生件数の多い業種、 労働災害発生率の高い業種等について、業種別ガイドラインやモデル安全衛生管理規程等を活用した 対策やリスクアセスメント等の実施促進、交通労働災害防止対策等を業界団体等の協力を得ながら進 めているところである。 しかしながら、第三次産業においては、災害発生件数の多い小売業、社会福祉施設、飲食店等の業 種を中心に、[1]業界として労働災害防止への関心が高くない、[2]指導対象事業場が広範囲にわたる 等の課題があり、これまでの対策が必ずしも災害減少に結びついていない状況にある。 (2) 対策推進に当たっての方向性 上記(1)の労働災害及び対策の現状を踏まえ、新成長戦略において掲げられた「労働災害発生件数を 3割減」の目標を達成するため、従来の対策に加え、小売業、社会福祉施設、飲食店等を対象として、 「転倒」、「動作の反動等」による災害防止を重点として、事業者の労働災害防止への関心を高めつつ、 自主的活動を促進するための対策を進めていくこととする。 2. 対策の進め方 (1) 自主的活動を促進するための対策 小売業、社会福祉施設及び飲食店において、事業者の労働災害防止への関心を高めつつ、自主的活 動を促進するための対策として、4S活動(整理、整頓、清掃、清潔)の普及を促進することとし、事業 者が労働災害防止に取り組む気運の醸成を図ることとする。 4S活動とは次のとおり、職場の安全確保のための基本的活動であり、事業者が比較的取り組みやす く、事業場における安全衛生管理のみならず、品質管理、生産性向上、顧客満足、ひいては経営改善 にも役立つ活動である。 「整理」:必要な物と不要な物を分けて、不要な物を処分すること。 「整頓」:必要なときに必要な物をすぐ取り出せるように、わかりやすく安全な状態で位置させること。 「清掃」:身の回り、空気をきれいにして、衣服や作業場のゴミ・汚れ等をもとから取り除くこと。 「清潔」:整理、整頓、清掃を繰り返し、衛生面を確保し、快適な状態を実現・維持すること。 このため、4S活動普及促進のためのリーフレット、手引き書等を作成してあらゆる機会を捉えて周 知広報を行うとともに、「転倒」、「動作の反動等」等の災害を発生させた事業場を対象に集団指導 を行うこと等により、同業種の事業場、更に業界への普及促進を図ることとする。 その際、局及び署の主体的能力を勘案して周知広報、自主点検、集団指導等の指導手法を組み合わ せるとともに、外部資源も活用しつつ効率的に実施することとする。 (2) 対策実施の手順 業種ごとに、下記3.に示す特徴を踏まえた4S活動の普及促進を本省、局、署の各々の役割に応じて、 次に示すとおり、原則として、2カ年単位で計画的に実施する。小売業及び社会福祉施設は平成23年度 から開始し、飲食店については、平成24年度以降に開始することとする。また、その他の業種につい ても災害の発生状況に応じ同様の対策を実施することとする。 ア 1年目は、本省において、リーフレット、手引書等作成、業界団体への要請等周知広報を行う。局 においては、管内の業界団体、商工団体等への周知広報を行い、署との役割分担により災害発生事 業場の企業本社等効果の見込める事業場への指導を行う。 イ 2年目は、局においては、効果の見込める事業場に対する自主点検を行う。また、自主点検結果を 踏まえ、署との役割分担により集団指導又は個別指導を行う。 ウ 3年目以降は、本省において、年度末に把握した問題点を踏まえ、必要に応じて対策の見直しを行 った上で、局において、指導対象を拡充する等により、2年目の手法で継続的に実施することとする。 3. 業種ごとの具体的実施事項 (1) 小売業 小売業については、全事業場数(約120万)のうち、災害全体の4割を占める労働者数50人以上規模事 業場(約20,000事業場)を優先対象として、次のとおり実施する。その際、複数の店舗等の事業場を有 する企業本社又は中核となる支社(以下「多店舗企業本社等」という。)単位で、業界団体、商工団体 等加盟企業を優先的に進める。なお、災害全体の2割を占める「各種商品小売業」については、全数 (4700)を指導対象とする。また、労働者数10人未満規模事業場(約100万)については、災害全体の2割 であり、周知広報に留めることとする。 ア 年度ごとの実施事項 [平成23年度] (ア) 4S活動普及促進に関するリーフレット作成(本省 第二四半期) (イ) 関係業界団体、商工団体等への周知広報・要請(本省・局 第二〜四四半期) 別途作成するリーフレット及び手引書等を活用して管内の関係業界団体に対して災害防止の要請 を行うこと (ウ) 災害発生事業場の多店舗企業本社等への指導(局・署 第三四半期中) 管内の多店舗企業等において、その傘下事業場が労働災害を発生させた場合には、企業本社又は 管内の中核となる支社に対して、リーフレット等により、個別指導又は集団指導を行うこと。 (エ) 4S活動等取組好事例を収集の上、周知広報、指導用の手引書等作成、業界団体等に対するセミナ ー開催等(本省委託事業 通年) (オ) 全国展開多店舗企業本社等(各種商品小売を優先)への指導(本省委託事業 第三四半期) 全国展開の多店舗企業本社に対して、委託事業により、4S活動の普及を中心とした個別訪問指導 を別途示すところにより実施するので、企業の選定について留意願いたい。 [平成24年度] (ア) 次の事業場等に対する自主点検(局 第一四半期) a 管内の多店舗企業本社等 b a以外で「転倒」、「動作の反動等」又は「墜落・転落」による災害発生事業場で4S活動の普及 が必要と認められる事業場 c 要請を行った業界団体、商工団体等傘下事業場 d 各種商品小売業の事業場 e 上記 a〜 d以外で労働者数50人以上の事業場 (イ) 自主点検結果を踏まえた集団指導又は個別指導(局・署 第二、三四半期中) 平成23年度に本省において作成した手引き書を活用して、次の事業場等に対して集団指導を行 うこと。 a 自主点検未回答事業場 b 4S活動の取組の無い事業場 c 災害発生事業場の企業本社又は中核支社 また、安全衛生活動が定着せず、繰り返し災害を発生させるなど、追加的な指導を要する事業場 に対して、次の事項を重点として署との役割分担により、個別指導又は集団指導を行うこと。 a 4S活動を計画的に普及定着させること。 b 小売業において多発している転倒災害の具体的防止措置の徹底を図ること。 イ 指導に当たっての留意事項 (ア) 「各種商品小売業」事業場については、事業場規模に応じて、安全管理者又は安全衛生推進者を 通じて、4S普及促進に加え、危険性又は有害性等の調査(リスクアセスメント)等の実施を促進する。 また、労働者数300人以上規模の事業場については、総括安全衛生管理者選任対象であり、リスク アセスメント等の実施はもとより、労働安全衛生マネジメントシステムの導入の促進にも努めるこ と。 (イ) その他の労働災害防止対策として、次の点に留意すること。 a 安全衛生管理体制の確立 b リスクアセスメント等の実施の促進 c 「交通労働災害防止のためのガイドライン」に基づく対策の徹底 d 食品加工用機械及び食品包装機械に係るガイドラインに基づく機械の安全化の促進並びに使用 時の安全の確保 e 一般動力機械及び荷役運搬機械の点検整備の励行 f 倉庫、加工場所等での作業における安全な作業方法の徹底 g 雇い入れ時や作業内容変更時等における安全衛生教育の徹底 h 安全管理者等の安全衛生担当者の能力向上教育の実施 i 「職場における腰痛予防対策指針」に基づく対策の徹底 j 燃焼器具使用時の換気の徹底による一酸化炭素中毒防止対策の徹底 (2) 社会福祉施設 社会福祉施設については、全事業場(約13万)のうち、災害全体の5割を占める労働者数50人以上規模 事業場(約12,000)及び新設事業場を優先対象として、既存のマニュアル等を活用して、腰痛対策及び KY活動を普及させるとともに4S活動の普及促進のための指導も併せて実施する。その際、複数施設を 有する社会福祉法人単位で、社会福祉関係協議会等加盟法人を優先的に実施する。また、労働者数10人 未満規模事業場(約50,000)については、災害全体の1割であり、周知広報に留めることとする。 ア 年度ごとの実施事項 [平成23年度] (ア) 4S活動普及促進に関するリーフレット作成(本省 第二〜三四半期) (イ) 全国社会福祉協議会等関係団体への要請(本省、第二〜三四半期) (ウ) 都道府県社会福祉協議会等関係団体への周知広報・要請(局、第三四半期) 平成21年度に作成した「社会福祉施設における安全衛生対策マニュアル(腰痛対策及び危険予知 (KY)活動)」及び「介護労働者の腰痛予防対策チェックリスト」(以下「マニュアル」という。)、リ ーフレット等を活用して都道府県社会福祉協議会等関係団体に対して、災害防止の要請を行うこと。 (エ) 新たに設立された社会福祉施設への指導(署、通年) 平成23年度中に管内において新たに設立される社会福祉施設に対して、監督担当部署とも連携の上、 マニュアル、リーフレット等を活用して、個別指導を行うこと。 なお、当該社会福祉施設に対する監督指導の際には、マニュアル、リーフレット等の周知を行うこ と。 [平成24年度] (ア) 次の事業場等に対する自主点検(局 第一四半期) a 都道府県により認可された事業場又はその社会福祉法人(新設事業場含む) b 平成23年以降に休業4日以上の労働災害(「転倒」及び「動作の反動等」によるもの)を発生さ せた事業場又はその社会福祉法人 c 要請を行った社会福祉協議会等関係団体傘下事業場 d 上記a〜c以外で労働者数50人以上規模の事業場 (イ) 自主点検結果を踏まえた事業場等に対する集団指導又は個別指導(局・署 第二〜三四半期中) マニュアル、リーフレット等を活用して、次の事業場等に対して集団指導を行うこと。 a 自主点検未回答事業場 b 4S活動又は危険予知(KY)活動の取組の見られない事業場 また、安全衛生活動が定着せず、繰り返し災害を発生させるなど、追加的な指導を要する事業 場に対して、次の事項を重点として署との役割分担により、集団指導又は個別指導を行うこと。 a 4S活動及び危険予知(KY)活動を計画的に普及定着させること。 b 社会福祉施設において多発している腰痛及び転倒災害の具体的防止措置の徹底を図ること。 イ 指導に当たっては、次の点に留意することとする。 a 安全衛生管理体制の確立 b 業種別モデル安全衛生管理規程を活用した介護作業に係る労働災害防止対策の徹底 c 「交通労働災害防止のためのガイドライン」に基づく対策の徹底 d 墜落・転落災害の防止対策の徹底 e 雇い入れ時や作業内容変更時等における安全衛生教育の徹底 f 「職場における腰痛予防対策指針」に基づく対策の徹底 (3) 飲食店 飲食店については、災害全体の半数以上を占める「転倒」災害及び「切れ・こすれ」災害防止を重 点として、平成24年度以降、本省において、取り組みやすく効果の期待できる労働災害防止活動の取 組事例を収集し、同様の手引書等を作成することとしている。 このため、局においては、飲食店事業場(約67万)のうち、災害全体の4割を占める労働者数30人以上 規模事業場(約22,000)を優先対象として、上記(1)の小売業に準じ、多店舗企業本社及び30人以上規模 事業場を優先的に指導対象とした対策を実施する(労働者数10人未満規模事業場(55万)は除く)。 また、指導に当たっては、次の点に留意することとする。 ア 安全衛生管理体制の確立 イ 食品加工用機械及び食品包装機械に係るガイドラインに基づく機械の安全化の促進並びに使用時 の安全の確保 ウ 倉庫、加工場所等での作業における安全な作業方法の徹底 エ 雇い入れ時や作業内容変更時等における安全衛生教育の徹底 オ 安全管理者等の安全衛生担当者の能力向上教育の実施 カ 「職場における腰痛予防対策指針」に基づく対策の徹底 キ 燃焼器具、とりわけ厨房におけるガス燃焼器具の使用時の換気の徹底による一酸化炭素中毒防止 対策の徹底 4. その他の留意事項等 (1) 指導対象事業場名簿の整理に当たっては、事業場規模、災害の頻度・程度等を勘案して指導の優先 度を定めておくこと。 (2) 管内事情に照らし、50人未満規模事業場も対象として差し支えない。 (3) 監督担当部署において、小売業、社会福祉施設及び飲食店における一般労働条件の確保・改善対策 を進めている場合には、当該対象の労働災害の発生状況を踏まえ、局署の役割に応じて、安全担当部 署と監督担当部署とが密接な連携により、対策を進めること。 (4) 管内事情に照らし、多店舗企業本社等を安全管理特別指導事業場に指定しても差し支えない。 (5) 平成24年度以降実施予定の自主点検、集団指導等の手法については、別途示すこととする。 (6) 局においては、当該年度に実施した指導結果の問題点や改善点について、当該年12月末までに本省 安全課まで報告すること。報告された問題点や改善点を踏まえ、必要に応じて対策の見直しを行う。別紙1(PDF:88KB)