安全衛生情報センター
昨年12月、化学工業の事業場において、化学物質の合成実験を行っていた作業員が、合成された3-クロ ロ-1,1,2,3,3-ペンタフルオロ-1-プロペン(以下「PFAC」という。)のガスにばく露された疑いで、急性 中毒の肺疾患により死亡した災害が発生したところである。 当該災害においては、作業員はドラフトチャンバー内で対象物質を取扱い、その取扱いに当たっては、 防毒マスクとゴム手袋を着用していたが、バルブ開閉のために対象物質の発生中に長時間にわたりドラフ ト内に入っていたと推測されている。 これまでの情報収集の結果、PFACを取り扱っている国内の事業場は少なく、PFACの性状等に係る情報も 限られているが、結果の重大性に鑑み、関係業界団体の協力のもと海外における当該物質の有害性情報を 別紙のとおりとりまとめたところである。 当該物質の危険有害性については、一部の化学物質等安全データシート(以下「MSDS」という。)情報に よれば、PFACの沸点は、摂氏約8度と低く揮発性が高いこと、また、一部文献の雄ラットを用いた亜慢性 毒性試験では、PFACは致死濃度が27ppm程度という非常に毒性の強いガスであること、PFACへの5.4ppmの ばく露で著しい肺への影響が発生するとの指摘がなされていることから、その取扱いに当たっては、労働 者のばく露防止対策を確実に講じさせることが重要である。 ついては、各局においても、同種災害を防止する観点から、各種機会を通じて、関係事業者団体等に下 記事項について周知するよう努められたい。 なお、関係事業者団体の長に対して、別添のとおり傘下会員事業者への周知を要請しているので了知さ れたい。
1 関係労働者に対するPFACによる健康障害のリスクの周知 PFACを合成等のために適切な保護具を着用せずに取り扱った場合には、その吸入によって、PFACによ る重篤な健康障害を生じるリスクが高まるおそれのあることを労働者に十分に理解させること。 2 局所排気装置等の設置 PFACへの労働者のばく露を防止するため、PFACのガスが発散する作業場所については、PFACを密閉す る設備、ドラフトチャンバー等の局所排気装置又はプッシュプル型換気装置を設け、作業が行われてい る間、適正に稼働させること。 3 保護具の着用 (1) 利用可能なMSDS情報によれば、PFACの沸点は常温より低く8℃程度とされていることから、揮発性 が高く、一般的には防毒マスクの吸収缶の破過時間は、使用する環境によって顕著に短くなる傾向があ り、破過時間の推定は困難と考えられる。このため、PFACの取扱いに当たっては、原則として送気マス クを使用させること。やむを得ず防毒マスクを使用させる場合であっても、防毒マスクの規格(平成2年 労働省告示第68号)に適合した有機ガス用防毒マスクを確実な装着方法により常時着用させることはも ちろんのこと、防毒マスクの使用時間についても、余裕のある使用限度時間をあらかじめ設定の上、短 時間の作業に限定すること。なお、一度使用した吸収缶は再使用させないこと。 (2) 保護衣及び保護眼鏡を適切に着用させること。 4 異常発生時の措置 不測の事態により、PFACにばく露するおそれのある事案が発生したときは、直ちに労働者を安全な場 所に退避させるとともに、PFACにばく露するおそれのある場所への立ち入りを禁止すること。 なお、やむを得ず労働者をPFACにばく露するおそれのある場所に立ち入らせる必要がある場合には、 呼吸用保護具の使用等、適切なばく露防止措置を講ずること。