映画、テレビ番組等の撮影現場等における労働災害防止について |
改正履歴
事務連絡
平成10年11月18日
第三次産業における労働災害防止対策に資するために、中央労働災害防止協会への委託事業として同対
策に係る調査研究を行ってきたところであるが、今般、映画、テレビ番組等の撮影現場等における労働災
害防止について、別添のとおり労働災害防止のためのガイドライン(以下「ガイドライン」という。)が
とりまとめられたので送付する。
ついては、ガイドラインを参考にして関係事業場において、自主的な労働災害防止活動が図られるよう
指導等に努められたい。
なお、今回送付したガイドラインは、別紙のとおり関係団体に送付し、活用を要請したので申し添える。
別紙
事務連絡
平成10年11月18日
日本放送協会労務・人事室厚生部長
(社)日本民間放送連盟会長
(社)日本映画製作者連盟会長
(社)日本テレビコマーシャル制作社連盟理事長 殿
(社)全日本テレビ番組製作社連盟理事長
労働省労働基準局安全衛生部
安全課長
映画、テレビ番組等の撮影現場等における労働災害の防止について
近年のサービス経済化の進展等により、第三次産業における労働災害の割合が年々高くなっていること
から、労働省としては、第三次産業の労働災害防止を重点施策の一つとして積極的に推進しているところ
です。こうした中で、今般、中央労働災害防止協会において、映画、テレビ番組等の撮影現場等における
自主的な労働災害防止活動に資するため、別添のとおり「映画、テレビ番組等の撮影現場等における労働
災害防止のためのガイドライン」が作成されましたので、これを参考にして貴協会(連盟)会員事業場に
おける労働災害防止に活用されるようお願い申し上げます。
映画、テレビ番組等の撮影現場等における労働災害防止のためのガイドライン
平成10年10月 中央労働災害防止協会
映画、テレビ番組、コマーシャル等(以下「映画、テレビ番組等」という。)の撮影現場等における労
働災害防止のため、事業者は、労働安全衛生関係法令の遵守に加えて、次の労働災害防止対策を講じるこ
とが必要である。
1 安全衛生管理体制の整備
映画、テレビ番組等の撮影現場においては、複数の事業場の労働者が混在して作業が行われることが
多いことから、事業者は、労働安全衛生関係法令による安全衛生管理体制の整備に加え、次に掲げる措
置を講じること。
(1) 統括安全衛生責任者の選任
制作事業者(映画、テレビ番組等の制作の仕事を、下請けとならずに、発注者から直接請け負って
いる事業者をいう。以下同じ。)は、制作作業(映画、テレビ番組等の撮影現場における制作作業を
いう。以下同じ。)を統括管理する者(プロデューサー等)を「統括安全衛生責任者」として選任し、
(2)の制作安全衛生管理者を指揮させるとともに、次の事項を統括管理させること。
イ 制作作業における危険防止措置の実施
ロ 部門間の連絡及び調整
ハ 作業場所の巡視
ニ その他労働災害防止に必要な事項
(2) 制作安全衛生管理者の選任
制作事業者は、制作作業を指揮監督する者(制作担当者、ディレクター、監督等)を「制作安全衛
生管理者」として選任し、統括安全衛生責任者の指揮のもと、(1)の事項の実施についての管理を行
わせること。
(3) 安全衛生責任者の選任
制作事業者又は関係事業者(制作事業者から映画、テレビ番組等の制作の一部を請け負った事業者
をいう。以下同じ。)は、撮影、照明、録音、美術等の各部門ごとに現場作業の責任者を「安全衛生
責任者」として選任し、次の事項を行わせること。
イ 制作作業における当該部門に係る危険防止措置の実施
ロ 安全衛生連絡協議会等への参加
ハ 安全衛生連絡協議会等における連絡調整事項の周知徹底
ニ その他当該部門における労働災害防止に必要な事項
図 制作現場における安全衛生管理体制(例)
2 安全衛生連絡協議会の設置等
制作事業者及び関係事業者は、映画、テレビ番組等の制作の計画段階、制作作業の着手段階、制作作
業の各段階その他必要な時期において、統括安全衛生責任者、制作安全衛生管理者及び各部門の安全衛
生責任者から成る安全衛生連絡協議会を開催し、次の事項を連絡協議させること。
なお、制作の計画段階における安全衛生連絡協議会には、制作作業に使用する設備等の管理者及び制
作作業に関係する安全衛生の専門家も出席させること。
イ 制作作業に伴う危険とその防止対策
ロ その他制作作業に伴う労働災害防止に必要な事項
3 制作作業に使用する設備等の設置及び点検
(1) 作業床等の設置
制作事業者又は関係事業者は、高さが2m以上の箇所で作業を行う場合は、作業床を設けるととも
に、高さが2m以上の作業床の端、開口部等で墜落の危険があるときは手すり、囲い等を設けること。
また、高さ又は深さが1.5mを超える箇所で作業を行う場合は、昇降設備を設けること。
(2) 設備等の点検
制作事業者又は関係事業者は、制作作業で使用する設備(通路及び床面を含む。)及び機材につい
て、使用開始前に点検を行い、異常等がある場合は、補修、改善等の措置を講じること。なお、使用
する設備及び機材の所有者が制作事業者及び関係事業者以外の場合は、その所有者に対し補修、改善
等の要請を行うこと。
(3) 取扱要領の作成
制作事業者又は関係事業者は、制作作業で使用する設備及び機材のうち危険が生じるおそれのある
もの並びに制作作業で取り扱う危険物及び有害物については、危険防止のための取扱要領を作成し、
関係者に周知すること。
4 交通労働災害防止措置の実施
制作事業者及び関係事業者は、交通労働災害防止のため、次の事項を実施すること。
(1) 運転者の指名
自動車によって、撮影地への送迎や機材等の運搬を行う場合は、運転者として、使用する自動車の
運転に必要な資格を有する者のうちから十分な技能を有する適格者を指名すること。
(2) 運転者の勤務への配慮
自動車の運転以外の勤務の終了後に労働者を自動車の運転に従事させる場合には、疲労による災害
を防止するため、自動車の運転以外の勤務の軽減等について配慮すること。
5 安全衛生活動の実施
(1) 作業開始前打合せの実施
制作事業者及び関係事業者は、毎日の作業開始前に、制作安全衛生管理者、各部門の安全衛生責任
者、その他必要な者の間で当日の作業内容、作業中に予測される危険とその対策について打合せを行
わせること。
(2) 整理整頓等の励行
制作事業者及び関係事業者は、安全衛生責任者の指揮のもと、作業者に制作作業場所の整理、整頓、
清掃及び清潔の励行(4S活動)を行わせること。
6 安全衛生教育の実施
(1) 制作事業者及び関係事業者は、制作作業を行うに際し、労働者を雇い入れたとき及び作業内容を変
更したときは、当該労働者が従事する業務に関する安全衛生教育を行うこと。
(2) 制作作業を行うに際し、制作事業者は、統括安全衛生責任者及び制作安全衛生管理者に対し、関係
事業者は、安全衛生責任者に対し、それぞれその業務を行うのに必要な安全衛生教育を行うこと。
7 部門別の労働災害防止措置の実施上の留意事項
制作事業者及び関係事業者は、制作作業の各部門ごとに、当該部門に応じた次の事項に留意して制作
作業における労働災害防止措置を実施すること。
(1) 制作部門
制作部門は、制作作業全体の管理を行う部門として、統括安全衛生責任者及び制作安全衛生管理者
の指示を受けて労働災害防止に関する必要な業務を行うこと。
なお、その実施に当たっては、次の事項に留意すること。
イ 複数の事業場の労働者が混在する体制下においても、明確な指揮命令系統の確保に努めること。
ロ 演出、撮影、照明、録音、美術等の他の部門との事前打合せを行い、作業内容に関する理解を深
めること。
ハ 使用機材、作業環境等に係る危険の防止のため、下記事項に関する措置を実施すること。
(イ) 機材の落下防止
(ロ) 架設物の強度及び安全性の確保
(ハ) 設営施設の保全監視及び衛生の確保
(ニ) 感電防止のための安全措置
(ホ) 操作者の安全衛生の確保
(ヘ) 部外者への危険防止措置
(ト) その他労働災害防止に必要な事項に係る措置
(2) 演出部門
イ 危険を伴う演技(落馬、潜水、高所からの飛び降り等)は、特殊技能の習得者に行わせるととも
に、必要な安全対策を講じること。
ロ 戦闘シーン等多数の人間が出演するロケーションでは、必要に応じて医師、看護婦(士)を現場
に待機させる等の救急体制を整えること。
ハ 爆発物等の危険物の取扱いは、有資格者に行わせること。
ニ 殺陣(たて)又は戦闘場面に用いる刀等の用具は、木製、竹製等の危険のないものを使用するこ
と。
また、殺陣、戦闘場面等の危険を伴う立ち回りシーンについては、必要な広さの確保、十分なリ
ハーサルの実施、専門家の指導等の安全確保に必要な措置を講じること。
ホ 出演者が火気、危険物等の近くで演技を行わないよう配慮すること。
ヘ その他労働災害防止に必要な事項に係る措置を講じること。
(3) 撮影部門
イ イントレを使用する等高所でカメラ撮影を行う場合は、手すりの設置、安全帯の使用等により墜
落防止措置を講じるとともに、落下物等のないよう注意し、箱物等はできる限り固定すること。
ロ 撮影者は、ファインダーを覗く作業に集中し、足元の確認がしにくいので、必要に応じ、補助者
により、監視、誘導を行わせること。
ハ カメラ、レンズ及びアクセサリー類の落下防止及び転倒防止の措置を講じること。
ニ クレーン、移動車等の特殊な機械を使用する場合には、操作者との事前の打ち合わせを行うこと。
ホ 撮影場所については、作業の障害となる物を置かないようにするとともに、整理整頓に努めるこ
と。
ヘ その他労働災害防止に必要な事項に係る措置を講じること。
(4) 照明部門及び録音部門
イ 足場にライトを設置するとき及び撤収するときは、ライト本体、付属品等の落下防止及び転倒防
止のための措置を講じること。
ロ 吊りマイク、吊りスピーカー等の吊り物は落下防止のためロープ等で固定し、必要な場合にはチ
ェーン又は固定金具により保護すること。
ハ ライトの点灯の際は、周囲の状況を確認し、幕、カーテン類等の可燃物がライトに触れないよう
にすること。
ニ また、撮影場所において引火性及び可燃性のガスの発生により危険が生じるおそれがある場合に
は、火災になることがないようにライト等の設置場所を決定するとともに、静電気の発生の防止措
置を講じること。
ホ その他労働災害防止に必要な事項に係る措置を講じること。
(5) 美術部門
イ セットの設計においては、セットの建て込み時、使用時及び解体時の安全性に配慮すること。
ロ 重量物の取扱いに際しては、必要によりクレーン等を使用すること。
ハ 特に人を吊り上げる場合等の直接人が関係する設備については、十分な強度を持たせること。
ニ セットの建て込み、解体時には安全帽等必要な保護具を着用すること。
ホ 塗装等で有機溶剤を用いる場合には、換気装置の設置、有機ガス用防毒マスクの使用、作業主任
者の選任、有機溶剤等健康診断の実施等の必要な措置を講じること。
ヘ 消火器を配備すること、引火性の物等の危険物を取り扱う作業時に火気を伴う作業をしないこと
等の火災の防止等のための必要な措置を講じること。
ト 火災場面の撮影等に際しては、管轄の消防署への届出を行い、必要な安全対策を講じること。
チ その他労働災害防止に必要な事項に係る措置を講じること。
8 撮影場所別の労働災害防止措置の実施上の留意事項
制作事業者及び関係事業者は、次に掲げる危険な撮影場所における撮影に際しては、安全に関し、各
分野の専門家、施設等の管理者等の指示に従うとともに当該場所に応じた次の事項に留意して制作作業
における労働災害防止措置を実施すること。
(1) 自然災害発生地における撮影
イ 地震、津波、台風、豪雨、洪水、土石流、噴火等の自然災害の撮影に当たっては、予測されない
危険が発生する可能性があることから、常に安全を優先して、行動すること。
ロ 携帯電話、無線機、ラジオ等を携行し、通信、連絡手段を確保すること。
ハ 必要に応じ、安全靴、ヘルメット、非常食、飲料水、医薬品等を装備すること。
(2) 山岳地における撮影
イ 山岳地においては、天候、落雷、落石、転落、高山病、不整地、動物等による危険の防止のため
必要な対策を講じること。
ロ 山岳地においては、天候、日没時間等により行動時間が制約されるので、余裕をもった撮影行動
計画をたてること。
ハ 登山計画書の提出の必要な山岳については、登山口より奥は登山についての専門知識が必要な領
域であるので、ガイドをつける等の措置を講じ、未経験者のみでは立ち入らないこと。
ニ 火山に関する撮影作業においては、警戒区域、避難勧告区域等について周知するとともに、避難
勧告区域には原則として立ち入らないこと。
ホ 必要に応じ、無線機、携帯電話等を携行すること。
ヘ 必要に応じ、安全靴(登山靴)、ヘルメット、非常食、飲料水、医薬品等を装備すること。
(3) 寒冷地における撮影
イ 寒冷地においては、寒さにより判断力の低下が起こりがちであるので、十分な防寒装備を行うこ
と。
ロ 氷上、雪上における撮影作業においては、必要に応じ、適切な滑り止め具を装着し、使用するこ
と。
ハ 紫外線の雪面反射による視力障害を防ぐため、必要に応じ紫外線に有効なサングラスを使用する
こと。
ニ 氷上においては、単独行動を行わせず、必要に応じ、2人以上がロープで互いを緊縛しながら撮
影する等の措置を講じること。
なお、強度が不十分であるおそれのある氷上においては、作業を行わないこと。
ホ スキー場での撮影においては、他のスキーヤー等との衝突等による危険の防止のため、山側の高
所等の周囲の状況の確認できる場所に監視者を配置するよう努めること。
(4) 原子力関係施設内における撮影
イ 原子力関係施設での撮影に当たっては、放射性物質及び電離放射線について十分理解させるとと
もに、電離放射線による被ばくを受けることのないよう努めること。
ロ 管理区域に立ち入る場合には、次の事項を遵守すること。
(イ) 取材対象事業場の承認を得ること。
(ロ) 承認に際して付された条件に従って行動すること。
(ハ) 管理区域内では、被ばく線量測定用具を身体の所定の位置に装着すること。
ハ 取材者の身体及び所持品が放射性物質の汚染を受けないよう保護すること。
(5) 火災発生場所における撮影
火災の撮影に当たっては、風上から撮影すること。
また、風向きの変化に注意するとともに、避難ルートを確保すること。
(6) 航空機を使用した空からの撮影
イ 搭乗前に撮影の内容、時期、方法等について機長と打ち合わせを行うとともに、搭乗中において
は安全に関する機長の指示に従うこと。
ロ 限られた空域で、同一対象を複数機で撮影する場合には、見張りに専従できる要員を乗務させる
こと。
(7) 船上における撮影
イ 船上での撮影に当たっては、船長と撮影の内容、時期、方法等について打ち合わせを行うととも
に、船内においては安全に関する船長の指示に従うこと。
ロ 船舶の揺れによる撮影者の転落防止に配慮するとともに、必要に応じライフジャケット等の救命
用具を使用させること。
また、機材の転倒、落下の防止対策を講じること。
(8) 潜水による水中における撮影
イ 水深10m以上の場所で撮影作業を行う場合には、浮上に際し撮影作業の水深、潜水時間及びそ
の日の潜水回数に応じた減圧方法を遵守させること。
ロ 潮流が速いと予測される場所において、潜水による撮影作業を行わせる場合には、撮影作業者に、
マーカーブイ、耐水発煙筒等緊急信号用器具を携行させるとともに、その使用方法について教育す
ること。
ハ 潜水作業(潜水器を用い、かつ、空気圧縮機若しくは手押しポンプによる送気またはボンベから
の給気を受けて、水中において行う作業)は有資格者(潜水士)に行わせること。