足踏み操作式ポジティブクラッチプレスを両手押しボタン操作式のものに
切り換えるためのガイドラインの策定について |
改正履歴
基発第459号の2
平成6年7月15日
プレス機械による労働災害の防止については、平成5年3月31日付け基発第215号「プレス災害防止総
合対策について」により推進しているところがあるが、今般、同総合対策の一環として、別添1のとおり
足踏み操作式ポジティブクラッチプレスを両手押しボタン操作式のものに切り換えるためのガイドライン
を策定したので、プレス機械を設置する事業者に周知するとともに、プレス機械の起動方式を足踏み操作
式のものから両手押しボタン操作式のものへ切り換えることについての指導を徹底されたい。
なお、本ガイドラインの周知等について、別添2のとおり関係団体に協力を要請したので了知されたい。
別添1
足踏み操作式ポジティブクラッチプレスを両手押しボタン操作式のものに切り
換えるためのガイドライン
1 目的
本ガイドラインは、プレス災害の全体の約半数を占める足踏み操作式ポジティブクラッチプレスにつ
いて、その起動方式を足踏み操作式からより安全性の高い両手押しボタン操作式(操作レバーを両手で
操作する方式を含む。以下同じ。)へ切り換えること(以下「切換え」という。)を促進するため、切
換えに当たっての起動装置の変更の方法、作業方法の改善の方法等を示すものである。
2 切換えのための起動装置の変更の方法等
(1) 起動装置の変更の方法
足踏み操作式ポジティブクラッチプレスの起動装置の両手押しボタン操作式への変更は、一般に、
クラッチ作動用連結棒を、空気圧等を利用して電気的な制御により動かす構造とし、これに両手押
しボタン等の操作部分及び操作用電気回路を取り付けることにより行うものであり、その具体的な
方式としては次のようなものがあること。
イ 空圧式
エアコンプレッサー等からの空気圧を利用し、エアシリンダーにつながれたクラッチ作動用連
結棒を動かすもので、例えば、次の順序で作動するものであること。
[1] 両手押しボタンの操作により電磁弁に通電する。
[2] 電磁弁が作動し、エアシリンダーに空気が送られる。
[3] エアシリンダーが作動し、クラッチ作動用連結棒が引かれる。
[4] クラッチが掛かり、スライドが下降を開始する。(図1)
[5] マイクロスイッチ等により、スライドが下死点を過ぎたところで電気信号が出る。
[6] 電気信号により電磁弁が作動し、エアシリンダー内の空気が排出される。
[7] 復帰用ばねによりクラッチ作動用連結棒が戻される。
[8] カムによりクラッチが外され、スライドが停止する。
ロ 電磁ばね引き式
ばね及びリンク機構により、スライドの動きを利用してクラッチ作動用連結棒を動かすもので、
例えば、次の順序で作動するものであること。
[1] 両手押しボタンの操作によりマグネットコイルに通電する。
[2] マグネットコイルの磁力により掛合い金具が外れる。
[3] ばねによりクラッチ作動用連結棒が引かれる。
[4] クラッチが掛かり、スライドが下降を開始する。
[5] スライドの動きがリンク機構を介して伝えられ、クラッチ作動用連結棒が戻される。これ
と同時に掛合い金具が掛かり、クラッチ作動用連結棒が戻った状態で保持される。
[6] カムによりクラッチが外され、スライドが停止する。(図2)
(2) 起動装置の変更に当たっての留意事項
起動装置の変更に当たっては、次の事項に留意する必要があること。
イ 起動装置の構造は、次の要件に適合するものとすること。
なお、プレス機械又はシヤーの安全装置構造規格(以下「構造規格」という。)の両手起動式
安全装置の要件に適合した起動装置は、次の要件に適合しているものであること。
(イ) 一行程一停止機構を有するものであること。
(ロ) 押しボタン等を両手で同時に操作しなければスライド等を作動させることができない構造
のものであること。
(ハ) 一行程ごとに押しボタン等から両手を離さなければ再起動操作をすることができない構造
のものであること。
(ニ) 一の押しボタン等の外側と他の押しボタン等の外側との最短距離は、300ミリメートル以
上であること。
(ホ) 押しボタンは、ボタンケースに収納されるか又は保護リングにより囲われており、かつ、
当該ボタンケースの表面又は保護リングの上端から突出していないものであること。
ロ 一般に両手押しボタン操作式ポジティブクラッチプレスは、安全距離の確保が困難であり、労
働安全衛生規則(以下「安衛則」という。)第131条第2項の規定に基づく措置を講じていると
はいえないことから、別途、構造規格に適合し、型式検定に合格した手引き式安全措置等を設置
して、使用しなければならないこと。
ただし、構造規格に適合し、型式検定に合格した両手起動式安全措置を、安衛則第131条第2
項の規定に適合するように設置し、使用することができる場合はこの限りでないこと。
ハ (1)の起動装置の変更により両手押しボタンのみならず、フートスイッチ、片手押しボタン等
による起動も可能となるが、そのような起動装置は取り付けないこと。
ニ 両手押しボタン操作式の起動装置の作業開始前点検及び定期自主検査については、平成5年7
月9日付け基発第446号「プレス機械の安全装置管理指針」の第4により、両手起動式安全装置
に準じて行うこと。
3 切換えのための作業方法の改善等
(1) 作業方法の改善の方法
材料、中間製品等の加工物を両手又は片手で保持しなければならない作業においては、両手押し
ボタン操作式による作業を可能にするため、金型の改善、加工物の支持の方法の見直し等により作
業方法を改善すること。
改善の方法としては次のものがあること。
イ 金型の改善
金型の設計段階から加工の方法について十分検討し、プレス加工中に加工物を手で保持する必
要のない金型とすること。
ロ 治具の使用
作業内容に合った治具を作成し、治具により加工物の位置決め及び保持を行うようにすること。
ハ マグネットの利用
加工物が鋼材等の強い磁性を示す材料であるときは、マグネットにより加工物の位置決め及び
保持をするようにすること。
ニ クランプ等の使用
加工物が安定しないときは、クランプ等により固定し、保持するようにすること。
ホ 送給、排出装置等の使用
エアシリンダー、モーター等を使用し、加工物の金型へのセット、金型からの取出し等を自動
化すること。
(2) 作業方法の改善事例
作業方法の改善事例としては別添のものがあるので、これらを参考とすること。
別添 改善事例
1 金型の改善によるもの
(1) 加工物を金型のガイドに差し込み保持することとした事例 (図)
(2) 金型に傾斜をつけ、位置決めを正確にした事例 (図)
2 治具の使用によるもの
(1) 長尺の中間製品を治具により保持することとした事例 (図)
(2) 金型に受け台を取り付けて材料を保持することとした事例 (図)
(3) 材料を受けロールと押さえロールにより保持することとした事例 (図)
(4) 治具により材料を金型に挿入することとした事例 (図)
3 マグネットの利用によるもの
(1) マグネット付き治具により材料を保持することとした事例 (図)
(2) 下型にマグネットを埋め込んで中間製品を保持することとした事例 (図)
(3) マグネット付き受け台により材料を保持することとした事例 (図)
4 クランプ等の使用によるもの
(1) 下型にクランプを取り付け中間製品を固定することとした事例 (図)
(2) クランプにより下型に押しつけて中間製品を保持することとした事例 (図)
(3) ゴムローラーにより中間製品を保持することとした事例 (図)
(4) 受け台とクランプにより材料を保持することとした事例 (図)
5 送給、排出装置等の使用によるもの
(1) 下型をエアシリンダーにより動かすこととした事例 (図)
(2) エアシリンダーにより材料をセットすることとした事例 (図)
(3) プッシャーフィーダーにより材料をセットすることとした事例 (図)
別添2
基発第459号
平成6年7月15日
社団法人 日本金属プレス工業協会 会長
社団法人 日本鍛圧機械工業会 会長
日本プレス安全装置工業会 会長
日本金型工業会 会長
中央労働災害防止協会 会長
社団法人 産業安全技術協会 会長 殿
労働省労働基準局長
足踏み操作式ポジティブクラッチプレスを両手押しボタン
操作式のものに切り換えるためのガイドラインの策定について
労働基準行政の推進につきましては、日頃より格別のご配慮を賜り、厚く御礼申し上げます。
プレス機械による労働災害の防止につきましては、昨年、プレス災害防止総合対策を策定し、その推進
を図っているところでありますが、同総合対策においては、プレス機械の起動方式が足踏み操作式のもの
については、原則として、両手押しボタン操作式のものに切り換えることを重点実施事項の一つとしてい
るところであり、今般、この切り換えの促進を図るため、別添のとおり、足踏み操作式ポジティブクラッ
チプレスを両手押しボタン操作式のものに切り換えるためのガイドラインを策定いたしました。
つきましては、貴協会におかれましても、このガイドラインの趣旨を御理解いただき、会員事業場に対
する周知、指導について格別の御協力をお願い申し上げます。