望ましい建設業附属寄宿舎に関するガイドラインについて |
改正履歴
基発第596号
平成6年9月28日
出稼ぎ労働者をはじめ、建設業に従事する労働者の福祉の向上を図るためには、これらの者の多くが居
住する建設業附属寄宿舎の住環境の整備が不可欠である。このことは、「出稼ぎ労働者対策要綱」(平成
3年11月策定)においても示されているところであり、また、平成5年6月に取りまとめられた「建設業
における出稼・下請労働者の労働災害防止対策検討結果報告書」においても特にこの指摘がなされている
ところである。
一方、最近、建設業附属寄宿舎の火災災害が増加傾向にあり、建設業附属寄宿舎における火災対策の強
化が必要とされている状況にある。
これらに的確に対処するため、建設業附属寄宿舎における火災災害の防止と住環境の整備を主眼として、
本年8月31日に「建設業附属寄宿舎規程の一部を改正する省令」(平成6年労働省令第38号)が公布され、
建設業附属寄宿舎規程の内容の充実が図られたところである。
また、この規程は労働基準法に基づき寄宿舎の設置等に係る最低基準を定めたものであるが、上記のよ
うな目的を達成するためには、使用者が建設業附属寄宿舎を一層快適なものとするよう自主的にその整備
に取り組むことが重要である。
このため、今般、使用者が建設業附属寄宿舎について住環境の整備及び快適な寄宿舎生活の維持、促進
を図る際に参考となる指針として、別添1のとおり「望ましい建設業附属寄宿舎に関するガイドライン」
(以下「ガイドライン」という。)を策定したところである。
このガイドラインの趣旨、内容等については別添2のとおりであるので、関係事業者に対し、建設業附
属寄宿舎規程の遵守のための指導等に併せ、ガイドラインの周知徹底を図り、建設業附属寄宿舎に寄宿す
る労働者の福祉の向上が図られるよう、啓発指導に努められたい。
(別添1)
望ましい建設業附属寄宿舎に関するガイドライン
このガイドラインは、使用者が建設業附属寄宿舎(以下「寄宿舎」という。)の住環境の整備及び快適
な寄宿舎生活の維持、促進を図り、もって寄宿舎に寄宿する労働者(以下「寄宿労働者」という。)の福
祉の向上を図ることを目的とする。
1 使用者の責務
使用者は、寄宿舎について、労働基準法及び建設業附属寄宿舎規程に定めるところによるほか、この
ガイドラインに適合したものとなるよう努めるものとする。
2 寄宿労働者の意見の聴取
(1) 使用者は、寄宿労働者から寄宿舎に関する意見要望を聴くための機会を設けるよう努めるものと
する。
(2) 使用者は、(1)により寄宿労働者から意見要望があった場合には、必要な措置を講ずるよう努め
るものとする。
3 寄宿労働者の協力
寄宿労働者は、使用者が実施する寄宿舎に関する措置に協力するように努めるものとする。
4 出入口
使用者は、通常使用する寄宿舎の出入口には、水洗設備等寄宿労働者の足部に付着した泥、土等を除
去するための設備を設けるよう努めるものとする。
5 階段の構造
使用者は、寄宿舎の階段の両側に側壁又はこれに代わるものがある場合であっても、少なくともその
片側については手すりを設けるよう努めるものとする。
6 寝室
(1) 使用者は、寝室については、次の各号に定めるところによるよう努めるものとする。
一 各室の居住人員は、それぞれ2人以下とすること。
二 各室の床面積は、押入れ等の面積を除き、1人について4.8平方メートル以上とすること。
(2) 使用者は、寄宿舎の周囲の状況に応じて、窓はサッシ窓にする等防音の措置を講ずるよう努める
ものとする。
(3) 使用者は、就眠時間を異にする寄宿労働者を同一の寝室に寄宿させないよう努めるものとする。
7 浴場
使用者は、浴場を設ける場合には、次の各号に定めるところによるよう努めるものとする。
一 シャワー設備を設けること。
二 浴場の温度調節については、浴場内において行うことができる構造とすること。
三 体重計を備え付けること。
8 便所
使用者は、便所については、次の各号に定めるところによるよう努めるものとする。
一 大便所の便房及び小便所は、寄宿労働者の数に応じ、適当な数を設けること。ただし、大便所の便
房は、2個を下回らないこと。
二 女子の寄宿労働者の数に応じ、適当な数の女子用便所を設けること。
三 できる限り水洗便所とすること。
9 渡り廊下
使用者は、食堂、浴室又は便所を寝室と別棟に設ける場合には、それぞれの棟の間に屋根のある渡り
廊下を設けるよう努めるものとする。
10 洗たく機
使用者は、洗たく場には、寄宿労働者の数に応じて、適当な数の洗たく機を設置するよう努めるもの
とする。
11 物干し場
使用者は、寄宿舎の物干し場には、屋根を設けるよう努めるものとする。
12 福利施設
(1) 使用者は、寄宿労働者の教養、娯楽、面会、談話、休憩等のための適当な福利施設を設けるよう
努めるものとする。
(2) 使用者は、(1)の福利施設については、次の各号に定めるところによるよう努めるものとする。
一 喫茶のための設備を設けること。
二 テレビを設置すること。
三 新聞、雑誌等を備え付けること。
13 自動火災報知器
使用者は、寄宿舎に自動火災報知器を設置するよう努めるものとする。
14 食堂
使用者は、寄宿舎には、食堂を設けるよう努めるものとする。
15 温かい食事
使用者は、寄宿労働者に温かい食事を提供するよう努めるものとする。
16 湯の提供
使用者は、寄宿労働者に湯を提供するよう努めるものとする。
17 冷蔵庫及び電子レンジ
使用者は、寄宿労働者が自由に使用できる冷蔵庫及び電子レンジ等を設置するよう努めるものとする。
18 栄養の確保
使用者は、寄宿労働者に給食を行うときは、栄養の確保に必要な措置を講ずるよう努めるものとする。
19 健康の確保
使用者は、健康に関する相談の機会を設ける等寄宿労働者の健康の確保について必要な配慮を行うよ
う努めるものとする。
20 疾病にかかった場合等の援助
使用者は、寄宿労働者が負傷し、又は疾病にかかった場合には、必要な援助を行うよう努めるものと
する。
21 共用電話
使用者は、寄宿舎には、寄宿労働者が自由に使用しうる共用の電話を設置するよう努めるものとする。
22 日用品の購入
使用者は、日用品の購入について寄宿労働者が不便を来さないよう、必要な援助を行うよう努めるも
のとする。
(別添2)
「望ましい建設業附属寄宿舎に関するガイドライン」の解説
1 ガイドラインの趣旨について(前文関係)
このガイドラインは、使用者が建設業附属寄宿舎(以下「寄宿舎」という。)の住環境の整備及び快
適な寄宿舎生活の維持、促進を図ることによって、寄宿舎に寄宿する労働者(以下「寄宿労働者」とい
う。)の福祉の向上を図ることを目的とする趣旨で策定されたものである旨を述べたものである。
2 使用者の責務について(第1項関係)
使用者は、寄宿舎について、寄宿舎生活をより快適なものとするため、単に労働基準法及び建設業附
属寄宿舎規程(以下「建寄程」という。)に定める基準を遵守するだけでなく、できるだけガイドライ
ンに定める基準に適合としたものとなるよう努めるべきことを示したものである。
3 寄宿労働者の意見の聴取について(第2項関係)
建寄程第3条の2においては、寄宿舎管理者が1箇月以内ごとに1回寄宿舎を巡視し、建寄程に照ら
し寄宿舎の修繕し、又は改善すべき箇所を認めた時には使用者にその旨連絡することとされているが、
より快適な寄宿舎の形成のためには、現に寄宿舎において生活する労働者からの意見を聴くことが有効
である。
このようなことから、使用者が寄宿労働者の寄宿生活を通じて得た意見要望を聴くための機会を設け、
寄宿労働者から意見要望があった場合は、必要な措置を講じるよう努めるべきことを示したものである。
4 寄宿労働者の協力について(第3項関係)
使用者が、労働基準法、建寄程、さらにはこのガイドラインに基づき、種々の措置を実施する場合、
その実効を確保するためには寄宿労働者の積極的な協力が重要であることから、寄宿労働者は使用者の
行う措置に協力するよう努めるべきことを示したものである。
5 出入口について(第4項関係)
屋外の現場等から泥や土が寄宿労働者の足部に付着したまま寄宿舎に持ち込まれると、寄宿舎の清潔
が確保されなくなるおそれがある。このため、寄宿舎の出入口においてこれらを除去する設備を設ける
よう努めるべきことを示したものである。
6 階段の構造について(第5項関係)
建寄程第13条第2号においては、階段の両側には高さ75センチメートル以上の手すりを設けることと
されているが、側壁又はこれに代わるものがある側についてはこの限りでないこととされており、両側
に手すりが設けられない場合もあり得るところである。しかし、階段の昇降時の安全の確保上、手すり
は大きな役割を果たすものであり、特に、火災等緊急時において避難がより円滑に行われるようにする
観点から、階段の少なくとも片側には手すりを設けるよう努めるべきことを示したものである。
7 寝室について(第6項関係)
寄宿舎における寝室は、睡眠をとる場であるのみならず、生活時間の多くを過ごす場であり、その住
環境は寄宿舎生活の質を左右する大きな要素である。
このような観点から、寝室について講じるよう努めるべき事項を示したものである。
(1) 各室の居住人員と1人当たり床面積について
建寄程第16条第1項第1号及び第2号において、各室の居住人員及び1人当たりの床面積はそれ
ぞれ6人以下及び3.2平方メートル以上とされているが、ガイドラインにおいては居住性の一層の
向上等のため、それぞれ2人以下及び4.8平方メートル(畳約3畳相当)以上とするよう努めるべ
きことを示したものである。
(2) 防音の措置について
建寄程第6条において、寄宿舎の設置は騒音の著しい場所を避けなければならないこととされて
いるが、これに至らなくとも、寄宿舎の中には工事現場に隣接したものや交通の頻繁な道路に面し
たもの等比較的騒音の大きい場所に設置されているものも少なくない。このような場合について、
周囲の状況に応じて窓をサッシ窓とする等防音の措置を講じ、寝室の快適性と寄宿労働者の睡眠の
確保を図るよう努めるべきことを示したものである。
(3) 就眠時間帯を異にする労働者に対する配慮について
都市部における道路関連工事や交替制によるずい道建設工事など夜間に行われる工事が少なくな
いが、これらに従事する労働者は夜間以外の時間帯に睡眠をとることが必要とされることとなる。
このような場合において、就眠時間帯を異にする労働者を同一寝室に居住させることは、それぞれ
の労働者において十分な睡眠が確保できないこととなるおそれがあるので、そのような状況を避け
るよう努めるべきことを示したものである。
8 浴場について(第7項関係)
寄宿労働者にとって、入浴は清潔を確保するとともに一日の作業の疲れを癒す上で重要なものであり、
寄宿舎の生活において欠かすことのできないものである。
このような観点から、浴場について講じるよう努めるべき事項を示したものである。
(1) シャワー設備の設置について
入浴時の利便のほか、身体の汚れや汗を随時流し落とすことができるよう、シャワー設備を設置
するよう努めるべきことを示したものである。
(2) 浴場の温度調節装置の構造について
入浴の効果を確保し、また、冬季において外気に曝されることにより風邪をひく等体調をくずす
こととならないよう、浴場の温度調節を浴場内で行うことができるような構造のものとするよう努
めるべきことを示したものである。
(3) 体重計の備付けについて
寄宿労働者が自らの健康管理を行う際の一助とするため、浴場に体重計を備え付けるよう努める
べきことを示したものである。
9 便所について(第8項関係)
建寄程第20条において、便所の設置に関する要件が規定されているが、ガイドラインでは、さらに不
便のない寄宿舎生活を確保する等の観点から、便所について講じるよう努めるべき事項を示したもので
ある。
(1) 便所の数については、建寄程第20条第2号において、大便所の便房の数は寄宿舎に寄宿する者15
人以内ごとに1個以上とすべき旨規定されている。ただ、寄宿舎においては、労働者の一日の生活
の時間帯が同一になりがちであることから、ガイドラインにおいては、大便所の便房及び小便所は
寄宿労働者の数に応じ適当な数を設けるよう努めるべきこと、また、この場合、大便所の便房が1
個である場合には不便が生じやすいことから、これを少なくとも2個以上とするよう努めるべきこ
とを示したものである。
(2) 女子用便所の設置について
建設業における女子の就労者数が増加しつつある状況にかんがみ、女子の寄宿労働者の数に応じ、
適当な数の女子用便所を設けるよう努めるべきことを示したものである。
(3) 水洗化について
建築基準法第31条により、下水道法第2条第8号に規定する処理区域内においては、便所は、水
洗便所以外の便所としてはならないとされているが、同区域外であっても、便所は、その衛生を確
保する観点から、できる限り水洗便所とするよう努めるべきことを示したものである。
10 渡り廊下について(第9項関係)
寄宿舎の中には、食堂、浴室、便所等が寝室と別の棟に設けられ、各棟の間の行き来に際しては、そ
の都度、履物を履き換え、雨天には傘をささなければならないといった状況がみられる。このような不
便を避け、快適な寄宿舎生活を確保するため、これらの各棟間には屋根のある渡り廊下を設けるよう努
めるべきことを示したものである。
11 洗たく機について(第10項関係)
寄宿舎においては、集団生活を行うため、寄宿労働者が洗たくを行う時間帯が同一となりがちである。
このため、洗たくに関して不便を生じることのないよう、寄宿労働者の数に応じて、適当な数の洗た
く機を洗たく場に設置するよう努めるべきことを示したものである。
12 物干し場について(第11項関係)
寄宿舎に物干し場があっても、これに屋根がない場合はあまり利用されず、寝室等に洗たく物を干す
こととなりがちであるが、このような状況は、衣類や寝室の衛生の確保、快適な寄宿舎生活の確保等の
観点から好ましいものではない。このため、物干し場には、屋根を設けるよう努めるべきことを示した
ものである。
13 福利施設について(第12項関係)
建寄程第23条においては、なるべく教養、娯楽、面会のための適当な福利施設を設けることとされて
いるが、寄宿労働者が休日や勤務終了後の余暇をくつろいで過ごすことができるようにするためには、
さらに談話や休憩等のための設備があることが望ましいものである。これらは、それぞれ別個に設けら
れる必要はないものであるが、できるだけこのような福利施設を設けるよう努めるべきこと、また、そ
の趣旨に沿った利用がなされるための望ましい措置として、喫茶のための設備を設けること、テレビを
設置すること及び新聞、雑誌等を備え付けることを示したものである。
14 自動火災報知器について(第13項関係)
床面積が500平方メートル以上の寄宿舎については、消防法により自動火災報知器の設置が義務づけ
られているが、火災発生時における自動火災報知器の有用性にかんがみ、寄宿舎においては、その規模
にかかわらず、これを設置するよう努めるべきことを示したものである。
15 食堂について(第14項関係)
食事は寄宿舎生活の質を左右する重要な要素の1つであることから、これを寝室で行うことのないよ
う、できるだけ食堂を設けるよう努めるべきことを示したものである。
16 温かい食事について(第15項関係)
食事を豊かなものとするとともに、また、冬季において冷たい食事をとるということのないよう、寄
宿労働者に温かい食事を提供するよう努めるべきことを示したものである。
17 湯の提供について(第16項関係)
食事の際はもとより、それ以外の余暇における喫茶や、あるいは洗面等の際に、寄宿労働者が自由に
湯を使えることができるような配慮について示したものである。
18 冷蔵庫及び電子レンジ(第17項関係)
食事やそれ以外の飲食を行う際の利便のため、寄宿労働者が自由に使用できる冷蔵庫や電子レンジ等
を設置するよう努めるべきことを示したものである。
19 栄養の確保について(第18項関係)
寄宿舎において給食が行われる場合には、寄宿労働者の栄養の確保はその給食によることとなること
から、このような場合における栄養の確保について必要な措置を講ずるよう努めるべきことを示したも
のである。
20 健康の確保について(第19項関係)
寄宿労働者については、
[1] 居住地を離れて就労し、家族と離れて生活を送るものであること
[2] 高齢者が少なくないこと
[3] 寄宿舎は、山間部等医療機関から離れた場所に設置されているものが多いこと
等の状況があり、その健康の確保について、特に配慮されることが必要である。このような観点から、
寄宿労働者の健康に関する相談の機会を設ける等必要な配慮を行うよう努めるべきことを示したもので
ある。
21 疾病にかかった場合等の援助について(第20項関係)
前項と同様の理由から、寄宿労働者が万一疾病にかかった場合には、医師の手配、医療機関の紹介等、
必要な援助を行うよう努めるべきことを示したものである。
22 共用電話について(第21項関係)
寄宿労働者が家族へ連絡する場合等の利便のため、自由に使用できる共用の電話を設けるよう努める
べきことを示したものである。
23 日用品の購入について(第22項関係)
山間部等に設置される寄宿舎においては、寄宿労働者は日用品の購入について不便を来すことがある
ことから、この点について必要な援助を行うよう努めるべきことを示したものである。