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液化酸素製造工程における火災災害の防止のための対策について

改正履歴


                                                                           基発第41号の2
                                                                          平成5年1月21日
																																					
  化学工業等における爆発火災による災害の防止については、従来から行政の重点対象として、その対策
の徹底を図るべく種々の施策を進めてきたところであるが、平成4年11月7日、長野液酸工業株式会社
(長野県松本市)において、日本酸素株式会社京浜事務所(神奈川県川崎市)が請け負った液化酸素製造
プラントの炭酸ガス吸着器の整備に伴う作業中に、同炭酸ガス吸着器内部が酸素過剰となったことによる
火災災害が発生し、3名が死亡した。
  災害発生状況、災害原因等については長野労働基準局及び松本労働基準監督署において鋭意調査を行い、
ほぼその全容が解明されたところである。災害の発生状況、原因等に照らし、今後同種災害の再発を防止
するため、今般別紙のとおり酸素協会に対して火災災害の防止対策の実施を要請したところであるので、
各局においても関係事業場において対策が的確に行われるよう指導されたい。

参考
注:今回の事例に係る液化酸素製造工程について
  [1]  コンプレッサにより、空気を(フロン冷凍装置を経由して)炭酸ガス吸着器へ送給する。
  [2]  炭酸ガス吸着器内部は、炭酸ガスを選択的に吸着する充てん材が詰められており、[1]の空気は充
      てん材内部を通過することにより炭酸ガスが除去され、炭酸ガスを除去された空気(酸素及び窒素
      の混合ガス)は、空気分離器へ送られる。
  [3]  充てん材は、一定時間ごとに再生(吸着した炭酸ガスを脱着すること)する必要がある。再生時
      には、[1]の空気の流れを止め、脱着した炭酸ガスを空気の入口側へ戻す。
  [4]  入口から出た炭酸ガスは、炭酸ガス排出用バルブ、配管、消音塔を通して大気中に排出される。
        なお、[1]から[4]の工程は、2つの炭酸ガス吸着器が交代で作動する。
  [5]  空気分離器は、酸素と窒素の混合ガスを、それぞれの沸点が異なることを利用して、酸素及び窒
      素に分ける。
  [6]  酸素及び窒素はそれぞれ、液化されて最終製品となり、貯蔵タンクに貯えられる。
  [7]  液化ガスの出荷は、タンクローリに積載して搬出するが、タンクローリに積載するときには、タ
      ンクローリ内に気化して充満しているガスを消音塔を通して大気中に排出する。

別紙

基発第41号
平成5年1月21日

酸素協会会長  あて

労働省労働基準局長  

液化酸素製造工程における火災災害の防止のための対策について

  化学工業等における爆発火災による災害の防止については、労働省としても行政の重点対象として、こ
れまでもその対策の徹底を図ってきたところでありますが、平成4年11月7日、長野液酸工業株式会社
(長野県松本市)において、日本酸素株式会社京浜事業所(神奈川県川崎市)が請け負った液化酸素製造
プラントの炭酸ガス吸着器の整備に伴う作業中に、同炭酸ガス吸着器内部が酸素過剰となったことによる
火災が発生し、3名が死亡したことは、誠に遺憾に堪えないところであります。
  労働省では、事故発生以来、鋭意調査を行ってきたところであり、その結果把握した災害の発生状況、
災害の原因等に照らし、今後同種災害の再発を防止するため、下記事項に留意した対策を実施するよう傘
下会員への周知徹底をお願いします。
記
1  液体酸素製造プラントにおけるタンクの内部における作業に当たっては、作業箇所に酸素が漏えいす
  ることによる同種災害の防止のため、以下の措置を講ずること。
    なお、窒素が漏えいした場合においても酸素欠乏症のおそれがあることから、同種の措置を講ずるこ
  と。
  (1)  作業の方法及び順序を決定し、あらかじめ、これを関係労働者に周知させること。
  (2)  当該作業の指揮者を定め、その者に当該作業を指揮させること。
  (3)  作業箇所に酸素が漏えいしないように、バルブ若しくはコックを二重に閉止し、又はバルブ若し
      くはコックを閉止するとともに閉止板等を施すこと。
  (4)  (3)のバルブ、コック又は閉止板等に施錠し、これらを開放してはならない旨を表示し、又は監視
      人を置くこと。
2  上記作業を他の事業者に請け負わせる場合については、当該事業者が上記1の措置をとるために必要
  な情報提供、指導等を行うこと。

別  添

事故の概要
1  発生日時  平成4年11月7日  午後3時40分頃
2  発生場所  長野県松本市  長野液酸工業株式会社
3  発生箇所  液化酸素製造工程中の炭酸ガス吸着器(MS吸着器)
  [1]  当該炭酸ガス吸着器には、圧縮空気供給と炭酸ガス送出用の配管、炭酸ガスを除去した空気送出
      用の配管の2本の配管が接続されている。
  [2]  除去された不要な炭酸ガスは、炭酸ガス送出用配管でバルブ及び消音塔を経て大気に排出される
      ようになっている。
  [3]  また、製品の液化酸素を出荷するタンクローリの荷積みの際に排出される酸素も、酸素送出用の
      配管で、上記炭酸ガス送出用の配管と接続され、消音塔を通して大気へ排出されるようになってい
      る。
        なお、液化窒素の出荷についても同様である。
  (別添図面参照)
4  被災状況  死亡3名  負傷0名  計3名
5  発生状況  事故発生の状況は次のとおりである。
  [1]  炭酸ガス吸着器の手直し(内壁へのステンレス製板の張付け)の最終的な作業のため、3名の作
      業員は当該炭酸ガス吸着器の内部においてグラインダがけを行っていた。
  [2]  事故当日は、酸欠防止のため、炭酸ガス送出用の配管に接続されたバルブは手動で開かれていた。
      (通常は、自動制御される。)
  [3]  [1]の作業を行っていたとき、液化酸素出荷用のタンクローリに液化酸素荷積みを行ったため、そ
      れに伴い気化した酸素が酸素送出用の配管へ排出された。
  [4]  [3]の高純度の酸素が、炭酸ガス送出用配管を通して炭酸ガス吸着器の中へ流入した。
  [5]  炭酸ガス吸着器内の酸素濃度が上昇したため、グラインダの火花で、被災者の作業服等が激しく
      燃焼し、3名全員が死亡した。
  [6]  事故発生直後、松本労働基準監督署等が、再現実験を行い、液化酸素を充てんしたタンクローリ
      を接続したところ、9分後に炭酸ガス吸着器内の酸素濃度が約90%まで増加した。
  (別添図面参照)

(図)