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工事中の長大トンネルにおける防火安全対策について

改正履歴


  去る3月20日、上越新幹線大清水ずい道(保登野沢工区)工事において、坑内火災により、作業中の労
働者が14名死亡、2名重傷、その後状況調査及び救出のために入坑した2名が死亡する重大災害が発生し、
社会的にも大きな問題となったところである。この事故は、ずい道工事に使用したジャンボ掘削機をガス
溶断により解体中、火花により油のしみこんだおが屑、矢板等に着火し、大惨事に至ったものであるが、
火気取扱時の安全対策、消火・通報・避難等の対策の不備がその原因と考えられる。
  この災害を契機に、運輸省、建設省、消防庁及び労働省の四省庁の協議により、別添のとおり「工事中
の長大トンネルにおける防火安全対策について」をまとめ、それぞれの省庁において関係機関に通達する
ことになり、労働省は、昭和54年10月22日付け基発第523号をもって建設業労働災害防止協会長あて別紙
写しのとおり要請したので了知するとともに、昭和52年7月25日付け基発第418号の2とあわせ今後、ト
ンネル火災事故防止対策の推進に万全を期されたい。
  なお、別紙の「工事中の長大トンネルにおける防火安全対策について」の内容は、法令及び上記基発第
41号の2に基づくものと、新たに指導の対象事項として1−3、1−5、2−1−1、2−3−2、2−
3−4、2−4−1、3−1−2、4−1、5及び6−2の項目をつけ加えたものである。
  おって本省においては、トンネル工事における爆発、火災等による災害の防止等に関し、法令の改正整
備を含め引続き具体的な対策を検討中であるので申し添える。

別  紙

工事中の長大トンネルにおける防火安全対策について

昭54.10.22  基発第523号

  建設業労働災害防止協会会長殿
  去る3月20日、上越新幹線大清水ずい道(保登野沢工区)工事において、坑内火災により、作業中の労
働者が、14名死亡、2名重傷、その後、状況調査及び救出のために入坑した2名が死亡する重大災害が発
生し、社会的にも大きな問題となったことは、まことに遺憾にたえないところであります。
  この災害は、ずい道工事に使用していたジャンボ掘削機をガス溶断により解体中、火花により油のしみ
こんだおが屑、矢板等に着火し、大惨事に至ったものでありますが、火気取扱い時の安全対策、消火・通
報・避難等の不備がその原因と考えられます。
  この種の災害の防止については、法令に規定するほか、すでに昭和52年7月の同線湯沢トンネル工事現
場における坑内火災の発生後、「トンネル工事等における坑内火災の防止対策」を要請したところですが、
今回の火災発生を契機に、運輸省、建設省、消防庁及び労働省の4省庁の協議により、同種災害の絶滅を
図るため、別添のとおり「工事中の長大トンネルにおける防火安全対策について」をまとめましたので、
これらの対策の実施について会員事業場に徹底するよう所要の措置を講ぜられたく要請いたします。

別  添

工事中の長大トンネルにおける防火安全対策について

  長大トンネル(1工区の長さがおおむね1km以上のトンネルをいう。以下「トンネル」という。)の工
事を行うに当たっては、労働安全衛生法に規定する事項を遵守するとともに、以下に示す防火安全対策に
ついても十分留意するものとする。なお、斜坑及び立坑を設置する場合については、これに準じて安全対
策を講ずるものとする。
1  防火管理体制の確立
    工事中のトンネルにおける安全衛生対策については、防火安全、消火、避難、救護、安全教育等の諸
  対策が有機的に行えるようあらかじめ事業場における防火管理体制の確立を図る。
  1−1  統括安全衛生責任者の職務の強化
      統括安全衛生責任者は、工事中のトンネルにおける関係請負人間の協議組織の設置・運営、業者間
    の連絡・調整、作業場所の巡視等を行うことにより、火災等の災害発生防止についての徹底を図る。
  1−2  安全衛生責任者の職務の励行
      安全衛生責任者は、統括安全衛生責任者との連絡及び統括安全衛生責任者からの指示事項を関係者
    へ連絡しその徹底を図る。
  1−3  防火担当者の職務
      防火に関する安全管理担当者を定め、この者は火災等の発生を防止するため、火気の使用、危険物
    の取扱い等について必要な措置を講ずるものとする。
  1−4  入坑人員の確認
      工事中のトンネルについては、入坑している者の氏名、人員をトンネル外において常に確認できる
    ような措置を講じておくものとする。
  1−5  緊急時に備えての通報・避難等の体制の確立
      火災が発生したときに備えて、トンネル内の各作業現場、トンネル外の事務所及び関係機関と直ち
    に連絡のとれる体制を確立しておくものとする。
      火災発生場所付近にいる作業員は直ちに事務所に火災発生の通報を行うとともに、作業の責任者の
    指導に従って初期消火に当たるものとし、初期消火によっても火勢がおとろえない場合は直ちに避難
    するものとする。
      また必要に応じ、作業員で構成する救護隊を組織するものとする。この場合の責任者には統括安全
    衛生責任者又はこれに代わる者が当たるものとする。
2  防火安全対策の強化
  2−1  一般的事項
    2−1−1  火災予防計画を含めた施工計画の策定
        トンネル掘削施工計画を定めるに当たっては火気の取扱い方法、消火器等の維持管理、災害時の
      通報連絡体制等に関する火災予防計画を策定し、関係機関に提出するものとする。
    2−1−2  作業現場の調査の徹底
        地山の状態、可燃性ガスの有無等についてあらかじめ適当な方法で十分調査するものとする。
    2−1−3  易燃性の材料等を使用しない工法の採用
        工事中のトンネルにおいては、紙、塩化ビニール等の易燃性の材料又は燃焼の際に有害性のガス
      若しくは多量の煙を発生する材料等を使用しない工法の採用を検討する。
  2−2  可燃物の管理等
    2−2−1  危険物等がある場所における火気等の使用禁止
        工事中のトンネルにおいて、火薬類、危険物その他多量の易燃性の物品が存在する場所において
      は、火花又はアークを発し、若しくは高温となって点火源となるおそれのある機械等又は火気の使
      用及び喫煙を禁止するものとする。
    2−2−2  火気使用場所の火災の防止
        トンネル内に設ける喫煙所、ストーブその他の火気を使用する場所には喫煙所の表示、水を入れ
      た吸がら入れを設ける等火災予防のための措置を講ずるものとする。
    2−2−3  ボロ及び油脂類の処理
        トンネル内においては、油の浸染したボロ及び油脂類は不燃性の蓋付きの容器に収納し、又は貯
      蔵するものとする。
    2−2−4  溶接・溶断作業を行う場合の措置
        工事中のトンネルにおいて溶接・溶断作業を行う場合は看視人を配置するとともに、付近の可燃
      物を除去し又は可燃物に不燃性の覆いをかけて行うものとする。
    2−2−5  火薬類等の容器の管理
        トンネル内で使用する火薬類、危険物、ガス溶接用の容器等については、保管場所を定めておく
      こととし、火気を使用する場所に設置し、又は使用しないようにする。また、当該容器等を設置し、
      又は使用する場所には、その旨表示し、関係者以外の者を立入りさせないようにする。
  2−3  可燃性ガスによる爆発・火災の防止
    2−3−1  可燃性ガスの換気
        工事中のトンネルにおいて可燃性ガスが存在して爆発又は火災が発生するおそれのある場所につ
      いては、随時作業箇所及びその周辺における可燃性ガスの濃度を測定する。その濃度が爆発下限界
      の値の30%以上であるときは、直ちに関係者を安全な場所に避難させるほか火気等点火源となるお
      それのあるものの使用を停止するとともに通風、換気等の措置を行うものとする。
    2−3−2  可燃性ガスの発生に対する措置
        トンネルの掘削に際し可燃性ガスの発生のおそれがあるときは、地山に対して先進ボーリング等
      を行い、ガスが存在する場合はガス抜き、換気等必要な措置を講ずるものとする。
    2−3−3  防爆構造電気機器の使用
        可燃性ガスが存在し、その濃度が爆発の危険のある濃度に達するおそれのある場所において使用
      する電気機器は、防爆構造のものとする。
    2−3−4  発火具等の携帯禁止
        可燃性ガスが存在し爆発又は火災が発生するおそれのある場所については、禁煙させるとともに
      発火具、喫煙具、たばこ等を携帯させないこととする。
  2−4  その他
    2−4−1  地震後の点検
        中震以上の地震が発生した場合には、ガス容器の破損、転倒、油類の漏洩、可燃性ガスの発生の
      有無等について点検を行い、異常を認めたときは、直ちに必要な措置を講ずるものとする。
3  通報・消火対策
  3−1  通報設備
    3−1−1  通報設備の設置
        トンネル内には、電話、非常ベル、手動式サイレン等の通報設備を設けるものとし、非常ベル、
      手動式サイレンを用いる場合は、あらかじめ警報音の種類を定めておくものとする。また、電源を
      必要とする通報設備には、停電時における機能の保持を図るため、非常電源を設けるものとする。
    3−1−2  通報設備設置場所の明示
        通報設備の設置場所には、設置箇所が容易に判別できるように非常電源を有する表示灯又は表示
      ラベル(蓄光塗料を塗布したもの。)を設けるものとする。
  3−2  消火器等の設置
      トンネル内において、溶接・溶断作業を行う場所、火気の使用場所、電気設備の設置箇所及び危険
    物を貯蔵し、又は取り扱う場所には、消火器(水系の消火器又は粉末消火器)、砂、水等を設置して
    おくものとする。
4  避難・救護対策
  4−1  避難用の通路の確保
      火災等が発生したときの避難に備え、常にトンネル内及びトンネル外を整理整とんしておくものと
    する。なお、立坑又は斜坑を有するトンネルにおいては、トンネル内で火災が発生した場合において
    も巻き上げ設備等を運転できるような措置を講じておくものとする。
  4−2  避難用器具の設置
      トンネル内の適当な場所に、一酸化炭素用自己救命器等の避難用器具及び非常電源を有する誘導灯
    を設置するとともに懐中電灯、携帯用照明具等を備えるものとする。
  4−3  救護器具等の設置
      トンネル内で火災等が発生したときに救護活動を行うため、酸素呼吸器等の呼吸用保護具、副木、
    担架等の救急用具等を備えるものとする。この場合、呼吸用保護具は、十分な能力を有するものを備
    えておく。
5  消火器、酸素呼吸器及び空気呼吸器の点検整備
    消火器、酸素呼吸器及び空気呼吸器については、1年に1回以上専門技術者に点検を行わせその機能
  の保持を図るものとする。
6  安全教育及び各種訓練の実施
  6−1  災害発生時に対する安全教育の実施
      トンネル内において火災等が発生したときに備え、あらかじめ、関係労働者に対し、火災予防上の
    遵守事項、初期消火の方法、避難・救護の方法等について教育を行うものとする。
  6−2  各種訓練の実施
    6−2−1  通報、消火及び避難に関する訓練の実施
        火災発生時における通報体制を整備するとともに、1年に1回以上、通報、初期消火及び避難の
      方法に関する訓練を実施するものとする。
    6−2−2  救護訓練の実施
        火災発生時における救護体制を整備するとともに、1年に1回以上、呼吸用保護具の操作、ガス
      濃度測定器具の取扱い、救護等に関する訓練を実施するものとする。
    6−2−3  関係機関との打合せ
        各種の訓練の実施に当たっては、必要に応じ事前に関係機関と打ち合わせを行うものとする。