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改正履歴
最近、各国における広範囲な石綿関係労働者についての研究調査の結果、10年をこえて石綿粉じんに
ばく露した労働者から肺がん又は中皮腫が多発することが明らかとされ、その対策の強化が要請されてい
るところである。
労働省としては、昨年9月に特定化学物質等障害予防規則(以下「特化則」という。)を改正し、一部
石綿業務についての制限等規制を強化するとともに、石綿関係施設改善等研究会を設け、環境改善の具体
的な技術指針の検討を行っているところである。
各局においては、昭和51年度行政運営方針に基づき、特別監督指導計画の重点対象として、その対策
が図られているものと思われるが、最近の石綿による肺がん又は中皮腫発生の報告をみるとき環境改善の
技術指針をまつまでもなく早急な作業環境改善等健康障害防止対策の推進が肝要であると考えられる。
しかし、対象業種が広範で、かつ、中小企業が多いことから、これが徹底には困難を伴うと思料される
が、上記対策の推進にあたっては、特化則の関係規程の遵守を徹底させることはもとより、特に、下記事
項に留意するとともに、別添の資料を参考として関係者に石綿の有害性についての周知を図り、もって関
係事業場の石綿粉じんによる健康障害の防止措置の徹底を図られたい。
記
1.関係事業場及び石綿取扱者のは握
(1) 石綿は、石綿管及び板、石綿セメント、自動車ブレーキ、石綿織布等の製造のほか、建設業、造
船業又は化学工業等における断熱工事に広く使用されてきているが、とくに、後者についての実態
が十分は握されていないので、元方事業者又は関係業界を通じて関係事業場(過去に取り扱った事
業場を含む。)をは握すること。
(2) また石綿による悪性新生物の発生には20〜25年にわたって潜伏期間が見込まれることから、関係
事業場に対し在職者及び退職者(配置替えとなった者を含む。)の氏名、性、生年月日、本籍地、
作業歴、石綿へのばく露状況及びじん肺健康診断結果の記録並びに過去における環境測定結果を蒐
集整備し、これを長期にわたり保存するよう指導すること。
2.石綿の代替措置の促進
石綿は、可能な限り、有害性の少ない他の物質に代替させるとともに、現在までに石綿を使用してい
ない部門での石綿又は石綿製品(発じん防止処理したものであっても、使用中又はその後において発じ
んすることの明らかなものを含む。)の導入は、避けるように指導すること。
3.環気中における石綿粉じんの抑制
(1) 濃度基準
石綿については、特化則において、環気中の石綿粉じん(5μ以上の繊維)濃度を5繊維/cm3
以下に抑制するための局所排気装置及び除じん装置等の設置を規程しているが、最近、関係各国に
おいて環気中の石綿粉じん濃度の規制を強化しつつある。
労働省においても、今後環気中石綿粉じん濃度について検討を加えることとしているが、当面、
2繊維/cm3(青石綿にあっては0.2繊維/cm3)以下の環気中粉じん濃度を目途とするよう指導
すること。
(2) 発散抑制措置の徹底
屋内作業場における石綿粉じんの発散を防止するため、石綿又は石綿製品の製造又は取扱いの作
業の実態に応じ、密閉工程の採用、又は適切な除じん装置を付設した局所排気装置を設置させるこ
とはもとより、石綿の運搬又はその空容器若しくは石綿製品の運搬等に際しての二次的な発じんに
よる影響も無視できないので、石綿粉じんが堆積するおそれのある作業床は、少なくとも毎日1回
以上水洗により清掃するよう指導すること。なお、真空掃除機は、稼働中捕促し難い徴細な石綿粉
じんの排出による環境の汚染及び真空掃除機内に収じんした石綿粉じん処理時の汚染が考えられる
ので、止むを得ない時に限り使用することとし、その際除じん効率の高いものを用いるとともに真
空掃除機内の収じんした石綿粉じんの処理時の発じん防止を指導すること。
4.(削除)
5.清潔の保持の徹底
石綿により汚染した作業衣も二次発じんの原因ともなる。また、最近石綿業務に従事する労働者のみ
ならず、当該労働者が着用する作業衣を家庭に持込むことによりその家族にまで災わいの及ぶおそれが
あることが指摘されている。
このため、関係労働者に対しては、専用の作業衣を着用させるとともに、石綿により汚染した作業衣
はこれら以外の衣服等から離隔して保管するため設備に保管させ、かつ作業衣に付着した石綿は、粉じ
んが発散しないよう洗濯により除去するとともに、その持出しは避けるよう指導すること。
なお、作業終了後及び必要に応じ、手洗い、洗面及びうがいを励行させること。
6.石綿作業従事者の喫煙について
石綿粉じんにばく露する労働者から肺がん発生は、石綿粉じんのばく露の程度とともに、喫煙が極め
て大きく関与することが明確となった。従って、石綿作業者に対し、できるだけ喫煙を避けるよう教育
指導させること。
7.自動車のブレーキ修理の業務に従事する者の健康管理
最近米国において、自動車のブレーキ及びクラッチ部品の整備業務に従事する者が石綿にばく露する
ことにより健康障害を惹起するとしてその対策の必要性が警告されているところである。労働省におい
ても実態を調査したところ、自動車のブレーキドラム中の堆積物には、相当量の石綿が含有されている
こと及び関係労働者がこれら粉じんにばく露されていることが明らかとなった。従って、関係者に対し、
次の措置を指導すること。
(1) ブレーキドラム及びクラッチボックス中の堆積物に含有される石綿による健康障害の危険性の周
知徹底
(2) ブレーキドラム又はクラッチボックスからの堆積物除去方法の湿式化又は真空掃除機による吸引
除去
(3) 自動車のブレーキ修理の業務に従事する労働者及び退職者のは握
(4) 関係労働者に対する特化則別表第3及び第4に掲げる石綿に係る項目についての健康診断の実施
(参 考)
石綿に係る規制と本通達との対比(表)
石 綿 関 係 資 料
目 次
1.石綿の産出及び用途
2.石綿がばく露労働者に与える影響
3.労働省が石綿をがん原性物質として認識した根拠
4.石綿粉じんの許容濃度についての考え方
5.最近の学会等での発表論文要旨
6.我が国における石綿取扱い作業の実態
7.その他
昭和51年4月
労 働 衛 生 課
1.石綿の産出及び用途
(1) 産 出
石綿(Asbestos)という名称は、化学組成の異なる一群の硅酸塩鉱物につけられた幅広い名称で
ある。これらは、2つの鉱物群に分類される。
イ.ピロキセン(Pyroxenes輝石)……クリソタイル
ロ.アンフィボール(Amphiboles、角閃石)……クロシドライト、アモサイト、トレモライト、アク
チノライト、アンソフィライト
石綿は、おそらく世界のあらゆる国で産出するが、主要産出国はカナダ、ソ連、南アフリカであ
り、それらの生産量は400万t(1970年)である。(表参照)
(2) 用途等
イ.石綿の種類別用途
(イ) クリソタイル(白色)
[1] 産 出 カナダ、ソ連、ローデシア
[2] 化学組成 3MgO、2SiO2、2H2O(含水マグネシウム硅酸塩)
[3] 用 途
(イ) 石綿の防糸、織布
(クリソタイルの含量80〜100%)
(ロ) アスベストセメント
( 〃 15〜90%)
(ハ) フリクション (まさつ材)材料
( 〃 30〜80%)
(ニ) パッキング
( 〃 40〜75%)
(ホ) アスベスト紙
( 〃 80〜90%)
(ヘ) 床タイル
( 〃 10〜30%)
(ト) そ の 他
短織維のもの…ペイント、屋根のコーチング、継ぎ目のうめ物
(ロ) クロシドライト(青色)
[1] 産出 南アフリカ、オーストラリア、ボリビア
[2] 化学組成 Na2O 3FeO Fe2O3 8SiO2
H2O(含水ナトリウム第1、第2、鉄硅酸塩)
[3] 用途
(イ) アスベストセメント
(ロ) 耐酸性のフィルター等
(ハ) ヒューム管
(ハ) アモサイト(黄褐色〜白色)
[1] 産出 南ア共和国連邦
[2] 化学組成 1.5MgO 5.5FeO 8SiO2 H2O(第1鉄マグネシウム硅酸塩)
[3] 用途
(イ) パイプ、ボイラーの被覆剤
(ロ) 船の隔壁のライニング
(ニ) アンソフィライト(褐色又は灰色かかった白色)
[1] 化学組成 7MgO 8SiO2 H2O(マグネシウム硅酸塩)
[2] 用途
(イ) アスベストセメント
(ロ) 床タイル
ロ.石綿繊維の長さによる級別と用途(表4参照)
ハ.石綿製品の用途(表5参照)
2.石綿がばく露労働者に与える影響
(1) 石綿肺
石綿の生物学的影響として、最も一般的であり、古くから知られているのは石綿肺(じん肺の一
種)である。
石綿肺はけい肺と共に膠原性じん肺の代表であり、石綿粉じんは繊維増殖性粉じんとして作用す
る。石綿肺とけい肺との相違点は、次のとおりである。
[1] X線写真の所見は、けい肺と異なり、異常線状影を示す場合が多い。
(イ) 陰影の出現は、多くの場合肺の下野に現れる。
(ロ) 陰影の線状(点状影の連続してみえる場合がある。)であるため、進行した石綿肺では粒状
影の場合にみられるようにその分布が密かつ大という形でなく、スリガラス的にびまん性に見
られるようになることが多い。
[2] いわゆる石綿小体が喀痰中に見出される場合が多い。
[3] 石綿肺における結核の合併率は、少なくともけい肺における場合ほど高率でない。
[4] 心肺機能障害があらわれ易く、拡散障害のタイプが多い。
(2) 石綿による肺がん
石綿肺と気管支がんとの関係を最初に示唆したのは米国のLynchとSmith(1934年)であり、少
し遅れて英国のGloyneが行った。
石綿ばく露と肺がんとの最初の証拠は、紡績業における有害指定作業に従事する一定数の労働者
の死亡率を調べた1555年のDollの研究である。その後、石綿による肺がん発生については多くの
研究が発表されてきたが、問題は石綿にばく露した労働者が肺がんは、石綿肺を基調として発生す
るかどうかである。石綿肺がなくて気管支がんにかかった石綿ばく露労働者が存在するとされてい
るが、なお、検討を要する。(表6及び表7参照)
(3) 石綿による中皮腫
[1] 石綿による中皮腫(Mesothelioma)発見の歴史をWagnerの論文から引用すると、次のとおりで
ある。
(イ) 1956年南アフリカのJohannesburgの病院で肺の中に石綿小体もつ胸膜のびまん性中皮腫
が診断された。
(ロ) これより先、Kimberleyの病院で、胸膜結核の診断のもとに病院に収容され、しかも結核
の治療に反応しない患者が増加してゆくのに気付きこれらの患者は胸膜の悪性腫瘍のため
次々死亡した。医師はこれらの腫瘍を何か他の内臓瘍からの二次的なものであると考えた。
(ハ) 胸部外科医のMarchandが患者16例のびまん性中皮腫を組織学的に診断した。
(ニ) Wagner等は、以上の流行の原因を次のことから石綿に起因すると提案した。
(イ) 最初の症例の中にアスベスト小体が発見された。
(ロ) 巨大なクロシドライト鉱脈がKimbereleyの200哩西方にあること。
この仮説は、石綿の分野でそうした報告は1例もなく、患者の職業も主婦、牧師、農
夫、弁護士、保険業者であった等のことから支持されなかった。
[2] SleggsとMarchandはさらに調査し、1959年までに33例(32例はケープ石綿産地又は石綿産
業上の使用に関係があった。)が判明した。
1961年までに87例の胸膜中皮腫、2例の腹膜中皮腫が診断された。この87例中12例は産業
上のばく露があり、残りはすべてケープ石綿産地区からであった。これらの症例では、肺に石綿
肺の所見は見られず、気腔に僅かの石綿小体と繊維がみられた。
従って、中皮腫の発生は、石綿肺の後遺症というより、石綿粉じんばく露に関連すると考えた。
[3] 1965年Newhouseは、過去50年間にわたってLondon病院でびまん性中皮腫の診断を下された83
名の患者について調べた結果次のことが判明した。
(イ) 気管支がん(石綿肺がん)とは異なって、症例の性比別発生が同じであること。
(ロ) 症例の発生が最近において増加していること。
(ハ) 石綿ばく露との関係は次のような内訳であった。(図)
3.労働省が石綿をがん原性物として確認した根拠
上記の研究結果をふまえての次の国際機関における研究結果及び我が国における石綿障害発生状況
(1) ILO(1972年1月開催された職業がんについての専門家会議での検討結果)
「石綿による職業がんは、公認された危険、明確になった物質の一例として列記されていること」
(2) WHO−IARC
[1] 1972年1月開催された専門家会議での検討結果
「石綿をがん原性物質として公認された物質としていること。」
[2] 1972年10月開催された石綿の生物学的影響をレビューするためのワーキングループのミーテ
ング結果
(イ) すべてのタイプの石綿と肺がんとの間に因果関係があることが支持された。
(ロ) 中皮腫との関係についても、石綿にばく露した人々の死亡率の研究から因果関係がある可
能性の強いことが確認された。
(ハ) 紙巻煙草喫煙は、石綿ばく露労働者において、男女とも肺がん危険率を高める重要な因子
であること。
[3] 1973年開催された専門家会議での検討結果
「石綿と肺がんとの関係を確認した。」
(3) ACGIH(1974年)
石綿は、人間に職業がんを発生することが認められた物質で許容濃度を決定し得るものの一に列
記されていること。
(4) 我が国における石綿による肺がん等悪性腫瘍の発生状況
石綿消費量、石綿スレート生産量と悪性新生物発生状況は表8のとおりである。
(5) 石綿障害に関する学会等での発表論文
後記5参照
4.石綿粉じんの許容濃度についての考え方
(1) 英 国
イ.石綿規則(Asbestos Regulation)1931年制定、1969年改正時間加重平均2繊維/cm3>5μ
又は0.1mg/m3ただし、青石綿(クロシドライト)については0.2繊維/cm3>5μ又は0.01
mg/m3
ロ.BOHS(Committee on Hygiene Standards of British Occupational Hygiene Society)の1968
年勧告による考え方の要旨
[1] 作業環境中にいくらかでもクリソタイル粉じんが存在する限り、健康に対し些少な障害は
起りうる。しかし、ある限度までのばく露なら過度の危険を招くことなく生涯を過しうると
いう現実に立脚し、目標は、石綿肺(石綿による肺の最も早く見出される影響)により患す
る危険をこの粉じんに生涯ばく露する人々の1%以下に減少させられるであろうと確認され
る濃度としている。
[2] この初期臨床所見を示すに至るまでの危険は、粉じん濃度が1cm3あたりの繊維数X年の
累積ばく露が100繊維であるとしている。即ち、50年間ばく露のためには2繊維/cm3、25
年間では4繊維/cm3となる。
[3] 粉じんのばく露の程度を、次の分類表の等級であらわしている。(表)
[4] 高度のばく露等級の場所で間つけ的に労働する必要のあるときは、検定済のマスクを使用
しなければならない。しかし、その条件としては、50繊維/cm3以下の濃度であり、かつ、
マスクが適合していること必要である。もし、濃度が50繊維/cm3超えるような時は、送
風マスクを使用させなければならない。
(2) 米 国
イ.連邦官報(Federal Register)1972年
時間加重平均 5繊維/cm3>5μ(1972年7月7日以降)
時間加重平均 2繊維/cm3>5μ(1976年7月1日以降)
天井値 10繊維/cm3>5μ
なお、1975年11月米国労働省、石綿の許容基準を、次のように下げることを提案した。
時間加重平均 0.5繊維/cm3>5μ
天井値 5繊維/cm3>5μ
建設業については、別に修正されるまでは現行基準
ロ.連邦官報(1972年)提案基準における見解の要旨
[1] 高濃度石綿粉じんの環境に長期にわたって置かれると石綿肺や、がん等が発生することに
ついては、いかなる異論もない。問題は、石綿粉じんの許容濃度についてである。その理由
は、
(イ) 石綿肺、肺がん等の症状の発生との間の定量的関係の解明を目的とした各種の研究に
より、現在用いられている測定技術の有効性、信頼性に関する論争
(ロ) 吸入開始から症状が出るまでは長期間かかるが、20〜30年前の吸入のレベルを正確
に測定する手段
(ハ) 各種石綿の相対的な有害性や作業場所による危険の差異
[2] 論争は、5繊維/cm3〜2繊維/cm3の濃度(雇用主5繊維/cm3、医師2繊維/cm3と5
繊維/cm3)の範囲に集中した。
[3] しかし、濃度は科学的に立証されていないにしても、現在利用できる最良の証拠に基づい
て規制の必要があり、現在、進められている調査の結果に照らし再評価することはできるが、
労働者の生命が危険にさらされている以上、それらの結果を待ってはいられない。
[4] 結論として、種類の如何を問わず、すべての作業に適用できる最低の石綿吸入基準を設け
るべきである。
(3) 日 本
日本産業衛生学会の勧告(1973年)
時間加重平均 2繊維/cm3>5μ
天 井 値 10繊維/cm3>5μ
青石綿については、これらの濃度をはるかに下廻ること。
5.最近の学会での発表論文要旨
(1) 英国の石綿工場における労働者の死亡率研究(S.Howard et al 1975)
北部イングランドの石綿織布工場労働者で主にクリソタイルにばく露されてきた男823人、女284
人について、危険の高い部門での勤続期間と就業時期により区分して、1974年まで追跡した結果、
次のとおりであった。(表)
(2) 英国の石綿織布工場労働者の中皮腫発生の危険性
(MurielL. Newhouse&Berry.1975)
[1] 調査対象
{ 1933年の雇用された男子労働者 3,600人 }
1936年〜42年に雇用された女子労働者 800人
計 4,400人
[2] 中皮腫発生状況
男 32人 }計 48人
女 16人
[3] ばく露期間(ばく露開始から腫瘍発生まで)
10〜15年(普通 20〜25年)
(3) ゼノア港(イタリー)工場労働者の死亡率と死因
(L. Russo et al、1975)
[1] 調査対象グループ
(イ) ゼノア港の船舶修理保全作業従事労働者(1959年12月31日に生存しており、その後10
年間に死亡した者)……(工場労働者)
(ロ) ゼノア港の商業部門の労働者(期間はイと同じ)……(商業労働者)
[2] 調査対象グループの比較の結果
(イ) 工場労働者で、すべての年齢群で全死亡が高かった。
(ロ) 工場労働者で、石綿肺及び胸膜と肺の新生物の発生頻度が高かった。
(ハ) 断熱工でのみ石綿肺による死亡があった。
(ニ) 船舶清掃作業者、組立作業者、金属関係作業者、塗装作業者群で特に胸膜と肺の新生物の
発生率が高かった。
(ホ) 工場労働者と商業労働者で死因、とくに新生物について比較しても作業従事期間、作業開
始から死亡までの期間で有意差はなかった。
[3] 結 論
港湾労働者における胸膜と肺の新生物発生に対する石綿ばく露の意義については、対象とした
期間では肯定も否定もできなかった。
(4) 米国のブレーキ修理工の石綿ばく露(William V. Lorimer et al 1975)
[1] ブレーキライニング及びブレーキドラム内粉じん中の石綿含有量
ブレーキライニング 40〜60%
ブレーキドラム内粉じん 10〜50%(平均20%)
[2] ブレーキ修理作業中の石綿粉じん発散濃度
(イ) ブレーキドラムの粉じんを吹き飛ばす作業
平均15.9繊維/cm3(15分間サンプリング)
(ロ) 使用したブレーキライニングを研磨し再生する作業
平均3.8繊維/cm3
(ハ) 新しいブレーキライニングを斜めに切断する作業
平均37.3繊維/cm3
[3] 健康診断結果
(イ) 対象者 100人(1960年以前のばく露開始から5年以上・常勤者はなく、これらの作業時
間は一般的に20%以下であった。)
(ロ) 結 果 石綿肺所見が認められた者20%
肺機能検査及び臨床検査で異常が認められた者 数人
(注)自動車用ブレーキ及びクラッチ部品の整備にあたり、石綿にばく露し、健康障害をおこすお
それがあるとし、1975年8月NIOSHより警告書が送付されてきた。
(5) 米国及びカナダの建設業における断熱作業労働者のがんの危険度(I, J, Selicoff 1972)
イ.米国及びカナダの断熱作業労働者17,800人の1967.1.1〜1971.12.31までの死亡の期待値
と観察値(表)
(観察結果)
(イ) がんは作業経験の長い老齢者から死亡者が出ていた。
(ロ) 若年者の死亡は殆んどなかった。
(ハ) 肺がんは、断熱作業者の死因の第1位であり、全悪性新生物による死亡の45%を占めてしる。
(ニ) 消化器がんが増加している。
ロ.米国及びカナダの断熱作業労働者17,800人の1967.1.1〜1971.12.31における肺がんと胸膜
中皮腫による死亡(表)
(観察結果)
(イ) 肺がん死亡は、ばく露開始後15〜19年で有意に増加していた。
(ロ) 肺がん死亡者数が最も多いのは、30〜39年の部分であり、従って、ばく露開始から少なく
とも40年間観察しないと石綿ばく露による影響を評価するのは困難である。
(6) 米国の断熱作業者における石綿起因性疾患による死因の危険と紙巻きたばこの喫煙との関係
(E.C. Hammand et al 1972)
ニューヨーク・ニュージャージ地区石綿断熱作業者360人についての死亡者の期待数及び観察数
(1963.1.1〜1971.12.31)(表)
(観察結果)
石綿断熱作業によって、紙巻きタバコ喫煙労働者の肺がんの危険性が著しく増大する。
(7) 日本の石綿作業者のコーホート研究(瀬良ら、昭47)
[1] 作業別石綿肺検出頻度(昭和32年)(表)
[2] 泉南地区の石綿作業者の追跡結果(表)
6.我が国における石綿取扱い作業の実態
(1) 石綿取扱い作業場の気中石綿濃度測定結果
[1] 測定時期 昭和46年(一斉総点検)
[2] 測定対象事業場 68(測定箇所83)
[3] 測定方法 ハイボリウムサンプラーにより捕集し、X線回折分析方法による。
[4] 測定結果(表)
(2) 建設工事における石綿吹付け作業中の石綿粉じん濃度
[1] 測定方法 ローボリウムサンプラーによる並行測定(分粒装置なし)
[2] 材料における石綿含有量 50%
[3] 測定結果
乾式吹付け(15ヶ所平均)
41.76mg/m3
40.68 〃
37.66 〃 }×50%
湿式吹付け(15ヶ所平均)
17.28mg/m3
14.26 〃 }×50%
12.11 〃
(3) 自動車修理作業の堆積粉じん中石綿の定量
[1] 試料 後車輪ブレーキドラム内 No.1
タイヤ内部 No.2
[2] 分析方法 X線回折分析方法
[3] 分析結果
(イ) 定性分析(表)
(表)
(ロ) 定量分析(クリソタイル含量)
〃 試料No.1 0.9%(20210 CPS)
〃 〃 No.2 0.85%(19100 CPS)
7.その他
悪性新生物の部位別訂正死亡率(図)