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改正履歴
コールタール障害予防については、昭和47年9月、特定化学物質等にコールタールを追加し、特定化学
物質等障害予防規則(以下、「特化則」という。)により、必要な措置について規制したところであるが、
最近コークス炉業務に従事した者に肺がんの発生および電極製造業務に従事する労働者に皮膚障害の発生
がみられ、これが業務との因果関係および予防対策の確立をめぐり社会問題化しているところである。
さらに本年6月開催されたILO総会においても「職業がんの管理と予防」が議題としてとりあげられ、
発がん物質に対する障害予防対策の確立が強調されている。
労働省としては、これを機会に職業がんの予防についての総合的検討を進めることとし、その一環とし
て当面、タール・ピッチ障害の予防、とくにタール・ピッチとがんとの関連を究明するため、さきに専門
委員会を設置し、検討を進めているところである。
今後、当該専門委員会の検討で明らかとなった事実並びに作業環境および障害発生の実態をふまえ、予
防対策の確立を図ることとしているが、当面、特化則に規定するもののほかに下記により、関係事業場に
対し、タール・ピッチ障害予防対策の周知徹底を図ることとするので、監督指導の実施等本対策の実効あ
る推進を図られたい。
記
第1 障害予防対策
1 対策業務
特化則に規定するコールタールのほか、石油タールおよびピッチを製造し、使用する業務で、次に掲
げる業務を重点とするが、その他のタール・ピッチを取り扱う業務についても実態のは握に努める対象
とすること。
(1) コークスを製造する業務
(2) 都市ガス(石炭ガス)を製造する業務
(3) タールを分溜し、精製する業務
(4) ピッチコークスを製造する業務
(5) タール・ピッチを粘結剤等として使用する製品(電極・練炭・れんが等)を製造する業務
(6) 自焼成電極を用いる電気炉の業務
(7) タール・ピッチを材料とする築炉の業務
(8) タール・ピッチを目地とするれんが張りの業務
(9) タール・ピッチを鋼管、床、槽、炉等に塗布する業務
(10) タール・ピッチを塗布したものを溶接、溶断する業務
(11) タール・ピッチを用いて道路舗装する業務
(12) 前記(1)から(11)までの業務に係る設備等を解体し、修理し又は清掃する業務
2 重点事項
障害予防対策の重点事項は、次のとおりとする。なお、石油タール、ピッチについては、特化則に規
定するコールタールに準じて指導するものとすること。
(1) 管理体制の充実強化について
コールタール障害を的確に防止するため、労働安全衛生法に基づき、事業場の規模等に応じ総括
安全衛生管理者、衛生管理者、産業医等を選任し、これらの者に所定の職務を行なわせるなどの管
理体制を確立すること。(安衛法第10条、第12条、及び第13条)
(2) 設備等の改善について
イ コールタールを取扱う屋内の作業場所は、それ以外の業務を行なう作業場所から隔離すること。
ロ コールタールの溶融、蒸溜又はそれらを含有する物の焼成を行なう装置の上部には、当該設備の
取扱いに必要な作業床以外は設けないこと。
ハ コールタールを取扱う設備は、できるだけ密閉式の構造とし、その操作は隔離室における遠隔操
作により行なうこと。とくに、ピッチの粉砕、タール・ピッチと他の物との混合、槽等へのタール・
ピッチの装入は、機械的に行なうこと。
ニ コールタールの蒸気又は粉じんの発散は、温度により著しく影響することから、コールタールに
よる障害を予防するためには、温度管理が重要な意味を有するので、その管理の実施状況について
留意すること。とくに、自焼成電極上部の温度抑制を図ること。
ホ コールタールの蒸気又は粉じんが発散する屋内作業場については、発散源に局所排気装置を設け
ること。なお、電極製造工程における含浸槽等のごとく操作中は密閉されている設備であっても、
原材料又は製品の出し入れ等の際、コールタールの蒸気又は粉じんの発散がみられる場合は、当該
個所に局所排気装置を設けること。(特化則第5条)
なお、上記の局所排気装置については、そのフード外側におけるコールタールの蒸気又は粉じん
の濃度が0.2mg/m3をこえないものとする能力を有するものとすること。(特化則第7条第2項)
ヘ 屋外に設置する移動式以外の設備(例えばコークス炉等)であって、当該設備からコールタール
の蒸気又は粉じんが発散し、関係労働者を汚染するおそれがある場所については局所排気装置を設
けること。
ト 加熱されたコールタールおよびそれらの製品を取り扱う場所のクレーン運転室、コークス炉業務
に係る装炭車、消火車およびガイド車の運転室並びに自焼成電極のペグ抜き機の運転室は、その内
部を陽圧する等により発散するタール・ピッチの蒸気又は粉じんが流入しない構造とすること。
チ 前記ホおよびヘにより設ける局所排気装置については、コールタールの蒸気又は粉じんを捕集す
るための用後処理装置を設けること。(特化則9条)
(3) 業務の管理について
イ 前記1に掲げる業務については、特定化学物質等作業主任者を選任し、特化則第28条に規定す
る事項を行なわせること。(特化則第27条、第28条)
ロ 前記1に掲げる業務を行なうときは、コールタールによる汚染を防止するため必要な作業要領を
定め、これにより作業を行なわせること。この場合、次の作業について、とくに留意すること。
[1] コークス又はガス製造業務における石炭装入および上昇管開放作業場
[2] 電極製造工程における製品の成型焼成炉での焼成およびコールタールへの含浸の作業
[3] 目焼成電極のペグ抜きの作業
[4] コールタールを目地とするれんが張り作業
[5] コールタールの炉内塗布及びコールタールを材料とする築炉の作業
[6] コールタールを製造し、使用する設備の内部における作業
(4) 清潔の保持について
イ コールタールを取り扱う業務を行なう作業場所およびコールタールを取り扱う業務に従事する労
働者が利用する休憩室の床は毎日一回以上真空掃除機又は水洗によって掃除すること。(特化則第
27条)
ロ コールタールを取り扱う業務に従事する労働者については、当該労働者に作業衣を着用させると
ともに、コールタールに著しく汚染された場合は直ちに着替えさせること。又、作業衣は毎日清潔
なものを着用すること。なお、作業衣の汚染の除去は、ドライクリーニングにより行なわせること。
ハ コールタールを取り扱う作業場ごとに、つめブラシ、石けんおよびうがい液を備え、作業終了後
および必要に応じこれを使用させること。
ニ コールタールを取り扱う業務に従事する労働者については、作業終了後すみやかに洗身させるこ
と。(特化則第38条)この場合、必要に応じ、身体に付着したコールタールが十分除去されている
か否かを紫外線ランプ(波長365mμ)により確認すること。
(5) 健康管理について
イ コールタールを取り扱う業務に従事する労働者に対し、特化則第39条に規定する健康診断の実
施を促進させること。(特化則第39条)
ロ コールタールを取り扱う業務の一部が請負人によって行なわれている場合、当該請負人に対し、
その労働者に対するに健康診断を元方事業の労働者について行なう際併せて実施するに必要な便宜
を提供する等の措置を講ずるよう元方事業者を指導すること。
ハ 第1次健康診断の結果、他覚症状が認められる者、自覚症状を訴える者その他異常の疑いがある
者で医師が必要と認めるものについての第2次健康診断の実施が、ややもすると著しくおくれ又は
実施されていない事案が見受けられるので、適切な健診機関の斡旋等により健康診断の実施を促進
すること。(特化則第39条)
なお、第1次健康診断の結果異常なしと診断された者から障害患者が発見される等により紛争の
原因となったり、これがひいては事業者が行なう健康診断に不審を抱くことともなるので、第2次
健康診断対象者の判定にあたっては、慎重を期させること。
ニ コールタールの発がん性が問題化していることに鑑み、コールタールを取り扱う業務に従事させ
ることのある労働者で現に使用しているものに対し、健康診断を実施させること。
なお、コールタールを取り扱う業務に従事していた者で退職した者については継続した医学的管
理が必要と考えられるので、退職者名簿等の整備を図らせること。
ホ 肝臓又は腎臓に疾患のある者および皮膚障害のある者は、できるだけコールタールの取り扱いの
業務の就業を避けさせること。
(6) その他
コールタールを取り扱う業務に労働者をつかせるときは、次の事項について安全衛生教育を行な
わせること。
イ コールタール障害の病理、症状および予防方法
ロ コールタールを取り扱う業務に係る設備の管理および作業方法
ハ 保護具の種類、性質、使用方法および管理の方法