金銭登録作業の作業管理について(金銭登録作業に従事する労働者に係る特殊健康診断について)

基発第188号
昭和48年3月30日

金銭登録作業の作業管理について(金銭登録作業に従事する労働者に係る特殊健康診断について)

 スーパー店等における金銭登録作業に従事する労働者について、頚肩腕症候群等の健康障害問題が発生
しており、その対策の充実が要請されるところである。
  金銭登録作業の実態は極めて複雑多岐であり、かつ、健康障害に関する医学その他の学問的研究が進め
られている段階にあり、今後とも調査研究を進めることとしているが、このたび、金銭登録作業に主とし
て従事する者の健康障害を防止するため当面の「金銭登録作業指導要領」を別添のとおり定めたので、同
要領に基づき関係者に対し適切な指導をおこなわれたい。

別添


                   金銭登録作業要領

1 作業管理について
 (1) 繁忙時における金銭登録作業は、特定の労働者に長時間にわたって連続して行なわせることなく、
  その他の適当な作業と交互に行なわせるように努めること。
    この場合、それぞれの作業の連続時間は、その状況等に応じ適切な時間とするものとすること。 
  (2) 繁忙時において、他の作業との交替制をとらずに、特定の労働者を金銭登録作業にもっぱら従事
   させる場合には、適正な時間ごとに10分ないし15分の休憩を与えること。
 (3) 上記(1)および(2)の適正な時間の目安は、おおむね60分程度とすること。
  (4) 繁忙時においては、同一の労働者に金銭登録作業にあわせて商品包装作業を行なわせることなく、
   もっぱら商品包装作業に従事する者を配置する等の措置を講ずること。
  (5) 繁忙時以外においても、特定の労働者に長時間金銭登録作業に従事させることを避ける等労働者
   に負担がかからないよう作業管理上の配慮を行なうこと。
  (6) 上記(1)から(5)までに従い金銭登録作業を円滑に行ない、かつ、適切な休暇の活用等が図られる
   よう金銭登録作業要員の確保に努めること。
   (注)1 「金銭登録作業」には、金銭登録の打鍵作業とそれに関連して同一労働者が行なう来客の
      買上げた品物の点検、金銭の受渡し等の作業が含まれる。
     2 「繁忙時」とは、売場ごとに例えば夕刻における食料品売場にみられるように、支払いを
      しようとする客が常態として相当数いて、金銭登録台を通過する客が多数となり、金銭登録
      作業が連続して行なわれる時間帯をいう。
2 作業環境について
 (1) 金銭登録作業を行なう場所の気温等については、次によるよう努めることとし、換気等については、
  事務所衛生基準規則に準じて必要な措置を講ずるようにすること。
気温 18℃以上28℃以下
作業面の照度 400ルクス以上
   なお、気温、湿度、一酸化炭素、炭酸ガス、照明等についての測定を必要に応じ実施するようにす
  ること。
  (2) 金銭登録作業を行なう場所には、流入する冷たい空気が労働者に直接、継続してあたらないよう、
   つい立等を設けるようにすること。
  (3) 金銭登録は、タッチの強さが適正なものを選定するように努めるとともに、金銭登録作業に従事す
   る者が適正な姿勢を保持できるよう、作業面の高さおよび打鍵面の角度の調整を可能にする等の措置
  を講ずること。
    また、金銭登録作業を行なう場所の広さおよび形は、一の台で金銭登録作業と商品包装作業とが行
    なわれること等の作業状態に応じ人間工学的配慮をすること。
  (4) 金銭登録台には必要に応じ手持ち時間等に利用しうるいすを備え、労働者が適宜に利用できるよう
   にすること。
 (5) 労働者が有効に利用することができる休憩のための設備を設けるようにすること。また、労働者が、
  が床することができる休養室または休養所を、男子用と女子用に区別して設けるようにすること。
   なお、これらの施設を設ける場合には、できるだけ作業室に近接した位置に設けるようにすること。
 (6) その他、騒音の軽減、便所の整備等衛生水準の維持向上についても十分配慮すること。
3 健康管理について
 (1) 金銭登録作業に従事する労働者に対して、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月
  以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行なうこと。
  イ 業務歴、既往歴等の調査
    別紙の調査表の内容によること。
  ロ 問診
     肩こり、背痛、腕痛、項部の張り、手のしびれ、手指の痛み、手の脱力感等の継続する自覚症状
     の有無
    ハ 視診、触診
     (イ) せき柱の変形と可動性の異常の有無、棘突起の圧痛、叩打痛の有無
      (ロ) 指、手、腕の運動機能の異常及び運動痛の有無
      (ハ) 筋、腱、関節(頚、肩、背、手、指等)の圧痛、硬結及び腫張の有無
      (ニ) 腕神経そうの圧痛及び上肢末梢循環障害の有無
      (ホ) 上肢の知覚異常、筋、腱反射の異常の有無
    ニ 握力の測定
    ホ 視機能検査
      なお、上記の健康診断の結果医師が必要と認める者については、必要な検査を追加して行うこと。
  (2) 健康診断結果に基づく事後措置
    上記(1)の健康診断の結果、金銭登録作業による症状増悪のおそれがみられるなど、作業を続け
      ることが適当でない者又は作業時間の短縮を要すると認められる者については、作業転換、作業時
      間の短縮等当該労働者の健康保持のための適切な措置を講ずること。
  (3) 職場体操を実施するとともに、体育活動、レクリエーションの実施等について便宜を与える等労働
  者の健康の保持増進のために必要な措置を講ずるようにすること。
  (4) 金銭登録作業に従事する労働者に対し、作業方法、作業姿勢等の事項について衛生のための必要な
  教育を行なうこと。
  (5) 常時50人以上の労働者を使用する事業場においては、産業医および衛生管理者を選任し、これらの
  者に金銭登録作業に従事する労働者の健康管理、健康相談等にあたらせること。
   健康診断、健康相談等の結果、労働者の健康を保持するため必要と認める場合には、産業医の指導
  により必要な措置を講ずること。
   なお、上記以外の事業場においても、担当者を定め、金銭登録作業に従事する者の健康管理等にあ
  たらせるようにすること。
  (6) 衛生委員会等においては、健康障害の防止、健康の保持増進等について関係労働者の意見を十分き
  くこと。
   なお、衛生委員会等を設けない事業場においても、関係労働者の意見をきくための機会を設けるよ
  うにすること。

〔解説〕
 この通達は、昭和48年3月30日付け基発第188号通達「金銭登録作業の作業管理について」のうち健康
診断に関する事項について明確にしたものであり、この解説は、主として健康診断の手技について述べた
ものである。
金銭登録作業の健康診断実施手技等について
イ 業務歴・既往歴等の調査(別紙)
 (イ)  別紙に掲げる項目について、問診により確認する。
 (ロ)  別紙の「現職」の欄は、金銭登録作業への雇入れの際又は配置替えの際に行う場合は記入を要し
      ない。
 (ハ)  別紙の「業務歴」の欄は、現在の職場にくるまでに次の業務に本務として従事したことがあれば、
      業務別にそれぞれ記入する。
        レジスター、キーパンチャー、テレックスオペレーター、電話交換手等。
 (ニ)  別紙の「就業期間」の欄は、初めて当該業務についたときから、最後に当該業務を離れたときま
      でを記入する。
 (ホ)  別紙の「通算経験年数」の欄は、当該業務を続いてやっていた場合には「継続」を、とびとびに
      やっていた場合には「断続」を〇で囲む。
 (ヘ)  別紙の「スポーツ・体操」の欄は、受診者の行っており又は行っていたスポーツ又は体操の種類、
      実施の程度等を聴く。
      〔参考〕  スポーツ・体操の種類
            ピンポン、テニス、バドミントン、ソフトボール、バレーボール、ボーリング、スケー
       ト、スキー、登山、水泳、剣道、柔道、職場体操、健康保持体操等
 (ト)  健康診断の結果、特に異常所見の認められる者については最近(3カ月間)の作業時間、残業時間、
   休憩時間等の作業の実態についても調べる。
 (ロ)  問診
        肩こり、背痛、腕痛、項部の張り、手のしびれ、手、指の痛み、手の脱力感等の継続する自覚症
      状の有無
        「継続する」とは、おおむね1週間程度以上継続し、軽快のきざしの見えないものをいう。
ハ  視診、触診
 (イ) 『せき柱の変形と可動性の異常の有無、棘突起の圧痛・叩打痛の有無』圧痛の頻度の高いものは、
      第5、9、10胸椎、第5腰椎である。
 (ロ) 『指、手、腕の運動機能の異常及び運動痛の有無』
    例えば指折動作、両手挙上動作、前腕の回内外動作等ができるかどうか、又、その際、疼痛があ
   るかどうかもみる。
 (ハ) 『筋、腱、関節(頚、肩、背、腕、手、指等)の圧痛、硬結及び腫張の有無』
    総指伸筋とその腱、撓側手根筋とその腱、腕撓骨筋、上腕筋、肩甲部の筋(僧帽筋・肩甲挙筋等)、
   斜角筋等についてみる。
 (ニ) 『腕神経そうの圧痛及び上肢末梢循環障害の有無』
    上肢を挙上させ、斜角筋について神経と交差する部分を圧迫して、その過敏状態に注意を払うと
   ともに、伸展緊張による上腕動脈及び撓骨動脈の脈拍の消失及び蒼白の有無をみる。
    手を触れてその温かさを調べ、色調の変化をみる。
 (ホ) 『上肢の知覚異常、筋、腱反射の異常の有無』
    「知覚異常」については、閉眼時の触覚、痛覚(ルーレットを用いる)の異常の有無をみる。
    「筋・腱反射」については、二頭筋反射及び三頭筋反射の異常の有無をみる。
ニ 握力の測定
  握力計(スメドレー)を用いて左右それぞれ2回測定し値の高い方をとり、前回又は健康時に比べて著
 しく低下していないかみる。
  実施したことのない者は、あらかじめ1-2回練習させる。
ホ 視機能検査
  左右遠距離(5m)及び近距離(30cm)視力を裸眼及び矯正で測定する。
  『なお、上記の健康診断の結果、医師が必要と認める者については、必要な検査を追加して行うこと。』
  「医師が必要と認める検査」としては、次のような検査があり、適切と認める検査を実施することに
 より、症状を確認し、又は、他の類似疾病を鑑別する。
   末梢循環機能検査  頚椎エックス線検査
   タッピング  筋電図検査
   貧血の検査(例えば全血比重)
   なお、異常者については、精神的因子等の調査についても配慮する。









このページのトップへ戻ります